- 関東平野を目指す道 -
【踏 行 日】2017年1月上旬
【撮影機材】OLYMPUS OM-D E-M1, M.ZD12-40F2.8, M.ZD40-150F2.8, iPad mimi3
冬のある日。JR中央線の列車に揺られながら、車窓に移ろいゆく光景に、どこかしらデジャヴを感じていた。
――って、当たり前だ。2日前にもまったく同じ景色を見ている。空には澄んだ青空が広がっているのも同じ。
あまり同じ季節に近い自然歩道コースは歩かないのだけど。一昨日、朝寝坊して予定通り歩けなかったことへのリカバリなので、止むを得ず。
列車は相模湖駅へと到着する。時間帯が時間帯なので、あまり降りる人はいない。
駅の外へ出る。いつもの通りの相模湖駅。――なんか、今年になって随分と馴染の駅になってしまった。念のため、東海自然歩道の案内のようなものは無いものかと探し回ってみたけれど、東海自然歩道の「と」の字も無い。サブコースとは言え、コース起点には違いない筈なのだけどなあ。
相模湖ふれあいパークの公衆トイレに寄り、自動販売機で飲物補充。さあ出発。
AM10:36、相模湖駅前から歩き出す。
――まずは相模湖を目指す。ゲートから南へ進み、すぐに国道20号・甲州街道を越える。道は国道412号へとなり変わって右へカーブを始めた。
……ここ、直進して階段を真っ直ぐ下りて行きたいところだけど。東海自然歩道のコースは国道の道なりに設定されている。もっとも、駅からここまで自然歩道の道標は1つも現れていないのだから、コース取りに拘ることも無いとは思うけれど。
大きく左に旋回しながら坂道を下りていく。結構、高度が失われる。坂が終わった時、針路は東を向いていた。
右側に廃ボーリング場。入口の「ジャイアントドラえもん」が放置されたままなのが寂しい。その先、相模湖公園が見えてきた。さらに向こうは相模湖の湖面。
遊歩道入口の入口を捉え、公園に入ると眼前に湖の景色が一気に広がった。
相模湖の水面には、冬の午前の陽射しが滔々と注ぎ込まれている。穏やかな気候に穏やかな光景。地元の人の散歩の姿がチラホラと……東京から列車1本で来れる地なのに、観光客の姿はほとんど無い。
歩き始めてまだ10分しか経っていないけれど、時間に余裕があるので小休止。
湖面の東方には、先日登った嵐山が聳えている。あまり高く見えない。
公園内を、そちらの方向へ進む。
公園から出て、国道を湖畔沿いに進むようになる。右手には幾つか釣り舟の店。相模湖はブラックバスが放流されているらしい。
やがて国道は崖と湖に挟まれた隘路となった。相変わらず自然歩道道標は見当たらず、この区間は本当に連絡路的な扱いだなあ、と感じる。
国道付きの歩道を進む。正面に相模湖大橋のアーチが見えてきた。
橋のたもとに到着。ダム駐車場は前回に引き続き、今日もまた工事中……当たり前か。左手上にはダム管理事務所の建物、こちらも工事中。
『囚われた惑星』というオブジェを見て、橋を渡り始める。――旧相模湖町には、あちこちにこのようなオブジェが立っている。“ゲージュツ”は分からないけれど自分的には良い目印。
左側に相模ダム。膨大な水を堰き止めていながら、水面は静謐。
そして橋の中ほどには「相模湖大橋」バス停が立っている。本来は橋の東詰に設置したかったのだろうけど、そちらにスペースは無い。それでも、東海自然歩道最寄りのバス停であることは確か。でも……このバス停を使う人はいるのかなあ。
橋を渡り切って左折、薄暗い二車線道に入る。車の往来激しい国道と違って静かなのをありがたく感じるところ。
修理中で渡れない相模ダムを見送り、相模発電所の前で道なりに右に曲がると、コンペイトウのようなオブジェのある小公園が見えてきた。嵐山登山口だ。
――到着、AM11:13。ここが東海自然歩道・本線との交差地点。正確には、ここから弁天橋までは本線、支線の重複区間。
それでもって、この場所に来たのは実に4度目。今日は嵐山山頂から富士山は見えるだろうか、などと思いつつ登山口を行き過ぎる。……あ、またコンペイトウの作品名を確認するのを忘れた。
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←本線コースへ戻る |
車道は嵐山の足元をぐるりと巡り、山の北側へ出て陽射しが再び戻った。同時に、眼前には開放的な風景が広がった。相模川段丘の畑地帯だ。
――そして、目の前に見える山の向こうは、もう東京都。ゆえに、東海自然歩道を西から歩くと、ここが最後の里風景になるのかも知れない。
と、左に津久井養護学校。ここを左折だ。それを知っていても道標を見落とす。……あ、道標、欠けてるじゃん。
相模川へ向かって直進。駐車場の前を過ぎて車止めのゲートを越え、「ダムの放流による増水注意」の看板を後にすると、そのまま下り坂になる。けっこう急だ。暗がりに向かって下りていく。
――山登りならぬ、谷下り。山登りとは逆に、高いところから低いところに下り、また高いところに登り返す行為。ここの高低差は50mほどだけど、グランドキャニオンのトレイルコースなどは1,000m以上の“谷下り”になるという。世界のスケールに比べると、日本のトレイルは本当に箱庭だなあ、と。
舗装道が尽きて丸木階段に変わる。右下にあるのが弁天島公衆便所。
下り切って、相模川へ当たる。と言っても、川面はまだだいぶ下にある。吊り橋の弁天橋が相模川を渡っていく。東海自然歩道最後の、もしくは最初の吊り橋……というのは懐かしいフレーズ。本当に、この自然歩道には多種多様な吊り橋があった。
相模川を渡る。
対岸に至り、崖を回り込んで山道を下りて行くと、小広い平地に茶屋があった。そういえば昔からあったような……。営業はしているようだけれど、今は誰もいない。テーブルの上のかごの中、丸まったネコが何匹か。
さあ、ここから登りだ。斜面に取り付くと直ぐに支線・本線分岐。右側、本線側には緑色の底沢公園橋が沢に架かっている。
9年前、大阪からここまで歩いてきた時は迷わず右に向かった。そして今日は――
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本線コースへ進む→ |
左、支線コースに進む。
――と、道脇の赤い実に気を取られ、しゃがんで覗き込んだ時、事件は起こった。谷の斜面をトン、トン、トンと何かが転がり落ちていく音。ヤブ濃く落下物は視認出来ないものの、上着内ポケットに入れていたケータイが滑り落ちたのだと分かった。
音は途中で聞こえなくなった。止まったのか、たんに音が届かなくなったのか……。
探しに行くしかあるまい。
ザックを下ろし、急斜面を草を掴みながら下りていく。3mほど下って、音が消えたあたりの草叢に手を突っ込む――あるわけがない。じゃあ、とさらに2mほど下りて勾配が緩んだところに手を――あった。よくもまあ、あっけなく見つかってくれたものだ。
斜面を這い戻る。コース歩き再開。こんなイベント要らなかったなあ、と思いながら。
山登り、というか谷登り。一瞬、急勾配をジグ、ザグと上って、あとは緩んだ。ほどなく、車道へと飛び出す。
ここは小原。そして左手に見えるのが小原宿本陣。AM11:43。
――だがしかし!「本日は休館日です」の張り紙。隣には「入館無料です。お気軽にお入り下さい 」という看板もあるけれど。
残念だけれど仕方が無い。なにせ、まだ世間的には正月休み。だからこそ歩きに来れた、というのはあるのだけど。
前の自販機で飲み物を補充。さあ、ここから相模・武蔵の国境越えの開始だ。
街道の峠越え、というと東海道の鈴鹿峠・坂下宿など思い出すけれど、甲州街道の小原宿はずっと小規模で、古い建築物もほとんど見られない。いちおう、こちらも五街道の1つなのだけどなあ。
左手上方、中央自動車道高架の存在感が凄い。そこに小原の郷――こちらもまだ休館日で、ひと気は無い。
小原の郷を過ぎると国道は山あいへと入っていった。ただ、散歩やサイクリングをしている人の姿もチラホラ見られて、そう山奥に来たという感じはしない。
国道脇の歩道をテクテクと歩いていく。右手が再び開け、深い谷が姿を現した。正面にはその谷を跨ぐ橋が見えてくる。底沢橋だ。
手前に「小仏峠3.5km」「七ツ淵まで1,550M」の道標。長い髪の女性の絵とともに、照手姫の水鏡の伝承を伝えている。
国道と分かれ、そちらへ進む。
あたりは静かになった。野鳥の声も聞こえない。相変わらず右手には底沢川の谷があるけれど、木々が濃く、水面は見えない。
やや上り坂となると、ほどなく道は中央本線の架線に沿って進むようになる。
と、線路を潜れという道標。――そういえば小原から東海自然歩道の道標を見ない。いちおう、地図で確認してから線路を潜る。
一里塚付近の標示を見た後、相変わらず中央本線に沿って進む。直ぐに線路の高さを追い越す。正面には中央自動車道の高架が見えてきた。巨人の足のような橋脚――
渋滞の名所と言われる小仏トンネル。正月のUターンラッシュでこの上は車が数珠なりだろうけれど。ここからは、そんな喧騒は分からない。
足元まで来て見上げる。真っ白な橋脚が伸び上がり、染み1つない青空を2本の橋桁が優雅に切り裂いてく。東海自然歩道で紫香楽で潜った新名神高架よりずっと高い。でも、石水渓で潜った高架よりは低いだろう。
――人工建造物を普段と違った視点から眺める、というのも確かに自然歩道の効用なのだろうと思う。自然に埋もれながら歩く道であるならなおさら、巨大人工物の異質性が際立つ。
もっとも、日本では人工物ばかりの自然歩道コースも結構多い。本コースは、まだマシな方か……。
底沢集落の民家も少なくなってきた。電柱には「クマ出没注意」の張り紙。もちろん、冬なので冬眠中であることを期待。
人工林の中を車道が伸びていく。厳冬期とは言え、良く晴れた日のお昼時。あまり早く歩いては勿体ない、とゆるゆる歩く。
美女谷橋を渡ると三叉路が現れた。ここにようやく東海自然歩道の道標。甲州街道なのに「東海自然歩道」と示すと混乱するので道標立てるのを遠慮している?まさか。
コースは右へ曲がっていく方向。小仏峠まで2.5kmとあるけれど――直進を選ぶ。見どころ少ないコースなので、ちょっと寄り道することを決めた。幸い、時間は十分ある。
山あいの集落に出た。かつて美女谷温泉のあったところだ。今では「陣馬山・明王峠」を示す登山口があるくらい。
底沢集会所を過ぎて再び林に入る。左に簡素な駐車場が現れた。その先に「七ツ淵まで70M」という登山口があった。ここか。
そこに邪魔っけな木の根が置いてあった。何故除けないのだろう?と思ったものの、すぐに彫刻が施されているのに気付いた。それも長い髪を水に梳いている女性の像。暗い時に見たらビックリしていただろうな……。
七ツ淵自体は些細なものだった。伝承と併せて気分で見るのが正解かも知れない。淵には枯葉が溜まってさえいた。でも、このような極めてローカルな観光地(?)を巡るのも、自然歩道歩きの醍醐味の1つではある、と自分に納得させてUターン。
分岐へと戻ってきた。ざっと23分の寄り道だった。
コース歩きを再開する。「小仏峠」へ向かう坂道。またもや中央自動車道の橋脚が近づいてきた。そして、今度は逆方向に潜り返す。見上げると、下り線の橋桁に板がみっしりと敷き詰められていた。そういえば先ほど「補修工事中」という看板があったな……。
車道は大きく左へ転回し、さらに山奥とへ入っていく。でも、東京都内へ向かっていると考えると、あまり山奥に来た感じがしないから不思議。日光浴を兼ねて散歩をしているような気分。
右下、木々の合間からJRの小仏トンネルが見えている。左情報にチラチラと中央自動車道が見えてきた。車が走っているのが分かる。同じくらいの高さまで到達したのだ。
さらに道は右にカーブを切る。と、すぐ左手上に車道のガードレールが見えた。その先に東海自然歩道のコース案内板。
0.1kmほど先でその車道と合流。ここには、このあたり界隈で良く見かける「小仏・小原宿コース」のコース案内板と「甲州古道・底沢」の標柱。なんか、自然歩道っぽい。(いや、自然歩道なのだけど)
鋭角に左折、坂を上っていく。遠く、2度も跨がれた底沢橋が目線の高さに見えた。と、先ほど見た東海自然歩道の案内と道標に到達。小仏峠への登山口。PM0:52。
ここから峠までは1.8km、高度差260m。
――山道を登り始める。
樹間に見え隠れする中央自動車道を後に残し、どんどん高度を上げていく。周囲は植林、あまり見るべきものも無い。ペースをむしろ上げたのは習性のようなものだ。
……ところが、あっけなく息が上がった。運動不足が身に染みるなあ。ペースをやや落としつつも、頑張って登っていく。
と、早くも勾配が緩んだ。尾根を巻き気味になる。さすがライトなハイクコース。
鉄塔付近、暫くフラットな道。旧街道っぽい道の広さ。下りてくるハイカーも見掛けるようになる。平和な道のり……と思ったら、再び勾配が急になる。
――この道は一応、東海自然歩道の支線。本線の千木良から城山に直接登る本線コースの迂回路的な役割かと思っていたけれど、そうでは無いようだ。コース名通り、甲州街道を歩かせるのが目的っぽい。山道区間が多少短いとは言え、勾配が緩いわけでもない。やっぱり、実際に足を運ばないとリアルな状況は分からないものだ。
ひとしきり登りをこなすと、再び勾配が緩んだ。見晴らしが一切無いため、どこまで登ったかは地図を見て等高線の密度を検めないと分からない。あまり面白味のない区間であることは確か。もっとも、途中には落葉樹の森もあった。新緑・紅葉時期なら多少は良いかも、などと思う。
高度を上げたせいか少し寒くなってきた。下着が汗で濡れ、冷えたせいもある。
峠に向かっての巻き道。谷側に山影が無いことでそれと分かる。右手は城山の山体だろう。
小広い鞍部に出た。小仏峠、PM1:23に到着。この地にはじつに17年ぶりにやってきたということになる。――たった260mほど高度を上げただけなのに足が結構疲れていて、体力の衰えを実感。とまれ、東海自然歩道の本支線コースも完踏だ。ここから城山までは17年前に歩いている。
さあ、城山山頂までは高度差130m。鼻歌混じりで登れる高さ――とは言えない自分がいるのが悲しい。足取りの軽いトレイルランナーをやり過ごしながら、よっこらしょ、と奥高尾縦走路を東に向かって歩き出す。最初は丸木階段。
ひと登りでベンチの一杯置いてある広場に出た。こんなところあったっけ?もう全然憶えていないや。霞掛かった相模湖への展望。今日初めて見晴らしを得られたな……。
さらに東へ。道脇に関東ふれあいの道の石標を見て、ここは首都圏自然歩道「鳥のみち」コースとの重複区間であることを思い出す。そして、東海自然歩道本線は城山から高尾山口へ進んで終点となる。まさに、日本の長距離自然歩道発祥の地へと繋がる道。
――丸木階段が多い。そういえばこの縦走路はそうだった。息を切らしつつ登っていく。
軽装のハイカーが多いのもこの縦走路の特徴。ハイクシーズンで無いけれど、人の姿は良く見かける。なにしろこの縦走路は神奈川県と東京都の境。道の整備も良い。
――恵まれた道、と感じてしまうのは日本各地の自然歩道を歩いたせいか。もっとも、このような植樹林帯で目にする風景は、どの自然歩道でも大差ないのだけれど。
そんなことを思いながら歩いていくと、道が平坦になった。電波塔が見えている。ようやく城山山頂だ。PM1:47。
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