- 絹織物のみち -
【踏 行 日】2024年5月上旬
【撮影機材】OLYMPUS OM-D E-M1markⅢ, M.ZD8-25F4, M.ZD60F2.8Macro
JR藤野駅へと下り立った。もうお昼近くの時間帯。
――それでも行楽客がパラパラとホームに下りていくのは、流石、ゴールデンウィークと言ったところか。
かくいう自分も朝に所用があったものの、済まして速攻ここにやってきた。スッキリした青空に歩くのに絶好の気候――長期連休と言っても体が空く日はそう多くない。なので少しでもチャンスがあれば拾っていく構え。
ここには2度来たけれど、2度とも北へ向かった。1度目は長距離自然歩道をまだ知らなかった頃。生藤山に登って城山まで縦走し、千良木に下りた。2度目は東海自然歩道を本線踏破し、首都圏自然歩道に入った時。和田峠から生藤山を越えて笹尾根に入り、浅間嶺も越えた。
そして今日、初めて南へ向かう。
跨線橋を渡って改札口へ。ICカードをタッチして駅の外へ出る。おもむろに駅前の道を歩き出し、すぐに国道20号。信号を待って横断歩道を渡る。
相模川が見下ろされた。色は深い緑。新緑の木々に取り囲まれていて春であることを感じさせる。
一方、国道20号は車が引っ切りなし。歩行者スペースも狭く、向かってくる車がデカいと立ち止まってやり過ごすほど。
騒がしい国道に耐えながら東へと歩を進める。と、県道76号の分岐する交差点。県道は下り坂だ。そちらへ。
坂を下ると右手下方に日連大橋が現れた。大きい。そのたもとには何かのオブジェが設置されていた。――「芸術の道」という案内板。日生中央の「彫刻の道」のようなものか……。
日連大橋を渡る。左右に湖のような相模川。川面は静止しているかのよう。
橋を渡り切ると上り坂となった。このあたりはまだ店もあって歩いている人の姿もわりと多い。バス停も立っているけれど、今日は歩かなきゃ勿体ない気候。今日歩くのはショートコースなので時間には余裕あるっしょ。
坂をどんどん上っていく。早くも山が目の前に。郵便局を見て坂のてっぺんに至る。左折。日連の集落へ。意外に高度感があって、民家の合間から相模川北面の緑の山々が見える。
――右の脇道へ。その入り口に気になる標示があった。でもダメだったら引き返して県道回るし。時間はあるので。
民家が並ぶ細道。やがて道は右に曲がって山へ向かい始めた。上っていくと――ここに杉峠入口。小さな通行止め標示がある。さあ、どうしよう? もちろん、ここが人里離れた地だったらリスク回避一択だけれど……。
結論から言えば突っ込んで崩落地を目の当たりし、こりゃ絶対無理と引き返した。谷1つ丸ごと崩れ落ちていて登山道など跡形も無い惨状。ただし、引き返す途中に上方へ伸びていくロープを見付け、それを辿って崩落地を高巻いた。急斜面でも植林帯なので比較的登りやすい。
稜線上の小さなピークに到達。地図には登山道が通っている筈なのだけど、そんなものは無くて焦った。と、下の方からハイカーの鈴の音……。
登山道はピークを巻いていたか。ならば、と獣道を辿って登山道に合流。少し進むと杉峠だった。ホッとする。
……と、気を抜いたのがいけなかった。標示をあまり確認せず下る道を選択し、誤った道をずんずん下りて行ってしまう。気付いて引き返したものの30分もの時間ロス。新和田集落に出た時には時間的余裕が完全に失われたことを自覚。
集落の道を駆け下る。未だに初歩的ミスの絶えない自分……。
集落を抜けて別の車道に当たる。左折。
――最初からこの車道回りを選択しておけば良かった、と思いながら歩く。後悔先に立たずだ。上り坂となっているので走ることも出来ない。
とはいえ周囲の雰囲気は俄然良くなった。ひと山超えて別世界、春爛漫の山里の空気に。来てよかったと思わせる。
道が平坦になったので小走りなど挟みながら進む。昼下がりの時間帯だけど太陽の位置は十分に高い。
下りとなった。と、同時に道は大きくうねり始める。ここは駆け下り。まだコースにも入っていないのに……。
県道517号に合流する。景色も開放的に。前方に見えるのは石老山の山稜線か。山肌が緑のパッチワークのよう。
次の分岐を右折。
この先で16年前に歩いた東海自然歩道本線に合流する。……少し不思議な気分。その時も同じ春だったけれど曇天だった。気持ちの持ち方も全然違う。果たして懐かしいと感じられるかどうか。
少し奥まったところに大石神社。立ち寄る。舞台になっていた。珍しい。16年前には立ち寄っている余裕なかったけど、当時から大して変わっていない筈。
そして今日も何故か余裕がない。
県道518号に当たって右折。そして遂に東海自然歩道本線に合流……って。
どこだっけ? やっぱり憶えていないや。と、右側にコース案内板と埋もれるような指導標を見付ける。ここだったか。確かに見付けにくい道標だったっけ。
誰も見当たらない静かな篠原の集落。その風景に溶け込んでいるかのよう。
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本線コースへ進む→ |
PM1:52、16年前とは逆方向に県道を歩き出す。高度285mのこの地から高度差300mの石砂山をまず越えに行く。
――間宮商店は廃屋となっていた。篠原バス停も撤去済み。押し戻せない時の流れが感じられる。
県道から篠原川を挟んだ分かれ道。ここでいいのか? と、右に。一度歩いている道と言っても、方向が逆だと勘が働かないなあ。
でも、そういえば指導標だけは真新しかった。ギフチョウのこの説明板も新しい。神奈川県はコースの維持管理をしっかりしているようだ。
谷に開けた道を行く。次第に緑に埋もれていく。と、数軒の民家が現れた。前回、石砂山から下りてきて「ギフチョウは見れましたか?」と声を掛けて貰ったことを思い出す。
――今日は誰一人会うことはなかった。左の小さな橋の先にに石砂山登山口。突っ込む。
絶滅危惧種のギフチョウ。前回、この石砂山では目に出来なかった。でも大和葛城山や弥彦山では目にした。そして今はギフチョウの舞う時季ではない。
早足気味に登山道をずんずんと上がっていく。途中から自然林になって緑のシャワーを浴びるように。もう、そう新緑の時期でもない。
PM2:27、石砂山山頂に到着。あれ? 近い?
山頂の見晴らしはほとんど無くなっていた。富士山が見られるかと期待していたのに……。この木立の濃さでは冬でも難しそうだ。いつもながら、樹木の育ちだけは早い。
下山に掛かる。最初は急斜面で道も細め、そのうち勾配が緩んでフラットになる。と、森が途切れた。鉄塔場だ。
切り開かれているので見晴らしが良い。風の通り道にもなっていて心地も良い。小休止でもしたいところだけど……バスの時間がある。のんびりは出来ない。
時間が無いのはセクションウォークの宿命かも知れない。そして、未だスルーハイクで自然歩道歩きをしたことが無い、というか出来ない自分がいる。仕事をリタイアするその日まで。
再び森の中へと突入。そろそろか、と思ったところで分岐が現れた。伏馬田分岐。東海自然歩道の本線と支線の分かれ道。16年の時を経て……。PM2:48。
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←本線コースへ戻る |
右へ。切れ落ちた斜面の道。少し細くて心許ない。
――ギリギリ間に合うペースか、と頭の中で結論を出す。先ほどのコース案内図で示されていた伏馬田分岐~青根の距離は7.5km。これを東野バス停からバスが出るまでの1時間半でクリアする必要がある。ざっと時速5km/hペースだ。前半・中盤は山稜線歩きでそこまでは出ないにしても、終盤は緩い下り坂の林道となる。走れば取り戻すことは可能。
緩いアップダウンの山道。スピードをなるべく落とさないよう、それでいて疲れないよう足早に進む。明るい森の道で気温も湿度も高くない。ハイク日和とはこのような日のこと。
そんな風に快調に歩いていくと前方に3方向道標が現れた。その標示を確認して思わず顔をしかめた。示されていたのは、コースは直進、伏馬田城址は寄り道ということ。てっきり城址はコース上にあると思っていたのに……。
さあ、重大な決断を1分で下せ。城址寄り道は登山地図によると往復40分――早駆けでその半分としても、バスに間に合わないことを確定させるロスになる。それでも……
寄り道を決断。城址へと続く尾根道を登っていく。スルーして、後から後悔するのはもう沢山。
ひとしきり登ると少し下りになって、また登り。やっぱり結構遠い。周囲はよく手入れされた人工林。途中にはベンチなどもある。
伏馬田城址に到着。城址といってもそれっぽいものは無く、石仏が並ぶだけの木立の山頂。ここにも見晴らしは無かった。PM3:12。
踵を返し、来た道を戻り始める。
――午後が深くなってきたことを陽射しの傾きから感じる。それにしても「またいつか来ればいい」より「もう来れないかも知れない」が優勢になったのは何時からだろう?(齢を重ねた証か…)
下りは流石に早く、すぐに分岐に到着。ロスした時間は19分。
再びコースを歩き出す。ショートカットを使わなかったのはコース全線踏破のため。
いきなり西方を見晴らせる場所に出た。今日一番の展望だ。神奈川県の「角」の部分、生藤山が良く見えている。その左肩にある三国山が東京都・山梨県・神奈川県の境となり、左に伸びていく山稜が東京都の尾っぽの部分だ。……もちろん、その山稜上に境界線なんて描かれていないのだけど。
登山道の針路が変わり、さらに下り始めた。菅井の集落が近いのだろう。一応、まだ早いペースを保って歩いているけれど、歩き切った後の「帰り方」をどうしたもんかと頭の中で考え始めていたり。最初、あんなに余裕ぶって歩いていなければ、とつい後悔。結局、何を選択しても後悔が付きまというという……。
道はほとんどフラットになった。雰囲気も変わって来た。
車道に出た。「尾崎城北角」との標識もあり、伏馬田城(尾崎城)が山頂部一帯を占める山城であったことが分かる。その広さを自分の足で確認してきた形。
そしてここには東海自然歩道のコース案内板も立っていた。青根まで5.5kmの「絹織物のみち」コース。時間があればまた寄り道して道志川方面を見下ろして見たかったところ。
でも、既に時間切れ。車道を西へ。
下りになったので駆け下る。正面に見えているのは黍殻山~焼山の尾根か。東海自然歩道の本線が通っていて、焼山の展望塔からこちらの山稜を見て「あの支線コースを歩くのはいつの日か」なんて思ったけれど……
今でしょ(笑)
ひとしきり下って平坦になった。左手より別の車道と合流する。ただ、車の往来は無いし人も見掛けない。相変わらず静か。
左側に見晴らしが開け、民家もポツポツと現れた。ようやく菅井の集落か、と思ったけれど。
その先で県道76号に突き当たってしまう。え? 菅井集落はこれだけ?
峠を越えようという車が騒がしく県道を上がってくる。どうやら鞍部はここまでで、この先は再び上りになるようだ。時刻はPM3:32――バスが来るまでの残された時間は48分。
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先のコースへ進む→ |