- 濃尾平野のふち -
【踏 行 日】2007年7月中旬
【撮影機材】OLYMPUS E-410, ZD14-54F2.8-3.5, ZD50-200F2.8-3.5, CASIO EX-P505
暑い――。
夏は、暑い。毎年のことだから、それくらいは分かる。それを歩いて実感したいと考えるのはウォーカーの悪習だろう――と言うか、夏の初めに思い切り暑い思いしておけば、その後は過ごしやすく感じられるだろう、という浅知恵。
浅知恵は浅はかさに通じる。
――おいおい、それにしても晴れ過ぎじゃないか、というほどの青空に逆に不安になってきた。新幹線の車内は冷房が効きすぎるぐらいに効いている。
名古屋駅で乗り換え。外に出る。高いビルの並び立つ駅前は日が遮られ、まだ涼しさが感じられたものの……
案の定、名鉄列車に揺られているうちに、残っていた朝の冷気は消え去った。しかも、ぐんぐんと気温が上がってきたようだ。犬山駅で電車を乗り換えている時には、もうすっかり夏の日中。うだるような暑さになるのを予感。梅雨の合間の晴天日を狙ってやってきたつもりだったけれど、考え方が甘かったかも知れない。
善師野駅に到着。降車する。
周囲は丘に囲まれていて、その底から見上げる快晴の空。緑の多さが強烈な日射しを幾分和らげているような気がするものの――
線路の向こうを見透かすと、陽炎でゆらゆらと景色が揺れている。でもまあ、自然歩道歩き。木陰を辿っていくのなら耐えられるだろう。
善師野駅に駅舎は無かった。自動改札機設置工事中、との看板が立っている。
AM8:02、駅から出る。さて、と。まずはコースに合流だ。
足早に歩き始める。暑くならないうちに距離を稼ぐ、というのは夏の自然歩道歩きの鉄則。田んぼと名鉄線に挟まれた車道。
遮断機の前で反対側へ曲がる。そのまま道なりに住宅地の中へ。ほどなく、小さな三方向道標の立つ三叉路に到達。目の前を左から右に進んでいるのが東海自然歩道。
AM8:09、東海自然歩道に入る。方向は犬山方面、前回、歩いたのと逆方向。
住宅地を後に再び田園地帯へ。青々と茂った稲。いちおう歩いたことのある道だけど、方向は逆だし季節も逆。印象がガラリと変わっている。
前方にこんもりたとした丘。熊野神社だ。その下をザックを背負ったハイカー二人組が歩いているのが見えた。登山?こんなところで?
熊野神社の階段の下。迷うことなく階段を上る、前回、時間が無くて立ち寄れず、次に来た時こそ、と思っていたので。
すぐに境内に到達。見晴らは――無かった。木立に囲まれた静かな境内から空を見上げる。まあ、そう期待してたわけじゃないし。
コースに戻る。ここに立つ案内板にはマップが書かれているけど、相変わらず雰囲気しか分からないようなもの。
陽徳寺を過ぎると上り坂となった。濃尾平野を後に――と言いたいところだけど、この峠を越えても濃尾平野。このあたり、丘陵状態なだけ。
右手に墓地が連なった。そこを過ぎると竹林の道。
直射日光が遮られ、明らかに気温が下がったように感じる。加えて砂利道の車の轍に沿って水が流れるようになった。これは随分とサービスの良い道だ。暑気が払われる上、見た目も涼し気。
水を避けるように緩く上がっていくと、やがて左方に緑の水面が見えた。大洞池だ。相変わらず良い感じの色をしている。
……お、対岸に人が。見ると、道の脇に車が停まっていた。確かに車止めゲートは無かったけど。
公衆便所を見て、さらに先に進む。深い林の中、道は車が入れないほど細くなる。ただ、相変わらず砂利面に水が流れている。
――見えて来た。継鹿尾山の東陵にある小さな峠。でも、東海自然歩道にとってはとても重要な場所。再びここに戻ってきた。4ヶ月ぶりに。
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――4ヶ月ぶり、と言っても峠の印象は違っていた。歩いてきた方向が逆だから、冬景色から夏景色に変わっているから、という理由もあるけれど、一番の違いはモチベかも知れない。正直、前回はなんとなく歩いていた。今は来年春の東京到達を念頭に静岡中部にまで歩を進めている。
だから今日の恵那コースへの寄り道はちょっとした息抜きとも言える。AM8:45、その恵那支線へ突入。
ダートの道を緩やかに下っていく。水場を過ぎると、ほどなく狭隘な田園地帯に出た。そして舗装道に合流。そこに「旧木曽街道」の石柱が立っていて、先ほどの恵那コース分岐が石拾峠という名前であったことを知る。
車止めゲートが道を塞いた。越える。再び樹間の道。このような道が続くのだったら有り難いのだけれど……。
右手にフェンス。向こうはゴルフ場。
さらに進むと開放的な景色が開けた。目の前には良く整えられた田園。その向こうに見えている橋脚は……高速道路?
近付いていくと全然違うことが分かった。ずっと小さい構造物。その上をゆっくりと往来している乗り物は……ゴルフカートだ。ゴルフ場が左右に分離しているのか。
その下を潜る。それを合図にしたかのように周囲に民家の建物が目立ってきた。石原だ。
古街道らしく雰囲気のある道だ。ただ、緑が多いとは言え日光を遮るものは無い。7月中旬という時期、朝9時過ぎでも太陽の位置は高い。なので、木陰の面積も小さい。
ペースを緩めず歩いていく。道は建速神社の鳥居で左にカーブした。そこに石原公民館と三方向道標。右折は西可児駅――そちらはエスケープルート。岐阜県の三方向道標は愛知県のように本線が緑矢印で示されないので少し不親切に感じる。まあ、マップ持参前提ということなのだろう。
直進、「大脇 1.6km」と示される方へ。
前方左に見えてきたのが鳩吹山。その麓にまたもや三方向道標。勿論、コースは直進なのだけど左折する。そちらに「真禅寺」と書かれた石柱が立っていたので、ちょっと寄っておこうという気を起こして。
坂道を5分登り続けてようやく到達。意外に遠かった……。
コースに戻る。この上り下りで結構汗を掻いてしまった。今歩いている道も、緑こそ多いけれど陽射しを遮てくれるほどでは無い。
暑さを気にしつつ歩いていくと、右に派手な建物。「ホテル可児」とある。左には馬頭観音。その先で県道349号に突き当たった。
道標を見付けて左折。道脇の細い歩道を進む。県道だけあって車が時折走り抜ける。
名濃バイパスのトンネルの中で立ち止まって涼む。日陰のありがたさよ。
トンネルから出ると左に鳩吹山遊歩道大脇入口の標示と案内図があった。山頂まで45分 1.1kmとある。木曽川を見下ろす眺めが得られるなら登りたいけど、今日はその日じゃない。左側、小川沿いに伸びていく木陰の遊歩道に気をそそられながら、車道歩き続行。
今度は右側、土田城址の碑と解説板。
左右に民家が立ち並ぶようになった。道なりに進み、小さな橋を渡る――見ると、結構な渓谷だった。岩を穿つように水が迸っている。可児川が木曽川に合流しようと狭隘部を抜けていくのだ。高さがあるので、ここまで飛沫は届かない。残念。
三叉路。電柱に隠れるような道標を見つけ、右折。
さらに右折すると左側に広大な田園風景が開けた。普通なら開放感に喜ぶ場面だけれど、今は日陰の無さにうんざりしかしない。時刻は午前10時近く。夏の陽射しが雲に遮られることなく、燦々と地上に降りつけるのが目に見えるかのよう。なにしろ、ここは多治見盆地。
突き当たって左折。左右とも田園となった。前方、見える限り砂利道が真っすぐ伸びていく。
――真っすぐに歩いていく。青々とした水田に抜けるような青空。そんな区間を出来るだけ早急にクリアすべく、ひたすら歩を前に進める。
田を遮って巨大な建物が現れた。岐阜社会保険病院とある。道は細くなり、やがて二車線道に突き当たった。
横断して、細道をさらに先へ。右手は可児川だ。その川に浮かぶ「鬼が島」の解説板が現れた――解説の文字は消えてたけど。鬼ヶ島は名鉄の橋梁の向こう、小さく見えていた。
コースは川から離れる方向に転じた。先ほどの二車線道を再度渡ると、周囲は住宅地。
また二車線道に出る。正面は駐車場、右は遮断機。右へ。
AM10:11、名鉄の線路を渡る。さて、今日の歩きはここからが本番――なのだけど。大きな工場の建屋が連なるようになる。自然歩道なのに工業地帯のルートって……。
ここは我慢の区間。とめどなく流れる汗をぬぐいつつ歩いていく……と、信号のある交差点。道標を見て右折。
真っすぐ南下していく。左方に再び田園光景が広がるのを見て少しホッとする。暑いのは変わらないけれど……。
土田・猪之鼻交差点を通過。コンビニに飛び込んでアイス買いたい。でも、そんなの食べたらその後がキツい。
可児川に架かる戸走橋を渡る。大脇でもっと下流を渡ったけど、橋は数メートルだった。こちらの戸走橋は50メートルほど。同じ川とは思えない。
すぐ横を絶え間なく車が行き交うのが気に障る。と、信号機のある交差点に到達。「塩」とある。――今日はこの「塩」以外に「今」も立ち寄る。一文字地名が多いのに何か理由があるのだろうか?
左折すると交通量は減った。暑さもやや減じたような気がする。
医院の前を右折。再び静寂が戻って来る。
塩公民館の前を通過すると、左側がまたもや広大な田園風景に変わった。遠く美濃の山々も見えている。心和む風景なのだけど――空気に熱が籠っているようにしか見えない。梅雨の合間の晴れ間が涼しいのは6月まで。7月のそれは夏の予告編。
左折。田園に沿った道だけど右側は丘で、木陰がある。ところがすぐに木陰も尽きた。前方、田園の真ん中を真っすぐ突き抜けていく道。またか、と思い、ままよ、とその稲穂の大海原に飛び出す。
田園地帯を渡り切って右折。今度は比較的交通量の少ない二車線道。右には同じような幅で田園が続く。多治見盆地の襞の1つに入り込んでいく形。
――長い区間。季節が季節なら長閑な光景を味わいながら歩けるところだけど、今はそんな余裕は無い。暑さ警戒で体力節約モードの歩き。
昨年も梅雨時に長距離コースを歩いて、こりゃ厳しい、と感じたことを思い出した。昨年も歩けたから今年も大丈夫、と何故考えてしまったのだろう?
……そう、この青々とした葉が波打つ田園光景は要注意。ウォーキングの適期を外しているという意味なのだから。昨年は三重の坂本集落で目にし、その後、暑さで倒れかけたっけ。その時に比べたら湿度が低い分、マシと考えることにする。
ようやく横市へと進む道標を見つけて右折。田園地帯を渡って横市川を越えると横市集落だ。AM10:58。
南下を再開。なんだい、田園地帯の右岸から左岸に移っただけじゃん。平らだけれど変化の無い道がさらに続く。東海自然歩道で、これだけ平らな区間が続くのも珍しいかも……。
じつは、空には雲が多い。なのに、陽射しは陰らない。天気予報はあまり良くなかったと思うけど、内地だから晴れやすいのだろうか……。
やや右側にカーブを描いて、信号のある交差点。コンビニ? しかし、その横に並ぶ自販機を見て目の色を変える。冷たい飲み物!!
良く冷えた炭酸飲料を片手に塩河の集落を抜けていく。生き返った心地がした。
三叉路。「今 1.2km」の道標を見て左折。そのまま横市川を越える――と、横市川の河岸の並木の下にいそいそと進み、ダッと座り込んで休憩。川の流れる音を聞きながら、僅かばかりの涼をとる。身体に蓄積された熱の放出作業。
――日の当たる個所がヒリヒリする。日焼け止めはしていたけど、汗で流れたかも知れない。塗り直す。まだ歩き始めて3時間半。
歩行再開。体感的には35℃ぐらい気温がありそうだけど、本当にそれくらいあるかも知れない。
日晒しの田園地帯を抜け、2車線道を超えると道は緩い上りになった。久しぶりの傾斜。と、右手に水面が広がった。溜池だ。でも、留まった水では涼は取れない。
坂をさらに上がっていく。どうやら峠道のようだ。大した斜度ではないけれど、こうも暑いと辛さは増す。しかも、県道だけあって交通量がそこそこある。車内は冷房で涼しいのだろうな……。
登山者なら「なぜ山に登るか?」と聞かれた時の答えは2つ3つ持ち合わせているだろう。でも長距離自然歩道ウォーカーは「何故歩くのか?」と聞かれたら答えに窮する。道を繋げるためとか自分でも理解不能なのだから。特にこういう見どこがほとんど無いコースでは。
と、分かりやすく先の道が丸みを帯びた。その先は下り坂。従って、ここが峠。
下り側は短く、すぐに田園光景が広がった。その向こうに見えているのが今集落。本日2つ目の一文字集落。
ところが道標が左折を示していた。今川沿いの道で、水が近いのなら歓迎。気温低下がほとんど無くても、流れる水が傍にあるというだけで気分が少し楽になる。
右手に田園。その奥に高速道路のような橋脚が見えて来た。うーん、なんかデジャブ。
その足下まで来た。これは可児バイパスの橋脚。
今川を渡ると田園地帯からは離れた。浅い上り坂となり、上っていくと「たまご直売」ののぼり。入ってみるとタマゴの自動販売機があった。少し興味がわいたけど、もちろん道半ばなのに買うわけにはいかない。熱暑の中、まだ何時間も歩かないといけないので下手すると……孵化してしまうかも知れない。
――頭も良い感じに茹ってきたようだ。道なりに歩いていくと、再び右側に田園地帯が開けるようになる。なんか、今日は同じような構図が多い。
それに加えて社寺も少ない。集落付きの寺や神社を漏らさず拾っていくのが東海自然歩道、みたいなイメージがあるのだけど、支線分岐からここまで真禅寺しか無い。
住宅地に入った。光景的には既に自然歩道では無い。そして二車線道に合流……と、その手前にあったのが三宮神社。小さな社が並んでいるだけだけど、とにかく今欲しいのは境内の涼し気な木陰!ベンチもある、というわけで迷うことなく休憩タイムに突入。PM0:04。
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