- 大和のロマンをつなぐ道 -
【踏 行 日】2006年12月下旬
【撮影機材】OLYMPUS E-1, ZD14-54F2.8-3.5, ZD50-200F2.8-3.5, CASIO EX-P505
2006年の年末もほど近い、或る日のこと。かの名高き「山辺の道」を歩こうと近鉄奈良駅に降り立ったのがAM6:33。
何はさておき……さむい。まだ氷点下だろう。薄暗い駅前のアーケードをくぐり三条通りに出て、明るい光のこぼれるサークルKに飛び込む。朝飯と昼飯と、温かい飲み物を購入。
外に出ると明るみ始めた空。今日の天候は大丈夫だろうか? なにしろ、今日は長距離コースだ。天気予報は悪くは無かった。
白い息を吐きながら三条通りを東へ歩き始める。昼間は観光客や修学旅行の生徒の喧騒が溢れるこの通りも、別世界のように静か。
猿渡池に当たって左折、階段を上る。興福寺だ。まだ冬の朝7時前なので、人の姿はない……と思ったら、チラ、ホラ見掛ける。早朝からご苦労様だ。
東金堂と五重塔を前にして右に曲がり、再び猿投池に抜ける。元々はこのまま春日大社へ向かうつもりだったのだけれど、まだ薄暗い奈良公園を歩くのはちょっと遠慮したいな、と思い直したため。
福智院北まで回り込むと、あとはひたすら東進。高畑交叉点を越えると坂道になる。
「志賀直哉旧居」の道標。裏の路地にあるらしいので、立ち寄ってみる。……閉まっていた。当たり前か。そのまま通過。
再び表の路地に戻り、さらに奈良公園の「ささやきの小径」の入り口まで進む。
東海自然歩道の指導標は見当たらない。前、このあたりで東海自然歩道の名を見掛け、滋賀県を抜けていく筈の東海自然歩道が何故こんなところにあるのだろうと訝しがった覚えがあるのだけれど……。
その時は東海自然歩道に支線があるなんて知らなかった。でも今日はその支線コースを目的に歩く。しかも、支線全体の名前にまでなった『山辺の道』をだ。――ただ、入口が見つからない。手にしているガイド本も結構いい加減だからなあ。
(後註:この1年9ヵ月後に前段の柳生コースを歩いて、もう少し東に東海自然歩道の屈折点があると判明)
仕方無いので新薬師寺入口と書かれている細い路地から歩き始めることにする。このまま南へ進んでいければ、そのうち東海自然歩道とも合流できるだろう。
歪んだ十字路を抜けると狭い路地からはみ出るように、左に不空院、右に新薬師寺の門。どちらもがっちりと閉まっている。
路地を抜けると視界が開ける。正面に田園風景。右には鏡神社。
「歴史の道」指導標に従って東進、さらに南にカーブ。右手には飛鳥中学校の校舎が見える。その背後には、こんもりした春日山。
ふたたび集落の路地に入っていく。なにげに足元に石仏群などがあったり、雰囲気を残す家並が続く。
小川を越えて右折。右に朝日を浴びて輝く西勝寺の門が見えて来た。
――これだけ寺社が多いと、寺社巡りではどこが有名どころでどこがそうじゃないか、ある程度念頭に入れて回ることが必要になってくる。
もっとも、寺社拝観を目的に据えていない歩きでは、そんなものは不要。今日はたまたま、朝日が一番輝く時間帯にこの寺があった。それにだけのこと。
その西勝寺の脇の宅春日神社を見て、さらに南進。白毫寺参道の入口があった。白毫寺は正真正銘、有名どころだ――東海自然歩道ウォーカーに限ってかも知れないけれども。ともかく、ここでここまでハッキリしなかったコースの道筋も明らかになるだろう、と期待。指示に従って左折、参道に入る。
まっすぐ伸びる坂道を上がっていく。山の方角へ向かう道だ。意外と高度を得て、背後に奈良盆地がせり上がってくる。
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AM8:01、別名・萩の寺の名もある白毫寺に到着。ただ、拝観時間外。入れない。
そして、東海自然歩道案内板が立っているのを見付け、ようやくコースに乗ったことを知る。ただ、イマイチ分からない地図だ。白毫寺の南側をコースは渡っているけれど、ここまで道標は1つ見掛けていないのだから。謎は深まる。
注意深く道を引き戻る。左手に東海自然歩道の道標が隠れていないか観察しながらだ。でも結局、先ほどの参道入口まで戻ってしまう。この通りがそうなのだろうか? 道標は無いけれども。
諦め、南へ道を辿ると県道80号と合流してしまった――やっぱりおかしい。コースは山麓、白毫寺より東側にあるんじゃないか? ますます混乱してきた。
よし、山麓へ向かおう。
少し戻って、石畳の「歴史の道」に突っ込む。墓地の脇を抜け、高度を上げると周囲は畑に。道は農道へと変わり、前方、山麓を巻く舗装道が見えた。あれか?
と、目の前に鉄柵の扉。
鹿避け用の柵、と勝手に解釈し、扉を開けて表の車道に出ていかせてもらう。
――山麓沿いを南北に貫く車道。それっぽい。ただ、道標は見当たらない。
車道を南に向かう。右に溜池が現われた。そして左に……
待ち焦がれた「東海自然歩道」指導標。
しばし薄暗い林間の山道。それでも、ところによっては朝陽が射し込んでいる。ようやく、今日が始まったという気がする……。
なんて思っていると、あっけなく林の外へ出された。目の前、左右に県道80号が渡る。
民家の脇を伝って県道に下りる。
県道を横断すると、次は農道へ下りていく。
開放的な道となる。周囲は平和で穏やかな田園風景。先ほどまでコースが見付からなくて焦っていた気分も消散する。道標を捕まえながらの歩き旅。
それにしても、コースに入った途端、地味な道が続くようになった。かの有名な「山辺の道」も、歩いてみると案外、退屈な道なのかも知れない。と、言っても山辺の道の本番は石上神社から先。ここは未だアプローチ道。他に歩く人も見掛けない。
そして、東海自然歩道の指導標には「歴史街道」のシール(?)が貼られている。
これは、日本の歴史史跡の集中する近畿圏を表したもの。とは言え、世界遺産ブームの後に持ち上がった話なので、東海自然歩道の方が古い。
――農道が尽きると森の道。岩井川に架かる小橋を渡る。
斜面を上がって、ふたたび車道。八坂神社を過ぎ、道は鹿野園の集落に入っていく。
十字路を直進、民家の狭い路地が……トラックで丸々塞がっている。その脇からひょいと向こう側を覗くと大きな涸れた溜池。護岸工事の真っ最中だ。
強行突破。溜池の縁を歩き切ると右に90度折れて、回り込みながら森の中へ入っていく。しばし、木立の道。
林間の車道に出て左折、今度は大きく回りこんで団地のようなところに出た。自衛隊宿舎らしい。
次に足許の小さな「円照寺 三輪」の道標を捉え、団地と民家の間の細い道に入り込んでいく。
そのまま林の脇の道を進むと、棚田の広がる開けた光景が眼前に現われた。
集落に入り、白山比咩神社を通過。コースは西へと方角を変え、嶋田神社も通過してなおも郊外の道を進む。
――それにしても、すっかり曇ってしまった。南の空は晴れているけれど、いくら南下しても北側から広がってくる雲の傘から出れそうも無い。天気予報は晴れであっても、山べりの道は安心出来ないものだ。
左に、これまでいくつも見かけてきたような大きな溜め池。そして、その反対側にあるのが崇道天皇陵。今日初めての古墳。AM9:16。
その崇道天皇陵の前で小休止にする。コンビニのパンをパクつきながら地図を見たけれど、相変わらず粗い地図で細かい道は不明――やっぱり、今日も道標が頼りだ。
再び歩き始めると、すぐに県道188号にぶつかった。遂に、と言うべきか……。
左折して県道を南に歩き始める。
200mほどで円照寺参道入り口。尼寺らしいけれど、拝観禁止とのこと。ただ、参道がよさげな感じなので少し砂利の参道を歩いてみる。さすがに門までは行かず、引き返して再び県道の舗装道歩き。
――いい加減、山辺の道はアスファルト製なのか、と文句が言いたくなってきた。
200mほどで分かれ道となり、県道から離れて集落の中へ。それでも車の往来は減る気配がない。T字路にぶつかって左折、あとはまっすぐ南東へ――ようやく静かな道に。ただ、相変わらず面白味の無い車道が続く。
県道187号に当たった。持参した地図には南に向かう道は存在していないけれど、この県道は明らかに南へ向かっている。確かに、山辺の道は南北に伸びる道だけれど……。
道標も無く迷うものの、南へ向かう車道は路面が新しすぎる。最近出来たバイパスだろうと判断して、ここは直進。東へ。
正解。集落を抜けると柳茶屋に到着。
さて、直進すると正暦寺だ。そろそろ何か変化が欲しい……。
ただ、その寄り道には1時間消費する。今日はその時間は捻出できない。右に折れて、コースを辿るのに集中する。右側には、これから向かう虚空蔵山が見えてきた。
石の道標のある分かれ道を右、いったん車道から畦道に下り、さらに先ほどの県道187号を横断。
民家の脇の細い簡易舗装道へ――薄暗い林に入り、道は石階段となる。
――上り切ると右に山門。弘仁寺だ。AM10:12。
ガイド本は表参道へ抜けよとあるけれど、ここでこの寺を無視する手は無い。山門に置いてある木箱に百円玉二枚を落とし込んで境内に入る。
境内には2つ3つ建屋がある。ぐるりと回ったけれど、あまり時間は要しなかった。
ただ、少しの間、雲の合間から日が照ってくれた。ありがたい。
入って来た方角と逆の門から抜け、表参道の階段を下る。
車道に出ると「環境省」の真新しい道標と、コースとは反対方向250m先に公衆便所ありとの標示。そちらに向かう。
休憩所は本当に新しくキレイだった。ただ、ちょっとコースから離れ過ぎているようにも思える。再びコースへ戻ろうと坂道を上るのが、かったるい。
コースへ復帰。回り込んで「仮設ルート」と示される車両通行止めの道に入る。山を切り開いたためそこにあった自然歩道コースが消滅した、みたいな想像が出来る車道。実際にやや高台になっていて、先ほど寄った休憩所も真下に見えている。
……ってゆうことは全然距離が稼げていない、ってことじゃん。無為に迂回するコース。
きっと、将来は休憩所からイイ感じのショートカットが造成されるんじゃないか、と期待しておこうと思う。さすがに、こんな広く真っ直ぐな車道を「自然歩道」と言い張れないだろう。
そして、車道をガードレールが塞いだ。仮設ルート終点らしい。
跨いで越える。その先にあったのは、真新しい公園。入口のところには「古墳公園」と書いてある。実際、段差がある立体的な空間で、盛土や東屋、小川などがある。
ただ、そこに子どもの遊ぶ光景が無いのが、ちょっと寂しいかも知れない。
古墳公園の階段を上る。
巨大な平面に出くわす。白川ダムだ。AM10:54。
――広い。まるで湖のようだ。でも、れっきとした溜め池。周囲は護岸されているので自然味は無いけれど、気分は休まる。
岸辺の釣り人を見やりながら公園風の園路を歩く。ラッキーなことに雲間が空いて、ふたたび日も照るようになってきた。
池の南側、車止めの箇所まで到達した。道標が立っているけれど東海自然歩道のものでは無い。さて、進むべき道はどっちだ? 分からない。
とりあえず、西へ向かって下っていく道に進んでみた。左側にも溜池が現れ、駐車場に到着。瓦屋根民家風のトイレもある。
――キョロキョロ見回したけど、この先は違いそうだ。戻る。
再び遊歩道・車止めの地点。立っている道標を良く見ると、「石」とあって、その先が欠けた道標がある。これはきっと、「…上神社」と続いていたに違いない。と、言うわけで遊歩道の続きを東へ。
白川ダムと接続される水路に沿って、今度は南へ――ここで東海自然歩道の道標が現われた。その先には、車の往来が喧しい名阪国道。
クランク型に道を進んで、名阪国道はトンネルで潜る。
トンネルを出ると、国道と併走する車道を歩く。周囲は開けていて、名阪国道を走っていく車やトラックがよく見える。
――でも、それは取りも直さず車の騒音が常にあたりに満ちている、ということ。正直、「うるさい」。
やがて林の中に入って水道施設が現われた。鋭角に左折、その水道施設の間を抜けていく。
果樹園に突き当たって右折。ここで、久しぶりの山道となった。今日は山に登るような勾配もほとんど無いので、つい自然歩道を歩いていることを忘れそうになる。
ただ、地道も長くは続かない。竹林を抜けると農道に出た。
周囲がいきなり山あいの田舎の奥地の風景となって驚く。騒音に満ちた名阪国道を眺めていたのは。ついさっきのことだったのに……。
日本の原風景そのまんまの景色に懐かしさを憶える。どうやら、ここはどこかの学校の農業施設らしい。ちょっとした箱庭感があって、自分にとってはとても居心地が良いところ。
後髪引かれながら歩いていくと、まもなくこのエリアも抜けた。前方、車道が見えてきた。
県道51号に合流。ここからまた暫く、車道歩きだろうか。車の交通量は多いけど、歩道が付いているので危険は感じない。
周囲の光景はまたふつうの郊外景色に。ただ、眺められるのは宗教都市・天理。
――几帳面な建物が並び立つ異境っぽい光景。正直、宗教都市なんてものは日本では存在しないと思っていたのだけど、この眺めを見て考えを改めた。たしかに、それは日本にもある。
突然、「↑東海自然歩道迂回路」と書かれた道柱が現われた。どうも、このまま県道真っ直ぐが「迂回路」らしい。
じゃあ迂回路じゃない道は、とキョロキョロ見回すと車道の向こう岸に入り口。車の流れが切れるのを1分ばかし待って、車道横断、静かな農道へと入る。ほっと一息。ただ、迂回路がある理由が気掛かりだ。
農道を進む。道は曲がりくねって、結局、天理学寮ビルの正面に出てしまう。
あとは山裾を伝うように南進。路傍に現われるものが、天理教絡みのものが多い。
山裾は東に大きく巻く。行き当たったところが豊日神社。溜池の脇にひっそりと立つ
そして、車道に当たる。
ちなみにこの区間、国道25号は3本併走する。1つは北の名阪国道。1つは南の二車線道。そして今しがた出て来た目の前の車道が、最後の1つ。
国道を僅かに東進、右に折れる。道は南から西へと方向を変える。
石畳の道が現れ、鬱蒼とした林の中の道を進む。
と、整地された砂利道に飛び出た。
PM0:17、石上神社に到着。
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