- 茶畑の壁に挑む -
【踏 行 日】2007年6月下旬
【撮影機材】OLYMPUS E-410, ZD14-54F2.8-3.5, ZD40-150F4-5.6, CASIO EX-P505
もう、本当に遠くまで来ている。
そもそも、東海自然歩道の言葉の懐かしさから、さわりをちょっと歩いてみるか、という軽い気持ちで始めたこと。ところが今では、現地到達ためのコストが巨額になり、過度な経済的負担が掛かっているのにも拘わらず歩き止められていない。
災いは、手を一度つけたら止められない己の性格だ。まだ近畿圏をウロウロしている時に、全36回分のコース区画を決めてWebにその器だけアップしてしまったのも敗因の1つ。空の器があると埋めたくなるのが“コレクター”の性分というもの。
――そしてまた今日も新幹線に乗る。
もちろん、出張経費など出ない。湯水のように万札が出て行くのが恐ろしい……。
遠隔地を歩く時は車で現地に赴いて車中泊前提で回る、というプランもあった。テント担いで一直線に歩く、というプランも――ただ、長期休暇が取れない。「電車・バスのみのエコウォーク」なんて結果論で、実際は週末ちょっとずつ歩く以外に方法がなかった、というのが正しい。
ちょっと歩くのに莫大な経費……そんな一乗客の悩みなど無関心に、ひかり号は一路、目的地目指して進む。
東海道線に乗り換え、さらに東へ。
AM8:33、金谷駅に到着して下車。駅の外に出ると、お隣に大井鉄道の駅舎が建っていた。乗り換え所要時間0分だけど、次の列車の発車時刻まで時間が空いている。
高い金払ってここまで来ているのだ、見れるものは見ておかないと勿体無い――というわけでフラフラと外へ歩き出す。貧乏人根性。
金谷は旧東海道の宿場町だ。駅から出て、キョロキョロと見回すと案内があった。「旧街道石畳」の標示に従ってそちらへ進み、石畳歩きをちょっとだけ楽しんだ後、駅へとんぼ返り。本当につまみ食い。
大井川鉄道千頭行き列車に乗車。近鉄の車両のようにも見えるけれど……そうなのかなあ。
列車が発車する。電車だけあってスムーズな走り。高架を走るので、金谷の町が眼下に良く見える。列車は大きな弧を描き、やがて大井川の右岸を走り始める。
山あいに入って、列車は大井川と共に暫く進む。東海自然歩道は、静岡県の山の中を東西に貫いているのだ。その地へ向かって、北進。
駿遠橋が見えてきて――家山駅に到着。AM9:50。
2週間ほど前に来た地だ。その時は時間が無くて、あわてて列車に飛び乗って帰ってしまった。なので、今回は少し糊しろを作ろうと思い、野守の池へ向かう。コース逆行になるけれど。
家山の町から田園地帯に進む。ほどなく、前方に池。
PM10:08、野守の池。
前回来たのは2週間前だけれど、今は梅雨の最中。でも、おかしいなあ。今日は梅雨の晴れ間と聞いたのに……。
時計回りに歩きだす。相変わらず、池畔に目立つ釣り人の姿。しっとりと落ち着いた空気が空間に満ちている……というか実際、いつ雨が落ちてきてもおかしくない。
左側に鳥居の立つ高台への上り口が現われた。と、ここで前回果たせなかった池畔一周が完成だ。なにしろ東海自然歩道は野守の池を丸々一周している事実を知ったのは、駅に列車がやってくる20分前だった 。
左折し、階段を登り始める。前に来た時と変わらないアジサイ・ロード。高度を得るにつれ、だんだんと背後に池が大きくなっていく。
高度差20mほどを上り切ると、川根町民文化会館前の広場に到達。池が見渡せる展望地だ。やっぱり、この場所に来ないと野守の池を見たとは言えない。地味な静岡コースにあっては貴重な景勝地。
ただし、ここは東海自然歩道コース上では無い。今日は、わざわざ東海自然歩道から外れた地点まで戻って歩き直すという算段。
池の反対側へ坂道を下っていく。
←前のコースへ戻る |
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AM10:20、野守公園入口。前回の、意図しない離脱点。
右には家山川が流れている。その流れに沿って車道を歩き始める。前回歩けなかった、東海自然歩道正規コース。
すぐにT字路。前方には青々とした葉の桜並木が続いていくけど、ここは道標に従って左折だ。
次の十字路を左折して、再び野守の池に到達。ここに来たのは今日二度目。ただ、これでコースも全て繋がった。ようやくこの池からも離れられる……。
池畔を反時計回りに進む。すぐに県道39号と再合流。
池には睡蓮の花が目一杯咲いていた。ピンクの花と黄色の花とがある。別の季節にも来てみたいものだ、と思う。
集会所のある広場まで進む。立派なトイレも併設されている。そして、その広場と池との間の木陰には白鳥がいた。大きい。しかも、何羽かいる――白鳥はこの時間帯は地上に上がっているものなのだろうか?
さて、この場所は前回、道標が見つけられなくって迷った場所だ。ごそごそと探すと……あった。木陰の下だ。これが目に入らなかったなんて、やっぱり人間、焦るとダメだ。余裕は大事。
道標に従って「駿遠橋」方面へ進む。県道39号上。
道標を捉えて――この道標には「大井川鉄道沿線ウォーキング・気軽な里山めぐりコース」という気になる標示も付いている――鋭角に右折。坂道を上がっていく。
天王山公園入口から中に入る。東海自然歩道のコース案内板がある。あずま屋のある公園中央へ進む。そして――家山の町を見晴らす。
公園から出て、天王山を回り込むように坂道を下る。町中に入る手前に、コースマップ板があった。前回は、これまで見逃していたのか……。
右折して民家の路地に入り、二車線の国道473号を横断する。また狭い路地に入り、荒っぽい金属プレート道標を見て左折。……このあたりは前回、あさっての方角へ突き進んだせいで歩いていない。
右に川根町役場を過ぎると、またもや細い路地に入った。抜けると、二車線の県道63号。道標に従って左折。
――前方に駿遠橋が見えてきた。時間はもう、午前11時を回ろうとしている。家山駅に下り立ってから既に1時間以上が経過。なんか、いつも出だしで遅れを喫するような気がする……。
駿遠橋を渡る。先に跨ぐのは大井川鉄道。列車が来ないか、と少し期待したけれどやってこなかった。SLの通る時間でないことは分かっている。
そして、大井川の大きな川面。滔々と流れている。
大井川を渡った後、道は大きく左にカーブしていく。やがて川根中入口の信号のある交差点。ここに、詳細地図マップの道標。……しかし、道の歩く側まで指定してあるなんて、静岡県の細かさには恐れ入る。
右折して県道64号に入る。今度は右に90度曲がって、ほどなく左手に道標。町区間もここまで。
ヘアピンを切って、町道の坂道を上っていく。だんだんと町が眼下に沈んでいく。駿遠橋も見えてきた。ようやく、今日の歩きが始まったな、という感じ。
道が少し平坦になった。見晴らしは完全に失われた。山あいへと入っていくのが実感される。上河内まで4.63km・126minの道標――んにゃ、1時間以内に行く。
深い緑。右手には身成川があるはずだけど、少し距離がある。川面より少し高いところを山斜面を縫っていく道。勾配はほとんど無いので歩きやすい。
やがて正面右手に民家が幾つか見えてきた。中河内の集落だ。こんな狭いところにも茶畑。
特に見るべきものの無い車道歩きが続く。距離を稼ぐにはよい区間ではあるものの、少々退屈。
……というか、かなり退屈だ。6月下旬という梅雨空の季節、湿度も気温も高く、ウォーキングには辛いシーズン。
それでも、来年春の東京到達を目標に置いてしまったという事情がある。歩かねば!
――とは言え、果てしなく遠い東京の空。大阪の空よりは近くなっているけれど、まだまだ遠い。早足なのは、単なる朝の遅延の借金返済のため。……今日は比較的ゆっくり歩けるコースだった筈なのになあ。前回の春埜コースの詰めが甘かったことが悔やまれる。
身成川がかなり近づいてきた。
やがて、緑に埋もれるような家々が見えてきた。一色の集落だ。AM11:58。
川沿いに民家が並ぶ。……立ち並ぶ、というほどのものではない。山の斜面には茶畑が窮屈に這っている。身成川が右から左へと回り込んだ。
一色を後にして、次の集落へ。ただ、道すがらポツポツと民家が現れるようになってきた。道も直線的になり、ずいぶん落ち着いてきた感じだ。斜面の茶畑の他に、猫の額ほどの平地には畑も見られる。
そして、正面には山がそそり立っていた。笑い仏があるところだけど、それが山の名なのかはよく分からない、相変わらず、その斜面には茶畑が広がっている。あそこへ登っていくのか……。
と、右に「不動の滝のご案内」という標示。ただ、片道50mの寄り道が必要のようだ。時間も無い事だしパスするか、と思いかけたものの、「ここを往来した旅人は、この滝壺の飛沫に涼を求め、休息したところであったという」という文字を見て考えを変える。
林の暗がりに突っ込む。不動の滝は、しかしあまり近づけなかった。その落水の音を聞ききながら、少しの間、涼をとる。
車道に戻り、再び東へ歩き出す。橋を渡って身成川は右へ。同時に、両脇には民家が立ち並ぶようになった。もうここは上河内。身成川沿いの最後の集落。PM0:20。
と、その集落の出口に、右手、東海自然歩道のコース案内板があった。谷を離れて、笑い仏へ登っていくルートが示されている。脇には道標付きの石橋。
石橋を渡って、山の斜面に取り付く。そして、高度を一気に上げ始める。――さあ、ようやく今日も本番だ。祝うように、日が照って木漏れ日が落ちてきた。
陽射しはすぐに消える。
車道に飛び出た。正面には茶畑――茶畑を巡って上っていく車道の最下端らしい。脇に薄汚れた東海自然歩道の案内マップがあって、赤点線と青点線が示されている。赤点線が茶畑を突っ切る本線で、青点線がぐねぐねと上っていく車道路コース。
もちろん、選択は決まっている。正面の茶畑の斜面へ。
登山道――ではなく、茶畑の農道。土の感触は心地よいものの、なんか登り辛い。周囲は開けっ広げで、陽射しは無いのだけど、なんとなく暑い。
上方には車道の白いガードレールが左右に渡っているのが見える。そして、振り返ると一面の茶畑。防霜ファンがマッチ棒を立てたように並んでいる。
さらに上っていく。……直登はやっぱり辛い。なにしろ、高度差200mの一気登り。息が切れ、汗が吹き出る。
車道を幾つか跨ぐと、もう休み休みの登り。背後を振り返ると、身成川が作った山間の谷に上河内の集落が張り付くように伸びているのを目にすることが出来た。だいぶ、上ってきたぞ感。
茶畑の最上部まで到達した。ここにも立つ東海自然歩道コース案内板。この先は山道だ。
最後、眼下の茶畑を一瞥して山道に突入。最初は丸木階段。勾配は一向に緩むことは無く上方へ続いていく。
やがて平な場所に出た。熊巡り平というところらしい。方角は北へ転換。少し下りたと思ったら、すぐに登り返し。
まっとうな登り道が続く。林が多く地味な道だけれど、途中に右側、東方への見晴らしが開ける箇所もあった。これから歩いていく山稜線が延びていくのが見える。その向こうに見えるのが高根山だろうか?
もう1頑張りで山頂に到着。PM1:14。狭い広場になっていて、南西への見晴らしがある。今日は視界が悪く、連なる山々しか見えないけれど。
そして、祠に収まった――笑い仏だろうか? 解説板を読むと、笑っている仏ではなく、近づくものを理由無く笑わす仏らしい。どちらにしてもヘンな名だ。
10分ほどの休憩でカロリー補給&身体冷却。そして、さらに東へ向けて出発。
山道は下り基調。
稜線の山道を快適に飛ばす。今回のコースは分かりやすく、車道の長いアプローチ、山稜への一気登り、山稜線の縦走、そして下山、と4区間に分かれるけれど、今はその3番目。道幅は十分にあるし、見晴らしは無い植樹林とは言え、時折、ササユリの薄いピンクが道を飾っている。早駆けにはちょうど良い。
と、吊橋が現われた。その手前に下っていく階段があって何かと思ったら、車道の脇に公衆トイレがあった。
吊橋を渡る。
――そう高いわけでもないのに、何故か高度感を感じる吊橋。渡り切ると木のベンチがあった。さらに枝だけになっている茶畑の間を下りていく。
と、車道に出た。コース案内板も立っている。ここからは車道。青々とした茶畑の見ながら歩く。開放的な道。
やがて左右が人工林となった。
左に「伊久美白井入口」という道標を見過ごすと、再び山道となった。すぐに林が切れて、防火帯のような開けっ広げの場所に出た。そして、あずま屋。展望地だ。
……ガスで遠望が利かない。せっかく、北方と南方の見晴らしがいいのに。そして空には黒い雲。昼なのに暗いのはコイツのせいか。
再び樹林帯に突入。
林道に出たけれど、すぐに山道の登山道となった。杉林かと思ったら雑木林へと変わっていたり、なかなか山深くもなってきた。さらにガスが出てきた――雨雲の中に入ったらしい。幽玄な雰囲気も出てきた。
空気も、すこしひんやりしてきたかも知れない。
小気味よくアップダウンを繰り返しながら、次第に高度を上げていく。と、肌に細かい雨粒が感じられた。これは雨降りというわけじゃなくて、雨雲の中の水分だろう――。
雨は止んだ。しかし相変わらず高い湿気。しかも夕方のような暗さの中だ。こういうシチュエーションだと、自然に足は早くなる。気が焦るのだ。
木立の間を縫うように登っていく。息が弾む。と、ガスを透かしてベンチが見えた。……あれが高根山頂だろうか?
違った。山頂の標示は無い。南側に見晴らしがあるけれど、ガスで真っ白――では無かった。ぼんやりと太平洋岸の市街地が見える。どうやら、雲が懸かっているのは山の上だけらしい。
フラットになった尾根道をさらに東へ。途中、分岐があったけれど、こうガスっていては視界が狭くて迷いそうだ。
首尾よく、高根山山頂に到着。本日の最高到達点だ。PM2:58。
こちらにも展望があった。ただ、やっぱりガスが濃い。青い太平洋の大海原が見える筈だったのに、残念。
ガスが晴れるのを待っている余裕など無く、そそくさと山頂を辞す。電波塔の下をすり抜けると道は一気に下り始めた。
とにかく、もう午後3時を回ってしまっている。これから下山して、さらにもう1区間歩く予定なのだけど、これだとちょっと辛い進捗だ。いくら日が一番長い季節とは言え……。
というわけで、ズンズンと下る。10分ほど気張って下ると、林道に当たった。ここからは車道歩きだ。駆け下れる。
と、そこに高根白山神社。……ここは抜かせない。境内に上がる。
境内には、公衆トイレ、ベンチ、解説板、そして東海自然歩道のコース案内板があった。
――スギの木立に囲まれた境内は小狭く、建物には厳かな雰囲気。詣でる者はいない――というわけで、本日のお賽銭投入。
林道に戻って駆け下り始める。なにしろ、蔵田まで高度差300m、それを緩い勾配の林道に付き合わないといけない。
スピードに乗って下っていくと、途中、広場があってベンチと公衆トイレがあった、さらに脇には雨量観測計。
さらに下っていくと、東から南へかけての見晴らしが得られるところがあった。足を止めてしばし眺める。あのゴミゴミしたところは静岡市街だろうか?
眼下に蔵田の集落が見えてきた。あと少し……。
いきなり茶畑の斜面に出る。もうこちらは朝方見てきた“川根茶”では無いことは確かだ。相変わらず茶地帯であるのは変わらないけれど……。
目立っているのが鼻崎の大杉。さすが、静岡最大の根回りを持つという杉。“直木(すぎ)”のくせにずんぐりしていて、風格がある。
その大杉を目指して坂道を下っていく。
大杉に到着。まったく、見事な枝ぶりだ。その裏には聖人堂の建物。解説板も立っている。
そこを左折、県道220号上を歩いていく。すぐに三叉路。県道32号だ。左が九能尾、右が藤枝市街と示されている。
ここは左――だけれど、ちょっと寄り道、と、右折。バス停は0.15kmほど先の筈。
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先のコースへ進む→ |
PM3:53、蔵田バス停に到着。まずは今日の1区間目終了、と同時に、ここは東海自然歩道の静岡新コースへの分岐点のはずだ。そんな標示が無いものかとキョロキョロと見回す。
――無いようだ。おい静岡県、几帳面じゃなかったのか?