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東海自然歩道の本線・支線の分岐という要所、蔵田。
――ただ、そんな標示はどこにもない。本当に静岡新コースは開通しているのだろうか?確かに、コース案内板では線は引っ張られているけれど……。
バスがやってきた。でも、乗らない。代わりに、先ほど歩いてきた県道を逆方向に歩き始める。この先、今日の終着地までバス停は無い。PM3:55。
県道202号との三叉路。手前の蔵田屋で飲物を補充。この先は上りなので、多めに持参することにした。
県道32号を進む。すぐに道は細くなった。大型車の通行が不可能な細さ。歩くのには、むしろ細い方がいい。
右に蔵田の茶畑を見ながら歩いていく、と、宇嶺の滝の入口。その先、山道になっている。入り込む。
……けっこう急激に下りていく。瀬戸川の水面まで下りるのだと、高低差は40~50mぐらいありそうだ。すぐに前方に白い瀑布が見えてきた。と、正面から滝の見える場所に到達。まあ、少し遠いけれど、ここまででいいや、時間もないことだし。
大迫力で水を落とす宇嶺の滝。
登り返す。けっこう辛い。人気のスポットなのか、何人かとすれ違う。そういえば、この区間で最大の見所であったけれど、あっというまに終えてしまった。もっとゆっくりしたかったな。
でも時間が無い筈。滝入口前のコース案内板でコース距離を確認。ええっと、九能尾までは15.10km。コースタイムは5時間とあるけれど……。
全線車道なので3時間でいけるだろう。今の時間は午後4時18分だから――頭の中で計算する――あれ? バスの時間まで2時間23分しかない?
これはピンチだ! 計画時は3時間と踏んでいたのだけど、どこでどう間違ったのだろう? 確かに、ここまで少し余裕を持って歩きすぎたかも知れない。うーん。
というわけで、早足で歩き出す。そして、またもや頭の中で計算。15kmを2時間半で通過するなら6km/hが必要。歩いてなんかいられない。でも、峠までの上り坂を走るのは無理。峠の先を走るとして……前半は6km/hほどのペースで突き進むべし。
(まあ、じつはこれは、思い込みの勘違いであったのだけど)
見所無く、林の中の車道歩きが淡々と続く。途中からは勾配が出てきたけれどペースは落とせない。時々現れる道標で距離と残り時間を確認しながら進む。九能尾まで11.5kmで残り1時間34分――7.5km/hにまで借金が膨らんだか、等々。
だいぶ高度を取り戻した。見晴らしの得られるところもあって、日の当たる山々が見えている。
もちろん眺めている余裕は無い。もうずっと足が張った状態だけれど、無視して歩いていく。
舟ヶ久保集落の分岐を通過してさらに上っていく。遙か遠く見えているのは――伊豆半島か。大阪から歩いてきて、遂に関東圏が見えるところまでやってきた。
もちろん、感慨に浸っている暇など無い。
後半走れるか心配になってきた。足の疲労はかなりのもの。
と、道が下りになった。これはラッキー!と走りだす。するとすぐに三叉路。左に県道63号が分かれていく。そこに「川根町」の標示。そう、今日は川根町の家山から出発したんだっけな……。
緩い下り坂が続く。と、途中から上りになり、走れなくなる。
最後の上り、と全精力を傾けて歩いていく。そして遂に清笹峠――藤枝・静岡詩境に到着。PM5:26。
さあ、バス停まで7.61km、140分のところを75分の倍速で歩かなければ!7km/hの速度でお釣りが来るのだから、だいぶ楽になったような気もする。なにはともあれ、出だしが肝心。
というわけで、スピードに乗って走り出す。ランナーになったつもりは無いけれど、ウォーカーだって走る時は走る。ザックの中身が天地無用状態になるのが、ちょっといただけないだけだ。
ヘアピンカーブを幾つか通過した後、道は直線気味になる。高度は順調に落ちて、蔵田のあった高度より下になった。――ところが、下り坂は終わらない。いつ果てるともない下り坂。
林を脱して、上空が開けた。どんよりした曇り空だけれど、雨は結局、降らなかった。そして、家々が見えてきた。ようやく坂野だ。
右にカーブすると、イチョウの木が見えた。黒俣の大イチョウだ。今の時期は青々とした葉を豊かに茂らせている。時刻は――午後5:54。よし、いける。
大イチョウの足元の遊歩道の階段を上って行く。ちょっと寄り道だ。やがて、木の根元に到達。そこには赤屋根の祠があった。
その反対側には見晴台。この場所が、本コース2番目の見所の筈だ。ただ、背後のイチョウを別とすると、見晴らせるようなものは特に無い。そろそろ、こういう東向きの展望台からは富士山が見えて欲しいのだけど。
コースに戻る。さあ、午後6時を過ぎた。残り3.3kmだから、6km/hで歩けば万事OK。
ただ、黒俣川沿いの車道となって、下り勾配もほとんど消えた。疲れた足に鞭打っての早歩き。
静岡市2つ目の集落、中村。道は右折。と、そこに立っていた道標を見て、一瞬でパニックに陥る。逆方向が静岡市街だって!?
T字路。寄り道である筈の東向寺が北。静岡市街が西――坂野の方。そして、これから進もうとしていた南の方角には標示板無し。何か見落とした? 近くを行き来して別の道が無いか探る。無い。次に、地図を取り出して現在位置確認。こんなことしている時間無いのに!
やはり、標示の無い方角が正解としか思えない。5分ほどの逡巡。
残り2.4kmで25分……厳しいなあ。6月なので日没の恐れは無いけれど、、、と思ってふと気付く。最終時刻のバス、1時間ばかり勘違いしていないかと。
手書きのメモを取り出す。見事に、1時間の覚え違いをしていたことが判明。バス発車は午後7:41、だから日の長いこの季節にこのコースを歩くことを決めたのだった、ということを思い出す。
気が抜ける。なにしろ、持ち時間が25分から85分へと化けたのだ。前に進もうという気力すら失いかける。
でも、道端に座り込んで呆けているわけにもいかない。九能尾へ向かってダラダラと歩き出す。人が見たら、同じ人物とは思えないほどの変わりようかも知れない。緊張感の糸が切れまくり。――ギリギリのシチュでしか生甲斐を感じないようなタイプじゃあ、決してないんだけど。
中村集落通過。
戸平集落追加。――相変わらず、茶畑は集落とともにある。静岡県は、日本一の茶の産地。道の脇には船水弘法大師堂があって、その脇では水が勢いよく流れ出している。
民家が視界に入ることが多くなった。この黒俣川の狭隘な流域も終わりであることを感じさせる。
上和田の集落を通過。さあ、残す集落もあと1つ。
あまり急いでもバス停で暇するだけだと分かっているのだけど、特に周囲に見るべきものも無いので淡々と足を運んでしまう。黒俣川も渓流、というほどのものは無く。山から流れ出でた水を淡々と運んでいる。
ここに来て空が夕焼けてきた。
ガソリンスタンドが見えた。その先、三叉路。左右に曲がっているは国道362号だ。――九能尾に到着、PM6:45。
バスの発車時刻まで、残り56分。別の意味でのカウントダウンの始まりだ。仕方ない、これから暮れていく空に付き合うことにしよう。
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先のコースへ進む→ |
――暇。
歩いていないウォーカーなんて、眼鏡を掛けていないシンパチのようなものだ。これから1時間弱、じっと同じ場所に佇んでいないといけないなんて。
この三叉路には商店があって、自販機も豊富にある。その中にはビール(缶のみならずビンも!)もあるけれど、あまりそういう気分でもない。
というか、その商店で飼っているのか犬に目を付けられ、近づくとワンワンと吠えられる。――夕闇に響く犬の吠え声。すこし薄暗くなってきた。
次のコースの入り口に向かってみる。静岡方面へ30mほど進むと左側に道標があった。すこし上ってみる。石階段から山道へ……このまま山に登っていくのだろう。
次のコースを歩くのは、おそらく今年の秋。ちなみに、今日のコースで静岡県コースは3つ目であったけれど、天候に恵まれないせいか地味なコースばかりという印象が強くなってきている。少なくとも愛知県コースでは、チラホラとコースを歩いている人を見かけたけれど、静岡県コースではそれがあまり無い。実際、好んで歩かれるような道、という感じもあまりしない。
道標やコース案内板は立派なのだけどねえ……。
さて、本格的に暇になってきた。バス始発地なのだから、もうバスが停車して待ってくれても良さそうなものなのだけど。
午後7時を過ぎて、ようやく暗くなってきた。いつもは、あまり待たなくて済むように歩くペースを調整するのだけれど、今日みたいに勘違いしてしまうと、もう何をやったらよいか分からない状態になってしまう。でも、さすがに九能尾のバス停周辺でウロウロして地元の人に不審者認知されるのもアレだ。そうでなくても、すでに犬には吠えまくられているのだし……。
というわけで、ようやくバスがやってきた。新静岡行の大型バス。発車の10分前。
乗り込む。もちろん、他に乗客はいない。
PM7:41、バスが発車する。
――そのまま国道362号を手繰っていく。通称・藁科街道。そう、「藁科」も有名な茶の産地。同走する黒俣川も、やがて藁科川へと名を変えていく。
藁科川は安倍川へと合流する。その川を橋で渡ると政令指定都市・静岡市の都市部。今日、高根山の尾根から見晴らしていたその市街へと、バスは滑り込んでいく。