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県道56号を西へ向かって歩き出す。橋が近いために気温標示があって、それによると現在17℃。日差しが弱々しいわりに、けっこう気温は保たれている。
目指す先は広瀬橋。ほどなく、橋の袂にある広瀬橋南交差点に着く。
右折して、広瀬橋を渡り始める。……長い。さもありなん、250mほどある長い橋。
やっと広瀬橋北交差点に到達。この交差点は角がささやかな公園になっていて、鳥の像なんかも並んでいる。
信号のある横断歩道を渡って、そのまま県道56号の方に進む。
山村バス停を過ぎて左に曲がる道標を捉える。
――大きく離れてしまった牧田川へ再び向かうのだ。開放的な田園地帯を歩いて、川のある方角へ進む。
先ほどまでずっと山裾の視界の狭い道であったので、このだだっ広さに何となく気が抜けてしまう。……そういった視界の切り替わりが、長距離自然歩道歩きの面白さのひとつなんだろうな、などと思いつつ。
牧田川の河岸に到着。
右に曲がる。この先は暫く、河岸遊歩道を進むことになる。前方にはは見え得る限り遠くまでの桜の木。今が春でないことを、とても残念に思う。
葉の落ちた桜の木にあまり情緒は無い。時間も無いことだしで、走る。
タッタ、タッタと走る。このフラットな道の区間でなるべく距離を稼いでおかないと、最後の山越えが厳しくなる筈だ。
でも正直、敗色濃厚。それに疲れで長時間は走っておられず、だんだんとスピードは落ちて、歩きがちになる。
牧田川は再び離れていって、今では河岸遊歩道は牧田川支流の藤古川に随伴するようになっている。一方、右手の風景はあまり変わらない。山際まで続いていく長閑な田園風景。
正面を見ると、大きな山影があることに気付く。あの形は……伊吹山だ。新幹線の車窓から必ずチェックするので、見間違いようはずは無い。
あそこはもう、関ヶ原か――。
だけど、そちらに真っ直ぐ向かわないのが東海自然歩道の嫌らしいところ。とにかく大回りの東海自然歩道――いちおう、ちゃんと意味のある大回りであることは承知している。
国道365号を横断する。あいも変わらぬ桜並木の河岸道。
……本当に、桜並木が素晴らしい。もし次に歩くことがあるのなら絶対に春にしよう、と思う。
すっかり暮れなずんだ里景色の中を、ひた歩く。と、藤古川を渡っていく橋が現れた。二車線道だ。そちらだろうか?
地図を開いて良く確認……違うみたいだ。あたりに指導標も立っていないし。
見送ってさらに進む。
次の橋で三方向道標が現れた。右折は牧田方面1kmとある。左折が本線という標示。時刻を確認するとPM3:52。
左折して藤古川橋を渡る。と、田になにやら複数の動く影。
――サルだ。3匹ほど田の中を闊歩して、時折手を口に運んでいる。山から下りてきて食べ物を探しているのだろう。
先ほど見送った二車線道に合流、一本となった県道229号を西へ向かって歩く。
ここにきて、急激に山あいが狭くなってきた。左には今度は今須川が岸壁に流れを穿っている。
ちなみに、今須川は藤古川の支流。牧野川、藤古川、今須川、と、まるでマトリョーシカ人形のよう。
もう午後4時で日は沈んでしまった。あとは明るさが残っているうちにどこまで行けるか。
すっかり峡谷風景となった車道を足早に進む。時間と共に空間的にも増す圧迫感――振り払うように、突き進む。
少し空間が開けると、集落が現れた。平井集落だ。心なしか、明るさも戻ったような気がする。
東海自然歩道は集落の中を通り抜けていた。小狭い道を細かく進んでいく。民家の脇には柿の木が立っていて、実をたわわにぶらさげている。これは秋らしい景色。
集落を抜け、再び県道に合流。これで、大垣市上石津町から不破郡関ヶ原町に入ったということになる。しばし、今須川とともに遡上。
道は大きく蛇行しながら山間に伸びる。車道ベタ歩きだけれど、交通量は僅か。危険は感じない。
そしてまた開けた場所に出た。右に道があって、聖蓮寺はそちらという標示。
コースはそちらだろうか? 今まで必ずあった東海自然歩道の道標が、ここには無い。
――西の空が赤い。薄暗い赤。
無いのも不自然だ。もっと先に道標が立っているのかも、と直進を選ぶ。道標は……
無い。右には聖蓮寺のある平井集落が見えてきたけれど、そちらに曲がっていく道も無い。0.5kmほど進んでようやく右折出来た。集落脇にある若宮八幡神社へ進む。
戻る方向に歩くと、聖蓮寺。チラと中を覗いただけで先に進む。
ええっと、松尾山の道は……これか? 中途半端に東海自然歩道を示している道標を見て、山へ向かう道に入る。やはり県道の聖蓮寺入口を右折が正解だったようだ。
すぐに上り道となり、夕餉の仕度時の平井集落を後に残して林の中に入る。――遂に周囲を夕闇が閉ざした。足元がギリギリ見える程度の明るさ。
ただ、山登りと言っても集落からの高度差は150mだ。山頂までは明かり無しでいけなくもない。そう思い、最後の足を使ってガシガシと攻め上る。
道は、ダートから登山道へと変わる。判然としない丸木階段を慎重に踏み上げていく。――考えてみれば、これが今日のコースで唯一、山頂まで登る道。
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PM5:11、松尾山山頂に到着。
暗くて良く見えないけれど、ここは路傍休憩地として整備されているようだ。あずま屋やベンチ、案内板などの他に公衆トイレも設置されている。昼はそれなりの数のハイカー……ないし観光客を受け入れているのだろう。
そして勿論、この山の真骨頂は古戦場・関ヶ原への展望。
――残念ながら今のそれは、暗がりに灯かりがポツポツと見えるだけの黄昏風景であった。どのあたりでどの合戦があったか、指差して確認なんてとても出来ない。
うーん、せっかくの歴史的展望地、やっぱり明るい時にもう一度来たいよなあ。
それはともかく、プレッシャーのかかる下山だ。下山道の入口を見ると闇がわだかまっている……。
突入。ヘッドランプの光にスポットライトのように浮かび上がる登山道を慎重に下りて行く。とても真っ当な山道で、夜道なのは残念だ。
途中からは林道。時折目に入ってくる関ヶ原の町明かりが次第に目線の高さに近くなっていくことで、高度が下がっていることが分かる。
下り切って、林から出た。
目の前に名神高速。それを潜ると、今度は新幹線。この時間、引っ切り無しに新幹線が通っている。山から下りて見る光景としては、なにか違和感がある。
右に進む。井上神社を過ぎて新幹線の高架を潜る。民家の間の道を抜けると別の車道に当たった。
さあ、不破関跡はどっちだ?
暗がりの中、特定の建物を探すのはなかなかやっかい。なんとか不破関跡を見つけたものの、当然ながら門はがっちりとしまっている。時刻はPM5:49。
――予定では、ここには午後3時前に到着する筈だったのになあ。
ただ、確信犯的に3時間の寄り道をしたのも事実。また次、来ればよいさ。
国道21号、いわゆる中山道に並行する道を、東――関ヶ原駅に向かって歩く。どうやら周囲にはふんだんに史跡があるようなのだけれど、どれも暗闇に埋没。
歩道橋を渡る。町中に入って左折、建物の間に挟まった窮屈な歩道橋をもう一本渡る。
その先にJR関ヶ原駅。PM6:12。
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「さあ、今日は東海自然歩道歩きの集大成だ!」
――なんて最初に言っておきながら、じつは自分でそれを信じていなかった。じゃなきゃ、今日中の“ミッション・コンプリート”を捨てて予定外の養老山に登ったりはしない。
そう、鈴鹿峠まで到達したときに目標を「関ヶ原」に定め直したのも事実だけれど、その後、岐阜の鍋倉山区間を単発で歩いたりしたことから、濃尾平野周辺のコースも面白そうだし手が届きそうだ、と思えるようになっていたのだ。だから、関西の終端の地・関ヶ原で東海自然歩道歩き終了!ってゆー考えは今日までに自然消滅していた。
なので、最後だなんて感慨は特に持たずに歩き切った。そしてなんとなく、東海自然歩道のビートというか、歩くことで感じるリズムのようなものも分かってきたような気がする。山歩きが『運命』や『四季』のように、はっきりした盛り上がりがある音楽としたら、長距離自然歩道は……そうだなあ、『G線上のアリア』とか『主人は冷たい土の中に』のように波打つように繰り返し現れる旋律、と言ったところだろうか。ちょっと、強引だけど。
そして、新たな目的地は、ズバリ「香嵐渓」。それより東はさすがに厳しそう……。