- 養老の山裾の道 -
【踏 行 日】2006年11月上旬
【撮影機材】OLYMPUS E-1, ZD14-54F2.8-3.5, ZD50-200F2.8-3.5, CASIO EX-P505
さあ、今日は東海自然歩道歩きの集大成だ。
……そう、ちょっと前にもそんなようなことを言っていた。鈴鹿峠まで歩いた時だ。でも、その後に最終目的地を変更した。関西の終端の地――関ヶ原へと。
だから天気の良い日に歩きたい、と思っていたものの、なかなか好天が得られなかった。今日、11月の「晴れ」の日を捉え、養老へと向かう。
下り立ったのは岐阜県のJR大垣駅。いったん駅の南側に出て、すぐ右手にある近鉄養老駅へ。
改札を潜り、桑名行きの列車に乗り込む。すぐに発車時刻が来て、濃尾平野西端の田園風景の中、赤い列車が走る。……東海自然歩道歩きをしていなれば、この鉄道を利用することなんて、一生無かっただろうな、などと思いつつ。
20分ほどで養老駅に到着。
――上から“ひょうたん”が大量にぶら下がっている。そう、養老はひょうたんがトレードマーク。JR御殿場線の上大井駅を思いだす。
駅から出る。ここにもひょうたん。
そして感じられるのは凜とした空気――待った甲斐あって、これ以上無いくらいの絶好のウォーキング日和の予感。
駅前から、養老公園に向けて出発。AM8:12。
行く手正面に養老山地の山稜が見えている。そちらに向かって真っ直ぐ進むだけだ。
車道を潜り、上り坂となる。周囲は少し、観光地の雰囲気がある。前回は真っ暗でそんなことは分からなかった。左には岐阜県こどもの国の入口。
そして、早くも養老公園の領域に。ここをさらに真っ直ぐ上っていけば前コースの離脱点だけれど……。
左折。そう、コースの少し手前から合流しようという考えだ。前回、なにしろ養老公園に着いた時は真っ暗だったので、その“糊しろ”を少し作っておこう、と。今日は時間の余裕があるので、こういうことも出来る。やっぱり、余裕は大事。
養老公園を見ながら、南へ向かって進む。朝の散歩をしている人を2、3人見かけるものの、他はいたって静かなもの。
広々とした芝生の公園。ポツポツと立つ木々も薄っすらと色付いている。ただ――その向こうに見える山々は青々。紅葉の時期としては少し早いかなあと感じる。養老の滝は標高300m近いところにあるので、期待は残しておこうと思う。
そして、異様な光景。……養老天命反転地だ。有料施設なので中には入れないけれど、外からも一部が見える。
コンクリのデコボコした肌。派手にペイントされており、交差する線と、その中になにやら横文字が書き込んである。
――“体感できる芸術”とのことだけど……残念なことに「ワケの分からないものが芸術」というのが自分の芸術の見分け方。お粗末な芸術センスしか持ち合わせていないので、その程度の認識。
そんな、ワケ分からない物体を見ながら脇を歩いていく。まだ開園していないから誰もいないけれど、昼には子ども達があの上で遊ぶ光景が見られるのだろうか? まあ、子どもにとっては良い遊び場か、なんてことを思う。
反転地を過ぎて、針路が南西へと変わる。景色が落ち着く。
見えてきたのは、京ヶ脇の集落。
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時刻はAM8:36、京ヶ脇集落の外れに佇む。
天気は絶好、気候もすこぶる良い。これで30kmほど先にある関ヶ原まで到達すれば、どうやら自分の東海自然歩道歩きはめでたし、めでたしでケリがつきそうだ。
――でも、本当に終わってしまうのだろうか?
北へ向かって歩き出す。
前回、川原越で岐阜県に入ってからは、ずっと養老山地の山裾歩きだ。少し高いところにコースが通されているので、視界に変化がある。
でも前回は、途中から日が沈んでしまって、何も見えなかった。……やっぱり、暗闇の中を歩くのは出来るだけ避けたいものだ、と思う。
養老公園の領域に入ってから空間が広々としているのを感じる。パークゴルフ場やテニスコート、駐車場などが次々に現れるからだ。でも、時間が早いせいか、そこに人の姿はほとんど見えない。
と、東海自然歩道の道標が現れ、やや左に進路を逸らす。その先、滝谷に架かる不動橋が現れた。前回の到達点だ。
さて、コースはどちらだろう、とキョロキョロと見回す。
――標示は、無い。ガイド本に従って、不動橋を渡ることにする。橋の上から見えたのは見事な紅葉風景――ではなく青々とした葉。瑞々しさは失われているけれど、色づいては無い。
うーん、半月ぐらい早いような感じだなあ。
滝谷左岸の道を、山へ向かって上っていく。道標が無いのでオンコースかどうか分からないけど、少なくとも養老の滝はこっちだ。
道脇には土産物屋、食事処などが何軒か並ぶ。開いている店もあるものの客は皆無、静けさが満ちている。まだ朝の9時前。
――どうやら養老の名物は、冷やし素麺、ひょうたん、柿ラガー。
でも、ここまで紅葉はほとんど見られない。11月上旬なので紅葉前線は高度500mくらいにあるかな? と思ってやってきたのだけど……この分だと滝まで上がってもダメそうだ。ネットで生情報収集しておけば良かったなあ。
と、久しぶりに東海自然歩道の道標が現れた。左にある滝谷の橋を渡って、右手の道に下りて行く転回点であることを示している。自分の上ってきた道はコースでは無かったようだ。不動橋の手前で左折か……。
橋で右岸に渡り、石階段の坂道を上がっていく。周囲は深い森。いよいよだ。
そして最後の橋を渡る。その橋の上から見えたのが、養老の滝。
左岸を回って滝つぼの脇の小広場へ。――誰もいない。時刻はAM9:06。
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秋を探しに… |
3時間経過。時刻はPM0:12となっていた。同じ養老の滝の前。
朝と違って、観光客が引っ切り無しにやってくる。もう少し後の紅葉の季節だと見物客で大渋滞しそうな予感。でも、紅葉前線はまだ山の高度800m付近にある。ここまで下りてくるのは、もう少し先のこと。
滝を後にして山を下り始める。今度は、滝谷左岸の道。
こちらの方がメインロードらしい。朝方の静けさはどこへ行ったのやら、結構な賑わい。
そして、現れたのが養老神社。――菊水泉はその隣にあった。酒の香りがしたとも言われる、養老の名水。若返りの水――東海自然歩道を、大阪からここまで歩いて飲めばこそ。
さらに下る。
土産物屋の前にも人が集まっている。意外にも家族連れや若い人たちの姿も多い。確かに養老は中京圏からのアクセスが良い。お手軽な観光地、という認識のされ方なのかも知れない。
そして東海自然歩道のコースへも復帰。駅から直接こちらに来れば朝の8時半前からコースを歩き始めることが出来たのに、今の時間はすでに午後1時近く。行程に少し余裕があるなんて意識があると、早々に借金を抱えまくってしまう性格。自覚は持っているけれど……。
今日はたぶん、関ヶ原に辿り着くのがやっとだろう。不老ヶ池を過ぎ、元正天皇行幸遺跡を横目に進むと、養老公園の領域もおしまいとなる。すっかり観光客の見当たらなくなった道を北へ向かって歩いていく。
足早になる。距離を計算してみたところ関ヶ原到着は夜になりそう、と判明したためだ。まったく、またいつもの余裕の無い歩きか……。
「秣(まぐさ)の滝 徒歩30分まむしに注意」という道標でコースは左に逸れ、ダートの道となる。このまま山に向かって突進か、と思う間もなく集落脇の車道に出される。
ここに立つのは岐阜県の木製の道標だけれど、新品だ。もしかして岐阜県は、順次コース整備をしているのかも知れない。先月歩いた川原越~赤岩神社は悪路だったけれど、もう少し後であったら補修されていたかも知れないなあ、なんてことを思う。
すぐに山道になる。林の中の道。そして柏尾谷を渡ると――。
開放感のある砂利道となった。ここには秣滝分岐もある。解説板も立っているけれど――赤錆(?)で真っ赤。何も読めない。
しばしガードレールのある砂利道を歩く。高度は150mくらいあるので、濃尾平野も良く見えている。左右に渡る名神高速が目立っていて、その手前は高田の町だろうか? その向こう、名古屋都市圏は霞みの中にあって、見えない。
次第に高度を下げていき、やがて見晴らしも無くなった。道標が現れて、林の中を指差している。
そちらへ進む。すこし薄暗ささえ感じる道。道はほとんどフラットなので、ここが稼ぎどころとばかり、小走りで進む。
そして現れたのが――「東海自然歩道・柏尾公衆トイレ」。建造されて、まだ日が経っていない。
その反対側にあるのが神明神社。ごく小さな社だ。木立の下にはベンチや切り株の椅子も並んで、休憩できるようになっている。
だけど、この神社の脇には別の重要な遺構がある。これもまた読めない古びた解説板と一緒に新しめの解説板があって、多芸七坊(たきななぼう)の1つ、柏尾寺がかつてここにあったことを伝えていた。
――少し先には千体仏。明治時代に土の中に眠っていたものを掘り起こしたものだと言う。時刻はPM1:26。
千体仏を後にして、地道を行く。ここに来て再び日差しの降り注ぐ、明るい雑木林の道。やや下った後にまた真新しい道標が現れ、勢至を示す。
そちらに進む。勢至南谷は小さな橋で越える。――前のコースからそうだったけれど、この養老山麓には涸れ谷がやたらと多い。伏流、とのことだけど。
そして伊勢街道沿いに建てられて隆盛を極めた多芸七坊、それを順に訪れる道を東海自然歩道は利用している。ただ、現代では人から忘れられて久しい道。歩いている人の姿は皆無。
――日吉神社に到着。この神社も小さな社だ。そのまま通過、静かな歩きが続く。
林間の道。相変わらず、山裾の平野部に出るか出ないか微妙なところを辿る道採りだ。次に勢至集落の分岐を見過ごすと、道は山の方角を向いた。
木階段を下りて行くと、砂利の林道。見晴らしの開けるところに出て、また濃尾平野の田園地帯を間近に眺める。
そして、道は上りとなる。
ひたすら高度を稼いで、着いたところが龍泉寺址。ただの小広場で、解説板が無ければ気付かず通り過ぎてしまうようなところだ。かつての栄華の面影は無し。時刻はPM1:59。
ここから、また平野部へ向けての下り。再び見晴らしが開け、今度は高度感のある眺めが得られる。
その後は一方的に下る……このあたり、道が荒れていて歩きにくい。
途中、左折点に立つ道標が根こそぎ折れて転がっていたりしたので、道が正しいかどうか不安を抱えつつ、進む。別の道標が現れてくれた時には、ホッと一息。
さらに下って行く。そして――ついに平野部。いきなり上方集落の住宅道に飛び出した。
この先は舗装道歩きか……と思ったら、すぐにダートの道に変わる。――その抜けた先に上方白鳥神社があった。上方集落の最奥部にある神社で、社は小さい。これまで通った神明神社、日吉神社と造りが似ている。
白鳥神社を後に、さらに北へ向かう。集落の外れからはちょっとした上りで、勾配は緩いのに足の疲労のためにペースが落ちる。午前中に山登りしたダメージは確実に効いている……。
でも、山裾歩きもそろそろ終盤のようだ。次の涸れ谷には解説板があって、養老山麓の扇状地にある谷について説明している。雨の日は土砂流に注意、とのこと。
桜井の集落の外れに飛び出す。車道を辿って、桜井白鳥神社に到着。PM2:24。
――ここでも既視感。養老山麓の神社は皆、同じような形をしているように感じてしまう。
ただ違うのは、この桜井の白鳥神社には「桜の香り」の泉がある。それは確かにあった。桜の香りは、ともかく。
さあ、時間も無くなってきた。関ヶ原まで急がないと。
これまでと同じような山裾の道へと復帰。涸れ谷を渡りながら北へ向かって進むという、お馴染みのパターン。
……いや、方角は北では無い。もう養老山地も北限に近づき、今は北西に向かって進むという形に変わってきている。
大きな涸れ谷を渡って右折、林道を手繰ると、本郷の集落が見えてきた。その向こう、左右に名神高速が渡っている。
その本郷の集落に入って民家の間の細道を進む。と、正面に大きな常夜灯が現れた。
常夜灯の先は田園地帯。まだ午後3時前と言うのに、日差しに赤味成分が多い。本当に、秋という季節は日が短くなるスピードが尋常では無い。ただ、今日は風は無いし暖かいしで、まるで秋では無いような気候でもあるのだけれど……。
また山道区間が現れた。本当に車道ベタ歩きということが無い。墓地を横目に通過すると、目の前には真泉寺。
真泉寺を過ぎて、林の中の地道を進む。途中、養老山地最高峰・笙ヶ岳への登山口が現れた。
――意味的には養老山地縦走路の入口、だろうか? 笙ヶ岳は今日の朝、養老山の山上から見てきたけれど、低山とは言え山らしい立派な山容だった。
そして養老山の稜線をさらに南へ下ると川原越……この道はそこまで繋がっている筈。
疲労の蓄積された足に鞭打ち、さらに進む。日の傾き具合が、気を焦らせる。関ヶ原までまだ10km近く残しているので、日没前には届かないことは確定。
闇の山道は歩きたくない。まだ明るさが残るうちに松尾山に着く、という目標に切り替える。いつもながら、悲しい借金生活。
と、川沿いの砂利道に出た。地図を確認すると、牧田川の支流だ。ということは、養老山地もここで終わり。
川沿いを進む。道は左に大きくカーブし、と、同時に開放的な空間に飛び出た。岐阜県の養老郡から大垣市へ――。
二車線の車道に当たった。結構交通量がある。県道56号だ。「上石津町」の標示もある。その向こうは牧田川。
キョロキョロと見回す。――あった。右に曲がって、県道を歩く。すぐに西沢田バス停。
時刻表を見る。日祝は2時間に1本のペースで大垣駅行きがある。ただ、17時前に運行は終わる。
現在の時刻は……PM3:08。
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