- 三重山中を彷徨う -
【踏 行 日】2006年3月中旬
【撮影機材】OLYMPUS E-1, ZD14-54F2.8-3.5, CASIO EX-P505
2006年3月中旬。
残念ながら天候がよろしくない。予報では回復傾向と出ているけれど、今日は山間部を歩くので期待は出来ない。ともあれ、今年の厳しい寒さも一段落、空気にもやや温かみが感じられるような気もする。春までもう少しか……。
大きな音を立てながら列車は走る。関西本線の非電化区間。
いよいよ、今日で関西脱出だ。
と言っても前回後半も滋賀・三重県境のコースであったので、「三重の山の中を歩くのは今日が初めて」と言うべきかも知れない。目指すは鈴鹿峠――三重側から、滋賀側に峠を越える。
柘植駅から出る。まずは駅から南へ進む、というほどにも進まずに分かれ道。もう、ここから東海自然歩道だ。
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二股の道。――右は山之辺コースの霊山方面。果たして将来、この向こうから自分が歩いてくる日があるのだろうか? けっこう微妙だと思っている。
そしてもう一方、線路沿いの道が今日歩いてゆく道。余野公園に至る山之辺コース最終区間だ。そちらに進む。時刻はAM8:22。
すぐに踏切が現われた。線路が5~6本走っている、広い踏切。
渡る。
山へと向かう道となる。前回歩いた道ではあるけれど、その時は真っ暗だったので景色にまったく見覚えは無い。
右側には田んぼが広がっている。この時期は何も植えられておらず、土がそのまま見えているのが少し物悲しい。
左には集落。すぐに尽きて、道もダートの車道へと変わる。
日が射し込んできた。一瞬、期待が高まったけれど、上空を見ると雲の方がはるかに勢力優勢。やっぱり、あまり期待はしないでおこう……。
工場プラントを過ぎて、砂利道の林道へ入っていく。地味で、いくぶん重苦しい雰囲気がある。前回の暗闇の道と、印象は大して変わらないかも知れない。
右に旗山登山道を分けて、さらに歩く。予想通り、陽射しはほとんど消えかかる。
突き当たった三叉路で左折。すると、すぐに東海自然歩道・本線コースとの分岐点だ。
それにしても……山之辺の道を目的に歩いている人は、このゴールに到着した時、どのように感じるだろう?
あまり長居せずに左折。林道余野線を真っ直ぐ進んでいく。さすがに前回よりは道の捗りは早い。明るいし、まだ身体も元気。
AM8:55、余野公園に到着。
公園、と言っても都会の公園と違うので、周辺の林との区別は付きにくい。とりあえず三叉路右側の道を採って、公園の入口に向かう。
3,000本のツツジが咲く関西隋一の公園も今はオフシーズン。広い駐車場に車の翳は無い。管理棟の近くにはトイレもある。水洗だけれど紙が無い。もっとも、水溶性ポケットティッシュを常時持参しているので、問題もないわけだけど。
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AM9:11、余野公園を出発。
ここから山之辺ルート分岐点までの歩きは、じつに1往復半目となる。さすがに景色も見慣れたもの、と言いたいところだけれど。正直言って、林の道は視覚変化が少なく、判別つかない。
でも距離感だけは、なんとなく把握出来ている。
そろそろか……と思ったら、分岐が見えた。本線・山辺支線の分岐点に到着、AM9:16。
何度見てもそこは何の変哲の無い、どこにでもあるような林道のT字路だった。――本当に、悲しくなるほど変哲が無い。
ここから初めて左の道、鈴鹿峠へ向かう本線ルートへと足を踏み入れる。感動で胸が高鳴る――わけでも無い。
針葉樹の林の車道を淡々と歩いていく。朝の散歩の果てしなき版。左に、シオノギ製薬の工場が建っている。
林が途切れ、空が見えた。そこは、道が一部膨らんでいる。そのガードレールに、手書きの「壬申の乱古戦場跡」の看板。
――ご先祖は、こんな狭っくるしいところで乱を起こしたのかと感心したけれど。そもそも時代は大昔、地勢も全然違っていたのだろうと思い直す。
奥余野公園到着、AM9:27。
まだ新しい公園。直進すると忍者岳、油日岳、三国岳の山頂とある。……忍者岳? その山名には、とても惹かれる。「おれニンジャダケに登ったぜ」なんて、後でネタになりそう。
でも、距離1kmとある。寄り道しいところだけれど……止めておく。なにしろ、まだ今日は始まったばかり。
右に曲がる道がゾロ峠へと至る道。
ゾロ峠へ向かう道に入る。
地面は砂利道から山道へと移り変わり、やがて沢沿いを伝いながら次第に高度を上げていくようになる。ついで、赤茶色の杉の朽ち葉を踏みしめながらの登りに。
当然ながら、まだ体力十分、さくさく上っていく。やがて幹が苔むしたブナも現われ……
ってこの高度でブナ? いや、根元にある標示板にも「ブナ」って書いてあるから、確かにブナだ。標高500mほどの高さでブナが見られるなんて、もしかしたら珍しい?
などと考えていると、前方に凹み地形が現われた。ゾロ峠だ。意外とあっさり到着した。時刻はAM9:55。
木立の中の峠――期待していた展望は無かった。
……それは悲しいので、左手尾根稜線に取り付き、より高みへと登っていく。踏み跡は明瞭では無いけれど、辿るに問題は無い。
と、木々の間から展望が開けた。もっとも、見えるのは経塚山ぐらいか。高度的には伊勢湾も見える筈なのだけど――今日の天候では、ちょっと無理そうだ。
引き返す。すぐにゾロ峠。
この峠に夜に来ると、戦国時代風の落武者達の亡霊がぞろぞろ歩いている光景を目にすることが出来る……
と、即興で作り話を拵えることも出来るゾロ峠。(名の本当の由来は……忘れました)
峠から東側へ下っていく。幾つもの丸太階段をこなして、高度が一気に落ちていく。
急下降区間が終わると、沢の傍の山道歩きになった。
……正直、路面の状態はよろしくない。常に落石の注意も必要な道だけれど、その分、山の空気が濃く感じられる。「深山の雰囲気がある」とさえ言って良いかも知れない。
これまで歩いた東海自然歩道のコースは――むかし歩いた丹沢区間を別にすると――せいぜい街のそばの低山、といったものばかりであった。なので、これほど山深い雰囲気を感じられる区間があったとは意外だ。さすが、三重県。(と言ったら誤解を生みそうだけど)
山の道は続く。
赤いツバキの咲く橋を渡って暫く進むと、不動の滝分岐に出た。道標によると、滝はここから0.1kmの寄り道らしい。もちろん、滝の方向に進む。道は少し細い。
すぐに加太不動の滝に到着、AM10:46。
――狭い空間に轟々と音を立てて水が流れ落ちている。たでも、この滝は確か二筋の筈なのに、1本はほとんど水量が無いせいで普通の滝になってしまっている。いったい、どうしてしまったのだろう?
などと思っていると、空から白い粒が降ってきた。アラレだ。白い粒は狭い岩間に散らばっていく。
コースに戻る。……さすがに肌寒さを感じるようになった。そのまま歩いていくと、林道終点に出た。小広い空き地。東海自然歩道案内板が立っていたけれど、総距離1,370kmバージョンと、ちょっと古いもの。
ダートの林道を下る。アラレはいつの間にか止んでいた。
すぐに「バンドウ山10.8km」の道標を捉え、そちらに左折。比較的状態の良い細い林道を伝いつつ、再び高度を上げていく。
……ところで、バンドウ山って何だ?
日が再び照ってきた。こうなるともう、鼻歌交じりの木漏れ日ハイクといった感じだ。気分が軽くなる。
やがて道は沢を離れ、林の中を峠へと登っていくようになる。今日、2つ目の峠へ向かって……。
西島越――標高は450mほど。いくぶん眺望があるものの、空はどうしようもない曇天に戻ってしまっている。うーん、晴れ間は長くは続かないか。
その先にあったのは、今にも崩れそうな赤土の地道。崩落の痕のようにデコボコしており、コース不良と言ってしまって良いかもしれない。
スリップしないよう注意深く下っていくと、再び深い林の中へと入っていった。
あとは山道を淡々と下っていく。
林道板屋線に入り、道幅が車の通れるくらいになった。右には出雲谷川。
林道のT字路に出た。道標を確認して右折。そこで、小雪が舞い始めた……と思うが早いか、みるみるうちに本降りに。ザックから雨具を出すべきかどうか迷っていると、今度は唐突に収まった。
――まさしく、山の天候。ちょっと懐かしくもある。
思い出したかのように、また日が照り始める。そんな中、鎖が渡された車止めを越えると舗装道に飛び出た。時刻はAM12:09。
道標に従って左折、林道を北東に向かって歩いていく。右に大きくカーブを切り始めた地点で左折、舗装道から離れる。この分岐には切り株作りのユニークな道標が立っているので、見逃すことは無い。
深い林の中を蛇谷川沿いに道は続いていく。荒れやすい沢沿いの道であるけれど状態は良く、何箇所かの沢を渡る橋もきちんと整備されている。上り勾配もたいしたことなく、このまま山歩きが終わるのかなあ、と思っていたら……
いきなり道標が沢の向こうを指し示している。そっちには丸太階段。地図を見ると、どうやらコースは沢から離れ、尾根稜線に取り付くようだ。
――これまで沢を上り詰める峠道が続いただけに、尾根道には期待が出来る。勾配は厳しいかも知れないけれど。
さもありなん、木の階段が延々と続いていた。うへぇ、という感じだ。林の中、そこを息を切らせながら登っていく。
ただ、それでも頑張って足を運んでいると、景色も尾根らしくなってきた。周囲の樹林も途切れがちに。高度400mの山稜線へ登る道――
そして鉄塔の立つ場所に出た。ここは結構な展望地だ、と期待したものの。
周囲の山はもっと高いため、大パノラマが開けるわけでもなかった。それに雲が多い。那須ヶ原山~高畑山への見晴らしも雲の中だ。北側に、隣を併走する尾根稜線が見える程度。
鉄塔を過ぎるとアップダウンは落ち着かなくなる。
ちなみに、「アップダウンがある」という言葉を思い浮かべた途端、ビリー・ジョエルの「UPTOWN GIRL」が頭の中で鳴り響き始める、という病気はまだ完治していない。何も考えずに山道を歩いていると音楽が頭の中で回り始めるのはよくある事だけど、曲のテンポが歩行テンポと合っていないと少し気持ち悪いことになる。
――山歩きには、アイドル歌謡が意外と合う(なんて言ってみたり)。
稜線上を鋭角に曲がって、休憩ベンチを過ぎると道は下り一方になる。さらに木々の合い間に真っ青な青空が覗き、日も射し込んできた。そろそろ天候回復を信じて良いだろうか?
……いやいや、まだ信じられない。最後に急な階段を下っていく。と、舗装された林道が眼下に現われた。
舗装道へ合流。地図をあらためると、「牛谷越」とある。時刻はPM1:14。
南は加太駅へ2.5km、北はバンドウ山へ1.5kmとなる地点とのこと。もちろん、進むべき道は北。駅に向かう道はエスケープルートだ。
天候は回復、濡れたアスファルトも乾き始めている。いや、もうこれはさすがに天候回復でしょう! と、気分良く車道を歩いていく。そして、美林で知られる諸戸の山林はこのあたりかなあ、などと考えてると……
大雪! 大量の降雪が視界を一気に白く染め上げた。だから山の気候は油断ならないんだ……。
まがき橋まで来ると道標からバンドウ山の名は消えた。と言うことは、バンドウ山というのは道の左手にある小山のことなのだろうか? 登山道があるかも知れない、と辺りをキョロキョロ見回す。……ありそうも無い。
やがて雪は降ってきた時と同じように、唐突に止んだ。
――まがき橋の向こうには製材所。その前を右折して、人里に向かう道を採る。
茶畑なども現れ、ようやく人の住まう領域に戻ってきたことを実感する。
そして、上空には青空が広がっていた。今日の天候は良く分からない。
中津川と一緒に下っていく。
やがて、やけに交通量の多い二車線車道にぶつかった。そう、この東海自然歩道と同じく、東京から大阪へとはるばる続く車道――国道1号だ。
同じ東海道でも、あちらは車の走る道、こちらは人が歩く道。時刻はPM1:55。
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