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再びコースに引き戻る。
時間切れでエスケープするなら上磯尾バス停だけれど、今日は土曜なのでバスは運休。だから、コースの最後まで歩き抜けないといけない――という状況は山歩きと似ている。ただ、こっちはいざとなればタクシーが呼べるのだけど。
明王寺前の道からダート道へ入って東へ。林の中を抜けていく。
0.4kmほどで細い車道に当たる。県道133号だ。今度は右、南へ。
竹林が少しあって、あとは濃い植樹帯。伝っていくと別の車道にぶつかった。そこには――
「三重県 伊賀市」の標示。振り向くと「滋賀県 甲賀市」の標示。そう、伊賀・甲賀の境だ。
と言っても、眼前には忍者の里などまるで無関係な光景が展開されている。工事車両が並び、道路のアスファルトが引っぺがされている。そして、おそらく東海自然歩道なのだろう、道路を跨いだ正面には設営中の階段。足元には、またしても「東海自然歩道迂回路←」の標示。
迂回路――滋賀県側の車道を下りていく。三重県に入るのは次の機会待ちだ。
すぐに「東海自然歩道迂回路→」の標示。そちらに曲がる。
広大な空間。緩やかな斜面に植樹されたばかりの木々。その間を公園風に歩道が横切っていく。眼下には大きな工場風の建物――いったい、何なのだろう? 建物には「エコパレット滋賀」と書いてあるけれど……。
その向こう、綿向山、雨乞山、御在所山の雪を被った峰が綺麗に3つ並んで聳えていた。
建物を見ながら樹林帯に突入する。かなり日が傾いているのが分かり、少し焦りを感じる。結構、距離を残している筈だ。
ちなみに、今回も持参した地図は10万分の1道路地図。東海自然歩道らしき道筋に鉛筆でチェックを付けているのは、前回と変わらない。さすがに、ちゃんとしたガイド本を買おうと思う……この先も歩くと決まったらの話。
広域農道に飛び出した。コースは道を横断してさらに向こうに続いていく。
そちらに進んでいくと、木々が切れて茶枯れた田園地帯の風景が広がった。野川という地区らしい。畦道を細かく伝っていく。
――このあたり、道は細かいけれども道標は完璧。滋賀県は結構、きっちりとした仕事をする。道標そのものは古いけれど。
やがて棚田脇の道を緩やかに上り詰めていくようになる。上り切った先は――先ほどの広域農道だった。ここからは車道そのものを歩くらしい。
と言っても、少し進んだだけで右側に道標。伊勢廻寺路傍休憩地だ。
入り込むと、木造だけれど大きな公衆トイレ、そして寺の境内の木陰にベンチ。まさしく休憩に最適。PM3:20。
東海自然歩道「甲南コース」案内板が立っている。東海自然歩道は赤い線で示されているのだけど、気になるのは「県道甲賀・阿山線」も赤く示されていて、その横に「東海自然歩道」の文字もくっ付いていることだ。
――この先、三重県境からJR甲賀駅まで、コース上と言うことだろうか? 前、音羽山稜線を岩間山方面に突っ走った時も「東海自然歩道」の道標があったし、本当に本線は一本の線なのだろうか?
うーん、ちゃんと本やネットで調べないといけないな。そろそろ。
伊勢廻寺解説板がある。木造十一面観音像が国指定の重文になっているとのこと。
伊勢廻寺境内の雰囲気は落ち着いていて、心地良い。長居がしたくなるところだけど、そう言ってもいられない。
今日の朝があまり早くなかったことを今になって後悔。あと2時間は早発ち出来たはずだったのに……。
結局、滞留時間4分ほどで、今度は正面の山門から出て行く。
広域農道を横断。右に曲がって――
もう一度、広域農道を横断。野川の集落に入る。路地を進んでいくものの、ほどなく県道775号に出されてしまう。滋賀・三重県境越えの道だ。
思いの外、交通量が多い。キョロキョロと周りを見回す。残念ながら、傍道の様なものは見当たらない。このまま県道を歩いていくしか無さそうだ。
県道を歩いていく。
緩やかな上り坂。大型車の通過のたび、ビクビクする。峠へ向かう道、車は歩行者がいるからといってスピードを落としてくれたりなんかしない。せめて車道と歩行路が区切られていればなあ。
そして、滋賀・三重県境に到達。
と言っても県境は今日二回目だ。さらに、この後も三重県内というわけではなくて、県境あたりをうろうろしながら東に向かうことになる。
滋賀・三重県境って言うと鈴鹿山地のイメージがあるけれど、そこはもっと先。このあたりは標高200~300mの丘陵地帯が県境を成している。東海自然歩道もその上を通っていく。
――という能書きはさておき、とにかく三重県だ。大阪、京都、滋賀と歩いてきて4つ目。ずいぶん遠くまで来たものだ。もはや、関西ですらない。
と、ちょっとだけ感慨に浸りながら三重県側の車道を下っていく。ほどなく左に山道の入り口が現われた。
三重県の指導標が……白い。
確かに、白地に黒文字は目に優しい組み合わせだ。森の中でも目立つ――目立つのが良いのか、背景に溶け込むのが良いのかは議論のあるところだと思うけど。
落ち葉を踏み締めながら歩く。少なくとも、三重県の初っ端の印象は悪くは無い。このまま自然多き道でありますように……。
伊賀忍者が駆け抜けた道、と言いつつ注意喚起の標示板。
そこまで言われたら駆け出さずにはいられない。――烈風のごとく、駆け抜ける(うそ)。
車道に出た。指導標に従って左折、少し進むと――交差点。二車線道が左右に渡る。道標は、無い。
粗い地図しかないと、こういう時に困る。実際、二万五千分の一の地図があっても迷うところかも知れないけれど。コンパスも取り出し、方角は定める。
いや、待てよ……道を引き戻ってみる。果たして、車道の途中から山道が付いていた。
そちらに入ると、すぐに件の二車線道に合流、暫く車道歩きとなる。
決して道標が少ないわけじゃないのだけれど、三重県側は確かに迷いやすいように感じる。交差する道が多いからだと思うのだけれど。
車道の左側に道標と共にコースの入口があった。そちらに進むと、再び林の中の地道歩きに。
下生えのシダに西日が当たっている。日没の時刻も近付いている。さすがに、気温も下がってきているよう。
――柘植駅までまだ8km以上残している。だけど、余野公園までは5kmほどだ。なんとか1時間でそこまで辿り着きたいものだ。
目安にすべきポイントが少ないせいで、歩くのにも飽きてきた。
集落の裏に飛び出る。
すぐに、天神社。ふつうの集落付き神社だ。ここまで、生玉神社とか手刀神社とか、寄り道が必要な寺社はすべてすっ飛ばして来た。特に案内も無かったようだし。
ところで、ここは東出という地区らしい。細い路地を辿って下りていくと、県道51号に合流。また、暫く車道歩きらしい。
夕陽の当たる東出の集落を見ながら車道を歩いていく。今日の日の光はどうももう、最後のような感じだ。冬なので、日が無くなると一気に寒くなる筈。
トコトコと車道を歩いていく。前方に、滋賀県甲賀市の標示。また出戻るのか……と思ったら、その右側に山道の入口があった。コースはあくまでも県境を突き進むように設定されているようだ。
県境の稜線を歩いていく。
例によって、アップダウンはほとんど無い。山道、というより地元のちょっとした裏山散歩道、といったところかも知れない。このような道が残っていること自体、良いことだと思うことにしよう。――特に、見るべきものがないとしても。
そして、車道に下りる。ゴルフ場へ向かう道、ということで少し雰囲気が違うような気もする。
そして、コース入り口は右側にあった。地道を上っていくと、ゴルフコースの緑の芝生が樹間から望まれる道。さすがにこの時間帯では、もうプレーしている人の姿は見られない。
――ここは距離を稼ぐところだ。せっせ、せっせと歩く。
暫く歩いていくと、ようやくゴルフ場の敷地を抜けたようだ。その代わり、完全に日も沈んだ。南側には車道も伸びていくけれど、東海自然歩道はあくまで東進。
砂利の車道に上がる。少し進むと、アスファルトの車道に。正面、林の上に頭だけ除く緑色の峰――鈴鹿山脈最南端の山稜線だろう。
それを見ると……やっぱり、丘の上を上ったり下りたりばかりで、山に登っていかない今日のコースは欲求不満に感じる。自分にはあまり向いていないかも知れない、なんて思う。
線路に当たった。JR草津線の線路。
その向こうに今日の目的地、余野公園の入り口が見えている。これは、おあずけパターン! 線路一本跨げば直ぐなのに、それを見透かすかのような立入禁止の看板。
ちょうど、クリーム色の列車がやってきて轟音を立てて目の前を走り抜けて行った。……もちろん、ここは渡れない。車道を南に向かって進む。
0.3kmほど進んで県道4号の下を潜る。そして、その県道に上がる。この道でJR草津線を越す。
右側、車道の隅に「東海自然歩道」の文字。階段を下りていくと、余野公園だ。東海自然歩道のコース案内板が――三重県に入って初めてじゃないだろうか――立っている。しごくシンプルなマップで、「約1,300キロ」と書いてある。
ただ、なんと言っても、その向こうにあるクロガネの物体――蒸気機関車が目を引く。
最初は模型か何かだと思った。近付いていって、これはホンモノと分かる。D51。こんなところに保管されている。
もちろん、蒸気機関車なんて乗ったことは無いけれど、銀河鉄道999なら知っている(笑)
――ちなみに999はD51じゃなくて、C62だそうだけど。
黒光りする鉄の固まりの美しさとは――。
残念ながら自分は“鉄”の人間では無いのでよく分からない。それでも、改めて今実物を見ると、その色艶には惹かれるものがある。保存状態が良いのが素晴らしい。
と、こんなところでノウノウとしてもいられないのだった。時刻を確認すると……PM5:41。黄昏時も過ぎて、今では闇があたりに忍び込もうとしている。
これはやばい。
とりあえず、公園入り口に出てみる。線路の向こうから見えた入口だ。自販機があって、ようやく飲み物購入。
――もし、今日のコースを暑い時に歩いたとしたら、あまりにも途中飲み物補給が出来ずに、ギブ・アップしたかも知れない。たまたま冬に歩いたことはラッキーだったかも知れない。
ただ、余野公園は関西随一のツツジの名所。5月に来てみたかったのも確かだ。なので、名残惜しむように、遊歩道も軽く回ってみる――時間が無いというのに!
さあ、満足した。今日の目的地はここだけど……帰宅できなくなっては意味が無い。支線コースとの分岐まで進んで、柘植駅に向かうことにする。
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先のコースへ進む→ |
公園再奥部から、暗闇の3.1km向こうにある柘植駅へ向けて出発する。時刻は午後6時を過ぎてしまっている。
左右は林。ヘッドランプの照らし出す光円が左右に揺れ、頼りない。そして、舗装道を0.6kmほど進んだ地点にそれはあった。三方向の指導標――東海自然歩道本線・支線分岐だ。
ライトを巡らしたけれど、それ以上のものはありそうも無い。
南――柘植駅に針路を取ると、ダートの道に変わる。ちゃんと道は繋がってくれているだろうか、と不安になる。
暗闇の中、トボトボと歩く。今日は何か煮え切らない歩きで、ある意味予想通り。これまで山歩きを主体にしてきて、いきなり長距離自然歩道にシフトしたところで同じように楽しめるわけは無いけれど。
アプローチ道が永遠に続いていく感覚。目的地には何時になっても辿り着けず、欲求不満が募っていくような歩き。今日のコースのピークは展望地が当たるのだろうけど……それも標高で言ったら何も無かった「つめた林道」が上だ。もっとも、それにしたって標高は400mを越える程度。
この先はどうしようか? 止めちゃうかも知れない。
街灯が現われ、民家が現れ、踏み切りに行き当たった。
渡る。右には柘植駅の明かり。
線路に沿って北上する。すぐに柘植駅に到着。駅前に迎えの車が何台か停まっている。時刻は、PM6:50。
今日の歩きはこれにて終了だ。温かい缶コンポタージュでも飲んで、帰宅の途につくとしよう。