- かつて忍者の駆けた道 -
【踏 行 日】2006年2月下旬
【撮影機材】OLYMPUS E-1, ZD14-54F2.8-3.5, ZD50-200F2.8-3.5, CASIO EX-P505
初めて「東海自然歩道を歩こう」と思った。
もちろん、今までも多少歩いてはいる。いちおう、箕面~嵐山、比叡山~石山寺~紫香楽宮跡が踏破済み。けれど、それは「比叡山を歩きたい」とか「湖南の山にでも登ってみようか」だとかいう目的が先にあって、手段としてそこにあった"東海自然歩道"を使っただけであった。
今日のコースは――山も無い、観光地も無い、だから逆にこの自然歩道のピュアなものが見えてくるんじゃないかと。だから歩いてみようかな、と思った。もし、自分にとって具合が良かったら、この長距離自然歩道のこの先も歩いてみようか、と。そういう判断に使おうと考えた。
そんな気構えで信楽高原鉄道に乗り込むと、車内には何故か、幾つか座席を潰して梅の盆栽が並んでいた……。
今年の冬は寒い。梅も、まだ花を付けていない。乗客は結構多く、座席は半分近く埋まっている。まだ蕾の梅に興味のある人はいなさそうだ。ちょっと、微妙な空気感。
とは言え、梅盆列車の走行自体は快調。ローカル色濃い車窓風景。
紫香楽宮跡駅に着いて、一人、列車を下りる。駅の砂利の広場の前。国道307号が左右に走っている。
東海自然歩道はこの駅の北端を通っている。ここから歩き始めても良いのだけど……。
ただ、前回、紫香楽宮跡に着いた時刻が遅く、夕闇の中でほとんど何も見えていなかった。なので今回、糊しろという意味で紫香楽宮跡まで戻って歩き直すことにする。
――国道を渡って住宅街に入り、暫し西に進むと、すぐにそれは見えてきた。
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AM11:19、紫香楽宮跡。
もう少し早く着きたかったところだけど。季節は冬真っ只中、よく晴れているので寒さはさほど感じない。
早速、紫香楽宮跡を歩き抜ける。前回も同じルートで歩いたけれど、その時はほとんど暗闇の中。
今日は冬の明るい日差しの下。それでも、やっぱりあっと言う間だった。そう見るべきものが多いわけじゃない。
笹の道を抜ければ北出口。回り込むように車道へ。
車道を少しだけ南下した後、「不動寺」の標示を捉えてダートの道に入る。
その不動寺はすぐ左。ただ、寄り道せずに真っ直ぐ進む。やがて左右が樹林となる。
と、二車線車道に飛び出す。国道307号だ。
交通量のある国道を歩く。歩行スペースが乏しいので、車が来ると体が避け気味になってしまう。やっぱり歩行不適だよなあ、と思っていると……。
右に脇道が現われた。道標もそちらを示している。前回は暗くて気付かなかった。そちらに入り込む。
集落の道を進む――というほどにも距離は無く、紫香楽宮跡駅に再び到着。AM11:36。
地図によると高度は284mとのこと。今度こそ、駅北端の踏切を横断、早速、山道だ。すぐに丸太階段の登りに変わる。周囲は雑木林。
東海自然歩道は高度を上げていく。体を温めようと、自分も頑張って登っていく。
展望が開けてきて、思いのほかハイクじみてきた。右側にも併走する山稜線があって、山深さを演出している。
――背後には小さくなっていく黄瀬の集落、そして紫香楽宮跡の森。
気分爽快。冬の日溜りハイクとしては申し分の無い気候・コースだ。単純な冬枯れではなく、松の木の緑があるかどうかで、稜線道の印象は結構変わるなあと思う。
で、一瞬で歩き抜けてしまうのも勿体無いので、工事真っ最中の新名神高速の見下ろせるところで小休止。
その新名神は――開通が近いのだろうか、土曜にも拘わらず工事が続けられていて、人が細々と動き回っている。自然歩道から見下ろすものとしては、あまり相応しくないような光景……。
まあ、開通してしまえば高速道路なんて見慣れたもの。高速道を走る豆粒のような自動車なんて、川の流れと同じようなもの。
登りは一段落、アップダウンを穏やかに繰り返す。道の上では、越冬中の蝶が日光浴中。
――このような山道が続くようであるなら、長距離自然歩道も悪くは無いな、と思う。コースの先、有名な山に繋がっているわけでもない、自然公園の類があるわけでもない、ただ、そこにある山道。それを伝って遠くの地まで身体を運ぶという行為が“トレッキング”っぽい。今までの道のりには、林道とか住宅地とかそんなものが多かったけれど、本来の東海自然歩道というのはあくまでこっちじゃないか、と。そう感じる。
早くも正午を過ぎてしまった。道標が左折を指示して、稜線歩きもここまで。
丸太階段を伝って急速に高度を下げていく。正面、新名神高速道の橋桁。
――下り立ったところはその脚の真下だった。脇には「東海自然歩道迂回路」の標示。
迂回路?
迂回路と言うより、仮設路のように思える。赤土の更地の上を、青いコーンで隔てられた道筋がジグザグに伸びていく。東海自然歩道歩行者に対する気遣いは十分に感じられるけれど……。
見上げると、新名阪高速道の巨大な橋桁。今後、東海自然歩道ウォーカーがずっとお付き合いしていくことになる光景だ。――圧し掛かられるような、圧迫感。
ここに自然歩道が「人工的に」設営されるのだろうと思うと、残念な気持ちになる。紫香楽宮跡からここまでの道の雰囲気を考えるに、工事の始まる前までは、隼人川の渓流に沿った自然の溢れる歩道が続いていたことは容易に想像できる。少なくとも、それは失われてしまって、もう二度とは戻ってこないのだ。
そして今、眼前には付け替えられた隼人川――緑は無く、川筋は直線的で、石積みで護岸されたその姿は都会で見る河川のよう。流れの先には、国道307号と信楽高原鉄道の小さな橋が渡っている。
仮設路は、隼人川をいったん渡るものの、鉄パイプで組み上げられた仮設橋でまたすぐ左岸に戻る。
ここから先はまだ未完成の川岸遊歩道。右側が植樹されたばかりの土斜面で、その上が高速道だ。
と、少し先に説明板が立っていた。「東海自然歩道――川のせせらぎを聞きながら森の中をゆく。時に足を休め川辺にたたずむ。東海自然歩道を付け替えるにあたり、私たちはそこを歩くハイカーの視点に立って考えました」
言い訳って、必要だろうか?
右手斜面に階段があった。しめた、立入禁止標示が無い! 上っていって、未完成の高速道に出る。
誰もいない、何も動いていない。白い大地に説明板が並んでいる。「自生種による緑化」「貴重植物の保全」「自然斜面の復元」「伐採した根株や枝葉のリサイクル」等々。
歩道に引き返しトコトコ歩いていく。日当たりが良い……良過ぎるくらい。
あれが隼人橋だろうか? 二車線車道にぶつかって右折、山に向かっていく。物凄く綺麗な車道だなあ……と思っていたらプッツリと途切れた。その先は土と砂利の道。
何も無い“つめた林道”歩き。左右は木立で、視界も窮屈。勾配があり、峠へ向かっているのは感じる。
――考えてみると、新名神高速の開通自体は歓迎だ。
名古屋をパスして大阪に向かうのに使っていた名阪国道より、距離が近くなる。ドライバーの視点では、そう。
環境には最大限の配慮と説明。それも納得出来るところなのだけど、いったいこの残念感は何なのだろう? ――とそんなことを思っていると道は下り勾配に。峠を越えたらしい。
やがて舗装道に突き当たった。一方的に下っていくと周囲は植樹帯に。
雰囲気が変わる。山間の、のどかな田園風景。新田の集落だ。
右折してつめた谷川を渡ると、集落の中。とは言え、家々が分散していて空間は広い。
――やっぱり、このような集落歩きがイマイチ慣れない。今日の序盤はハイクっぽい良コースだったのに、次の、つめた林道は退屈。そして煮え切らないまま人里に戻ってきてしまっている。
あずま屋があったので、せっかくなので休憩。PM1:13。
――で、ここから先も岩尾山に登るでもなく、幾つか里を繋げながらの歩き。大阪コースもそんな感じだった。と言っても大阪に比べると遥かに地方に来ていることは、バス停の時刻表を見ても分かるけど……。
あまり休んでいても逆に身体が冷えるので、早々に出発。
新名神高速でのコース付け替えを見て、ちょっと不安になっている。仮に、東海自然歩道にとって30年という年月がダテでは無く、現在の姿は設営当時の魅力の半分も残していないとしたらどうだろう? 今でもそこを歩く価値はあるのか?
もし本当にここが昭和時代の残滓でしかなく、環境省と役所が予算確保のためにおざなりに維持し続けているだけの道、とするなら、歩くモチベーションは一気に下がるだろうと思う。実際のところ、昭和年代に歩いたことが無いので本当のことは分からないし、今の東海自然歩道は今の姿以外にはありえないのだから……。
結局のところ、歩いてみて純粋に何を感じるか、だろうとは思う。
田園風景も次第に絞られ、ついに両脇が山際となって消えると、次の瞬間には水面が広がっていた。岩尾池だ。
「岩尾キャンプ場コース」とある。確かに、お弁当には良さそうだ。
――ただ、今日の昼飯もコンビニ御握りとパン。山登りと違って、日帰りトレッキングでは限られた時間で距離をこなさないといけないので、どうしても行動食中心になってしまう。
それも長距離自然歩道歩きの残念なところの1つ。もっとも、途中に店なんかが出現して好きな物が買える、というメリットもあるけど、自然歩道でそれってどうなの?っていう……。
岩尾池の東岸を歩いていく。池面がキラキラと輝いていて綺麗。トンネルを1つ潜ると――
木陰の心地良い地道となった。このあたりは東海自然歩道の昔ながらの雰囲気を残している、と言ったところなのだろうか?
その先に東海自然歩道のコース案内板が立っていた。「甲南コース」と銘打たれていて、岩尾池~伊勢廻寺が紹介されている。この先の展望地からは“甲賀郡”の大半が望める、とも。
――ちなみに、甲賀郡はもう無い。平成の大合併で、甲賀市になっている。
次には、大沢池に当たったもののすぐに離れて、いよいよ展望地に向かう上りの道に。
……上り、と言っても高低差100mほどで大したことは無い。道も十分に幅があって、サクサクと登れる。
稜線上で90°転回すると、すぐに展望地。PM1:53。
小狭い広場だ。ここにもコース案内板が立っていて――内容は大沢池に立っていたそれと全く一緒だった。
他にあるものは、「甲賀の展望」「甲賀流忍術」2つの解説板、それと、字がほとんど消えている展望絵図。
肝心の展望は、なんとか一方向に残っている。北東方面だ。
手前には磯尾の集落群。
少し視線を上げると、横に長い盆地状となった平地。これが「甲賀の里を一望」なのだろう。もし本当に甲賀が忍者の里であるのなら、もう少し隠れ里っぽいところにあって欲しいけれど。
そしてそれより遠方には、鈴鹿山地の稜線が綺麗に眺められる。前回は太神山から琵琶湖南岸を眺めていたけれど、今日は早くも紀伊半島の東、南北に連なる鈴鹿山地を目の前にしている。
あの山稜線の上からは富士山だって見える――意外と近いんだな、という感覚。
展望地を後に、山を下りていく。
階段を下り切って右折。左にチラチラと昭和池が見えるものの、木立が邪魔。池の端まで進んで、ちょっと寄り道、しっかり見納めておく。
ここから先は車道。ダートの道を辿っていく。樹林帯で、特にみるべきものは無い。
再び池が見えてきた。見通しも良くなり、田園風景が戻ってくる。
棚田を縫うように下っていき、道標を捉えて右折、集落の外れに出た。上磯尾集落だ。
集落を突き抜け、県道49号を渡ると早くも集落のもう一方の外れ。
さらに進むと……畦道となった。
本当にこっちでいいの?と思ったものの、行く先には道標が立っている。山間の田園風景。冬なので黄色い景色――やけに明るく感じる。
畦道を抜けて車道に戻る。もう一回右折すると、道が二股に分かれていた。左の上り坂が明王寺参道。
ここは真っ直ぐ進み、駐車場のあるお寺の正面に至る。ここに、三方向の指導標。
「明王寺」と示される方角に進む。ちょっとした庭園を横切り、階段を上がると、山里の静かなお寺に到着。時刻はPM2:37。
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