- 秋が彩る"京”の山辺 -
【踏 行 日】2007年12月上旬
【撮影機材】OLYMPUS E-410, ZD14-54F2.8-3.5, ZD50-200F2.8-3.5, CASIO EX-P505
JR京都線・摂津富田駅から南口に下りて、途中にコンビニもある大通りを真っ直ぐ5分も歩けば阪急富田駅。
ホームに上がると、日曜の朝6時前とあって、電車待ちは数人。ところが、ホームに滑り込んできた各停列車は案外混んでいて、空き席もポツポツとしかない。みな早起き京都観光組、ともとても思えない。
――2007年の冬、12月の頭。ちなみに今年の紅葉は10日遅れという。つまり、今が京都は紅葉の見頃というわけだ。たとえそうであっても京都観光客は12月に入ったとたんガタ減りするという話なので、今日はかなり美味いところを突けると思っている。好天も約束されているし、言うこと無しだ。
用事が入らなくて、ほんと良かった。
富田駅から23分ほどで桂駅に到着、ここで乗り換え。とたんに、乗客はガタ減りして、車両あたり数人、という按配になる。まあ、そうだろう。
桂駅からは阪急嵐山線に乗り換え。空はまだ群青色……ここで、ちょっと考え込んでしまう。このままだと嵐山に着くのは夜明け前だ。少し早すぎる。
頭を巡らし、急遽、1駅手前の松尾駅で下りることにした。時間調整策。
空がだんだんと白んでくる。
桂駅を発って僅か5分で電車は松尾駅のホームに滑り込む。
駅の外へ出た。すでにここは東海自然歩道のコース上。桂川に架かる松尾大橋手前で左折して川沿いに北へ向かうのが東海自然歩道の本線で、既に2度ほど歩いたことがある。
――今日は別のルートで嵐山に向かう。じつは、松尾~嵐山は東海自然歩道の複線区間。片方のルートをまだ歩いたことが無かったのだ。公式の東海自然歩道コース案内マップを片手に、もう一方のルートを探る。ただ、夜明けはまだ先。あまり急いてもいけない。
ちなみに今回は、鞍馬より先まで歩くことを考えている。前回は京都観光の1コースを歩くという意識だったのだけど、今回は「東海自然歩道36区間の1つの踏破」という位置付け。
アップダウンは大したこと無いけれど距離は長い。日の短い季節。ある意味、タイムトライアル。
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晩秋の京都松尾、AM6:25。
線路を渡り橋手前で左折、というのが本ルート。駅前の交差点に立つ案内板にもそう書いてある。一方、支線ルートを示すものは何もない。手元の公式マップに赤い線の記載があるのみ。
もっとも、そのマップもまだ桂坂新コースの記載が無い時代のもの。とりあえず地図に従い府道29号を北進、見当を付けて左折、松尾の住宅街を進む。道標は見当たらない。
突き当たって左折。松尾大社に着く。
境内を抜ける。最近は京都の寺社の多くが拝観料を取るようになったけど、それは早朝訪問者には辛い仕打ち。がっちりと門が閉ざされ、門前払い。
その点、松尾大社は良い。未明の寺社の境内に満ちる、厳かな雰囲気。この時間帯を隠しておく手は無い。
松尾大社を後にする。
山際を縫うように伸びる車道を北へ。両脇は住宅街。川べりコースと違って開放感は無いけれど、左手の高台にいくつか貼り付いている寺社に上ると京都市街が窮屈に眺められる。
やがて府道29号と合流、左には法輪寺。
立派な山門も建っている。様子見に、とひょいと潜ってみると、その先には紅葉に覆い隠されるように上へ伸びている石段の参道……これではもう、後に引けない。
参道を上る。ふと、階段の途中から右の駐車場に面した細い路地に入る。そちらに光が当たっているのが見えたからだ。
誘われるように進む。そこで目にしたものは――京都市街への大きな展望と――今日最初の太陽。
戻って、階段を上りきると法輪寺の小狭い境内。
――誰もいない。本堂と塔がきれいに収まっている。その向こうは嵐山。
その反対側は大展望。手前にある駐車場が邪魔だけど、京都盆地をぐるりと指で辿れてしまう。比叡山から音羽山へと続く東海自然歩道も。
しばし時間が潰れる。
車道に戻る。すぐに渡月小橋。その先、もう1つ見える橋が渡月橋だ。その手前で右手からやってくる東海自然歩道本コースと合流。
まだ朝の7時過ぎだけど、嵐山公園中ノ島地区には人もパラパラといる。車も時折走る。
……朝陽が射し込んで来た。
――渡る。
渡月橋を渡る。人出はごく少なく、何人かは好きなところで立ち止まって写真を撮ったりなどしている。これが昼間だとそうはいかない。
これまで長々と東海自然歩道を歩いて来て感じるのは、東京側から歩いている人にとっては、この渡月橋は1つの終着点なんじゃないかということ――確かに、自然を愛する歩道のクライマックスで見る光景が人の波、というのもとんでもない逆説だけど、それはそれ、自然と道の調和するところには人が自然に集まるのだ、と言い換えれば無理は無い。
嵯峨嵐山の道。それを、薄く薄く引き延ばしたものが東海自然歩道。そんな捉え方も出来そうな気がする。
渡り切って左折、大堰川沿いを朝陽を背に歩く。前を向けば赤みの強い順光、振り向けば強烈な逆光。
三脚を立てたカメラマンたちも繰り出している。
早くも後悔。
秋の盛り。朝陽の逆光。嵯峨野・嵐山。……超強力な三点セット。
この地を一瞬で通過しなければならない、この身の不運を呪う。誰だ、こんな、せせこましい計画を立てたのは!
嵐山公園・亀山地区への石段を上る。
公園に入ると、雰囲気のあまりの素晴らしさにコースを外れ小さく巡回。まったく、どこもかしこも絵になっていやがる……。
そんなわけで、思い思いの場所で三脚を構え撮影に集中しているカメラマンが見られる。――あなたたちは勝ち組だ。この時間帯の嵐山の空気感を、余すところ無く汲み取っていってほしい。
竹林の道へ。光が射し込まず、暗い。
鉄道線を跨ぎ、まだ開門前のトロッコ嵐山駅を後にすると、再び朝日の当たる明るい世界に復帰。散歩をする人の姿も目立ってきた。
残念なのは、この車一台通るのがやっとの道に車が入り込んでくること。
常寂光寺の入り口。拝観料を取る寺社で、この時間ではまだ閉まっている。右折。
すぐに左折して針路を北へ直す。畑の向こうには、落柿舎の藁葺き屋根が見えている。脇の柿の木に実がたわわ。
細く薄暗い路地を抜けると自販機の並ぶ三叉路に突き当たる。その少し手前には立派な二尊院の総門。固く閉ざされている。愛宕山を示す石碑に従って左折、府道50号に入る。
人の姿がふたたび疎らになる。茶屋や土産物屋・民家の立ち並ぶ落ち着いた路地。雑然さが無く、統一された町並みが気持ちいい。
ただ、電信柱と電線は別。……全部地面に埋め込んでしまえば良いのに。
あだし野念仏寺の前を過ぎると寂しくなってくる。嵐山高雄パークウェイの高架をくぐると、もう先は僅かだ。
そしてAM8:29、鳥居本に到着。ここも紅葉が素晴らしい。
時間を確認――なんということだ! 松尾からここまで2時間もかけてしまった。ここから先は本来のペースに戻ることが出来るはずだけど、それでもいきなり計画比1時間の借金。遅れは、松尾~嵐山を付けた分が30分、嵐山で逡巡していた分が30分。
ただ、今日に限っては遅れにより得たものが多い。この出だしだと鞍馬より先が日没との闘いになると思うけど、どうせ勝手知ったる道。交通機関も問題ない。静岡の山の中とは違うのだから――そう、自分に言い聞かせるも、どうしても気は急いてしまう。
ここまでで、京の雅な区間はいったん終了だ。
後ろ髪を引かれつつ左折、峠に上る林間の道に入る。
――見えるものは林のみ。それと「この先 落石注意」の標示。
途中から、けっこうな急坂に変わる。ただ、その分高度を得て日が射し込んできたりもする。
ヘアピンカーブの頭には「嵯峨稜参道」の立て札。その向こうに小道が延びている。こんな小道あったっけ?
もう少し上ると六丁峠。なんと、峠の向こうが真っ白――。
峠の先はガスだった。視界は50mほどだろうか。
ただ、大きくカーブをしながら車道を下っていくと雲の下に出た。やっぱり、雲、というより朝靄と思ってよいだろう。やれやれ、この先天気が崩れるかとヒヤヒヤした。
下り切ると清滝川に架かる落合橋があって、その先には短いトンネルが覗く。真っ直ぐ進めば保津峡だ。ただし、東海自然歩道は橋を渡らずに少し引き返し、案内板の裏手から河岸に下りる。
川岸に下りると沈下橋ですぐに右岸に渡って、そこからは清滝川の川面を間近に眺めながらの行程となる。ごく軽いアップダウンはあるけれど、ほとんど無視できる。むしろ雨後の濡れた岩などでのスリップの方が怖いかも知れない。
――日が射さないので、けっこう地味な歩き。黄葉もたいして目に出来ない。雨が少ない季節のせいか川の流れも穏やかで、前回ほどダイナミックさは感じられない。
他に歩いている人は数組。普段着、ないしは軽ハイク装備。高雄側からも結構下ってくる。
木々が濃くなり川面が見えなくなると、結構道が暗くなった。
再び前方が開けると上空のガスが薄くなってきた。このままきっと晴れるだろう。ただ、木々の彩りに、まだ光の恵みは無い。
歩道橋を渡って左岸に。すぐに渡猿橋。
渡猿橋を渡ると清滝の集落。AM9:11。
そのまま家並みを抜けると、前方に愛宕山登山口の鳥居が見えてくる。ようやく朝日も追い付き、周囲は俄然明るくなってきた。
ここではハイカーばかりか、早くも観光客がたむろし始めている。橋の向こうに清滝駐車場を見ながら、清滝川右岸の細い車道に入る。
途中の森遊館の前にはバイクが多く停まっている。
林道を北へ進む。
見晴らしはほとんど無いけれど、自然林なので鼻歌交じりで……と言っても本当に歌っているわけではない……気持ち良く歩ける。ただ、道がカーブを切り、山の陰に入ると道いっぱいに広がったハイカーの一群が現れた。
京都の区間を歩く以上、避けては通れないのが人の壁だ。もっとも、藪や蜘蛛の巣に通せんぼされるよりかはマシ。無理に追い抜かず、ペースを落として進む。
――自分も丸くなったものだ。
次のカーブ、道標があって真っ直ぐ先の山道へ入れとある。その通り進むと、なんと道が付け替わっていた……。
新しく切られた道は急下降。階段状になっていて、ジグザグに下りていく。川べりに出てその右岸を進むと、空間が少し開けた。錦雲渓だ。
錦雲渓を歩く。勾配も少なく、整備状況も問題ない。ただ、期待とは裏腹にこちらも未だ日が射し込まず、紅葉もあまり見られない。
どうもこの時期、金鈴峡・錦雲渓のように南北に走る峡谷にはお昼時しか日光が注いでこないような感じだ。まだちょっと時間が早いのだろう。
……と、なかば諦め掛けていたら上流方向に良く日の当たった山が見えてきた。しかも、紅葉で満艦飾だ。川の水面にそのオレンジ色が滲む。――ようやく、それっぽくなってきた。
そして広場に到着。これまでの「溜め」を開放するかのように良く日が当たっていて、明るい。紅葉は……残念ながら散り始めだけど、その代わり落ち葉の絨毯が見事だ。ここには、ザックを背にたむろしているハイカーが三人ほど、そして家族連れが1組。
沈下橋を渡って河岸を左岸へと変える。その橋の上で錦の雲がたなびくのを見る……。
と、無理やり思っても川面の滲みがニシキの雲にはとても見えてこない。きっと、自分にはその類の想像力が希薄なのだろう。
対岸に渡ると、初めて北山杉が並ぶのを目にするようになる。北山杉は、京都府の「府の木」だ。
西山地区から北山地区に突入したことを感じる。
一時的に道の方角が東を向いた時、背後に素晴らしい紅葉の山が立ち現れた。ただ、その後は針路が北に戻り、あまり冴えの無い道に逆戻り。道幅は広くなったけど、代わりに川も木々で隠されることが多くなって、なんというか、平凡な道に。
車止めがあり、本日4つ目のコース案内板が立っている。さらに水溜りのある砂利道を歩くと右岸へと戻る橋がある。
右岸を北上すると、一面、オレンジ色の世界が現れた。春に歩いたときはモミジの新緑であふれていた場所だ。今はカメラマン達がいて、どっしりと三脚を構えている。
奥まった位置にある駐車場を抜けると、舗装道に出た。そのまま車道を歩く。もみぢ家別館の入口を見送り、高雄観光ホテルの前を抜ける。清滝川を右に置くのは変わらない。
このあたりから、一気に観光客地らしい人出になってきた。道脇には「湯どうふ」ののぼりも立っている。
高雄到着、AM9:58。高雄山・神護寺の参道入り口があって、高雄橋がある。観光マップも立ち、出店も出ている。静かであるけれど、賑やか。
そして神護寺の参道をわっせ、わっせと上る。
参道の途中、高雄茶屋が紅葉の下にあるのが似合いすぎ。茶屋はかくあるべき、と言いたくなるくらい。
さらに息を切らして階段を上る。左側にもうひとつ、高雄茶屋の建屋が現れる。「釜あげうどん¥500」
さらに上ると硯石のある角。反対側には食事処・硯石亭。曲がって、あとは一直線に上る石階段のみに。
――と、仁王門が僅かに見えてきたところでストップ。拝観料を払わないと中に入れないのは分かっている。門から中を覗いてしまったが最期……正直、振り切る自信が無い。
眼前にはしごく日本的な光景が広がっていた。歓声は外国人観光客。
踵を返し、元来た道を戻り始める。
――さっさと下ってしまおう、という思いとは裏腹に、途中、色々なものに引っかかってしまう。特に傘と赤席をずらりと並べた硯石亭は殺人的で、ふらふらと吸い込まれそうになるのを抑えるのがやっと。忍耐が試される。
硯石亭を後にして、さらに下る。
いつの間にか、人もごった返してきた。だんだんと観光客の数も増えてきたようだ。階段の最後は一気に下って、元の車道に出る。
結局、神護寺では15分ほどを費やしてしまった。でも、この時期だったら、その3倍は時間が欲しい……。
高雄橋を渡る。
清滝川左岸に沿う府道138号。国道への分岐には団子屋などがあり賑やかだったけれど、やがて観光客は減る。西明寺までちょっと距離がある。
そして、西明寺に続く赤い橋が見えてきた。橋の向こうに……人の行列。入山拝観料¥400。前回はそんなの無かったのに……。
西明寺を諦め、さらに進んで国道162号に出る。てくてくと国道を歩き、京都一周トレイルを右に分けると高山寺参道。
上っていく。と、ここにも人の行列。参道脇にこじんまりとした小屋があって、中の人が行列の先頭の人と遣り取りをしている。そう、入山料¥400の授受だ。これも、前回までは無かった光景。
言葉は悪いが、三尾全滅。秋の良き日、通過者には門を開かず。寂しいことだ。
東海自然歩道のコンセプトとして、各地名所・名刹歴訪というのがあったと思うのだけど、時代はなかなか厳しくなってきているのかも知れない。――まあ、余裕を持って訪れれば良いだけの話。
渋々、参道入り口まで戻って、あまり面白みの無い国道歩きを再開する。ほどなく、高雄観光駐車場に到着。AM10:27。
車両の入りは3割ほど。さすがに12月に入って観光客も目減りしている様子。
さて、ここから難関・周山街道歩き。
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