- 洛西の古刹をめぐる道 -
【踏 行 日】2006年1月上旬
【撮影機材】OLYMPUS E-1, ZD14-54F2.8-3.5, ZD50-200F2.8-3.5, CASIO EX-P505
JR高槻駅北口のバス停から市営バス・塚脇行きに乗車する。乗客は10人近く。
バスは発車。たいして時間も掛からず、塚脇バス停に到着する。
周囲には田園風景が広がって、開放感がある。山の見える北西に向かって車道を歩き始める。前回、逆方向に辿ってきた道だ。
途中には「美人の湯」。日帰り温泉なのかスーパー銭湯なのか――よく分からない。
芥川を橋を渡る。
――前回も思ったけど、この橋を渡ると辺りの雰囲気が変わるように感じる。なんというか、郊外から山際に領域が変わるような感じ。気温も一段、下がったような錯覚も。
左に折れて行く車道を見送ると、すぐに摂津峡の石碑の立つ三叉路に到着する。塚脇バス停からここまで、10分弱の距離。
右の歩行者・自転車専用道に進み、左手、公園へと上がっていく階段へ取り付く。
上り切ったところが桜の広場。
――もちろん、今、桜の木は丸裸。真冬の朝10時前という時間帯、人出も皆無。天気は素晴らしく良いのだけど、やっぱりその分、寒い。特に今年の西日本は格別に寒い。「風の子」の筈の子供達も、みな家に引き篭もっているのだろうか?
静寂の公園を抜け、摂津峡の入り口まで進んで芥川沿いの遊歩道に入る。川べりなので、ますます寒い。
山水館を通過し、小川亭が近付くと右の芥川の渓谷が間近になる。川面も、いかにも冷たそうだ。
今日は朝寝坊したので……と言うより、身体を早く暖めたいので急ぎ足。
さすがに朝の散歩を楽しんでいる人をチラホラと見る。そりゃそうだ、いくらオフシーズンとは言え、これだけ良い日和の朝に、この峡谷を歩かないなんて勿体無い。
白滝茶屋が見えてくる。東海自然歩道接続点だ。まだ良く覚えている。なにしろ前回、コースをここで脱してから2ヶ月も経っていない。
ただ、季節は1つ先に進んでいる。紅葉が散った後の落ち葉の季節――。
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AM10:11、摂津峡白滝茶屋を出発。まずは「こんなところ入っていって良いの?」と思えるような茶屋建屋と山壁の間の細い石階段から。
細い路地を抜けると、茶屋の裏手に出た。その先、峡谷右岸の遊歩道がさらに続いていくのが見える。山肌は濃い樹林帯。まだ日が射し込まず、凍えそうな芥川の川面。
歩いていく。――向こう側が明るくなってきた。
じつは白滝茶屋からこちら、0.2kmしか渓谷部は無い。ほどなく川の流れは穏やかになり、周囲は明るく開放的に。……ちょっとガッカリだ。このあたりが都市郊外の渓谷の限界かも知れない、なんて思う。
冬の散歩を楽しむ人もチラホラ。東海自然歩道は、左手の階段を上って川から離れていく方向。細い路地、民家に自動販売機。そして――早くも変哲の無い車道に出てしまう。摂津峡後半部は、あっという間であった。
慶済院の前、道すがらオジさんに「白滝は凍っていましたか?」と声を掛けられる。
「行っていないので分かりませんねえ」と応えつつ、この寒さならあるいは、と思う。そうなら、引き返しても見ておきたいなあ。でも、寝坊したので無理だ。もう少し朝早ければ……。
やがて前方の視界が開けた。そこにあったのは、山あいに広がった、原の田園風景。
摂津峡大橋という、名ほどは大きくない橋を渡る。川の流れと並行して進み、次の橋、下条橋が視野に入ってくる。
――川はこの橋から先、生け簀状になっていた。河原ではそこに大勢の釣り人が釣り糸を垂らしていて、テントも立っている。どうやら、何かのイベントをやっているみたいだ。
その下条橋は渡らず、地図入り道標に導かれて細い農道へ入っていく。
周囲は田。目指すポンポン山は見えないけれど、その前山の稜線は良く見えている。
冬の低山日溜りハイクには絶好の天候だ。ただ、自分で登山道を選べないのはちょっと残念。今日は東海自然歩道に従って車道を詰めることになる。
府道6号・枚方亀岡線に出る。二車線で、車の往来も多い。そこは原立石バス停があって、前には「右・神峰山寺道」の石柱が立っていた。コースの先はそれが示す脇道。
――前回、家に帰った後、前の箕面~摂津峡コースはこの原立石を終着点とするとポンポン山コースと繋ぎが良いことを知った。ただ、その代わり白滝茶屋~下ノ口の摂津峡の白眉区間が歩けなくなる。それはそれで勿体無い。
左に田園風景を見晴らしながら、山際の道をしばし進む。
牛地蔵を見て、そのまま神峰山寺参道に入る。両脇とも木立で、山の中へと突き進んでいく感じだけれど、まだ坂の勾配はきつくない。
と、前方に学生の集団。白いユニフォーム、白い帽子……いかにも、の野球部だ。彼らが監督?コーチ?に引率されてガヤガヤと参道を歩いている。
同時に、右手に遊歩道の入り口が現われた。自然歩道はそっちの山道を示している。よし、遊歩道を驀進して奴等を追い抜いてやろうじゃないか。若い者にはまだまだ負けられぬわ!
落ち葉の多い山道。歩き易いけれど、かなりくねっていてアップダウンも尽きない。ゆっくり歩いてナンボの清々しい道。(はい、言い訳です)
道の大部分を早駆けし、息を切らしながら神峰山寺の前に飛び出た時は、件の連中は陽気にお喋りしながらゾロゾロと山門を潜っていくところだった。
AM11:01、神峰山寺。この辺りの森は、神峰山の森として「大阪みどりの百選」にも選ばれているらしい。その碑が立っている。
とりあえず山門を潜り、野球部の集団の後に付いて参道を進む。100mほどの気持ちよい道。雰囲気も良く、確かに秋の紅葉シーズンは素晴らしそうだ。
本堂に参ってコースに引き返し、神峰山寺脇の林道を登り始める。いよいよ、ポンポン山登山の開始だ。
今度こそ静かな林間歩き。まだ時間が早くて開いていない野草ラン園を過ぎ、ベンチのある広場を通過してさらに進む。
ただ、神峰山寺~本山寺は距離3.4km、高低差350mという山登りコース。車道であるがゆえに足裏にダメージも溜まる。ここはあまり気張らないようにしたい。ただ、遅出の遅れも取り戻したい……ペース配分が難しい。
そして、ゴミの不法投棄。どこの自然歩道でもその類の警告標示は見慣れたものとなっている。けれど、せめて路上にというメッセージは初めて見た。
確かに、林道を歩いていても林の底を覗き込んだりしなくなった自分がいる。散乱したゴミを見つけるのが嫌で無意識にそうなったのだと思う。とにかく、ゴミ捨てるヤツは最低。
尾根の鞍部を進む。と、一瞬、大阪平野への見晴らしのある地点に出た。随分と登ってきたことが分かる。
そこには東海自然歩道案内板も立っていた。珍しいことに周辺図より全コース概略が大きい。 "1,697km"の文字は貼り紙。
さらに進むと本山寺参詣者用駐車場に到着した。左手には小道が分かれているようだけど、指示に従って車道を突き進む。勾配は厳しくなる一方。どこまで続くのか分からない車道歩きは辛い。
そして、ついに道に雪が付く。そういえば空気も冷たくなってきたようだ。着実に高度は稼いでいる。
左から先ほどの小道が合流してくる。やっぱり、そっちを歩いておけば良かったなあ。
広場に出た、といっても真ん中に石柱が立っている。いよいよ目的地は近いぞ感が醸し出されていて、元気が出る。
そこから、ひと上りで本山寺の山門に到着。――さて、困った。東海自然歩道は山門を潜らず、林道を直進していく。本山寺は山門の先。どちらもポンポン山登山道へ通じている。
決めた。本山寺経由の道を選択。雪の付いた道、いかにも山寺参道といった感の自然味ある木立の中を歩いていく。最後には階段を昇って……
PM0:01、本山寺到着。
誰もいない。ただ、ひたすら静かな境内。
その、こじんまりとした境内を散策する。……それも、あっという間に終了してしまう。高度は520mほどあるけれど、残念ながら展望の得られるところも無さそう。
それにしても心地よい空間。ゆっくりと昼寝でもしていきたいような気分にもなる。でもその前に……腹が減った。なにしろもう、昼時だ。
ただ昼食は次のポンポン山山頂で、と決めてある。腹が鳴るのを無視して、本堂の裏手から伸びていく登山道に進む。ここから待望の山道だ。
ただし、相変わらず展望は無い。巻き道っぽい道筋であったけれど、そこからひと登りして、稜線上を通る本線コースに合流した。
さらに進むと、ハイカーの青や黄色のレインウェア姿が目に付くようになった。これこそポンポン山登山道だ。そして、道は雪に覆われるようになる。
勾配は大したことは無い。アイゼンは無くても大丈夫そう、と判断してアイゼン装着は省略。
確かに、地図を見ると本山寺~ポンポン山は距離2.3kmに対し、標高差は150m。明らかに緩い。アップダウンが激しい訳でもない。結果、軽快に歩が進む。
でも、さすが人気の山だ。ハイカーが前方に何組も立ち現われ、その度にペースが落ちる。急いでいるだけにもどかしい。
――林の中の道が続く。見晴らしは全く得られない。これでもし山頂にも展望がなかったら、まったく地味な山行となるのだけど、ポンポン山は調査済み。大丈夫!
PM0:40、ポンポン山山頂に到着。
標高679m。ここまでの見晴らしの悪さを挽回するような展望。京都盆地から大阪平野まで一望の上、低山の連なる北方の展望も開けている。
ただ、惜しむらくは少し霞がある。冬とは言え昼過ぎだから仕方が無いか……。寒暖計があって、気温は4℃を示している。思ったより高い。
ちなみに、山名の由来は地面がポンポンと鳴るからだとか。さすがに、山頂で四股踏んでいる人はいなかったけれど。
――さあ、待望の昼飯だ。
広場の端っこ、雪の無いところを見つけて陣取り、持参したガスストーブで湯を沸かしラーメンを作って食べる。トッピングは刻みネギとタマゴ、そして眼下に広がる素晴らしい眺望。
吐く息と湯気が白い。……まったく、冬の低山ハイクの醍醐味だねえ。
PM1:25、下山開始。予定から遅れている、と言いながら45分間も山頂で寛いでしまった。いかん、いかん。
ともかく府境のこの山で大阪府ともオサラバだ。僅か1日半ほどの付き合いだったけど、なんというか大阪区間は目まぐるしかった。ふつうの住宅地もあったけれど、いかにも山里、ってところも多かった。コースの高みから高層ビル群が立ち並ぶのを目にして、そう言えばここは大阪だったと思い出したことも、数度。
で、その京都府側に入って気付いたのは、指導標の新しさ・キレイさ。京都府では東海自然歩道整備に予算が付いたらしい。この道標が朽ちるのは20~30年後だろうか。その時、また予算が付いて新しい指導標が立てられるのだろうか。
道は下り基調。ただ山の東面に来て、むしろ雪は深くなってきた。その途中にあったのが、釈迦岳分岐。箕面からここまで東海自然歩道コースと重複していた「おおさか環状自然歩道」がここで分かれ、釈迦岳~天王山へ向かっていく。そちらの道を歩くことは、今後無いと思うけれど……。
近畿自然歩道へ進む→ |
予定より遅れていると言いつつ、その釈迦岳へ寄り道しておくことにする。どうせ片道0.6kmほどだし。緩やかな稜線で小気味良く駆け進むものの、山頂手前の登り、凍結している箇所に気付かず、滑って危うくコケそうになる。そうだ、日陰の雪道では駆け出し厳禁だった……。
釈迦岳山頂はかわいいベンチが2つあった。でも、眺望はほとんど無し。ここまでで引き返す。
分岐に戻って本線に入ると、それまでハッキリしなかった道が明確に下り始める。
途中、京都市街の見下ろせる地点がある。――街はずいぶんと近付いてきた。また、京都盆地が盆地であることも良く分かる。
それにしても鉄塔が多い。鉄塔はそれぞれ個性があるので個人的には好きなのだけど、これだけ視界に多くあると食傷気味。
――大阪、京都と2つの大都市を結ぶこの道。両者が大量の送電線で絡み合っているようなイメージが脳裡に浮かぶ。
上空の開けた道では雪も消えかけていたのだけれど、深い樹林帯に入り込んで、また雪が復活してきた。西日で道が陰になっているせいもあって、辺りは落ち着いた雰囲気。誰とも会わない、沢沿いの下り道。駆けるように進む。
そして、「杉谷0.4km」の道標で樹林帯を脱すると、再び上空が開けて、目の前には雪の田んぼが広がった。風景は、一気に冬の山里のそれに。
田の雪は、進むにつれて浅くなっていく。なんとなく、冬から春へと季節が移ろっていくかのよう。
杉谷の集落の家々が見えてきて、ほどなく杉谷三叉路に到着。ここには東海自然歩道のコース案内板が立っている。
――ただ、その案内図を見て、それまでののんびりムードが吹き飛んだ。なんと、コースが金蔵寺へ向かう道とは反対の方角にずずずっと伸びているじゃないか! そんなの聞いていないってば!
手持ちの登山地図と照らし合わせる。……どうも、ここから小塩まで「枝線」が正規コースとして存在するみたいだ。完全に予定外だけど……行かざるを得まい。
杉谷を抜け、車道が下り始めた。まだ高度450m以上の地点。小塩まで、あと高低差350mほど下ることになる。どれだけの時間ロスになることか。
三鈷寺分岐。どうせ同じ道戻ってくるなら、と善峰寺でなく三鈷寺の道へ。
林間の車道歩きもつまらないので、尾根に沿って走っているらしい地道に突入する。窪道状で落ち葉が多く、整備された道ではないけれど、単純な舗装道の歩きよりは数段マシだ。
PM2:33、無事に三鈷寺到着する。駆け下りたせいで、杉谷から10分で到達できたのが救い。
山肌の狭いところに、こじんまりとまとまった寺社。野鳥の啼き声を耳に境内を進むと、庭。そこからの見晴らしに息を呑む。――絶景だ。ポンポン山山頂に比べても、前山が無いだけスッキリと京都盆地を見晴らせる。高度も十分で、観光客がまったくいないのが信じられないくらい。
すでにここ、三鈷寺の境内は京都西山の陰に沈んでいるけれど、京の街には明るい陽が降り注いでいる。それはきっと、平安時代から変わることのない、永劫の時を刻む光景なのだろう。
……などと過去に思いを馳せている余裕などない。なにしろもう日没まで2時間ちょっと。背後の太陽に追われるように寺の正面階段へ。
そして、京都盆地へ向かって下る……下りたくないなあ。後ろ髪を引かれるというのは、まさにこのこと。
やがて山道に変わるけれど、足許が柔らかくなったのを利してずんずんと高度を落としていく。一気下りだ。
途中、何組かのハイカーや観光客を追い越した。なにせペースが違う。やがて林間から車道が見下ろされるようになり、さらに下るとその車道、府道208号に飛び出した。
右側には善峰寺駐車場が見える。トイレも見えている。帰りは――というのが山へ上る方角でうんざりなのだけど――そちらを通っていくことになるだろう。
反対側、麓の方角へ下る道を採る。緩くはなったものの、下り坂が続く。
林から抜けて、道が夕日に照らされるようになった。棚田地帯も一瞬に後にして、やがて民家の立ち並ぶ集落へと入っていく。背後をチラと見ると、今しがた下りてきたばかりの京都の西山が圧し掛かってくるかのように見えた。
何人か、同じ方向に家路に向かうハイカーたち。ただ、こちらは家路どころでは無いのでやっぱりスピードが違う。何人かは抜き去る。
そして、PM3:00ジャスト、小塩バス停到着。枝線の枝先、東海自然歩道の特異点。
――特異点。まさしく。
先のコースへ進む→ |