- 雪の湖西を歩く -
【踏 行 日】2017年1月中旬
【撮影機材】OLYMPUS E-M1, ZD12-40F2.8
雪が降っていた。
冬なのだから当然、雪も降るさ。もちろん、冬のウォーキングと言えばカラッと晴れた日の陽だまりハイクが良いけれど、日本の冬はそれだけじゃない。世界を一変させる雪景色にも捨てがたい魅力がある。
……と、思って半年ぶりにやって来た近江神宮駅。比叡山山稜を超えてきた雪雲が琵琶湖西岸のこの地を見事に白く染め上げていた。期待通りではあるのだけど……寒い。じつは寒いのは大の苦手。
この天気、しかも午後もかなり遅い時間帯。当然、周囲に近江神宮の参拝客らしき人はいない。とりあえず傘を差し、駅を出て西に進む。県道47号の交差点突き当たって、右へ。
……吹雪めいてきた。向かい風に抗って傘を立てるものの、雪圧(?)で押し戻されそうに。下半身には、傘で防ぎ切れない雪が容赦なくへばりつく。
雪は止むだろうという予想していたのだけど。読みが外れたかなあ。
柳川を渡って県道が右に曲がるところ、「近江神宮→」の標示を捉えて直進。すぐに近江神宮参道の真ん中に出る。両脇を木々に囲われているので風は落ち着いた。積もった雪が音を吸収しているかのように、静寂があたりを包み込んでいた。
――でも、こんな天候でも散歩をしている人の影がチラホラ。地元の人の毎日の日課なのだろうか。
鳥居の方へ向かう。階段を上がって境内に出る。ここからは見知った場所だ。ただし、あたり一面雪で覆われ、降りしきる雪で視界も効かない。
やや右手に進むと手水舎のある階段下に出る。――この階段の上に楼門が建つ。半年前には目にすることが出来なかったので久しぶりだ。修復工事を終えたそれは、真っ白な雪の中でますます赤く輝いているかのようだった。
さて、この階段を上がれば東海自然歩道。
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PM3:46、近江神宮・楼門前。天候は雪。今日は、ここから東海自然歩道歩きを始める。
――いや、本当の目的は三井寺なのだけど。せっかくの雪だからと1つ手前から歩き始めてしまうのが自分の性格の嫌らしいところ。もちろん、半年前に久しぶりに東海自然歩道を歩いたのでもう少し繋げておく、という理由もあるけれど。
とりあえず楼門を潜って境内へ。
最初にこの地を訪れたのはちょうど11年前。2回目は9年前で、境内に七五三の親子連れが目立っていた。
――今は雪野原。参拝客もほとんどおらず静かなものだ。ただ、長い時間を隔てても厳粛な雰囲気は何も変わらない。寺社とはそういうものなのかも知れないけれど。
少し境内を巡ってみたくなってきた。そう言えば、これまでは時間に追われて通過するだけだった。
足を北へ向ける。雪原を横切って衣裳部の建物の間を抜ける。
いつの間にか雪は降り止んでいた。先ほどまでの激しさを思うと嘘のようだけれど、雪はそういうものでもある。
近江勧学館の手前から車道に下りて、そのまま南へ進むと直ぐに楼門前の階段……そういえば、ここはそれほど大きく無かった。
再度、楼門を潜り、今度こそ本殿に上がって参拝を済ます。――もう午後4時を回っている。さあ、ようやくここからコース歩きだ。雪は止んだものの気温が下がり始めているように感じる。
「参拝順路↑」と示された回廊を南へ進む。回廊は緩やかに曲がりながら下り、時計館の前に出た。そうか、ここに出るのか。
駐車場の合間を進んで保育園の前へ……間違えた、こっちじゃない。コースはもう一段下の駐車場にあるのだった。なんかここ、毎回間違えるなあ。
回り込んで、今度こそ保育園脇の側道へ。
時刻はPM4:13――じつは今日は17時に打ち鳴らされる三井寺の晩鐘を聴くのが目的でやってきたのだけど。果たして間に合うのだろうか? 近江神宮で少し時間を掛け過ぎたかも、と後悔。
側道入口には「自然の道・歴史の道」の道標が立っている。……この大津区間歩きを難しくしているのが、このような様々な自然歩道の乱立。たとえばこの道標の錦織遺跡と言うのは近江神宮駅前にある。東海自然歩道のコース上にはない。
側道を進む。地道区間は直ぐに終わって宇佐八幡宮の参道口に出る。ここにも立つ「自然の道・歴史の道」の道標――。
毎回、この宇佐八幡宮も寄りたいと思っているのだけど、いつも時間が無くてパスしている。今日にしても既に時間が無くなってしまった。
そんなわけで左に曲がり、柳川を回り込んで再び山の方角へ向かう。そういえば最初来た時はこのコース取りが分からなくて悩んだっけ。
近江神宮から法明院までの町区間、東海自然歩道の道標は無かった気がする。だから、自分がここだ!と思っている道取りも、じつは間違っているかも知れない。滋賀県は、様々な種類の自然歩道を設置している割には公式サポートは薄い。それが滋賀県らしい、とも感じるのだけど。
少し高度を得て、右手に雪の原野が広がった。ちょっとした低山の雪山にアプローチしているような気にもなってくる。
西大津バイパスを潜る。そこで道が二股に分かれるのだけど、ここも迷いポイント。ところが今回は、「←ハイキングコース」の張り紙がある。そういえば等間隔に現れる「名鉄ハイキングコースの三角旗は何なのだろう?以前来た時はそんなの無かった。
――たぶん、名鉄主催のウォーキング企画でもあったのだろう、京阪でも近鉄でもなく名鉄なのが何で?と思ったりもするのだけど。
アイボリー色の団地が見えてきた。
水車谷団地。ここで左折。赤いポストを目印に再度左折して、二車線の車道を下っていく。
……なんか違和感を覚える。なにかと思ったら車の往来がほとんど無いのだ。そのせいで休日の夕方という感じがしない。もちろん、雪のせいだろうけど。
西大津バイパスを潜り返し、変電所の前の分かれ道で更に下っていく脇道を選択。下り切ったところにある「自然の道・歴史の道」道標を捉え、細道を登り返していく。
――このあたりの道筋もあまり明確でなく、前は迷いながら歩いたものだ。10年前と違って今ではネット上の地図が充実している。山中でも無い限り、スマホとGPSマップで道迷い対策は万全だろう。
もっとも自分の場合、未だにスマホを導入しておらず、GPSサポート無しの歩きを相変わらず続けている。だから現地道標は重要。
道を上がっていくと左方に眺望が開けていった。大津のやや北、西大津の町並みと琵琶湖が見下ろせるようになる。空は相変わらず微妙な色――日没の時間も近づいて、やや薄暗くなっている。
そういえば10年前との違いとして、西大津駅が大津京駅と名前を改称したということがあった。来春、京阪皇子山駅も大津京駅に改称されるとのことだ。
車道と合流したところに皇子が丘公園バス停があった。ここも迷いどころで、以前はこのまま車道を真っ直ぐ進んでしまったことがあった。たぶん、ここから皇子が丘公園内に入るのが正解――
と、思っていたのだけど。今日はバス停脇の電信柱に例の「名鉄ハイキングコース」の張り紙。横断歩道を渡って公園に入ったところにもそれはあった。親切なこと、この上ない。
もっとも、新芝生広場手前で通行止めに遭う。相変わらず、すんなり進ませて貰えないなあ。
迂回のため山側に進むと雪が一段と深くなった。公園内の雪は荒れていて、昼間は子供たちが雪遊びしたことを思い起こさせる。ただ、もう皆、家に帰っていったのだろう。
展望広場はパスし、芝生広場に入っていく。東海自然歩道が本当にこの公園内を縦断しているかは分からないけれど、この先にはまた指導標が現れることは分かっている。迷いは無い。
四季の森を抜けて公園の南端へと出た。公衆トイレのあるところだ。ここから一番山際の車道へと進み、高度を緩やかに上げていく。
再び左手に展望が開けるようになった。手前はテニスコートだ。先ほどと比べてもさらに薄暗くなってきた。寒さも堪えてきたので足早に進む。
そして、このあたりで一番分かりにくいポイント――法明院入口にも「名鉄ハイキングコース」の張り紙があった。ここまで来れば、このウォーキングコースは東海自然歩道を冠した企画だったのだろうと想像がつく。
雪で埋もれがちの法明院参道へ進む。小さな橋を渡って森の中へ。
指導標と説明板の立つところ。法明院は階段の先で僅かに寄り道となる。もちろん、寄り道してこの寺院の冬の姿を目にしてくる。時間は全然、無かったのだけれど。
そして三井寺へ向かう山道区間を歩き出す。今日の場合は雪道区間でもある。距離は三井寺1.0kmと示されていた。時刻はPM4:48――5時はムリか。でも鐘の音だったら聴けそう。
雪道をずんずん進む。積雪は足首あたりだけれど、雪山で言えば序の口だ。新雪なので軽アイゼンすら必要ない。
道には足跡が付いておらず、さすがにこのような天候で歩く奇特な人間はいないということが分かる。新雪の山道を最初に歩くのは楽しい――見知った道で、道迷いを心配する必要もないので。
……ただ、やっぱり新雪歩きであったら陽射しが欲しいところだった。湿気が多い分、寒さは和らいでいるけれど、それでも雪道が続くと身体が冷える一方。
どうやら、雪は再び激しく降っているようだ。ここは何重もの木々の葉でブロックされるけれど、森の外の景色は降雪で真っ白く染め上げられている。
時折、倒木が行く手を塞いだり、雪の重さで気の枝がしな垂れかかって進路を塞いだりしている。ただ、道幅は十分なので苦労せずクリア出来るものばかり。
と、右折ポイント。新羅三郎の墓? 記憶に無いなあ。とりあえず階段を上って寄り道しておく。それにしても、僅か1.0kmが随分長い……。
道、こんな細かかったっけ?と感じるくらい分岐が多い。様々な道標が乱立気味。そこにさらに「名鉄ハイキングコース」が被さる。もう少し、整理した方が良いかも知れない。
――でも三井寺はかなり近づいている筈だ。時刻は鐘の鳴る午後5時。この区間を抜け切れなかったのは計算外だけれど、耳を澄ませば……。
何も聞こえてこなかった。雪が音を吸収してしまっているかのよう。日本の音風景100選・三井寺の晩鐘が……。
大津歴史博物館の建物の裏の道を進んでいくと、東海自然歩道のコース案内板が現れた。年季ものだ。この粗い地図では正直、道取りは分からない。
そして三井寺こと園城寺の北端に出る。――この1.0kmの区間に20分も掛けてしまた。やっぱり雪道ということでペースが上がらなかったのだろうか。そもそも、歩き始めの時間が遅すぎるので仕方ないところではある。
大津市歴史博物館の前へと出て、あとは大津商業高校前の坂道を下っていく。
「逢のみち湖のみち山歩みち」案内を見て右折。このマップには東海自然歩道の道取りも示されているので有用だ。左に大津市伝統芸能会館、右に園満院門跡入口を見て、いよいよ三井寺の正面へ。
PM5:12、園城寺仁王門の前に到着。もちろん、拝観時間は終わっているので今日のところは雪景色の仁王門を眺めるのみ。3度目の正直とはならなかったけれど、4度目は確実に境内に入れる時間に来よう、と心に誓うのであった。
さて、これからどうしよう? この三井寺が目的地だったのだけど、なにか物足りない。第一、たった1時間半しか歩いていないのだ。もう少し歩いておくか……。
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先のコースへ進む→ |
仁王門前を南進、園城寺境内を貫く車道を進んでいく。大津でもっとも有名な寺だけれど、すっかりひと気はない。クランク状に曲がって、さらに観音堂入口で左折、そのまま門を出る。
ここから琵琶湖疎水に沿って進めば三井寺駅に到着するけれど、今日は長等山公園まで行くことを決める。たぶん、公園から京阪の駅へ下りられるだろう、というわけで右折して三尾神社境内を通り抜ける。
――かなり暗くなってしまった。街灯が灯り、降りしきる雪を夕闇に浮かび上がらせている。散歩している人の姿も、もう見当たらない。
琵琶湖疎水のまわりの葉の落ちた木々の枝には雪がみっちり付いて、樹氷と化している。疎水の水は黒い板のようだった。雪景色の、夜景色。
長等神社へ進む。この神社は近江神宮を思わせる鮮やかな楼門を持っている。――と、その門から地べたに何かが伸びている。藁で依った「龍蛇」というものらしい。踏んで厄落としというので、厄では無いのだけれどとりあえず踏んでおく。その藁の上にも雪が降り積もっている。
コースはここから真南に長良公園正面へと続く。けれど、今日は1本右手の道に入る。むかし間違えた道なのだけれど、あえて。
小関越え道標の立つ四つ辻。鳥居を潜って、住宅地の合間の坂道を上っていく。吐く息が白い。
雪の日の夜に山に登る、と聞くと、かなり危険な行為に思えるかも知れない。でも、実際は標高325mの逢坂山に少しだけ取り付くだけ。
すぐに長良公園の領域へと入る。やはり昼間は子供たちが雪遊びしたのだろう、広場の雪面は荒れていた。もちろん、今は誰ひとりいない。灯かりだけが煌々と灯っている。
階段を下りると東海自然歩道の通る車道に合流した。自販機もあるのでここで温かい飲み物でも、と思ったけれど。
――それは歩き終えてからの楽しみに取っておくことにする。寒い日のウォーキングの、ささやかな楽しみ。
公園の園内道を上り始める。まだ照明があるけれど、奥に行くとそれも乏しくなる。今日は山には登らない想定でヘッドランプは持って来なかったけれど、まあどうにかなるだろう。
右に長等山不動明王を見て、道は大きくカーブを描く。かなり暗くなった。雪の勢いも止まることが無い。
尾根を巻くように園内道は続く。街灯でなんとか行く先は分かる。と、その途中に登山口あった。暗くて案内の文字は判別出来ないけれど、ここが音羽山へと続く東海自然歩道の登り口。
でも今日は――これ以上、進むことは無い。時刻はPM5:48。
そのまま園内道を歩いていく。じつは、この道がどこへ続くかも分かっていない。駅に上手く下りれるかも分からない。こういう知らない道を予定外に歩く時にスマホがあれば便利なのに、って思わないわけでも無い。
真っ暗な善光寺を通過。左手には雪にけぶる大津の町並みが見下ろされている――もう手が届きそうなほど近い。降りれない、ってことは無いだろう。
そう思っていたら分岐が現れた。左に下っていくのが上栄町駅へと続くということで、願ったり叶ったり。
坂道を下っていく。……この「街へ向かって下りて行く」という感覚が好き。と、この坂道を上って来る人が二人、三人といる。三井寺からここまでほとんど誰も見掛けなかったに。駅で下りて家に帰る人達?
下りきって住宅地の中へ出た。さて、その駅は――
駅はここにあった。探すまでもなかった。ただ、こちらは浜大津へ向かう列車専用。そう言えば京阪のこのあたりは千鳥式ホームの駅が多かったのだっけ。
見ると、50mほど先にある京都方面行きホームに、ちょうど列車がやって来たところだった。うーん、到着タイミングが悪かった。間に合わない。
いそいそとそちらのホームへ向かう。踏切を渡って誰もいないホームに上がって椅子にどかっと座る。……と、思い出して駅の外へ戻り、近くの自販機で温かい飲み物を購入。ゴロン、っと飲料が吐き出される音の心地良さよ。
ホームの椅子に戻って京都方面行き列車を待つ。かじかんだ手を、コーヒーの缶の熱さで解しながら。