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観光地に普通に遊びに来た、と思っても良いだろうと思った。東海自然歩道のコース上に有名観光地があっても立ち寄って慌ただしく立ち去る、なんてことを延々と繰り返してきたのだから。
でも、ここが東海自然歩道最後の観光スポット。加えて時間も十分にある。
芝生の上に小洒落た建物が疎らに立ち並び公園のような雰囲気……が違和感。20年ほど前の記憶では、もっとこう土産物屋がぎゅっと立ち並んでいなかった?
まあ、そりゃ令和だからと思いつつ開放的な遊歩道を辿っていく。懐かしさを感じる店の前で左折し、音止の滝展望台へ。
――こちらは記憶通りの光景。でも、今回はこの芝川を富士川合流点から延々と辿って来たという重み。
鋭角に下って白糸の滝。こちらは記憶よりずっとデカい。……でも、やけにスッキリ。昔は脇に建物無かったっけ?
平日なので観光客はチラホラ。広い空間に落水の音ばかり響いている。と、雲間から陽射しも落ちてきた。ずっと浸っていたいような心地良さ。
……でも、背後の階段が気になる。前は無かったよなあ、と、上っていくと。あったのは白糸の滝を眺め下せる展望台。その上には富士山……がある筈。
駐車場を横切って県道414号に上がる。ここから佐折分岐まで来た道を戻る道。足早に進む。
――結局、白糸の滝での滞留時間は30分強だった。もう後はゴールへ向かって突き進むだけ。坂道の途中で振り向くと富士山は相変わらず濃い雲の中だった。これはもう、今日は無理っぽいかも。
緩い峠を過ぎて、緩い下り坂。県道184号との交差点の前、たていし商店の自販機で飲み物を補充。
交差点を渡り、正面に壁のように見える天子山地へ向かって歩いていく。
――雲が取れて、すっきりした秋の青空が広がった。道脇には秋の花が咲き、チョウが何匹も舞っている。平和そのものの光景だ。自然歩道歩きはかくありたいもの――
とは言え、歩いているのは車道。静岡バイパスコースは確かに車道を歩くことが多かった。今日のコースも全線車道。
田園地帯は少し大回り。なにしろ、この先はもう林の中。そこを抜ければ本線との合流地点。今日のゴール。
先ほど出てきた林道入口に到着、そのまま突っ込む。緩やかな下り。
下り切って大倉川。橋を渡って、後は短い上り。一気に上って佐折分岐に到着。ここから白糸の滝へ向かって1時間35分が経過していた。
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PM1:46、東海自然歩道・静岡バイパスコースの最後の区間を歩き出す。と、言っても目の前に見える光景は変わらない。路面がフラットになっただけだ。昼下がりの午後で日も高い。
……思い出してザックからコンビニ御握りを出して食べ歩き。飲み物を飲むのも歩きながらだ。何事もたいてい歩きながら、という習性を持つのが長距離自然歩道ウォーカー。
別の道に行きあたって右折。路面は砂利に変わっている。
――今日は本当に余裕がある。それでも足早に歩いてしまうのも習性だ。そもそも今日の道のりは穏やか過ぎて運動強度が足りないくらい。カロリーをもっと消費すべく突き進む。
また別の道に突き当たった。「天子の森→」の標示を見て左折。広葉樹の並木で雰囲気が変わる。
そろそろか、なんて思ったけれど、まだだった。車道をベタに歩いていくばかり。もちろん車の往来など皆無。――何も無いことを楽しむ、なんて境地に達しているのか、いないのか。
……と、林に埋もれるようにオートキャンプ場が現れた。さらに進み、左に大きくカーブするとキャンプ場の中心地らしきところに。天子の森公衆トイレが建っている。その前にコース案内板。
残りの距離を確認する。田貫湖キャンプ場まで……1.5kmか。これっぽっちしか残されていない。
再び歩き出す。少し上空が開け、正面に緑の尾根が見えた。長者ヶ岳稜線か。あそこを通る東海自然歩道本線を下っていったのは17年も前のこと。互いの道はまもなく合流する。
……と、いきなり分岐。道標が右折を示している。短い上り坂。上っていくと――
左手に白い建物。休暇村富士だ。田貫湖畔に建つホテル。時刻を見ると……PM2:33。やっぱり、時間がだいぶ余りそう。
で、どこへ向かえばいい?とキョロキョロ。見ると、下方に湖岸遊歩道が巡っていた。ポール型の東海自然歩道道標も立っている。あそこへ下りるのか。
小道を巡って遊歩道まで下りて、そのまま時計回りに湖岸道歩きに入る。湖面はすぐに現れた。そこは――
展望デッキ。パラパラと人がたむろっているけれど、田貫湖の向こうに見えるのは……巨大な雲の塊。富士山は引き続き雲隠れ中。
でも、この気象条件であれば夕方が近づけば雲も取れていく筈――そう思いながら遊歩道歩きを再開する。問題はいつ姿を現し始めるかだ。日はまだまだ高い。
最初こそ木々が湖を隔てていたけれど、そのうち水際を遊歩道がなぞるようになる。当然ながら道は完全にフラット。悠々と歩いて行ける。
前後に同じように遊歩道を歩く人がチラホラ。でも、自転車で走ってくる人の方が多いかも知れない。車で来て、レンタルサイクルを借りて走っている人たちだろう。
振り返ると天子ヶ岳に午後の光が燦々と降り注いでいた。その麓に収まっている建物が休暇村富士。
岬を巡ると尾根の陰に入る。と、正面に緑の尾根が田貫湖と同じ高さにまで落ち込んでいるのが見えた。――その先端部にあるのが東海自然歩道本線との合流地点。今日のゴールでもある。
……なにか感慨深さでも覚えるかと思ったけれど、そうでも無かった。いつものように、また1日の歩きが終わろうとしているだけ。
前方に広場が見えてきた。湖畔広場だ。駐車場も見えている。
左に「たぬき展望台」の標示。これは立ち寄らない理由は無い、と、そちらへ進む。木々の密集する山の斜面をずんずん登っていく。
2、3分ほどでテラスとなった展望台が見えてきた。先客がいる――タヌキだ。狸のポンポコポン太。一瞬、意味が分からなかったけど、すぐに田貫だから狸だと気付く。
展望台からの眺望は素晴らしいものだった。青々とした田貫湖を眼下に、広大な富士山の「裾」。……顔は未だ出してくれないか。
遊歩道まで戻る。駐車場を横断し、再び水際の遊歩道へ進むものの、先ほどまでとは雰囲気がガラリと変わっている。車道と湖に挟まれた遊歩道――。前方に見えているのは湖上展望台。
その湖上展望台に到達する。湖に乗り出した展望台だ。ただ、ここからの富士山は角度的に厳しそうか。
裏手に建っている田貫神社にも立ち寄って、再び遊歩道歩き。もう、この先には何も無い。
真っすぐに伸びた水際の道を淡々と歩いていく。陽射しが弱まり、柔らかい光となって湖面を照らし出している。夕方のような雰囲気にもなってきた。――秋分の日はもう過ぎている。この時期、日没のスピードは早い。
湖岸遊歩道が終わり、車道に出された。向こうを見ると車道は二股に分かれている。右の二車線道は国道139号へと下りていくメインロード。
かたや左の道は――
その左の道へ。右にカーブを切る。
PM3:12、長者ヶ岳登山口に到着。と、同時に東海自然歩道全コース踏破。足かけ20年、本当に長かった――長距離自然歩道だけに(笑)
歩き残していた静岡バイパスコースを気まぐれに歩き始めたのが昨年のこと。今年が東海自然歩道開設50年という節目の年であったことは最近知った。
――個人的にも節目となった。めでたし、めでたし。
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……などと随分と軽いのは、歩き切ったことに達成感を覚えたわけでは無かったから。歳は取りたくないものだ。
……なんて言ってみても良いけれど。実際のところ自分にとって自然歩道歩きは「日常」、今後も続いていくものであるから「節目」にはなっても「区切り」になるものではない。
と、いうわけで。
踵を返して田貫湖畔まで戻る。そして再び湖岸遊歩道に入って歩き出す。
――歩くのが好きなので歩く。詰まるところそれだけ。
目指すのは休暇村富士だ。手前のバス停から帰路についても良いのだけど、バスが出るまで時間があるのだから歩かない理由は無し。
右手には田貫湖の湖面が広がっている。囲っているのは天子ヶ岳と長者ヶ岳。比高は700mほど。
姫の橋を渡ると車道と接近した。いったん車道に下りて引き返し、田貫湖南バス停を見て来る。いちおう、長者ヶ岳登山口から一番近いバス停。
遊歩道に戻る。進行方法は西に変わっていて、西日を正面から受けながら歩いていく。右手には常に田貫湖の湖面――富士五湖と比べるとそう大きくはないけれど、それでも一周4kmほどある。歩き応えは十分。
そして、振り返ると雲の上に何かが頭を出そうとしていた……。
田貫湖キャンプ場に到着。湖岸の広々とした芝生の広場にテントが点在している。休日なら、たぶんテント密度がぎゅっと上がるのだろう。
そして背後に遂に富士山が姿を現していた。計算通り! と思わず呟きたくなったほど。冠雪の無い地肌の富士山ではあるけれど、青々とした夏山からは一変した秋の富士山。
キャンプ場を縦断。湖と富士を見ながら過ごすホリデーキャンプとはなんて贅沢なことか、などと思いながら歩いていく。残念ながら自分はキャンパーにはなれなかった。
ふれあい自然教室への分岐。と、そこに東海自然歩道の標示。ここで、休暇村富士で遊歩道に下りるのではなく、ふれあい自然教室まで進んでから遊歩道に入るのが公式のコース採りだったということを知る。
そんなわけで、短いながらも再び東海自然歩道上を歩くことになった。すぐに展望テラスに到着。これで田貫湖一周の完成。
――テラスには誰もいなかった。暫し富士山の眺めを楽しむ。
頃合いを見て、富士休暇村に上がる。建物を回り込んで玄関横にある富士休暇バス停でバスを待つ。
2分ほど遅れてバスがやってきた。乗り込む。乗客は3名ほど。
後はバス旅。田貫湖南バス停を過ぎると森の中を急激に下り、芝川を渡ると再び上り。林を抜けると、高原の光景へと変わった。富士山は――良く見えている。ただ、山体の南側に厚い雲をまとっている。南下するほど、富士は見えなくなっていくだろう。
確かにそうなった。
PM5:09、富士宮駅バス停に到着。駅からJR身延線に乗車。混んでいて座れなかったので車窓を眺めていた。富士山は雲の中。
富士駅に到着。JR東海道線に乗り換え。淡い夕焼けが西の空を染めていた。――ここにきて、歩き切ってしまったことに少しだけ寂しさを感じていた。