- 芝川の水を辿る道 -
【踏 行 日】2024年9月下旬
【撮影機材】OLYMPUS OM-D E-M1markⅢ, M.ZD12-100F4, M.ZD8-25F4
実りの秋-―そういえば「実年」なんて言葉もあったけど、どこへ行ってしまったのだろう……?
猛暑が続いた今年の夏、計画有休がたまたま初めて列島の南に下がった日に当たるという幸運。この夏はゲリラ雷雨や台風や南海トラフ警戒やらで結局どこにも行けなかった。溜め込んでいた運をここで使えたならラッキーだ。
……なんてことを思いながら身延線の列車に揺られる9月下旬の朝。
富士宮駅で下車。バスの発車時刻まであまり余裕は無い。西富士宮駅にも立ち寄るバスなので始点バス停から乗車する必要も無かったのだけど、始点から乗りたいタイプなので。
乗客は3~4人。なので最後部座席に陣取って、いつものように車窓からの景色を楽しむ構え。
バスは発車後、暫く市内を走り抜け、やがて芝川流域との境にある丘を一気に駆け上がり始めた。これは予想外の道採り。右方、富士宮市街を手前に富士山西麓の壮大な光景――
もっよも、富士山は完全に雲の中だった。つい1時間前まで山頂が見えていたのに……。今日歩くのは静岡バイパスコースの最終区間、なのでぜひ富士山に見送られたいのに。
バスは林間へと突入、すれ違い困難なほどの細道となった。あれ?登山バスに乗っていたのだっけ? 峠を越えると雰囲気は一変。乗客も自分1人だけに。
バスは芝川流域に向けて緩やかに下っていく。黄金色の稲穂が揺れる里光景。
AM8:55、柚野支所バス停で降車。上柚野へ向かうバスを見送る。
――完全に秋の空気。風の肌触りから違う。高度は200mに過ぎないけれど、気候も明らかに都会とは異なっているのだろう、田の畔には彼岸花が並び、刈り入れの近い稲穂が頭を垂れている。このような日和に歩きに来れたことに、まず感謝。
歩き出す。国道469号と標示された路地を選択、坂を上っていく。国道なのに細道で、車の往来も無い。正面に見える白い建物に「柚野小」の文字。
小学校の正門の脇に諏訪八坂山神社の鳥居……と、校舎にジャージ姿の子供たちが見え隠れしていた。時折、歓声も聞こえる。そうだった、今日は平日だった。そそくさと神社の境内へ。
境内の裏を東海自然歩道が抜けている。3ヶ月前、蒸し暑さに苦しみながら到達し、身体に鞭打ちながら桜峠に向かった道だ。今日はここから。
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AM9:06、国道469号を桜峠の方向へ向かって歩き出す。
――すぐに右折。水路脇の道となった。この水路は前回の下柚野からずっと一緒だったもの。やや高いところを流れるので右方に見晴らしが開ける。
その通り、すぐさま右方に雄大な景色が広がった。富士山もやや雲から出ていた。前回も思ったけれど、田園光景と取り合わせた富士山はあまりイメージが無い。しかも黄金色の田と富士山。
道祖神のあるT字路で左折、正面に正法寺の山門が見えた。
その門の前にコース案内。コースは水路脇の緑道が示されていた。
水路とともに林の中へと入る。流れは急で水音が耳に心地よい。そういえば富士北麓の本線コースにも用水路沿いの道があったっけ。どこまでもフラットで、歩きやすい小道。
水路はうねりながら伸びゆく。
林を抜けると石垣。その奥にあったのが……延命寺。幾つ目の寺社だろう? この水路脇には富士山に相対するかのように幾つものお寺が現れる。東海自然歩道、らしい道。
延命寺を過ぎると再び右側に田園光景が開けた。田の畔には彼岸花の真っ赤な縁取り。
と、防災スピーカーが音声が流れ出した。この、ゆったり具合がなかなか味があるのだよな、なんて聞き流そうとしたら……内容がとんでもなかった。
「今朝7時45分ごろ桜峠付近で熊の目撃情報がありました」
桜峠って……つい3ヶ月前に歩いたところじゃん。稲子駅へと向かう東海自然歩道のコース上だ。峠道とは言え国道、そんなに山深くなかったけど……。
クマ生息地と知って少し気が引き締まる。一方、目の前の情景は平和そのもの。風も穏やかで陽射しはポカポカ、まさしく歩くための季節。
民家が目立つようになってきた、と思ったら別の道にぶつかり、クランク状に曲がる。中才生活改善センターを過ぎて再び水路と一緒になる。
――少し山が近づいて来たような気がする。左手の山稜は高度600m程度だけど、進行方向にも段丘面の緑。今日目指すのは高度660mにある田貫湖なのだから、この平坦な道が長くは続かないのは分かっている。
中才上組の道祖神を通過。
民家が少なくなり、山里の雰囲気になって来た。と、定林寺に到着。
さて、ここは……右折らしい。長らく一緒に進んできた水路に別れを告げ、緩い坂を下り始める。途中に首なし地蔵。
2車線の車道に当たった。県道75号だ。ここを……左折? ポール型の道標の方向指示がどうも分かりにくい。
県道を歩き出す。車はたまにしか通らないので静かだけれど、まっすぐ歩くだけで単調な道のり。
――左になにやら古い石碑が立ち並んでいた。その隣にあったのが上柚野バス停だった。バスが通うのはここまでか。
過ぎて、いよいよ芝川流域の深部に足を踏み入れた感。道の傾斜も増してきて、道脇に並ぶ田んぼも棚田といってよいくらいの段差になってきた。
道脇には再び水路が現れた。ついで車道から中央線が消えて、一車線に。
――山里の雰囲気が濃くなってきた。開放的な道だけど、地形がデコボコしてきた。雲が無くても富士はすっきり見えないだろう。
右に養鱒場の生け簀を見た後、大倉川を渡る。道はカーブばかりとなり、高さも出てきた。河岸段丘を1段上がっているようだ。右手に芝川流域を眺め下されるところも。
山あいの棚田地帯。ただ、田に稲穂は無く雑草ばかり。そんな中、赤い彼岸花だけが目立つ。草原を挟んだ向こうには常境寺が見えた。
――今年は「令和の米騒動」。夏の中盤から近所のスーパーでもコメが無くなり、餅や麺類ばかり食べていたほど。山里を歩くと昔は田だったのだろうなあというところを良く見るけど、少し切ない。
また橋が現れた。観音橋とある。流れるのは芝川か。これまた随分と細くなったものだ。
道標があって白糸の滝まで9.3kmと標示されていた。時刻は――AM10:12か。想定より捗っていない。でも今回はそう急ぐことも無い。
橋を渡らず左方の道へ進む。すぐに真っ赤な屋根の建物が現れた。千光寺だ。
引き寄せられるように立ち寄る。
――とてもコンパクトなお寺。季節と相まって雰囲気が素晴らしかった。でも、この千光寺が最後に訪れるお寺。人里区間はここまで。
再び歩き出す。道は急な上り坂。今日初めて「上っている感」がある。左方に再び芝川流域が見えていた。これで見納めか。
ひとしきり上ると道は右に大きく旋回を始めた。
曲率の一番大きなところに橋。ただし、その下に水面はなく、あったのは太いパイプ。導水管だ。水力発電用?と思って地図を確認すると、確かに大倉橋近くに大倉川発電所があった。そこまで水を運んでいるのだ。
道は導水管と併進するようになった。
緩い上り坂。左右はヒノキの林で、青空がV字型に切り取られているという馴染ともいえる光景。この光景は地域を問わず見られるもの。
導水管は離れていったようだ。林を抜け、高原のようなところへ出る。人の手の入っていないような原野。
そして再び林の中へ。今度の林は濃くて空は全く見えない。しかも進んでいくと下り坂となった。
前方に橋が見えてきた。
橋を渡ったところに「川久保水位観測警報所」。その先から上り。ヘアピンもあって本格的。ここは足を使うところ、とペースを落とさず上っていく。汗が噴き出る。
勾配がやや緩む。一瞬、林が切れて民家の前のようなところに出たけれど、すぐにまた林。尽きることは無さそうだ。
……と、思ったら。建屋――公衆トイレ? コース案内板も立っている。東海自然歩道の設備だ。
佐折分岐まで4.8kmというのを確認し、再び歩き出す。時刻はAM10:52。
――この林が1時間続くのか、と思い歩いていたら雰囲気が変わって来た。時折、雑木林が現れるように。
自然林に変わったというのは人里から離れたということでもある。日当たりも良くなり、勾配も下り気味に。緑の中を気持ちよく歩いていく。
別の車道に突き当たった。左折。全面通行止めの工事予告標示があったけど……今日は該当日ではなかった。
でもその先の路上で数人、作業をしている人達が。ただ、重機はない。会釈して通り過ぎる……と、分岐。手前にあった道標は直進を示してそうな。
けれど、そちらの道には「危険」の標示。念のため、と橋を渡り分岐のもう一方の道も偵察してみるものの、特に迂回路設定されているような兆しはない。
では、と「危険」な道に突っ込む。沢沿いの道で、確かに車にはキツそうだけど歩く分には全然。ただ、また緩い上りになっている。
変わり映えしない光景が続く。どうやら空は曇ってしまったようで、木漏れ日も消えている。ずっとこんな感じなのかなあ、と思っていたら何かが現れた。
さおりの泉? 初めて聞いた。もちろん、東海自然歩道の案内にもない。地域住民の手作りスポット感。
……ともあれ、長距離歩いてきての休憩場所にはお誂え向き。朽ちてなく人手が入っていることだけでも有難い。
再び歩き出す。このあたりは遊歩道などもあるようだ。深い林の中だけど、歩きに変化を付けるには良いところかも知れない。
再び何もなくなった。路面の状態は良くなったけれど、代わりに分岐が幾つも現れるようになる。ただ、分岐には大抵道標が立っているので迷うことは無い。このあたりは流石、富士宮エリアと言ったところ。
下り始めた。道脇にはヒノキだけでなく広葉樹も見られるようになってきた。野草の花も多く見られるように。
最後、ヘアピンカーブをクリアした先に現れたのが……登山口? PM0:08。
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天子岳登山口を含む4叉路になっているここが佐折分岐だった。直進すれば田貫湖、右折すれば白糸の滝で、そちらは往復4.0kmの寄り道となる。
――躊躇せず右折、急坂を下って行く。公式コースが白糸の滝まで伸びているのだから辿らないわけにはいかない。沢を橋で渡り、ひと登りすると林から抜け出た。久しぶりに空が見える光景。
左折し、二車線の車道をさらに上っていく。右には田、左には畑。
高度は500m程度で、高原というより丘陵地という雰囲気。民家も点々と見える。ただ、車道は単調で、まっすぐ歩いていくだけだ。連絡路の趣。
佐折の石幢を過ぎるとまた緩い上り坂となった。……と、交差点に当たった。横断歩道を渡って、交差点の角にある立石商店の自販機で飲み物購入。昼時なので暑くなってきた。
その先に立石バス停。いよいよ白糸の滝メインロードか。
道が大きく左にカーブを切る。と、同時に下り坂に変わった。正面に現れたのが巨大な富士山――の裾野だけ。やっぱり昼間は雲が懸かってしまうか。仕方ない。
その富士山を目掛けて下って行く。せまっ苦しい林間の歩きが長かったので、かなりの開放感。そして、右手に巨大な駐車場が現れた。1台も停まっていないのは今日が平日だからか。
そして、白糸の滝バス停。ここが枝線コースの末端。PM0:33。
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