- 志太平野・静岡平野を接続 -
【踏 行 日】2023年5月下旬
【撮影機材】OLYMPUS OM-D E-M1markⅢ, M.ZD8-25F4, M.ZD40-150F2.8
乗っていた新幹線がスピードを落とし、通過駅の手前で静かに停車した。
……あ、これヤバいやつだ。静岡駅での乗り継ぎにあまり余裕は無いから、途中停車してしまった時点で今日の歩行計画は白紙だ。
そう思って即座に計画変更の算段を始める。……それにしても、残しておいた静岡バイパスコースを歩こうと思い立ってやってきた初日にいきなり出鼻挫かれるとは。しょせんバイパスコース、いつでも歩ける、と舐めていたのがいけなかったか。
ほどなく列車は動き出した。
「車両点検を行なった列車があったため」という遅延理由のアナウンスを聞きながら静岡駅に到着。在来線乗り換えの改札を潜りホームに上がるものの、予定していた列車は既に出てしまった後。
次発の浜松行き列車に乗り、藤枝駅に到着したのは予定より12分遅れ。駅北口に出るものの、乗りたかったバスは跡形も無かった。そこで、停まっていた静岡駅行きバスに乗車する。……そう、予定を組み替えたのだ。むかし東海自然歩道を歩いていた頃と違って、今では電車内でもネットを使って計画立て出来るのだから隔世の感だ。
もっとも、新たな行先が定まったのはつい5分前。
バスが発車する。主要駅を結ぶ路線だけあって乗客はそこそこ多い。
市街地を抜け、瀬戸川を渡ると見晴らしが良くなった。志太平野だ。いつも新幹線で通過するばかりで、ここを目的に訪れたことは無かった。東海自然歩道本線も北面の山の中を貫いている。
――その北面の山が近付いてきた。朝比奈川を渡ると街道みたいな町並に。……と、「次は岡部支所前」のアナウンス。降車ボタンを押す。
4~5人のおばちゃんの団体と一緒に降車。あれ? ここって観光地? と思ったら目の前に案内所が。ここは旧東海道の岡部宿。電車の中で、そこまで調査出来ていなかった。
さて、どうしよう? とりあえずコース屈折点の若宮神社へと歩き出す。岡部川を渡り、朝比奈川の河岸遊歩道に。
――今日はこの川沿いの道を向こうからやってくる筈だったのに。よもや歩き出す起点になるとは……。
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AM9:25、若宮神社。階段を上がって、参拝をしてくる。
車道に戻り、岡部川を渡って左折、自転車・歩行者専用道に。太平洋岸自転車道にも指定されている道だそうだ。渥美半島や先志摩半島でも見たっけ。
道標を見て右折すると岡部総合案内所。東海自然歩道のコース案内板が立っている。その前が岡部支所前バス停に戻る。そのまま県道を北上。
信号のある岡部支所前交差点。ここで県道から1本東の路地に入る。そう、こっちが旧東海道。もっとも、少し旧街道の雰囲気があるかな、って程度。まだ朝早く観光客が少ないせいでそう思えるのかも知れない。
街道を北へ向かってあるいていく。……それにしても今日は天候が優れない。天気分布予報ではこのエリアは晴れていた(からこそ選んだ)のだけど、雲は切れ目なく空を覆っている。歩き易い気候であるのは良いのだけど、雨が降ったら困るなあ。
街道は結構長い。ただ、あまり見所も無さそう。
正應院の先、高札場跡があったけど、説明台の先は駐車場。さらに進むとごくごく短い石橋があって、説明を見ると姿見の橋とある。かつて小野小町が、ってあるけれど、ほんと小野小町は日本中にいるなあ。
それにしても、今日は歩くペースが分からない。バイパスコースを歩こうと思い立った時にコースを適当にぶった切っていたので終点は分かっているけど、果たしてどれくらいの距離だったか……。
県道208号に突き当たった。そして、そのまま県道歩きとなる。
……じゃあ柏屋はどこ?と思ったら前方に公園が見えてきた。岡部宿公園とある。その隣に岡部本陣跡。扉が開いている。入る。
本陣跡はただの広場だった。井戸があるくらいだ。跡なのだから当然か。ただ、左になまこ壁の建物群が見える。どうやら、あっちのようだ。
そちらに向かうと観光客がパラパラといた。カフェや土産物屋もあって、観光拠点でもありそうだ。大旅籠柏屋の前には水琴窟もあって、管に耳を当てるとトン、カン、と澄んだ音が聞こえた。
少し長居したくなるような場所だけど……
なにしろ、ペース配分が分からない。まだ序盤なので先を急ぐことにしよう。
再び県道に出て北に向かって歩き出す。すぐに左に側道が現れ、旧東海道はそちらという標示。静かな道になってホッとする。
専称寺の門が見えたけど立ち寄るのは止めておく。岡部橋を渡って右折。
――県道への合流に向かっているようだ。と、左に笠懸松入口の手描き標示。
そちらに進むと藤枝市の解説板が立っていた。「15分ほどで行けます」とある。どうも、あるのは小山の上らしい。
――それはむしろ有難い、平地歩きは飽きてきたので。登山道に取り付き、急勾配を息を弾ませながら登っていく。
AM10:26、木立の中の小広場に出た。遊歩道が巡るものの見晴らしは無い。あるのは西行の弟子・西住の墓ぐらい。
と、「お線香あげる?」とオバちゃんが声をかけて来た。聞くと、毎日のようにここに来て掃除したり花を育てたりしているとのこと。ただ、「イノシシやシカに荒らされちゃってね」
笠懸の大松も随分前に病気で枯れてしまったそうだ。新しい松を植えたいけれど、と。
ここの管理を任されてから20年経ったけど引き継いでくれる人がいなくてねえ、と寂しげ。日本はどこでもこんな話ばかりだなあ、と思いながら別れを告げ、山を下りる。……少々長居してしまった。でも、問題は全くない。
コースに復帰してすぐ、県道に合流。そのまま山に向かって歩いていく。
途中、十石坂観音堂に立ち寄る。……そういえば笠懸の松からここまで遊歩道があったけど埋もれたと言ってたっけ。眼下には車の往来激しい現・東海道。
県道をさらに東へ。岡部川に沿って太平洋岸自転車が通っており、車道と分離されているので安心して歩ける。走ってくる自転車も見当たらないし。
と、左に道が分かれていく。道標を見て少し迷ったものの左折。車の往来がほとんど無くなった車道を歩いていく。いったん離れた筈の岡部川が右から近付いてきた。旧東海道はこちらのようだ。
左側は山壁の緑になった。車道も細くなって曲がり始め、山の中へ分け入っていく。上り坂が続くようになり、やがて右手の視界が開けて峠をトンネルで貫く国道1号が下方に見えた……ってあれ?
地図を広げる。コースは国道1号の反対側にあった、ということは右折ポイントを見逃したということ。結構登ってきたのに、と、踵を返して車道を駆け下る。なんだかんだで、もうお昼時。日の長い季節ではあるけれど、道迷いしている時間など無い。
右折を示すポール状の道標は坂の始まりに立っていた。反対側からだと道脇の障害物の陰になって見えなかったようだ。目の前の坂に意識がいってしまっていたのだろう。
今度こそ曲がると、すぐに国道1号。流石に多くの車が行き来している。廻沢口歩道橋に上って前後を確認。――道の駅は山側すぐ左手に見えた。思っていたより小ぶり。
その宇津ノ谷道の駅に到着。PM0:00ジャスト。
……道の駅は別に車専用の施設ではなく、道を歩いている人にとっての「駅」でもあるのだろう、なんて思ったりしたものの部外者感は否めない。自販機で飲み物を補充したぐらいで出発。
道標は駐車場の外れ、草に埋もれるように立っていた。その指示に従い交通量ゼロの側道へ進む。国道1号をトンネルで潜ると雰囲気は一変、山里のような雰囲気に。
T字路に当たる。「蔦の細道」の石碑を見て右折。古道区間が始まったようだ、とは言え車道。あまり風情は無いかも。
坂下地蔵堂。ここで少し逡巡する。コースは直進だ。……ただ、左側にいい感じの「明治の道」が伸びている。
そもそも明治のトンネルへ向かうのに明治の道は迂回するなんて、と、頭の中で言い訳を組み立て……
明治の道に突入。迷い道はダメだけど寄り道はOKという謎の論理。薄暗い坂を上がっていくと、国道1号と同じ高さに出た。なおも上がっていって歩道橋に接続する。これは……明治の道を残すために作られた歩道橋?
その上からは宇津ノ谷トンネルの入口が眺め下された。トンネルを正面から見下ろすなんて、なかなか無いこと。反対側は藤枝市へと国道1号が伸びていく。なんというか……現代の道。
歩道橋を渡り切ると、その足元から山道が始まっていた。漠然とレンガ敷きの道を想像していたけれど、実際は草ぼうぼうの山道。
登っていく。
途中、幾つかの解説パネルが並んでいた。今日は見掛けないけれど、けっこう歩く人が多い道なのか。
あずま屋のある小広場も草生していた。春も終わりという感じだ。丸木階段を上がっていくとコンクリ道に当たる。その上り坂を進むと明治のトンネル手前のT字路に。
――そこまでで引き返す。坂下地蔵堂に戻り、手持ちの時間が20分減ったことを確認。
PM0:40、坂下地蔵堂前から宇津ノ谷峠越え開始。まずは蔦の細道を辿って坂道を上がる。「つたの細道駐車場」の標示手前で蔦の細道から外れ、左に逸れるダート道に入る。こっちが旧東海道。
勾配は一気に急になった。一生懸命上るものの、あっけなく息が切れてくる。江戸時代の人たちは鼻歌交じりで峠を越えたんだろうなあ、なんて思うと情けなくなる。
大きく左に曲がり、さらに上っていく。髭題目碑を過ぎると左側が竹林になって少し明るくなった。
……と、分かれ道。峠まで登りたいのは山々であったけれど、東海自然歩道は下っていく道。
旧東海道とも分かれて下っていく。目の前に見えてきたのはT字路。そこには明治のトンネルの案内が立っていた……って、さっき「明治のみち」を辿って訪れた地点。ようやく、この先に進める。
坂を上っていくと隧道の入口が現れた。トンネルの中は明かりが点いていて雰囲気がある。壁面がレンガだからだ。少し旧天城トンネルを思い出した。
明治のトンネルの中へ。確かにこれはタイムトンネル感がある……。
トンネルを抜けると駐車場があった。観光客はここに車を止めて周遊するようだ。そんな観光客があたりに何人かいる。天候があまり良くないのが残念だろう。
突き抜けて、車道を下っていく。眼下に宇津ノ谷が広がった。狭隘な谷の狭間に人家が密集している。これはこれで結構な隠れ里感。
旧東海道の峠から下りてくる道と合わさり、宇津ノ谷集落の最上部から階段で下っていく。
――確かに明治のトンネルを抜けてこの集落に下りるのは、ちょっとしたタイムトリップ演出。最初は東海自然歩道が峠を越えないのが不満だったけれど、このコース採りは正解だと感じた。
路地には観光客がパラパラと見えたものの、あまり観光地っぽくはない。あくまで山あいの静かな集落。
路地の中央あたりに「日本遺産」の案内が立っていた。それを見てコースを外れ、いい感じの路地を抜けて慶龍寺に立ち寄る。一気に突き抜けてしまうのが勿体なかったので。
再び路地に戻って思案。――ここは間違いなく今日のコース前半の最大の見所だ。でも、いかんせん小さな集落で、立ち寄れるようなところが無い。
村中橋を渡ると集落は尽きた。
普通の山中の道となった。と、左から県道208号が合流。この県道、今日何度目の合流だろう?
淡々と県道を歩いていく。……なんか、今日歩くコースの中間点にも達していないのにもう昼下がり。不安になってきた。
分岐が現れ、左折。丸子川と一緒に下っていく。
前方に橋が見えてきた。……橋? いや、歩道橋だ。
その上り口まで到達。そこにあった道標の「道の駅宇津ノ谷峠」方面の矢印が真上を指していた、というわけで歩道橋を上がっていく。
2つほど踊り場をクリアして橋の上に上がる。――弓の形状をした歩道橋。しかも飾りなのかどうか分からないけど綱で懸垂されている。ちょっと珍しい。
歩道橋の上からは静岡平野に下っていく国道1号が良く見えた。峠を越えて静岡市に入ったのだ。右側には下り専用の道の駅が見えている。藤枝市のそれより段違いに大きい。
歩道橋を渡る。――東海自然歩道が国道1号を越えるのは逢坂峠と鈴鹿の坂下だけかと思っていたけれど、今日、宇津ノ谷峠にもそれがあったことを知った。バイパスコースとは言え、天下の一桁国道との交差。やっぱり感慨深い。
渡り切って、国道脇の歩道に下り立つ。
そのまま下っていくと直ぐに宇津ノ谷入口バス停。藤枝駅~静岡駅を結ぶ路線だ。バイパスコースは流石に交通アクセスが楽なようだ。
――もちろん、ここからバスに乗って帰ったりはしない。右折して橋を渡り、道の駅へと到達する。
ここで今日の歩く予定の半分。ただ、思ったよりずっと時間を食ってしまった。果たして明るいうちに用宗駅に到着出来るのだろうか……?
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