←前のコースへ戻る |
![]() |
大桑川と一緒に進む。
周囲は田園も多いけれど民家も多い。もう、あまり山里、という感じはしない。このまま岐阜まで繋がっていそうだ……実際、そうなのだけど。
途中、芦洞川コミュニティーパークなる親水公園があった。その案内板によると、東海自然歩道に「花街道」と別名が付いている。花の区間はもう少し先から始まるらしいけれど……期待して、良いだろうか?
上斧田バス停前のタバコ屋に自販機があって、ここでも飲み物を購入。
斧田では一本の角柱道標があって、四国山公園が緑の字で示されていた。ここもうっかりしていると見逃しそうだ。とにかく、距離0.3kmとのことで、伊自良湖とは違って大した寄り道じゃなさそうだ。
道標に従って県道を離れ、山際に沿って進む。左には教会。右に……白いドームが見えてきた。
前方に田んぼしか無くなったところで右折、すぐ四国山香りの森公園の入口。
PM2:48、四国山公園に到着。
香り、がテーマらしい。ハーブが植えられ、香り会館やティーハウスがある。ペットを連れての入園禁止、とあるように自然公園ではなく、人造公園だ。高富・伊自良支線コースの目的地にするにはちょっと、味気ないかも知れない。
山際へ進んでいく。さすがに平日のこの時間、ほとんど人の姿は見当たらない。あまりゆっくりしている時間は無いけれど、高台にまで上ってみよう、山の方へ進む。
途中、園内の工事をしているお兄ちゃんに「コンニチワ」と声を掛けられる。上空には鯉のぼり……ただ風が無いのでしな垂れていて、イマイチ元気が無い。
階段を上ると、あずま屋。見晴らしは――さほどでは無い。稜線の山道を上って行く。そう、今日初めての山の道。
……にしてもその桜にも元気が無い。やや散り掛けではあるけれど、川沿いの桜のモサっと花の付いた木々と比べると、花の密度が薄い。
道脇には寺名の付いた祠がポツンポツンとあって、ミニ四国八十八ヶ所巡りが出来るようになっている。四国山、という名前はここからきているのだろうか?
――東海自然歩道では、華厳寺でミニ西国三十三ヶ所巡りが出来たことを思い出す。でも今日はさすがに88ヶ所も回ってはいられない。
稜線を上がっていくと、とりあえず小さなピーク。あずま屋があって、見晴台のようになっている。
――あまり見晴らしは良くない。鳥羽川流域が木々の枝の間から望まれるのみ。標高は100m程度なのだから、こんなものかも知れない。
少々物足りない感があるけれど四国山公園はここまでとする。コースに戻るために道を下りていく。
と、その人が現われた。「こんにちは」「コンニチワ」挨拶を良く掛けられる地域だ。「どこからいらしたんですか?」今度は続けて質問が来た。
年齢は自分より上のオジサン。その人も代休をとって平日からこんなところに来ているらしい。地元の、まさにこの郷土の人。
結果として、その人からは色々なことを教わった。とても端的なレッテル張りとなるけれど“行動派のアマチュア郷土史研究者”……実のところは、どこにでもいるような話好きのオジサン。
ただ、話題の掘り下げ方は尋常じゃなくて、四国山の名前の意味や、大桑など様々な地名の意味、この地にどこから人がやってきたのか、過去にこの地でどんな歴史的確執があったのか、山と寺社の位置と風水的方角との関係、この地に咲く花と時期などなど。とてもディープな話ばかり。
非常に申し訳ないのだけれど、今まで日本のあちこちの自然歩道を歩いていて、これほど深くその通過しようとしている地のことを教わったことはなかった――いや、知ろうとはしなかった。通過者(パッセンジャー)の名のもとに、その時に目に見えるものだけ見て通り過ぎるだけ。ただ、それだけだった。
スナップショット、と言い方も良くする。カメラを構えるとファインダーフレームの座標はX-Y。それを、Z(奥行)軸の方向に30~40km分のカットを撮り重ねていくとそれはXYZの3次元の記録となる――ニンゲンが生きる4次元空間を、特定t(時間)軸でぶった切ったスライスの1枚。
それが、自分の長歩き紀行記の正体だ。世界を3次元で記録したい、という欲求の発露。
だけど、その人はXYZ軸を固定して、t軸方向に旅をする。――歴史に思いを「馳せられる」人は、それだけで自分の尊敬の対象となる。自分に持っていないものを、持っているがゆえに。
……とまあ、それにしては結構話が合ったりして、長話になった。最後には花の写真をみせてもらったり車に乗せてもらってこの地の史跡幾つかを案内していただいたりと、大変お世話になった。しがない東海自然歩道ウォーカー、という自分の立場は最初に明かしてあったけれど、車の中でどこまで歩いたのかと聞かれて「いちおう大阪から東京まで」と答え、凄いですねえ、という感想を貰った。それはそれで、続かない会話。
南泉寺まで車で送ってもらって別れる。一期一会の出会い。
四国山分岐の地点まで歩いて戻る。着いて、時間を確認するとPM4:37……かれこれ、もう1時間が経過していた。日も傾き加減だ。最終目的地にちょっと変更を加える必要がある。
さて、歩きの再開だ。斧田集落を通過し、途中、左側に南泉寺――さっき、来たお寺だ。大桑小学校も過ぎ、田園を突っ切る県道をまっすぐ歩いていく。
田園の中にポツンと奇妙な方角に家が建っているのをみて、あそこは昔、丸藪と言ってワザと藪地にして年貢軽減化工作をした名残なのだとか、ちょっとだけ過去方向の視点も得ていることに気付く――まあ一時的なこと。
交差点が見えてきた。
五叉路だ。東海自然歩道の道標があって、寄り道方向の「大桑城跡60分」が示されているけれど、肝心のコース方角が示されていない。とりあえず、県道をそのまま歩き出してみる。
――と、途中で左側に小道が併走していることに気付く。五叉路まで戻って、その道へ。東海自然歩道の道標は、やはりこちらにあった。
右側遠くには鳥羽川に立ち並ぶ桜が見えている。本当に、桜が尽きない川だ。道には、中学生生徒たちの自転車の集団。……そうか、もう下校の時間か。
南泉寺の次に道標に示されるのは三田洞弘法。しかも距離10k以上とある。さて、今日の最終目的地はどこに定め直そうか?
本当は、白山展望台のある小山に登って、長良川と金華山を見納めておきたかった。今日はもう、そこまでは届かない。
でも、やっぱり長良川が見たい……東海自然歩道にとって、長良川はキーとなっていることが何となく感じられるからだ。
そして、JRの夜行快速「ムーンライトながら」がこの春の時刻改正で臨時列車化してしまったことも気にしている。元々、青春18切符御用達の列車であったけど、その時期以外はガラガラだった。
東海自然歩道を歩き通すための列車、バスの便がどんどんと細くなっていく、その流れが止まらない。需要が無くなればサービスは止まる、至極当然の経済原理だ。
でも一方で、不況時の経済対策と称し、金をバラ撒いて立派な車道や箱物を作らせようとする。自然歩道を歩いていると良くそんなものに当たる。この国の国民は、自分たちが何を残したいのか良く分かっていないんじゃないか、と歯がゆく思ったりもする。それを目と耳と肌で確認するための術さえ失われていくのだとしたら……それは寂しいことだ。
よし、今日は三田洞の先、長良川まで歩こう――そう決める。
下ノ洞、登都ヶ洞を過ぎ、桜尾小学校を背後にする。このあたりは伊佐美という地域らしい。
橋を渡り、川の左岸沿いの車道を歩く――車の往来が一気に増えた。時間帯も関係しているのだろう。もうここからは南下一方。
川は鳥羽川と合流し、流量も一気に増える。橋を渡ってもう一度鳥羽川右岸へ。
鳥羽川沿いの道をひたすら進む。
というか片方向通行なので車が正面から突っ込んで来る。かなり危ない。いや、自家用車ならいいけれど、トラックが道幅ぎりぎりで走って来たりなんかすると、川側の路肩に退避するしか無い。
しかも平日夕方の帰宅時間、ひっきりなしの車往来。車が途切れると走り出して距離を稼ぐ。
橋の向こうからやってくる国道256号を横断すると、ようやく車の往来は落ち着いた。周囲は住宅地。日が翳った後の、静かな路地を抜けていく。
高富中央公民館の建物を右上に見あげながらさらに進む。このあたり、右に如来ヶ岳の斜面が迫るけれど、そっちにハイクコースは通っていないものだろか。
佐賀を抜けると山県市から岐阜市に突入。
……本当にもう見所が何も無い。この道は連絡路と割り切るべきだろうな、と思う。川内~四国山まではやっぱり本線より良いかも、と思っていたけど、四国山から三田洞の退屈な区間を考え合わせると、どっこいどっこいかも、と再判定を下す。
鳥羽川の先には百々ヶ峰の稜線が見える。東海自然歩道が通っている稜線だ。今日は、あそこへは登れない。
さらに歩くと、鳥羽川の向こうは金華山となった。その山頂にポツンと岐阜城が建っているのが見える。
鳥羽川沿いの道は遊歩道となって、犬の散歩連れやらウォーキングしている人やらが目立ってくる。町の光景だ。鳥羽川は相変わらず滔々と流れるだけ。
そして、ついに見覚えのある場所が見えてきた。ようやく東海自然歩道本線に合流だ。
PM6:05、月野橋に到着。本線・支線合流点。
![]() |
本線コースへ進む→ |
さてどうしよう? とりあえず鳥羽川沿いを直進。前に岐阜コースを歩いた時は、このあたり微妙にコースを外していたので、その歩き直しだ。
ススキの遊歩道を5分ほど歩くと二車線車道と合流、ここで180°転回。ここ、川沿いではなく車道直進が正解だったというわけで。
今度こそ、左へ。
すぐに指導標が現われ、川辺から一本奥の道に入り込む。
住宅街を通って右折、月野橋に戻った。――5分ほどの距離、歩き直してみても大して得るものは無かった。
ともかく、ここからどうやって長良川を目指そう?
考えながら、なんとなく本線コース上をそのまま歩いていく。
車で混み合う国道256号を通過、岩野田小学校を通過。
ここを通ったのは2年前なので、まだ最近という感じ。記憶に残っている。でも、小学生にとって2年の月日は大きなものだろうと思う。今、その校庭に子供の姿は無い。
小学校の外れ、石碑のある地点で右折。路地が細くなると――歩道橋の入り口が見えてきた。三田洞歩道橋だ。
この、ちょっと変わった歩道橋を楽しんで歩く。じつは少しだけこの歩道橋のファン。
三田洞歩道橋で2つばかり道を飛び越え、再び地面に降り立つ。
もうだいぶ暗くなってきた。この少し先でコースを離脱することにしよう――。
路地を進んでいくと二車線の綺麗な車道に出た。夕闇の中、左にバス停が立っているのが見える。三田洞弘法前バス停だ。時刻はPM6:42。
この交差点から三田洞弘法・法華寺までは直ぐだけど……今日はここまでだ。
東海自然歩道を離脱。
南に向かって適当に歩く。
車の交通量が多い。歩行者用スペースも無く、街灯も少ない暗い道で辟易。どうも、国道の裏道になっているらしい。夕方帰宅時刻の国道の混雑を避けるために、こっちの道を選ぶドライバーが多いということ。
もしかして歩行スペースがある筈の国道歩いた方が無難?
それも、山際区間を抜けると解消された。住宅街を抜ける何本もの路地のうちの1つを適当に選んで、南下を続けてゆく。ライトアップされ、夜闇に浮かび上がる岐阜城が方角の目安。
ただ、すぐ近くに見えるのに、なかなか近付かない。地図で確認したところ三田洞から長良橋まで4.5km、1時間の距離だった。岐阜城の見えないところでは、間違った方角に進んでいるんじゃないかと不安になる。
――夜の歩きはそんなもの。特に、今日は満月が見つめている。
PM8:00、長良川を跨ぐ長良橋に到着した。
その橋の北側の、ちょっとした公園。噴水や駐輪場、公衆トイレ、交番まである。ここで少し休憩して、橋を渡るための溜めを作る。今日は比較的ゆったりとした歩きであったけれど、10時間以上歩いているせいか足に疲労は積っている。
長良橋を歩いて渡る。
川面は見えない。人工照明の反射でそれがそこにあることが分かるくらい。闇の中に観光船(?)が並んでいるのも見える。
対岸に到着。
すぐに長良橋バス停。今日の歩きはここで終了。
――これで、東海自然歩道のおまけ一区間を歩き終え、本当に将来の歩行計画が無くなった。神奈川支線コースの残りはポツポツ拾っていくことがあるかも知れないけれど、静岡新コースはまったくの白紙。未来のどこかの時点、チャンスがあれば、ということになる。
でも……1,697km踏破を諦めたわけじゃない。
岐阜バスは直ぐにやってきた。乗車時には整理券も出ない。どうやら岐阜市内は定額料金らしい。
バスは市街化区域を4kmほど走り、終点の岐阜駅に到着。その岐阜駅前は工事が終わっていて、見た目のイメージが一新されていた。
――すこしずつ、日本の風景は変わっていく。