- 濃尾平野のその奥へ -
【踏 行 日】2009年4月上旬
【撮影機材】OLYMPUS E-620, ZD14-54F2.8-3.5II, ZD50-200F2.8-3.5, ZD9-18F4-5.6, ZD50F2, Panasonic LX-3
久し振りに東海自然歩道を歩こう――。
と言っても本線に続き、去年秋に恵那コース・山之辺コースを踏破してから2つしか季節は進んでいない。今は春爛漫の4月。
ただ、そのたった4ヶ月前がずいぶんと昔のような感じがする。じつは件の世界同時不況に直撃され、新幹線にホイホイと乗れていた時代は過去のものになりつつある。もうなかなか、日帰りの長距離自然歩道セクション・ウォークは難しいかも知れない。
とまあ景気の悪い話は置いておいて。ともかく今日は、歩き残していたあのコースを歩こう。東海自然歩道の支線としては4番目の長さを誇る『高富・伊自良コース』だ。鳥羽川に立ち並ぶサクラを期待して……。
大垣駅の樽見鉄道の乗り場が変わっていた。今はホーム西端。
窓口で鍋原駅と告げる。駅員さんの手許には大量の硬券が並んでいたけれど、それは全て樽見行き切符らしい。別のところから、手書きで丸付けされた乗車券が出てきた。
列車の最後尾から乗車。二両編成だけど、ずいぶん混んでいる。そう、今日は平日だ。乗客の半分以上が高校生。
列車は発車し、濃尾平野を北へ向かって快走する。車窓正面に見えるのは池田山。JR、揖斐鉄道、樽見鉄道――濃尾平野の角にあるこの山は、いつも列車の車窓に映ろっている。
北方真桑駅で高校生たちが降りていった。若者全員、と言ってもいいかも知れない。残された人々は……平均年齢65歳、と言ったところか。終点にある根尾谷薄墨桜を見に行く人達だろう。ただ、この時期ではもう、桜は散り掛けの筈だけれど。
――きっと、自分もまっとうな社会人と思われていないだろう。平日の朝から、こんなところにいるのだから。
休日出勤の見返りの代休日。だから、仕事の電話がいつ掛かって来てもおかしくないという、あまり心休まらない日。ただ、「(電波届かないから)山には行くなよ」という上司命令でも、東海自然歩道は山じゃないのだから、仕方無い。
列車は濃尾平野を脱し、根尾川と共に山の中へ入っていく。
サクラで色取られた幾つもの駅を後ろに残して列車は走る。萌木色の緑や菜ノ花の黄色で華やかな春景色。――やがて、山肌が左右に迫って来た。
AM9:07分、鍋原駅に到着。列車の一番前から下りる。降車客は自分ただ一人。去っていく列車を見送る。
階段を上がると駐車場があって、その先は……山里の風景そのものだった。右に「根尾川温泉」の入口。
車道に沿って南へ歩き出す。まだ朝なのだけど、どうも暑い。天気はすこぶる良くて、空も青空、まるで五月晴れだ。
鍋原公民館の先で国道157号と合流。ここには物産販売所もある。
しばし、国道歩きとなる。道が大きく左にカーブを切ったところで国道を離脱、下金原の集落に入っていく。
ここでいったん、職場に電話を入れようと思ったけれど――やめる。携帯のアンテナは3本。でも、目の前の風景と、殺伐とした自分の仕事場とでは世界が違い過ぎる。伝えておきたいことはあったけれど、まあ、伝えておかなくても何とかなるっしょ。
水の無い集落の田園を見ながら東に向かうと金福寺と白山神社。さらに東に向かうと――道が消えた。
しまった、県道へのショートカット道なんて存在しなかったようだ……。戻るのも癪なので急斜面の藪に突っ込む。崩れ落ちそうな土を踏み締め、草を掴みながら登っていくと綺麗な車道に出た。県道79号だ。
一転して、穏やかな車道歩き。
ただし、車の往来が思いのほか多い。30秒に1台ぐらい、結構なスピードで走り抜けていく。まあ、道幅が広いので危険は感じない。それに、道脇に多い桜の木が平和感を醸し出している。
金坂峠を越えると下りになって、カーブを切りながら山あいの盆地へ下りていく。道の左脇には桜。
その桜の合間から木倉の集落が見えてきた。そこには4月の明るい日差しが降り注いでいて、いかにも春の山里、と言った感じだ。
人の姿は見えない。代わりに、野鳥の鳴き声が喧しい。
道はフラットになって、集落を抜けてさらに南に向かって伸びていく。山あいを抜けると、再び小広い平地に出た。川内だ。
右に「東外山ふれあい広場」なる小公園を発見。脇には駐車場と公衆トイレもあって何かありそうだけど、別段、何があるというわけでも無さそう。八王子神社の断層、という石碑が立っているけれど、これだろうか?
公園を後に、再び一直線の県道を進む。前方に見えてきたのは……。
AM10:23に水車の回る湯ノ古公園に到着。2年ほど前に1回来ているので、今回は2回目。何も変わっていないように見える。
――ここはもう、東海自然歩道の本線上。もちろん、今日も前回と同じく神海駅から歩いても良かったのだけれど、せっかくなら多少距離が長くなっても別の道を歩いてみたい、というわけで鍋原駅からのアプローチであった。所要時間は、ざっと70分。
←本線コースへ戻る |
![]() |
ハリヨの泳ぐ湯ノ古公園。ハリヨというのはトゲのあってウロコの無い珍しい魚で、岐阜県西南濃尾地方(ココ!)と琵琶湖東部の一部地域(醒ヶ井じゃなかったかな)にしかいないとか。湯ノ古公園でも池の一部が半地下ガラス張りになっていて、水中が覗けるような趣向になっている。
――メダカとおぼしき魚ばかり。ハリヨは見付けられなかった。AM10:40、湯ノ古公園を後にする。
いったん集落の方へ近付いていくものの手前で右折。田圃のだだっ広い空間を進んでいく。
AM10:44、本線と支線の分岐点。
田園地帯のまっただ中。道標に示されるのは『本コース谷汲村方面 神海3.2km』『本コース岐阜市伊洞方面 鹿穴峠1.35km』『高富・伊自良コース 山県市 6.5km 155分』。
伊自良コースへ進む。ちなみに、6.5kmで到達できるのは伊自良湖まで。再び本線に合流してくるのは、24kmの道のりを歩き切った後になる。
右手は岐阜本巣ゴルフクラブの桜並木を見ながら、まっすぐに歩いていく。――季節は春。花が咲き乱れ、チョウが乱舞している。天気は良く、気候も良い、絶好のウォーキング・シーズン。
と、北方、山へ向かう方角を示す道標が現われた。
川内の田園地帯を後にし、山間に入っていく。木陰も出てきた。
――また、チョウが舞っている。ギフチョウ……では無さそうだ。今日はギフチョウの生息地を通るので、本線で見付けられなかったこのチョウも、ぜひ目にしたいものだ。
上り坂になる。林道はうねりながら高度を上げていく……と、言っても大したことは無い。
やがて勾配は落ち着いた。少しは展望があるかと期待していたけど、全く無し。もっとも、谷側には見晴らしがあったとしても見えるのはゴルフ場だろう。
とは言え、さすが春。道脇には色々と芽吹いている。退屈はしない。
緩い峠のようなところを越えた。と言っても、何も標示は無く、道もやや下り勾配になっただけで、相変わらず何も無い。
――もちろん、車一台通う気配すら無い。唯一、道の右手に草に埋もれかけた林道(?)完成碑があったけれど、それだけ。
前言撤回、退屈になってきた。
正午も近付き、気温も何か、初夏を思わせるような陽気になってきた。20℃は確実に越えているだろう。
白花のタンポポの咲いていた路傍の草むらで、しばし休憩。
山県市に入ったようだ。道は下り。岐阜県特有の、コース区分名の示された一本柱指導標も現われた……この道標は方角が分かりにくいんだよなあ。
林に深く入っていく。大きくうねると、分岐。県道を後にして名古屋洞という川(谷?)に沿う道に入る。
一転して、薄暗い。
右に小川を置きながら歩いていく。だんだんと林が開けたところが多くなり、人工物も目に付くようになってくる。
そうなると感じるのは暑さ。ペットボトル3本で鍋原から歩き始めたけれど、早くも半分以上消費している。まだ4月上旬と思って油断していた。伊自良湖では自販機があってくれるだろうか……。
道の状態自体は良く、歩き自体は快調。このまま、どこまでも歩いていけそうだ。
やがて、牧草地のようなところに出て、養鶏場の建物が見えてきた。直ぐに民家が密集する地帯。桃の花が咲いている。
県道に出る。矢洞だ。時刻はPM0:26。
コースはどっちだ……右折らしい。県道上を東に向かって歩き出す。伊自良川を渡ってすぐ左が縣神社。鳥居のバックに満開の桜があって、誘われる。
参道に進む。本殿の脇には涼の木。――それにしても、間近に見える伊自良川沿いの桜並木が綺麗だ。
あれ? 伊自良川?
先ほど渡った「かねいりばばし」には「伊自良川」と書いてあった。当然、伊自良川は伊自良湖から流れ出でるのだろうから――もしかして伊自良湖って逆方向にある?
地図を確認。確かにその通りだった。県道に当たったところでコースの逆方向へ向かうのが正解だったらしい。
「かねいりばばし」を渡り返して、伊自良川右岸の道に進む。薄紅色やピンクの桜が並び立つ、素晴らしい里道。さすがに、少しの間ココに滞留したい気にもなる……けれど歩みを止めることはしない。
伊自良川左岸に渡り、いよいよ湖に上っていく坂になる。
伊自良湖。PM0:46。
今日の目的地なのだけれど、想像していたほど大きい湖では無いし――想像していたほど多くの桜も無い。釣り舟の浮かぶ、山あいの静かな湖。
湖の一周も予定していたけれど、今日は止めておく。対岸の甘南美寺に寄るのも次回にしよう……次回があるか、分からないけれど。
一方、伊自良ダムの上から眺め下ろすとゲートボール場。歓声が上がる。その向こう、長瀧の集落。
来た道を戻る。
今度は県道まで真っ直ぐに出る。ここに指導標が立っていて、矢洞から県道沿いにここまで歩いて来るのがモデルコースらしい。
県道を歩いて戻る。やっぱり、伊自良川沿いの道の方が雰囲気はずっと良いと思う。淡々と歩いて矢洞で東海自然歩道に合流。道標を見ると、「伊自良湖 0.7km 20分」と緑の字で書かれてあった。やや読み辛いかもしれない。
橋を渡り、左に縣神社を見送ってさらに進む。
――路面のアスファルトが熱っぽくさえ思える。さて、伊自良湖には自販機は無かった。次はどこだろう?
県道は伊自良川と併走する。川の土手には桜がまだ並んでいる。
と、道が広くなって駐車場になった。フラワーパークすいげんだ。
色鮮やかな花時計がまず目に付く。平日の昼下がり、ベンチにはお年寄りの姿。そして、その向こうは伊自良川の桜――花盛りだ。
パターゴルフ場などもあるけれど、そう大きくも無い公園。マイカー観光客用のちょっとした休憩施設のような感じ。
県道歩きに復帰する。道標を捉え、川を渡って右岸の道へ。
目の前からスッと桜並木の二車線道が伸びる。サクラはもう見飽きた……とはならないのは何故だろう?
道の右にJAの建物。「遊楽舎いじら」の看板に野菜直売・レストラン・喫茶とまあ、なんでもあり。ただ重要なのは、ここに待望の自販機があるということ。早速、炭酸の清涼飲料を購入してがぶ飲み。生き返る。
下流に向かって、桜並木の間を抜けていく。桜尽くしの――東海自然歩道。
橋があって、伊自良川の左岸に戻される。
再び県道歩き。
――どうも、この先に山道はありそうもない。高富・伊自良コースは全線車道確定だろう。支線というと、都市化の進む本線の迂回する自然の多い道を期待してしまうけれど……。
最近は、地方の方が綺麗な車道が通っていて、その上を歩かされることが多いような気がする。
今回のコースは確かに桜が楽しめる。でも、歩くのが別の季節であったらどうだろう?
思い起こしてみると、本線コースを歩いていた時には、あまり桜の季節は歩いていない。霞間ヶ渓・笠置山という桜百選の地も時期を外したし、家山や牧田川の桜並木も季節が違った。高尾山に至っては時期はど真ん中だったものの、濃く真っ白なガスのお陰で桜の花の判別不可能であったほど。そういう意味で、今回は初の桜めぐりコースになるのかも知れない。
コース上に見所は少なくても、桜の季節というだけで結構楽しめる。それは確かだと思う。
民家の立ち並ぶ県道の先に交差点が現われた。上願坂口だ。
交差点は左折。桜並木が遂に尽きなかった伊自良川を後に、峠へ向かって歩いていく。
途中、左手にあったのが白山神社。集落から離れ、あまり詣でる人もいなさそうなところに建っている。
入っていく。雰囲気は良い。今日のお賽銭はここで使うことにする。
白山神社は今日2つ目だ。よく見かける白山神社だけれど、東海自然歩道上に同名の神社って幾つあるのだろう?
もちろん、白山神社は全国に何千とある。その総本山奥宮がある白山に登ったのは、もう3年近く前のこと。最近は高い山に登らなくなったし、その後に始めた自然歩道歩きもそろそろ収束しつつある。体力無くなったしなあ……。今日も全線、フラットな行程で、さほど体力を要さないコース。
白山神社を後する。ヘアピンカーブを交えつつ、今日2つ目の峠――海抜わずか140mほどの峠に向かって、上願坂を上って行く。
――勾配は緩い。もう少し急でも構わないのだけど、しょせん、車のために作られた道。人が歩きやすいとは限らない。
ほどなく峠に到着。何と言っても、路肩に石仏がずらーっと並んでいるのが目立つ。豈坂の石仏群だ。随分と数が多い。聞けば、元々ここにあったものではなく、移設されてここに集められたものとのこと。
峠から車道の続きを下っていく。もうこの先は、山県市高富町。
このあたり、ギフチョウ生息地ということでキョロキョロ見回しながら歩く。……いそうもない。こんな、時々車が走り抜けていく車道ではなく、もっと森の奥の方へ入らないと探すのも無駄そう。
自然観察路でもあれば、と思うけれど、コースは車道上一直線に引かれている。コース設定が単純で、機微が無い。
せっかく雰囲気のある山里区間なのだから、地元の里山巡りコースでも一部取り入れたら良いように思えるのだけど、なかなか、そうなってはいない。ちょっと勿体無いな、と思う。
もっとも、自分でコースを外れて歩けば良いだけなのだけれど、長距離自然歩道を歩き通すのを前提にした場合はそれも難しい。長距離自然歩道セクション・ウォークは綿密な計算の下に計画立てされてしまっている。ある意味、縛られた歩きで寄り道の余裕が無い。コースから外れた際に、再びコース復帰するのにどれくらい時間が掛かるのか不確定だからだ。
――林を抜けると、だんだんと民家が目立ってきた。
雉洞に到着、PM2:30。
右手には大桑川。そう、本線に合流するその時まで、ずっとお付き合いする鳥羽川のこのあたりでの名前だ。
![]() |
次のコースへ進む→ |