- 古の街道を往く -
【踏 行 日】2007年4月上旬
【撮影機材】OLYMPUS E-1, ZD14-54F2.8-3.5, ZD50-200F2.8-3.5, CASIO EX-P505
春の朝。笠置の地に降り立った。
――立ち並ぶサクラ並木。木津川から湧いているのだろうか、真っ白なガスが桜の花を朧げに霞ませている。見晴らしはスッキリしないけれど雰囲気は悪くない。……幽玄って感じ?
数人の降車客が足早に出口へと向かう中、少しゆっくりとホームを歩く。停まっていた列車が発車し、見えなくなると残るのは静寂のみ。
跨線橋に上がる。吹き通しなのはポイント高い。さてこの地はどんなところだろう?と最初に見晴らすことが出来るから。
正面に見えているのが笠置山だ。山肌にピンクの花をつけた木々が点在していて季節を感じさせている――とはいえ「桜の名所・笠置山」から受けるイメージからしたら地味かも。
駅から出ると、まず目に入るのは戦を繰り広げる数体の人形。鎌倉時代末期の後醍醐天皇を巡る戦いを表現したものだ。右手には栗栖天満宮の入り口の鳥居。つい20日ほど前に来たばかりなので、まだ記憶に新しいものばかり。
――ただ、すべてを覆い隠すようなサクラの花がそこに華やかさを付け足しているように感じる。さくら祭りの飾り付けも目に付き、昼になれば家族連れで賑わいそう。
ここは京都府。だから、このサクラは京都の桜。
……と、言ってもピンと来ない人は多い筈。なにしろ関西本線の奈良盆地から三重県の上野盆地へ向かう途中で下車したのだから、実感的には奈良か三重の山の中。
ただ、宇治、和束、月ヶ瀬と京都府の南端へ向かってずっと歩き、そして前回に月ヶ瀬から木津川を眺めながら笠置まで辿り着いた自分には、まだ十分に京都の延長に思える。風景にだって京都らしさが何となくあるような。(ないような…)
AM8:09、笠置駅の前から出発。正面の府道33号を伝って前回の離脱点へと向かう。
左の壁には笠置元弘の乱絵巻。店も幾つかあるけれど、時間帯が時間帯なのでまだ開いていない。
大手橋を渡る。
――この白砂川の下流は直ぐに木津川との合流点。その川面が見えている。サクラも見事に満開だ。そちらに向かいたくなるけれど、例によって今日も時間に余裕はない。
交差点が見えて来た。右折方向に「柳生」とある。そう、これから数時間歩いて向かう地は柳生の里。
すぐに交差点。角に笠置郵便局がある。ここから先が東海自然歩道。
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AM8:13、東海自然歩道の今日の歩きを開始。
府道4号を南へ。今日の針路はこのまま南へと進み、柳生から柳生街道に入って西南西へと変える。京都南端から奈良盆地へと抜ける旅。
すぐに左に笠置山登山口の標示のある側道。ゲートをくぐる。最初のカーブに「笠置山古道」とある遊歩道入り口。東海自然歩道の道標も立っている。
遊歩道へと進む
緩い階段。この時間、人の歩く姿は見られない。眼下に笠置の集落が見下ろせられるけれど、まだひっそりとしている。朝の川霧は少し晴れて、陽射しが届いているようなところもある。
――ただ、まだここまで陽射しは届かない。今日はすっきり晴れる予報にはなっていなかったけれど、サクラの季節は花曇りの季節。仕方ない。
地道へと変わる。登山道っぽくなってきたけれど道幅は広い。尾根に取り付くと勾配も出て来た。見晴らしの無い深い森の中をひたすら登っていく。
と、突然、車道に合流した。笠置寺まで上がる道だろうけど、細くてすれ違いが大変そうだ。でも、このまま車道歩きだろうか……と思ったら上り始めてすぐに左に歩道の続き。不愛想な「東海自然歩道」の解説板も立っている。「1350kmの道です」
階段状になった山道をひと登りで再び車道に合流。ショートカットだったようだ。旅館・松本亭の入り口とある。笠置寺はこの階段の先らしい。
階段の上で東海自然歩道の道標。「史の道ハイキングコース」という案内も立っている。というわけで、いったんコースから離れて笠置寺へ立ち寄り。わずか30mほどで山門が現れた。
AM8:40、笠置寺境内に入る。誰も見当たらない。拝観料を払って、とにもかくにも山頂部を一周する境内行者めぐりコースへ。なんと言っても今日前半のメインデッシュ!
鎮守社の先、鬱蒼とした森の中の遊歩道。早くも巨石が目立つ。
――ここで待望の陽射しが降り注いできた。雰囲気が一気に良くなる。ようやく朝霧が取れたか。
まさに山の朝という雰囲気の遊歩道を辿っていくと、正面に正月堂が見えて来た。その建物に圧し掛かるように弥勒磨崖仏――デカい。脇には十三重石塔も立っている。ここが笠置寺の核心。
その先に千手窟。ここも巨岩に挟み込まれている。さらに伝虚空蔵磨崖仏。本当に巨石の道だと感じる。
胎内くぐりを潜り、さらに太鼓岩を潜る。このあたりは行場っぽいかも。現代では良く整備されていて修行にはならないだろうけど……。
木漏れ日の中を進む。やや登りになり、突然、明るくなった。「ゆるぎ石」に到着だ。ここからも木津川上流が見下ろせるけれど、まだ高いところがある――。
岩に付いた階段を上る。そして、左右に木津川が渡る素晴らしい展望が開けた。これは本当に注文通り。足元には笠置の集落も見える。AM9:01。
やっぱり自分が歩いてきた道が見下ろせる、というのは良いもの。繋がっているという感じがする。でも、もし1時間ほど来るのが早ければ川霧の雲海が眺められていたかも知れないと思うと、それもそれで勿体ないという気も。
岩の合間を抜け、あずま屋のある二の丸跡を通過、そして展望台のような貝吹岩の広場に着く。こちらからは笠置の町が真下に見える。
もみじ広場に降り――葉は未だ芽吹いていない――ここで、しばし休憩。そして山頂にある後醍醐天皇の行在所へ。南北朝時代の皇居。後は大師堂を見て、行場巡りコースの入り口に下る。まだ人の姿は見当たらず、独り占めをしてしまった気分で何故か申し訳なく感じる。
毘沙門堂の前を通り、笠置寺の山門へ向かう。
AM9:39、東海自然歩道歩きを再開。まだまだ序盤戦だ。
薄暗い林間の山道を進み、やがて細い林道と合流、その先に広場があった。散りかけだけれど桜も咲いている。――そういえば笠置山は日本さくら名所100選の地だけれど、山頂部には桜の群生は無かった。
――まあ選定地が笠置山自然公園ってことなので、今日見たところ木津川沿いの桜並木がそれっぽかった気がする。ただ、もしかしたらこの先にも桜の名所があるかも知れない、と期待は残しておく。なんてったって今は桜の花盛りの季節。
林道を南へと進む。この笠置山南稜はかなりフラット。道がサクサクと捗る。
「笠置山 約0.8KM 柳生 約0.8KM」の道標。「史の道ハイキングコース」の案内も一緒にある。京都府は東海自然歩道の指導標置き換えを進めているようだけれど、まだ南部までは及んでおらず、ルートがイマイチ分かりにくい。
道標に従ってアスファルトの車道に出る。道幅は広いけれど車の往来は全く無い。
車道をベタに歩いていく。と、前方にゴルフ場が見えて来た。これはまた随分と丸見えなゴルフ場だこと。まあ、山の中なので秘匿性(?)は大した問題では無いのだろう。
ゴルフ場に沿うように進む。下り坂になってきた。数人のサイクリングのパーティーがすれ違う。今日はウォーキングにもサイクリングにも最適な気候。
鹿鷺橋を渡る。鹿鷺、で「かさぎ」か。京都府から奈良県へ突入。
県道4号に当たる。左折して川沿いを進むと細い橋の脇に「大和青垣国定公園」の標示。一緒に奈良県の東海自然歩道の道標もあって、この橋を指し示している。橋にも「東海自然歩道」の銘。
――県境を跨ぐと案内が一変するのが長距離自然歩道、というのが最近分かってきた。奈良県は道標多め。
阿対地蔵は幾つもの千羽鶴が印象的だった。AM10:27。
森を抜けて田園地帯の畦道に出た。のどかな山里の風景が広がっている。柳生の里だ。
県道4号に合流。そのまま道なりに歩いていく。左右に田が広がり、菜の花も咲いている。そして最初に右に曲がる角で右折――だと思うのだけど、ここにあるべき道標が無い。奈良県は道標が多いから、と安心するのは早かったか……。
さて、どうする? とりあえず右折。
やぐり橋の右に東海自然歩道の道標があった。もしかしたら打滝川の右岸の小道が正解だったかも知れないけれど、真偽は不明。とにかく橋を渡る。
道はカーブを描いて南へと針路を固定した。南北に細長い盆地なので、たぶん道を大きく外すことは無いだろう。笠置山で少しゆっくりし過ぎたので先を急ぎたい気があるのだけど、何度か足元の春景色に何度か捕らわれてしまって捗りはよろしくない。
……と、前方に城の天守のような建物が見えた。何か資料館的なものでは?と思って近づいたけれど普通の民家のようだ。さすが柳生、と変なところで感心。
さらに盆地の西山麓際を進む。古城山解説板を見て、その先にあったのが十兵衛杉の三方向道標。
……十兵衛って、あの柳生十兵衛? これは必見と言わざるを得ない、とルートを逸れ、細い坂道を上がっていく。
十兵衛杉は威厳のある杉の巨木であった。しかし枯れて真っ白であった。うーん、朽ちてなお、って感じか。
その背後の里風景はとても穏やかであった。十兵衛杉が日がな眺めている光景だ。ここで一休みをしたいところだけれど、なにしろ未だ本日の行程の2割にも達していない。ゆっくりしてはいられないのが現代人。
分岐に戻る。再び山際に沿って南進。
当たり前だけど柳生は普通の里。そりゃ剣豪っぽい人が大勢いて闊歩しているなんてイメージは持っていなかったけれど、それでもここまで至極、普通。
――ただ、この先が柳生の史跡や寺社が多くみられる柳生街道コース。予報ではあまり期待できなかった天気もここまで持ってくれている。このまま奈良盆地まで到達して若草山から沈む夕日を見たいもの。
国道369号の交差点を渡る。二車線だけれど信号機は無い。そして、右手に立派なお屋敷が見えて来た。あれが旧柳生藩の家老屋敷。
右折してそちらへ。高い石垣の塀を回り込んで長屋門へと上がる。
――さて、武家屋敷見物と洒落こめれれば良いのだけれど、足は反対側の休憩所の方へ。よっこいしょ、とベンチに腰掛ける。残念ながら、ここでは次の長丁場の歩きに備えて少し足を休めることだけしか出来ないのだ。AM11:04。
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