←前のコースへ戻る |
![]() |
PM3:03、本栖湖の駐車場から車道に戻る。トコトコと北へ進むと、すぐに右から東海自然歩道が合流してきた。なんだい、これならコース通り歩いた方が近かったじゃん。
とまれ、コースに復帰。そのまま車道を進むと右に公衆トイレ、左にもう1つの駐車場が現われた。コースの先は、その駐車場の北端に立つ道標が示していた。針路を西に転換。
湖岸歩きとなる。湖岸、と言っても岩の道。風があって、空気が少し冷たく感じる。左側には広い湖面があって、キラキラと輝いている。ここまで樹林の道ばかりであったので、どことなく新鮮な雰囲気。
でも遊歩道は再び内陸へと向かい、また同じような茶色の景色になる。パノラマ台への分岐を過ぎると広いダートの道に。
国道300号に突き当たった。コースはどこだ? 国道を横断して、さらに続いていた。国道を渡って、車止めの杭の間から木々の密集する森の中へ入っていく。
――どんどん森の奥へと入っていく。いよいよ富士山原生林、それも樹海と呼ばれる領域に突入していくのが実感される。
なので、そろそろと走り始める。
路面は幅広くフラットだし、土の道だし、気温も清涼、走るのには申し分ない。というか、樹海コースがこのような道であることが予想出来ていたからこそ、今日は短時間決戦の歩行計画を立てたのだ。いわば、この区間を走るのは既定路線。
ただ、あまり長く走り続けられず、走っては歩きの繰り返しになっていく。
思いの外、身体に疲労が募っている。前半、水分不足を押して急いだ反動かも知れないし、自販機のところで飲み過ぎたからかも知れない。どっちにしても、自業自得。
パノラマ台分岐で右折、パノラマ台の尾根である城山を回り込む道に入る。山際なので、いくらかアップダウンがある。
尾根の先端の城山登り口に到着。
そちらには登らず、代わりにすぐ先の国道139号を地下道で潜る。
――そして再び樹海の道。日差しはだいぶ傾いてきたものの、まだまだ森は明るい。青木ヶ原樹海には鬱蒼とした原生の森、というイメージもあったけれど、そんなことは無い。樹相の美しい、普通の森。
このまま樹海歩道が続いていくのかと思ったら――突然、森の奥に住宅地が見えた。車止めの杭を超えると前方に真っ直ぐ伸びていく車道。なんか、都市郊外の公園から出てきたような錯覚を覚える。PM3:52。
ここは精進移住地。樹海の中に開かれた長方形の形をした住宅地だ。ただ、やっぱり違和感は禁じえない。だって、極めて普通の住宅地。
住宅地の入口には道標があって、左折で精進湖と示されている。でも、それに東海自然歩道の文字は無し。コースは、たぶんこの車道を真っ直ぐだろう。
車道を歩いていく。右に道があると、その先には富士山が圧し掛かっているのが見える。剣ヶ峰は奥に引っ込み、代わりに白山岳が左端に現れているので右下がりの山頂。――その山頂の形で富士裾野のどのあたりに自分がいるかを把握するようになっている。
精進湖民宿村バス停(跡?)を通過。上九一色村の案内マップを見て、さらに進むと住宅地のもう一方の端に出た。
……さて、精進湖を見るならこの交差点を左折して寄り道だ。そして、今日はそんな時間的余裕がないことは重々承知している。富士五湖は全部見ておきたかったのだけれど仕方が無い。目の前に立つ東海自然歩道の指道標に従って、再び樹海遊歩道の土の道へと足を踏み出す。
富士山原生林の解説板。まさしく富士の青木ヶ原樹海のまっただ中だ。道には雪も現われた。さらには自殺防止呼びかけ箱も現われた……おいおい。
SILVAのコンパスを取り出して磁針が迷うか確かめてみようかとも思ったけれど、馬鹿らしいので止めた。
そして細いアスファルト道を横断。精進湖登山道?
精進湖登山道は昔、スバルラインの二合半あたりから五合目までを歩いたことがある。原生の針葉樹林帯であった。
それよりもっと下のこのあたりは雑木林。富士登山者は大抵、五合目以上の砂礫と岩の世界しか知らないのだけど、それは富士山の顔の1つに過ぎない、と改めて感じる。
ただ、そろそろ飽きてきた。
植樹林と違って樹林は多種多様、森が豊かなのは良く分かるのだけど、それでも同じような光景ばかり続くと視覚的に慣れてしまう。時間があれば色々と面白そうなものを探しに掛かるのだけど、今日のように小走り維持だと、それも出来無い。実際、日差しは目に見えて弱まりつつある。
と、国道139号の騒音が聞こえてきた。
道は整備良く、道幅も維持されていて自然歩道としては極上のレベル。ただ、誰一人出会うことが無いのは何故だろう? たぶん、午後遅い時間だからだと思うのだけど、じゃあ昼間はどのくらいの人が利用しているのか、気になる。今の季節も中途半端なので、新緑か紅葉の季節ならどうだろう……。
でも、再び国道139号の車の騒音が聞こえてきて気が醒める。もっと樹海の奥の方に道を引けば良いのに、と思う。もっとも、その国道自体が樹海の真ん中を貫いている。文句は言えない。
車道から離れたようだ。幾らか登り勾配。と、東海自然歩道のコース案内板が立つ小広場に出た。ただし、ベンチは無し。樹海コースは、休憩所がほとんど無い。土管が立ててあるのは喫煙のため。ベンチよりも優先しているところに、昭和の香りを感じる。
風穴駐車場の示された三方向道標が現われた。直進。
日差しは、もう残照とも言える浅い角度で照らしている。赤みも強い。今日一日も、そろそろお仕舞いだ。青木ヶ原樹海のただ中で日没を迎えるのは、別の意味で怖くもあるけれど……。
そして、遂には日差しが届かなくなった。今頃、富士山は紅富士で美しく染め上がっていることだろう。樹海歩道から富士山頂を眺められるようなところは無い。ココはそんな甘い樹海では無い――。
富岳風穴の解説板が現われた。「青木ヶ原樹海」の大きな解説板も。朽ちていないベンチも設置されている。どうやら、樹海コースも終わりが近づいてきたようだ。
解説板によれば、富岳風穴は延長201m、幅1.5~11m、高さ5.4~8.7mという堂々たる洞穴らしい。次の機会にはぜひ寄りたい……いつの日になることやら。
立ち寄ってみる。すぐに富岳洞穴の入り口。久しぶりに建築物を目にした。チケットを買って、ゲートを通り抜けた先にそれはあるらしい。入場料金はごく安い……くそ、いつの日にか。
時刻はPM5:10……こんな時間でも観光客のファミリーが談笑しながらゲートを潜って出てくる。――マイカー組は本当に自由度が高いと思う。こちらは、バスで富士裾野にアクセスしてきた愚か者。行動自由度はほとんど無い。
コースに戻る。日差しを失って地味になった樹海の歩道を、再び小走りで進み始める。
雪道となる。富士北麓、高度も1,000mを超えたので、別に意外では無いけれど、でも、アイゼンは持ってきてない。
すぐに雪は消え、心配は杞憂に終わる。と、いきなり駐車場に飛び出した。結構、車で埋まっている。脇には積み上げられた雪。鳴沢氷穴だ。その向こうには車道が見えている。――この氷穴もいつの日にか入ってやる!と決心しつつ、パス。
樹海コースの最後の区間を足早に進む。もう走るだけの気力も体力も尽きかけている。バスの時間まで30分を切っているのだけど、ここまで来れば大丈夫な筈。
それにしても自殺防止の立て札が目立つ。「借金の解決は必ず出来ます!」とか、そういうのも。ずいぶんと樹海の浅いところにあるものだな、と思う。
そして、前方に車道が左右に渡るのが見えた。国道139号だ。その下に真っ暗な地下歩道。
――樹海コースと紅葉台コースの接点。昨年の秋、このトンネルの向こうから東へ向かって歩き始めた。まだ、良く覚えている。
トンネルを潜る。右折し、短い丸木階段を上ると以前に来た、紅葉台コース始点に到着。PM5:36。
違和感……ここって、こんなんだっけ? 昨年に目にした青い空と紅葉に染まった艶やかな森は、今はどこにも見当たらない。季節も時間帯も違うのだ。それでも、同じ場所であることに間違いは無い。
さあ、これで泣いても笑っても、残す東海自然歩道本線コースは最終高尾山コースただ1つとなった。今までの苦労も報われる。正直言うと……少し寂しい気がしているけれど。
![]() |
先のコースへ進む→ |
残された時間は20分。国道をそのまま東へ歩いていけば、バス停には十分到着出来る時間だ。
でも、足は勝手にコースの先へ進み出す。紅葉台の稜線へ向かう山道だ。所有時間はギリギリまで有効活用――今までの東海自然歩道歩きでも、そうやってきた。
今日初めて、少し尾根っぽいところに上がる。西の空に滲む、微かな夕焼け。
紅葉台への本格的な登りが始まる手前、右折。コースを離脱して、そのまま南へ向かって車道を歩く。家々に、自販機も現れる。……喉の渇きに苦しんだのも随分と前のことのような気がする。今では気温が落ちて、寒いくらいだ。
前方に、寒々とした富士山の姿が現われた。今日は本当に一日中、富士山は雲に隠れることは無かったようだ。狙い通りの天候であったことに感謝。
国道139号に突き当たる。休日の夕方、家路に急ぐ車で結構混雑している。車の途切れたのを見計らって横断、紅葉台入口バス停に到着、PM5:55。バス最終便が来るのは4分後、とあるけれど……。
思った通り、バスは遅れてやってきた。実に10分の遅延。休日のこの便はいつも遅れる。
乗車。座席は半分くらい埋まっている。意外に若い人が多い。
快速バスなので、バス停はたまにしか止まらない。夜闇の国道139号を快調に飛ばして、PM7:36、新富士駅に到着――手前の富士駅で降りたかったのだけど。うつらうつらしていて、つい乗り過ごしてしまったのだ。
新富士駅前は特に店もなく、寂しい限り。さあ、どうしよう?
北へ向かって県道174号を歩き出す。富士駅までは1.5kmほどの距離。今日歩いた30kmに1.5kmぐらい付け足しても、大差無い。
ただ、夜道の歩きは前進感が無くて、意外にその距離が長く感じるものだ。
――ようやく富士駅が見えて来た。PM7:58、JR富士駅南口に到着、そのまま北口に抜ける。
10ヶ月前の朝、ここからビルの合間に富士山を見ていたことを思い出す。今は、そこには闇がわだかまるばかり。
――あの時は、まだ東海自然歩道も関西圏を脱して間も無い頃で、いきなり、このJR身延線で長者ヶ岳コースに歩きにいった。今は、それは懐かしい思い出だけれど、ここに来るまで、あっという間であったような気もする。