- 富士の山裾に抱かれ -
【踏 行 日】2008年3月下旬
【撮影機材】OLYMPUS E-410, ZD14-54F2.8-3.5, ZD50-200F2.8-3.5, CASIO EX-P505
さあ、今日はタイムトライアル。
――タイムトライアルじゃなかった区間ってあったっけ? って感じではあるけれど、今日は特別。なにしろ、バスの都合で現地に到着する時間が昼近く、かつ夕方もバス最終便に縛られているので行動可能時間は6時間半。
一方、コース距離はざっと30km。けっこう走らなきゃいけない。
そして、じつは今回は東海自然歩道ラスト前の歩き。すでに次の紅葉台~箒沢までは踏破済みで、今日の区間を歩いたら、あとはゴールするだけだ。
季節をシャッフルしながらここまで来たのだけど、この区間をこの時期にあてがったのは他でもない、確実に富士を見納めておこうと、そういうこと。
天気予報は問題なかったのだけど、新幹線が新富士駅から富士山がすっきり見えたことでホッとした。せっかくの富士大展望区間、狙いに狙ったのに外したら酷く後悔しただろう。
駅北口へ出る。富士急行の案内所でバスの切符を求める。「猪の頭入口に停まるバスなんてありませんよ」と販売所のオバちゃん。
――もちろん、そんなことは無い。「ありますよ」「あ、ありましたわ」……切符入手。
河口湖行きバスは少し遅れてやって来た。乗り込む。乗客は5名ほど。10時過ぎに発車。
バスは富士市街を走り抜け、富士宮駅に立ち寄った後は、富士の裾野の国道139号を北へ向かって快調に飛ばし始める。
富士山は右側に良く見えている。これまで、なかなか富士眺望には恵まれなかったのだけど、今日は見えすぎて怖いくらいだ。3月下旬、まだ雪線がだいぶ下にある富士山。
AM11:17、猪の頭入口バス停に到着、一人下車する。この地点で既に高度は750m――高原だ。目の前はゴルフ場。そして富士山はその向こうに節操無いくらい良く見えている。
その富士山を背に、猪之頭入口交差点を西に進む。――と、ここで気づく。飲み物を買い忘れた、と。
ザックの中には350mlペットボトルのお茶があるけれど、半分も残っていない。後、水気のあるのはジェル飲料の1パックぐらい。
……しまった、しくじった。バス営業所のオバちゃんとやりあった後、買うのをすっかり忘れた。
猪之頭公園を左に見て県道414号に当たった。右折。そしてすぐに左折――前に歩いているので、まだ覚えている。猪之頭中学校の門を通過。
……まあ、途中にある自販機で補充すれば良いや。あるかどうかは、分からないけれど。
猪之頭中学校の校舎の裏を見ながら、車道を進む。ほどなく、前回の離脱点が見えてきた。
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AM11:32、東海自然歩道の指導標の前。ダートの道が北へ向かって伸びている。
――10ヶ月ぶりに舞い戻ってきた。さあ、タイムトライアル。フラットな道ばかりなのでイケると思っているのだけど、不足飲料が誤算。
とまれ、ゆっくりと走り出す。足元、始めは車の轍が付いていたのだけど、すぐに道幅が狭くなる。
勾配も出てきた。ほとんど山道だ。落葉樹の森の山道は、木々が白っぽくいので明るい。そしてその枝の間から、毛無山へと続く灰色の山稜線が見えている。もう昼前だけれども、空の青みも申し分無い。ゆっくり歩きたいよなあ、と思いつつも小走り。序盤でリードを保っておかねば……。
涸れ沢を石橋で渡ると、再び道が太くなった。赤屋根の廃屋を過ぎ、正面には雪を被った毛無山が現われた。大きい――そりゃあ、2,000m級の高山だ。富士を取り巻く山々の中でも最高峰。
さらに進むと、舗装道に合流した。右手には建物が並んでいる。綱に繋がれていない犬が暫く後をついてきたけれど、振り切って進む。
右手は朝霧高原グリーンパークの敷地となった。――広大だ。ホテルやスポーツ施設の他に、富士山を眺めながら浸かる天然温泉の露天風呂もあるようだけれど……営業しているかどうか分からないくらい、ひと気が無い。
路面はダートへと変わった。左右に木々も迫って、開放的な林道のような雰囲気。その森が切れて現われたのは――麓の吊橋。AM11:57。
吊橋を渡る。結構長い。川に水は無い。下流方向、富士山が裾野からすっきり見える。上流方向には県境の山稜線。
渡り切ると林となった。すぐに車道に出て左折、東京農大の広大な牧草地を見ながら一直線に進む。密度の濃いヒノキ林を抜けると、左手に広い駐車場付きの家屋が現われた。「麓 山の家」とある。
――でも観光施設じゃなさそうだ。飲物は売っているだろうか? とりあえず通過。
Y字路、「毛無山登山口」と逆の方向へ鋭角に右折。すぐに東海自然歩道・麓休憩所が現われた。ベンチ付きテーブルもあって、寛げそう。
でも通過。東に向かって進む。必然的に、正面には富士山が来る。その富士山へ向かって、また走る。
喉に渇きを感じ始めた。3月と言ってもお昼時、日差しはそこそこ強い。やっぱり、麓山の家で飲み物探せば良かったな、と後悔。自販機などまったく現れそうも無い、のどかな牧場風景が続く。
道はひび割れ、やがて農道へと変わる。空には、パラグライダーが幾つも舞っていた。結構、近い。どうやら近くに基地がありそうだ。
ヒノキ林に突入、すぐに脱出して、左に林、右に牧場を置いた道が続く。――今まで東海自然歩道で幾つか牧畜地帯は見てきたけれど、やっぱり朝霧高原のそれはスケールが違う。広大すぎて、牛をまるで見かけないほど。そして、このような高原でお決まりなのはソフトクリーム……。
PM0:30、あずま屋が現われた。コースは左折だけど雨天・積雪時は直進の迂回路を取れ、とある。当然、今日は左折。迂回路だと道の駅朝霧高原に立ち寄れるのだけど、残念。
北西へ向かう。富士山を取り囲む山々の山麓を几帳面になぞるコース採り。勾配は少ないのだけど、山裾に沿ってぐねぐねと道が曲がる。右手には白茶けた広い草原――パラグライダーの着陸地だろうか? 遠く、20人ほどが一列に並んで講習らしきものを受けている。
葉の落ちた木立のトンネルをくぐり、ダートの林道に出合った。
再び上空が開けた。左手には雨ヶ岳の山稜が立ち上がっている。味気ない灰色の森は、秋には紅葉に色づくという印でもある。冬枯れの季節だけでなく、秋にも来てみたいものだ……と、思って気づく。秋は次の紅葉台コースに割り当てたのだっけな、と。
そして展望地らしき地点に到着。今日数え切れないほど見てきた富士山――この大展望を見るために冬枯れの季節を選んだのだけど、紅葉と組み合わせられなかったのは残念。東海自然歩道を歩き通す目的との両立は難しい。
右方から、先ほど分かれた迂回路が合流してきた。さらに山奥に進む。明らかに登り勾配となって、桟橋も現れるようになった。――本当に山登りみたな雰囲気になってきた。これじゃあ、走れない。
右側に涸れた沢。木立を抜けて再び開放的な草原地帯になる。また森に入って丸木階段を下っていくと、眼下に根原吊橋が現われた。
――「一度に5人以上渡らないで下さい」とある。橋桁も細い。渡る。
林道に出合って、また小走り再開、再び富士山が右手に見えるようになると、やがて堰にぶつかった。A沢貯水池の堰だ。PM1:10。
堰の端まで来たところで左折、北西へ進むと道が二股に分かれた。道標が示すのは右の道。ここで寄り道、左に進んで貯水池の水面を見ておく。……結構、喉が渇いている。飲物は2、3口しか残って無い。
コースに戻る。東海自然歩道コース案内板が現われた。その先はスギ林――端足峠へ向かう峠道。
本格的な登山道となる。
今日一番の登り勾配をぜいぜい言いながら登る。周囲の林は森へと移り変わって明るくなる。10分ほど頑張って登ると三叉路に出た。端足峠分岐だ。右折して、巻き道に入る。やれやれ。
歩きやすい水平道。整備されているので安心して走れる――そう、やっぱり時間が厳しいので、下り気味になると走り出す今日の行程。
植樹林と自然林が交互に現れる。高度感のあるまっとうな山道で、高原歩きからギアを切り替え済み。緩い下りの山道ほど走りやすいものは無い……のだけど、途中、道が荒れ気味の箇所も。
そのようなところでは慎重に歩く。怪我したら元も子もない。
林が切れ、根原公衆トイレの広場に出た。富士宮市は相変わらず、整備が良い……のだけれど、その富士宮市区間も終わり。
もう少し進むと静岡と山梨の県境に出た。すぐ上を国道139号が通っている。――ひょいと国道に顔を出してみた。二車線道に車の数が多い。割石峠は少し南側に見えた。「県境」という名のバス停もある。
コースに戻る。さあ、ここからは山梨県だ。静岡県と比べて、整備状況にはやや不安ありだけれど……東海自然歩道の最初に造られたモデルコースというくらいだから、たぶん大丈夫だろう。
割石峠から下る。展望の良いところに出て、富士山や西湖北面の山々を見通せた。――富士山の山頂部が平らに近くなっている。
白茶けた森の中に没した。木道を渡り、堰を見て、同じような風景が続く地道を小走りを交えながら進む。……なんか本当に今日はトレイルランニングに来たような感じだ。しかも、ここまで自然歩道を歩いていて飲み物持参を忘れるなどという初心者でもやらないミスを犯した。結局ここまで、自販機は1つも現れてくれなかったし……。気温が高くないのが幸い。
木立の中で道が不明瞭になる。確かに山梨県は道標が少ないなあ、と思う。ここで迷いたくは無い。よく進むべき道を嗅ぎ分けて進む。
やがて道が窪道状となる。快調に飛ばすものの、喉の渇きは結構なもの。脱水症状に陥りたくないので、最後のジェル飲料に手を伸ばす。本栖湖まで行けば自販機があるのは知っている。あと少しの辛抱!
と、林道に出た。ゲートがあって、国道139号に出られるようになっている。道標は無い。左折して林道を走り始める。山の奥へどんどんと入っていく。あれ? 国道脇の道を歩きたかったのに、道を見逃した?
ゲートに戻って、国道手前に横道をあることを発見。こっちの道の方がたぶん早い。暫く国道とともに進んで、やがて林の中に入っていく。
三方向道標が現われた。ここは本栖湖へ。林道を越えてどんどん進む。周囲は明らかに雰囲気が変わった。本栖湖キャンプ場の領域だ。
車道に出て、県道709号に当たった――本栖湖周遊道路だ。ここでコースは右折していくけれど、あえて県道を直進。湖岸沿いの駐車場に、確か自販機があった筈。内陸を歩いて素通り、なんてことになったら目も当てられない。
本栖湖の湖岸に出た。
――富士五湖の最初の1つだ。ここから精進湖、西湖、河口湖、山中湖と東海自然歩道は繋がって行く。
ともあれ、そんなに眺めている時間は無い。途中、結構走ったつもりなのに進捗が芳しくないからだ。県道を湖岸を巻くように北東へ向かって進む。道路の脇などに車が停まっているのが目立つ。
午後の日差しがだいぶきつくなっている。湖岸には潜水艇も見える。もぐらん、とな?
PM2:56、本栖湖の駐車場に到着。多くの車が停まっている。そして、待望の自販機。こっちのが嬉しい。
とりあえず、飲み物を何本か買い込んでガブ飲み。あまり腹をタプンタプンにすると走るのが辛くなると分かっているのだけど。
そして、この先はいよいよ青木ヶ原樹海コース。そして、コース終端の紅葉台入口バス停からバスが出るのは、今からきっちり3時間後。距離は12kmばかり残している。残念ながら、この後も走ることを止められそうには無いな……。
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