- 果てしなき登りの果てに -
【踏 行 日】2007年5月上旬
【撮影機材】OLYMPUS E-410, ZD14-54F2.8-3.5, ZD40-150F4-5.6, CASIO EX-P505
いきなり遠方に碁石を打つ。
じつはまだ、東海自然歩道は岐阜・愛知あたりでウロウロしている。それより東方に足を伸ばす決心が、なかなかつかないでいる。
全線踏破、という言葉は確かに魅力的だ。けれど、そこまでして歩くほどの“魅力”のある道か? と問われると……正直、素直にウンとは頷けない。ところによっては「バカ」になって歩くことも必要な自然歩道――それは身をもって分かっている。
とりあえず、大阪から香嵐渓まで歩き切ることが今現在の目標だ。あと2、3日でそれは達成されるハズ。そして、寧比曽岳より東方のコースについては、自分にとってガンダーラがごとく“あまりに遠い世界”。もっとも、そこに手を付けたら幾ら金があっても足りない、というごく俗っぽい理由で感じる“遠さ”なのだけど。
で、迷っている。確かに退屈な道も多いけれど、ハッとするような素晴らしい道も埋もれているのが、この東海自然歩道というもの。だから、自分の意思を試すために一度、遠方の地に身を運んでみようと考えた。東海自然歩道のハイライトとも言える富士山に相対するこのコースを歩けば、なにかしら結論が出るだろうと思って。
――そんなわけで、朝の身延線列車に揺られている。
この路線では富士の見える方角がくるくる変わる。ただ残念なことに、今日はガスが多く、富士の姿は見えない。やがて富士川沿いの区間になって見通しも閉ざされた。
次に富士が見られるのは長者ヶ岳の稜線に達してからだ。お預けを食らった形――まあ、演出としてはそれも良し。
JR井出駅に到着。
当然のように、降り立ったのは自分ひとり。目の前には富士川。海沿いの駅かと錯覚するような、富士川の広々とした眺め。
駅から出る。タクシーが一台、停まっている。それだけ。他には何も無い。
駅の北側にあるのが竹の沢踏切だ。早速、東海自然歩道の指導標が立っている。
――東海自然歩道の指導標は県ごとに特徴があると最近分かってきた。初めて見る山梨県のそれは、シンボルマーク入り・地名の英語入りの、黒っぽい、なかなかしっかりしたもの。それを目にしただけで、違う土地に来たことが実感される。
そして黒塗りの東海自然歩道コース案内板も……こちらはひどく、アバウトだった。
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AM8:43、井出駅の脇にある竹の沢踏切を渡る。ここからもう、コース上だ。
すぐ左にトイレ。それと、飲み物自販機が2台ある。さらに中村屋支店……今は開いていない。ガラス窓には「思親山へようこそ!」の貼り紙。
その脇の坂道を上って行く。林の中の道。朝の陽射しが斑点となって道に落ちる。
――じつは少し緊張している。なにしろ今日は、累積標高にして2,000mを越えるコースを歩き抜くつもりだからだ。これほどの登りの経験は山行でも数度しか無い。自然歩道でこんだけ厳しいのは反則だ! と、言ったところで、上佐野に泊まろうとしない自分が悪い。
ひとしきり坂を上った後、道脇に茶畑が現われた。
その先、林が切れ、今度は緩やかに下っていく。
――そう、思い出すのは、車で身延から本栖湖まで上った時のこと。下ったこともあるけれど……とにかく延々と続く坂道に辟易したものだ。その時のイメージが強いだけに、この区間を歩いて渡るなんて無謀かとも思える。
ただ、運転席に座りっぱなしじゃない分、楽な筈だ。多分、だけど……。
正面に、よく日の当たった茶畑の緑の斜面が見えてきた。
AM9:18、八木沢集落に到着。
――とりあえず出だしは順調だ。このような感じで登っていけるなら案外いけるかも知れないぞ、などと思う。
脇には南部町営バスの源立寺バス停。平日のみの運行。そして「ギフチョウ保護区」の標示と「思親山まで5.4km」の標示。
それにしても静かな集落……まだ朝方だからだろうけど。神社と、お寺――源立寺が並び立っている。ほどよい木陰に、明るい茶畑。人の姿は見えないけれど、人の生活の気配は感じる。
源立寺に立ち寄った後、車道に戻って思親山を目指す。左に指導標があって「熊出没注意」標示が貼り付いている。
クマ上等! (おそるおそる)そちらに進む。
だけど、少し進んだだけであっけなく車道に戻された。
次に、左手に細い階段があったから上ってみたけれど、これも直ぐ車道に下ろされた。さらに、右手に山道の続きがあったので入っていったけれど、ほどなく車道へ。
ずっと車道を歩かされるよりかはマシだけど……なんか落ち着かないなあ。
と、ボヤいたのが悪かったのか、暫く車道歩きが続いた。上空には水色の空が見えていて気持ちよいけれど、その色は次第に白っぽくなっていっているような気がする。
そう言えば今日の天気予報、あまり良くない。雨は降らない、とのことだけど……。
ふたたび山道に入る。今度はしばらく続く。
どうやら、完全に車道からテイク・オフしたようだ。二度ほど車道を跨ぐことはあったけど、地道がしっかりと続いていく。登山道はやっぱりこうでなくっちゃ、と思う。
深い林の中、見晴らしらしきものがまるで無いのは残念だけど。
5月上旬の思親山ハイキング。そんな気がしてくる。
いやいや、そうでは無い。思親山は、あくまで前半の“山”でしかないからだ。高低差900mほど登って思親山山頂に達し、上佐野まで500m下りて……そこで、ようやく今日の行程の半分。
だから、意識してあまりペースが上がらないように歩く。頑張り過ぎて途中でへばってしまっても、バスの運行も無い休日、途中エスケープも難しいのだから……。
と言うように自分を追い込んではいるけれど、いざとなったら実は上佐野集落で何とでも出来る。タクシー呼ぶことも容易いだろう。逆に、もし上佐野に人里が無かったとしたら……今日は甲斐駒・黒戸尾根を日帰りするくらいの準備と気構えが必要になったことだろう――。
と考えると、上佐野という集落の重要性が良く分かる。
よく道は整理されており、意外なほど楽に登っていける。
――実際のところ、この八木沢からの思親山登山道は、前半で7割方登りを済ましてしまい、後半は緩やかに尾根を辿るだけ。そのことが楽に感じさせる要因であるように思う。
高度が1,000mに近付いてくると、季節が巻き戻って、周囲は新緑の時期になった。道端に何輪かカタクリも見つけた。時期的には、さすがにちょっと遅いけれど……。
最後の勾配を登り切って、思親山山頂に到着。AM11:07。
テーブルとベンチ。お湯を沸かして、コーヒーでも飲みたくなるような気分になる。なにしろこの山頂の周囲の木立は疎らで、見晴らしが素晴らしいからだ。
――と言うのは晴れている時の話。今日は、薄日が射しているものの周囲は白いガス。何とか富士山の影カタチだけでも、と目を凝らしてみたけれど……まったく見通せない。うーん、残念。
歩いて来た道の反対側から下山を始める。
新緑の道を下っていくと、眼下に駐車場が見えてきた。
AM11:41、上佐野峠に到着。
駐車場に車が数台停まっている。思親山へ登るハイカーが主に使うのだろうか。
ダートの車道を少し進むと、右側に下降点。再び山道だ。
林の中を一気に下っていく。幅があって歩きやすい。
勾配は緩やかになり、暫く進むと前方に茶畑に囲まれた集落が見えてきた。
そして林から抜け出る。いかにも、山の中の里、といった雰囲気。さきほどよりか、いくらか見晴らしが利いて、長者ヶ岳らしき山も見えている。
茶畑の中の道を、集落に向けて下りていく。
ここは上佐野の本村という集落らしい。静か過ぎて、ひと気が無いような気がする…・・・。
本村の民家の間を突き抜ける。
佐野橋を渡って、さらに進む。小草里という地区に入っていく。
PM0:40、上佐野バス停に到着。
見ると、バスの便は内船駅行き6:38、14:05、16:55。いずれも平日のみで年末年初は運休――事前調査通り。
バスが平日運行のみであることが本コースのプラニングを難しくしている。登らないといけない高低差を考えると上佐野で区切りたいところだけれど、帰宅の足が平日にしか無い。従って、高低差1,800mの登り一気にこなす強行軍にしたのだけど……元ハイカーの自分でもしんどい。
もちろん、上佐野の宿で一泊、が本コースのまっとうなプラニングだ。自ら課している日帰りセクションウォークの枷が無ければ、自分もそうしていたことだろう。
でも、そうじゃないのでココは歩き抜けるのみ。
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