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PM2:38、徳間。標高は200m少々。
徳間峠へ向かう道は通行止めとなっていて、その看板の横に交通整理のオジさんがじっと座っていた。もちろん、先止まりの道に交通量があるわけでもなし。
田代峠へ向かう道は――今下りてきた道。奥山温泉へ向かう車の往来がある。最後の方角、福士川を橋で渡り、道標を捉えて橋本屋の脇の道に入る。
地図によると上村集落というところらしい。その民家の間の坂道を緩やかに上って行く。
右に寺を見送り、棚田の合間の道に。高度も取り戻してきた。
そして、道標が無いのを訝しみながら途中で右折。峠へ向かって上る真っ直ぐな道だ。急坂となり、並走する小川には堰が現われ、コンクリの路面に変わり、そして――道が尽きた。
車道が終わった先、深い林。足元は暗い藪。踏跡すら見付からない。こりゃ完全な廃道だ。
引き戻る……おかしいなあ。徳間から続く車道を上徳間集落手前まで上ってみるものの、道標も無し、迂回路らしき道も無し。変だなあ。
持参していたガイド本をよく確かめる。やっぱり先ほどの行き止まりの道としか思えない、と思ってその辺りで逡巡していると――
「どちらに行こうとしているんです?」
声が掛けられた。地元の人らしい。家族を連れている。「東海自然歩道? 確かに昔はこっちだったようだけど、今は道は無いよ」
やっぱり廃道らしい。ガイド本も情報が古いのだろうか。お礼を言って上徳間方面へ進む。
――結構な急坂を進んで、再び上徳間集落。集落の中ほどで、久し振りに指導標を見た。さっき上徳間まで来た時、もう1分粘っていれば!
ロスした時間を計ってみたら1時間ほどだった。うーん、随分と迷っていたものだ。ともかく、今日の終着地に着くのは夜になること確定。参ったなあ。
集落を抜けると、長い長い林道。うねうねと曲がりながら上り詰めていく。
林道は比較的平坦になり、さらにダート道に成り変わって、峠らしくない峠に到着したのはPM4:19。
徳間側に廃道コースの下降点が無いかと見回してみたけど、ありそうもない。もし昔からの峠道が潰えて車道だけが残ったのだったら、悲しいところだ。
で、鯨野への下山道へ突入。山道の状態は……よろしくない。細いし、あまり明瞭でもない。
山肌を巻いていく。途中、道が完全に崩落している箇所もあった。高巻いて避けたものの、ヤブ濃く、苦労。
日暮れを思わせるような薄暗い林が切れ、急に開放的な眺めになった。眼下には林道。
そこへ向かって、トン、トンと小気味良く階段を下っていく。
と、前方うっすらと、富士山の山影が見えていることに気付く。
――東海自然歩道を大阪から歩き始めて、初めて目にした富士山。今日もダメだろうと完全に諦めていたので不意を衝かれた感じだ。どうせなら、もっとすっきり相対したかったところでは、あるけれど。
林道を歩き始めると、コースはすぐに左に逸れた。コンクリート壁の上へと上がって行く。こういうところには珍しく、木道が渡されていた。見開けた場所の木道と言うのもなかなかオツなものだ。
惜しむらくは天候がどーしよーもないほどに「どんより」としていること。晴天で、富士山も青空を背景にした日本的な光景であったら、もっと感動的であったろうに……。
すぐに左に曲がって、暗い沢に下りていく。この暗さだと、道不明瞭になった途端に道を失いそうだ。
気を付けながら歩いていくと、前方に明るい車道が見えた。朽ちたベンチと、東海自然歩道案内板。そして……トラック。
鯨野到着、AM4:40。
左手に立ち並ぶ民家や民宿を目にしながら車道を歩いていく。
田畑が多く、のどかな光景。だけど、いかんせん冴えない光。
5分ほどで「真篠・井出駅」の道標を捉え左折、さらに進み向田の集落に……進み過ぎる。カラースプレー塗れのブルちゃんで足止めくらって、ふと思い出して地図を見てみると市小路への分岐はもっと手前。あわてて戻る。
分岐点のマークは畑の脇の電信柱に何気なく巻いてあった。ロス時間は5分ほど。まあ、ブルちゃんに免じて許してやるか。
市小路への上り坂を上る。高低差にして90mほどなので大したことは無いけれど、暗い。林を抜けるところなどは本当に闇の中だ。
車道にはシカも出ていた。
生気の無い道をひとしきり上り、道が平坦になると、前方に市小路の集落が現われた。勝手に休んで良いのかどうか分からないようなベンチが、民家の庭先らしきところに並んでいる。ついさっき歩いていた向田の集落が眺められる。
ずんずん歩いていくと道は下り始めた。またもやあわてて道を戻る。ちょうど駐車中の車に隠れて見えなかった道標を発見。
ちょっとした丘を水平に回り込んで、六地蔵公園に到着、PM5:07。
お地蔵さんには頭が付いていた。真新しかった。富士山は見えなかった。芝で覆われた広場の脇にはあずま屋とトイレ(?)の建屋。
6体の地蔵の前にはそれぞれに立派な花が供えられていた。まだ地蔵の頭部と体の色は馴染んでいないけど、きっと地元の人たちに愛されているのだろう。
踵を返し、丘の上の市小路の集落を後にする。
大きくうねりながら下る。下り切り、別の車道との合流点を鋭角に右折。
すぐに坂本の十字路。徳間以来の自販機発見。温かいお茶を購入――ピピピピピ、ピ、ピ、ピ……D・y・D・oの文字が揃って……♪チャチャラ~ン。
――当たった! こんなところで! いったい何年ぶりだ!? なんて考えていると時間制限オーバーでアタリがチャラだ。慌ててボタンを押す。
出てきたのはDyDo缶コーヒ250ml。
「まあ、あんまり急ぎなさんな、温かいコーヒーでもひとつ飲んでいきなせえ」のメッセージ。もちろん、井出駅PM6:31の列車は諦めていないけど……「井出駅4.5km」と書かれた道標を前に考え込む。確かに時速4.5km/hで歩いていけば万事OK。だけど、その道標の指し示す先、どうもアヤしい。
道標のもう一方は、車道沿いの「町屋・最恩寺」。でも足は勝手に本コース――草ボウボウの車道に向かう。そのまま林の中へ。
ガードレールこそあれど、車は10年以上入っていないだろう、と思われる草むら。地図で見た限りでは真っ直ぐだけど、実際は蛇行しながら勾配を上っていく。もしかしたら山道の短絡路があるのかも知れない。もっとも、暗くて探す気にもなれない。
――車道が尽きたらしい。暗闇の中、ライトで足許を照らしながら不明瞭な山道へと入っていく。しばし木立の間を進む。道は細くなる一方。そして、藪に閉ざされ林の斜面で立ち往生する。道を誤ったらしい。
道が判別出来ないなら、先ほどの分岐まで戻って車道回りで井出へ向かうしかない……悔しいが、そう決断する。あとは果たして見覚えのある道まで戻れるかだけど……。コンパスを取り出し、方角を固定して林の闇の中をそろそろと戻る。
――と、広い窪道に出た。この道はいったい何? と思っていると前方に影。ライトで照らすと道標。「東海自然歩道 東海自然歩道」と書かれている。前言撤回、「東海自然歩道」へ!
前方に壁が現れ、上を見るとガードレール。脇を上がって、林道へ合流。
尾根通しの林道を上る。暗く、静かな道。星もなければ人里の明かりも届かない。完全な孤独。
いったん、道がN字型にうねる。その地点からさらに同じぐらい進んだところ辺りから、右方に特に注意を払い始める。
首尾よく、下降点の道標発見。
幸いなことに整備の良い山道。もっとも、ここで藪道だったりなんかすると、泣けに泣けない。
やがて木の階段でジグザグに下り始める。階段が終わると、砂利の斜面。水も出ているようだ。ここは歩き辛い、と、勢いに乗っていたスピードを緩めようとした矢先、踏ん付けた石が滑ってスッテンと転んだ。受身を取った左腕に軽い擦り傷。油断した!
地面が固くなり、コンクリートの道になったと分かる。ほどなく、街灯のある車道に飛び出る。ようやく一安心。PM6:18。
左折し、真篠の集落へ。
電車は1本諦め、1時間後の列車狙い。従って、駅に早く着き過ぎないよう、ゆっくりと歩く。生ぬるいDydoコーヒーを飲みながら。
道は下り勾配。真篠の集落は分散しているのか、暗がりが多い。やがて前方遠くに街明かりが見えてきた。ついで、左方が開け、緑色の光を煌々と放つ富栄橋が姿を現した。
案内板を過ぎて少し進むと、下り道も尽きる。
富栄橋西交差点。国道52号線はそれなりに車の交通がある。きちんと信号待ちして横断歩道を渡り、いよいよ富士川に架かる富栄橋を渡り始める。
……と言っても橋の上から富士川の川面はほとんど見えない。上流方向、下流方向も暗がりで、遠く街明かりがポツポツと眺められるだけ。
川幅は広く、350mほどの長さの橋の上を、ただ前に歩くだけ――暇なのでカメラで僅かな光を集めてみる。
人間の目には見えていない環境光が見えてくる。
――やっぱり、自然歩道は明るいうちに歩きたいものだ。街中と違って、月の無い夜は本当に暗いのだから。
橋を渡り切って右折、富士川左岸に沿った県道10号に入る。
2、3分毎に車がかなりのスピードで走り抜けていく。街灯こそあるけれど歩道など無い。まさか人が歩いているだろうとは思わない車のドライバーに人の存在を明示すべく、ヘッドランプ点灯。
ちなみに、左手の山側には身延線の線路も走っているはず。だけど、闇に沈んでその気配は無い。
淡々と歩く。気温は高くも低くもなく、視界の変化もない。眠気の出る道。
で、頑張って歩いてしまい、15分でJR井出駅に到着。PM6:59。
――とにもかくにも、コース通り歩き切った。日の長い春だったらこれほど苦労はしなかっただろうけど、まあそれはそれ。
さて、列車が来るのは26分後。
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竹の沢踏切を越えると自販機とトイレ、東海自然歩道の案内板がある。次の思親山・長者ヶ岳コースは今年5月に歩いたばかりだから、まだよく覚えている。その時の春の柔らかい日差しとは裏腹に、八木沢に向かう林道は暗闇にとっぷりと沈んでいた。
井出駅に入る。待合室に座り、靴下を脱ぐと赤黒く丸い物体が転がり出た。血を吸って肥えたヤマビルだ。
どこだ、と考えてみた。どうも先ほど転んだところでらしい。水があったので、もしやとは思ったものの暗闇でのチェックは難しかった。
井出駅待合室備え付けの清掃用具から箒を取り出し、サッとひと掃き。小さく赤黒い物体はコロッコロッと転がって、駅のホームから線路にダイビング。
そのホームに富士行き列車がやってきた。ボタンを押して扉を開けて、井出駅のただ1人の客が乗り込む。車掌さんの巡回があるまでの何駅かの間は必至に眠気を耐えていたものの、切符購入後は速やかに入眠。
――平和な夢を見ることは出来たのだろうか?