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熊と書いて“くんま”と読む。ただ、地図だと“KUMA”と振り仮名が振られているので、くんま、程度がリアルなのかも知れない。
その熊バス停からPM3:05に歩きを再開する。もし今回のコースを二回に分けるとしたら、このバス停が二つ目の出発地になることだろう。そう考えると、今の時刻は随分遅い。
県道を北上、すぐに東海自然歩道と合流し、集落を抜けて「道の駅くんまの里」まで進む。
車で道の駅を訪ねるのも好きなのだけれど、こうやって歩いて訪ねるのもなんか――妙な感じだ。駐車場に車を止めてぶらりと出てくる人達とは、同じモノを見ていても別世界の住人のような気がしてしまう。
――もちろん、あっち側の立場になる時はそんなことは気にしない。
休息をとる。自販機で冷たい飲み物を買って、がぶ飲み。
さて、そろそろ行こう。で、道はどっち?
迷う。道標が見当たらない。少し県道を奥へ進んでみたものの、バス停があるのみで何も無し。こういう時は、最後に道標を見たところまで戻るべし。
果たして、熊の集落の途中にそれはあった。東側、民家の軒下! これは気付かない……。
集落の裏へ抜ける――で迷う。またもや道標が見当たらない。今度は戻らずに車道を突進。方角はあっている筈だから、そのうちコースに行き当たるだろう。
林の中の車道を上がる。スギなのかヒノキなのかあまり気に留めないのだけれど、人工林の几帳面な並びは美しい。これを「天竜美林」と名付けるセンスも、けっこうありかなと思う。京都の北山杉に通じるものがある。
もっとも、朝方歩いた愛知県の杉林の雑然とした感じの方が好きなのだけど。
道標が現われた。どこでコースに復帰したのだろう? 道はまだ上り勾配で続いていく。たまに道が上下に分かれたりするけれど、必ず一緒に道標がある。静岡に入って、道標が目減りしていたらどうしよう、と思っていたので少し安心。
それでも、足が結構疲れてきた。今日のコースは山岳コースではないけれど、地味に小アップダウンを繰り返してきたからだろうか?
林を抜け、山の斜面に一面緑の茶畑が目に入ってきた。茶の産地・静岡。いよいよ「らしい」雰囲気。
峰の集落を抜ける。
再び林に入って、視界が閉ざされる。一方、道はほとんどフラットになり、県道295号に合流。
その県道沿いに現われたのは高平の集落。名前の通り、高所にあって見晴らしが良い。バス停もある。ただ、最初はバス停と分からなかった。変な形をしている。
県道を眼下に見送って、ひとしきり上る。軽い峠越え。
PM4:11、柴の集落に到着。
休憩所がある。脇で、小さな水車が回っている。
さて、例のヒラシロ遺跡なるものはどこだ、と見回すと、茶畑の脇に道標が立っているのが目に入った。遺跡は道の南側、すぐのところだ。
そちらに向かう。教科書で見た憶えのあるカタチが見えてくる。竪穴式住居。ただ、1つきりで、ちょっと寂しいかも。
ヒラシロ遺跡は平成4年発見ということで、東海自然歩道が出来た時には土の下にあったことになる。何の因果かかコースの脇に遺跡が発見され、結果的に東海自然歩道のポイントとなった。数奇なものだ。
柴を出発。
茶畑の光景は相変わらずだけど、かなり黄色味を帯びた西日に照らし出されている。先を急ごう。
道は左折し、再び薄暗い林間の道となる。やや上り勾配。
大きく沢を巻くと、今度は緩やかに下り始める。ここで再び、小走りに。バスの時間は問題ないけれど、やっぱり明るいうちに歩き通したい。
ところが、斜陽になると「浮き上がってくるもの」が色々あって――。
そういうのに捉われ、なかなか歩が進まない。
昼間は、あれほど暑い、暑いと言っておいて、この時間帯になると肌寒ささえ感じられるのは、やっぱりまだ夏には遠いなと言ったところ。日射しの弱々しさも、それを否定していない。
それにしても――。
単調な林道。石打が遠い。
道脇にアジサイが目に付く。
林を出て、再び見晴らしが開けた。そろそろ次の集落か? さすがに、熊からこの方、同じパターンばかりだと、次の展開が予想つくようになる。
ただ、まだ石打の集落は先みたいだ。山の斜面には茶畑が広がっている光景はあるものの。
その斜面に身を乗り出すような石打休憩所が現われた。そこから見えるものは――山と茶畑。
それと、下方に細い帯のような県道295号も見えている。
少し進むと『バス停(5分)』の道標も現われ、ここからあの県道に下りられることが分かる。ただ、バスの便は果たしてどれほどあるのだろう? 調べていなかったので、分からない。
前方に、じつに2つ目の石打休憩所が現われた。
早速、「静岡県は休憩所好き」イメージが付く。全線そうなのかは、さておいても。
そして、石打の集落の家々。道標に示されるくらいだから大きいだろう、と思っていたけれど、そういうわけでも無かった。
ここも、山の斜面に寄りかかった集落。時刻はPM5:27。
集落を抜けると林の中の道――もう、今日何度目になるだろう。
やがて道は上っていく方、下っていく方、の二手に分かるけど、道標が指し示す方角は前者。ここまで来てまだ上るか!という感じ。
ダートに変わった道をひとしきり上る。峠越えのようだ。
そして、その峠――三美舞坂峠付近からは見晴らしが良い。ただ、見えるのは名も無き里山ばかりが幾重にも重なる光景。真横から西日に照らし出され、立体感が強調されている。
そろそろ山里に夕闇が忍び込んでくる時間だ。その雰囲気も捨てがたいと思うのだけれど、山は下りないといけない。
足早に下っていくと右側に道標が現われた。下を示している。久し振りに山道になった。下る。
……が、一瞬で終わり。民家の庭先のようなところに出る。
さらに、茶畑を縦断する下りをずんずんと進む。――はしご坂、と言う坂らしい。そして、いったん森に入り掛けるものの直ぐに車道に飛び出した。目の前には、真新しい公衆便所。
左折すると市ノ瀬集落。川沿いの集落は久し振り。
白倉川を渡ると県道361号に出る。脇にはバス停。
ここを左折、上流方面に行くと白倉峡という渓谷になるらしい。バスも通う景勝地だ。もし、今日が熊~西川の歩きだったら寄ってみたと思うけど、今はもう午後6時近い時間。無理。
下流方向に進む。
最初、右にあった白倉川は、ほどなく左に回る。その白倉川とともに天竜川を目指す。淡々とした舗装道歩き。ついに日も暮れた。
夏秋口で、ふたたび白倉川の左岸へ。
民家が目に付くようになってきた。しかも、今までの山里の集落のようにバラけてはおらず、道の両脇に立ち並んでいる。
――いよいよ、今日の旅も終わりが近づいてきたことが感じられる。
夕闇の西川に到着。
珍しく時間があり余っている。バスの便が、あとは夜にしかないからなのだけど。
まだ足は動くので、もう少し進んで見る。なんと言っても、秋葉ダムの前に架かっている真っ赤の吊橋、次の秋葉コースを歩く時までオアズケなんて我慢できない。
吊橋の上。秋葉ダムの放水の轟音はここまで轟いている。足許、遥か下の天竜川の水流も濁り気味。
――PM6:25、今日はここまでだ。2つほどコースは残してあるものの、とりあえず今日で愛知県を脱した。これから本格的に静岡県を歩き始めることになるだろう。
いつの間にか、東京まで歩くと決断している自分がいる……。
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珍しく時間があり余っている。バスの便が、あとは夜にしかないからなのだけど。
……というわけで、コースを外れて坂道を上っていく。秋葉ダムまでひと上り。
秋葉湖ダムの上から見る秋葉湖は、この光の無い時間帯、とても地味に広がっていた。湖畔の桜並木にも青々とした葉が茂っている。湖水も緑。コントラストに乏しい風景。
西川へ戻ると街に明かりが灯っていた。それでも、まだ時間は余っている。さて、どうやって時間を潰そうか……。
日の長い季節とは言え、夜7時を過ぎるとさすがに周囲に暗闇が忍び寄ってきている。
西川バス停へ。
待ち合わせ所の建屋があったので、その中に入る。一部屋ほどの大きさ。時計、何冊かの本、何本かの傘、2、3の貼り紙。なんとなく、物寂しい。
逆方向行きのバスがやってきてバス停に止まったのが見えた。待ち合わせ所に座る一人の客らしき人物を気にしたのか、しばらくの間、停車していたもののじきに走り去った。
外に出る。国道の交通量はわずか。夜でも危険は無い。
PM7:27、西鹿島駅行きバスがやってきた。乗り込む。例によって乗客は誰もいない。
今日は絶好の天気の下、朝から昼にかけて歩いた愛知県コースが派手であったせいか、昼下がりから歩き始めた静岡県コースがとても地味に感じられた……どうも、今もまだその気分を引きずっている。
もちろん、自然歩道で派手とか地味とか言うのも変かも知れない。山道にしろ車道にしろ、歩いている時に目にする光景は同じようなものなのだから。でも、最近は何とはなしに空気の違いを感じ分けている自分がいる……。
――山間部を抜けると、バスに乗車客もチラホラと。
PM8:09、バスは西鹿島駅前に到着。遠州鉄道に乗り換え、さらに南――東海の臨海部を目指す。
30分ほどで列車は新浜松駅に到着する。そう、もう旅の基点は静岡県内の駅。
新浜松駅からJR浜松駅までは目と鼻の先。2分ほど歩いて駅に入る。買うのは新幹線の切符。