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AM11:55、和市登山口分岐。
岩古谷山を登ろう、と言うにはあまりにも遅い時間帯。実際、登山を終えて下ってくるハイカーもいる。
しかし、まだ空は澄んでおり、曇る兆候は無い。
――まだ大丈夫だ。稜線からの大展望を期待して登り始める。
左手、見上げると「東海自然歩道 便所」が。例の丸太作りのやつだ。
いったん、車道に出て再び登山道に入る。
道は次第に傾斜を増していき、ついには大きくカーブを切りながら登るようになる。十三曲がりだ。
登り切ると堤石峠。標高は680mほど。ベンチがあって、説明板がある。このまま峠を越えて黒倉の集落に降りる道にも十三曲がりがあるとのこと。なるほど。
東海自然歩道は右折。岩古谷山稜線を伝って山頂を目指す。
展望が開けた。
開けたといっても、左右に開けた。左も右も、なだらかな山々が果てしなく連なっている。やや正面寄りには、これから目指す宇連山の姿も見える。
これだけなら平和な展望なのだだけど……どうも、そわそわして落ち着かない気分になる。なにしろ……
なにしろ正面には、とんでもなく巨大な絶壁が聳えるのだから。
岩古谷山東壁――。
巨大、と言うのはその近さから来る錯覚だろう。なのに、物理的なプレッシャーとまがうほどの圧倒感がある。そう、たしかに北アルプスの登山道で経験するそれに近い感覚。
逃れるように、緑の木々に埋没していく木の階段を下りる。視界から絶壁は消える。
そして前方に、垂直に近く見える登り階段が現れる。そう、あの絶壁に登っていくのだ。
登っていく、と言っても絶壁をクライミングするわけでは無い。右手から回り込むのだ。
それでもかなりの急斜面。地図の等高線は目一杯詰まっていることだろう。斜面にジグザグに掛けられた手摺り付き斜路を伝って登っていく。
見晴らしが開けてくる。足許はしっかりしているのだが精神的には心許ない。
風の通り道なのか、空気がビュ-ビューと鳴る。
薄着では少し寒いかもしれない。風が常時吹いているので、体温の上昇は抑えられている。それと、風は予想していたため防風の装備は怠り無い。
道は木の斜路から岩の階段へ。と、展望が開けた。
平山明神山のポコポコとしたピークが見返される。よし、次にもし来ることがあったら、岩古谷山~明神山~大鈴山~鹿島山の縦走をやろう、などと気の早いことを考える。
そして東方にもう一つの明神山、三ッ瀬明神山。良く目立つ。
ふたたび樹林帯に入って、尾根を伝い進む。人気がある山らしく、道の整備は行き届いている。
大きな一枚岩で東方への展望が開ける。まだ山頂では無いようだ。標高的に差は無いので、山頂が混んでいたらこっちに避難するのも良いかも知れない。
手摺りがあるものの、あまり近付く気にはなれない。本物の「崖っぷち」というやつだ。
樹林に戻ると、すぐに掘っ建て小屋のようなものが現れた。トイレらしい。そして……。
PM0:36、岩古谷山山頂到着。標高799m、田口より7.6kmの地点。
それまでの大展望が嘘のような、樹林に囲まれた平和な山頂。直射日光を避ける木陰が欲しい時にはありがたい、と言える。
それにしてもハイカーがいない。どうも、この先に展望の良いところがあって、そっちにいうみたいだ。
物憂げにハチが一匹飛んでいる。でかいなあと思ったら……スズメバチだった。背を低くして退避。まったく、怖いなあ。
東に、船の舳先のように突き出した岩稜。西には、うず高い岩。パーティ含め、何組かのハイカーがこちらにいた。
撮影を頼まれる。山名プレートを持った笑顔のパーティを前に、ハイ、チーズ。
ある意味、東海自然歩道のコースの白眉とも言えるかもしれない。それほど、素晴らしい展望、素晴らしいロケーション。
それでいて三大難所の呼び名はダテでは無く、下りも鉄製階段の急下降から始まる。
階段を下り切っても、さらに下降。
道は縦走路らしく、アップダウンを始める。展望の無い自然林の歩き。午後1時を過ぎているので、冬場ならもう下山を考え始めないとならない時間。
だけど今日は5月。涼やかな風もあって、気分良く足を運べる。他のハイカーもまったく見当たらなくなった。
ただ、足が疲れてきた。田口~和市までの歩きがボディーブローのように、今になって効いてきたようだ。
とは言え、アップダウンは一向に落ち着かない。持参した柏餅を食べてカロリー補給。
ギンリョウソウを久しぶりに見た。それも何箇所かで。
PM1:47、御殿岩。
登って展望を確かめたかったが、「禁止」とあったので渋々諦める。
説明板には名の由来が書かれていた。「昔、ここに天神がまつられていたため…」だそうだ。
それにしても、奥三河の、東海自然歩道に選定されていなければ絶対に歩いていなかったであろう山の稜線を歩いているのは、どこか不思議な感じがする。
そもそも東海自然歩道を歩こうと決めたのも一寸した状況変化によるもので、ただの偶然に過ぎない。
東京まで絶えることなく並んでいる道標を辿っている今現在の自分の立ち位置。そのことの、人生での位置付け。
そんな小難しいことは、じつは歩いているうちは考えない。頭は空っぽ、気になるものを見つけたら気ままにカメラのレンズを向け。
びわくぼ峠到着、PM2:05。
岩古谷山から3.6kmの地点、標高は700m少々で、ここから1.0km 40分で塩津温泉に下りられる。
障子岩は……林が濃くて、見えない。
PM2:23、鞍掛山到着。標高は883m。
標高が足りずにここまで得られなかった南アルプス方面への展望を期待していた。だけど、残念なことに周囲には樹林。眺望が得られるような隙間さえない。
時間があれば馬桶岩と縁起良さげな888mピークまで往復してくるのだけど、今日は無理。稜線上のT字路を右折して西側の山肌を下りていく道に入る。
ジグザグの下山道。樹間から眺めが得られることも無い訳じゃないけど、変化はほとんど無し。
やがて傾斜は緩んだものの、林の密度はむしろ濃くなったように感じる。
突然、東海自然歩道のコース案内板が現れる。とりたてて地名の無いところだけど、前も後ろも変わらないような林の中で迷わないようにとの配慮だろうか?
しばし勾配の少ない巻き道となった、と思ったら再び急下降を始める。同じ高低差以上を登り返すことが分かっているので、おいおいもうそろそろいいだろう、と言いたくなるのだけど……。
かしやげ峠、PM2:56。
石仏がいくつも並んでいて、近くには墓地もある。人里の峠であることを教えている。
説明板もある。ここも、武田信玄ゆかりの峠だそうだ。ただ、「かしやげ」が何のことなのかは、説明無し。
多少、道が細かくなって山腹を巻くように繋がっていく。途中には水場もある。
進む道が分かりにくいところには、だいたい道標が存在してくれる。だけど民家の庭先を通るようなところもあって、時々この道であっているか不安になることもある。基本、南へ向かって高度を維持。
それにしても四谷集落の千枚田にはなかなか到達しない。そもそも、コース上から千枚田を一望できるポイントがあるという情報は得ていなかったことに気付く。歩いていれば見えるもの、と思い込んでいたけど、実はもう通り過ぎてしまっているのかもしれない……そんな心配も湧く。
と、舗装された広い道に出た。
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