- 岐阜名水を辿る道 -
【踏 行 日】2006年10月中旬
【撮影機材】OLYMPUS E-1, ZD14-54F2.8-3.5, ZD50-200F2.8-3.5,CASIO EX-P505
東海自然歩道歩きは、今は東藤原まで達している。あと2回ほどで関ヶ原まで到達する予定。
ただ、それはそれとして。
秋だから紅葉をみようと、じゃあどこへ行こうと考えていた時、「東海自然歩道の岐阜県最高地点」という文字が目に留まった。
……と言っても1,000m少々か。今の時期だとまだ少し早いかなあ、それに山の前後に長い車道歩きが続くというしイマイチか、とは思ったものの。
まあいい、ぼーっと歩こう。関ヶ原より先の、東海自然歩道の山岳コースというのも、ちょっと興味がある。関西コースは山深いところが無かったし――そんな風に思って。東海道線の列車に揺られ、岐阜県に入ることとなった。
大垣駅に到着。印象より大きな駅だ。昔、時刻表に大垣~東京の鈍行夜行があったことで名前だけは良く知っている駅。
駅南口から出た。さて、近鉄の駅はどちら、とキョロキョロするまでもなく。近鉄大垣駅は隣にあった。
切符を買ってホームへ。揖斐行き列車が停まっている。赤い車両、サイクルトレインのヘッドマーク。
乗り込む。休日のこの時間帯、下り列車にあまり乗客はいない。平和なものだ。
――発車する。
濃尾平野北部の街郊外の風景。やがて、車窓は田園地帯のそれと変わった。
左手の車窓にずっと見えている山は池田山。東海自然歩道はあの山麓を通っている。今日のコースを歩いてしまうと、あの池田山麓コースも歩きたくなるかも知れない。でも山麓車道ベタ歩きは退屈じゃないかなあ……そんなことを思いつつ。
終点、揖斐駅に到着。
駅の外へ。濃尾平野も北西の端に近い。間近に平野を取り囲む山が迫っている。ただ、そう高い山は無い。
AM8:11、いきなり歩きだす。まず、駅前の通りを北へ。途中の自販機でペットボトル飲料を購入し、さらに進む。すると粕川に行き当たる。
川に架かる橋の手前で左折、西へ向かって歩き出す。
今日登ろうとしている鍋倉山の近く、「かすがモリモリ村」というところにバスは通っているのは知っている。ただ、標高1,050mほどの低山1つに登って下りるだけじゃあ歯ごたえが無い。せっかくなら平野部から歩き始めて狭隘な山間部に入り、やがてハードな山道に……なんていう行程の変化を楽しもうと考えた。
そんなわけで、バスの時刻は調べていない。ごく単純に、粕川右岸の車道を歩いて現地に向かうのだ。正面に、常に池田山を見据えながら。
やがて左右は田園地帯となり、その間の農道を歩いていく感じになる。田はずっと前に刈り入れを済ましている――と思いきや、重い頭を垂らした稲で埋まっている区画も残っている。
やや粕川から離れてきたので、意識して川に近寄っていく。そして河岸の遊歩道に上がる。
――桜並木だ。いまは落葉の準備を始めたところか。きっと、4月上旬には見事な花を咲かせるのだろう。
並木も尽きて二車線の県道に合流。その少し先に黒田橋。粕川を渡っていく手前で左折、しつこく粕川右岸の道を辿る。
暑くも寒くも無い、爽やかな日和。正面の池田山は眼前に立ちはだかるようになり、濃尾平野の端まで来たことを実感する。
――目指す先が、その山稜の右に落ち込んだところにあることが分かってくる。まさしく、平野部から山間部への入口だ。
県道を横切る。池田山の山麓道路も見える――あれは東海自然歩道のコースだ。いつか向こうから歩いてくる日が来るだろうか?
田の中にこんもりとした木立があって、そこに向かってみると神社だった。萩谷神明神社。粕川大橋へは……道が見当たらない。戻るのも癪なので茶畑の農道のようなところを適当に抜け、橋の手前に出る。
立っていたのは東海自然歩道の道標。
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AM9:04、粕川大橋。いちおう、ここからが東海自然歩道だ。道標もきっちりと立っている。
歩き出す。方角は西。東行コースで歩いているのだけど、この区間は逆方向に向かうのだ。大阪箕面のスタート地点へ向かう方角。
左手には池田山の山体があるけれど、右側には濃尾平野がまだ続いている。右に工場を見過ごすと、駐車場が現われた。結構広い。……もしかして蘇生の泉って有名どころ?
駐車場と反対側に休憩舎。棚には野菜が並んでいる。無人直売所だろうか? そして、そこにはオバちゃんが3人ばかし座って、お喋りに興じていた。
蘇生の泉は、その隣にあった。そのままの飲用は不可、とある。生水のまま飲んでしまうと、蘇生どころか腹を下すかも知れない……。
飲物は駅前で補充していたので、特に泉の水は入用では無い。そのまま通り過ぎる。ちなみにここには、「池田山麓 自然と歴史にふれあうみち」と名付けられた東海自然歩道・岐阜県のコース案内図も立っていた。
しばらく道なりに進む。右側も山が立ち上がってきて、いよいよ山間部という感じになってきた。と、県道が右に90°折れた。――コースは県道をそのまま進んでいる。瑞岩寺へは寄り道となるけれど、もちろん寄らない手は無い。
民家の間の道を入っていく。やがて左右が田畑風景になると瑞岩寺が現われた。
――ずいぶんと綺麗なお寺だ。建物も真新しく見えるし庭も整っている。と、ここでは「大岩さん」を見ておかないと、と裏手に回る。
確かに、大きな岩があった。「痛いところに利いたり頭の良くなる岩」。
県道に戻って、コースに復帰する。瑞岩寺橋で今日初めて粕川を渡り、左岸に出る。コースはここで左折……だけれども。右に曲がって直ぐ近くのバス停を見物にいく。もちろん、新丁バス停はただのバス停であった。揖斐駅への便は、きっちり2時間に1本。って言うか駅まで¥100って安すぎない?頑張ってここまで歩いてきたのに……。
コースに戻る。もっとも、これからは粕川左岸を通う県道32号を、上流方向、すなわち西に向かっ真っ直ぐ歩いていくだけ。単純この上ない区間だ。
少し進むと、揖斐川町を離れて春日村に入った。早速、「岐阜県天然記念物 さざれ石」の案内がある。あの「君が代」に詠まれている“さざれ石”だ。ちょっと、どんなものだか見てみたいと思ったけれど、東海自然歩道はそこまで行かずに北に折れてしまうのが残念。一方、道脇には「春日モリモリまつり」の赤いのぼりが並んでいる……いったい、どんな祭りだろう?
滝の集落を通過。一気に空間が谷あいのそれに狭まった。山肌がもうずいぶんと迫っている。緑一色……植樹林の山なのだろう。秋の気配は見当たらない。
そう、今日の目的は紅葉狩りだ。10月中旬、標高1,000m以上の山であれば紅葉を目に出来るだろう、と考えてやって来たのだけれど。そういえば、今日目指す鍋倉山が植林の山かどうかは調べていなかった。杉山だったらどうしよう?
と、道が膨らんで駐車場になっている。そこに車が何台か停まっている。何だろう、と思って覗いてみると水汲み場であった。「潤いの泉」という水場らしい――。
ポリタンク持った人の短い行列が出来ている。そろそろ水補給したいかなとは思うけれど、歩いてやってきて、その列の後ろに並ぶのも何だか悔しい。ゆえに、そのまま通過。
静けさが復活する。西へ向かって、淡々と車道を歩いていくだけ。歩道は付いていないけれど歩きやすい。車の往来は少し多め。
樫集落の入口を通過。ここの酒店には自販機もあったけれど無視。どうせ汲むなら山の水だ。
再び緑の山肌を眺めながらの歩きとなる。歩きやすいとは言え、そろそろ飽きてきた。何も考えずに、ただ前に歩いていくのみ。
春日郵便局前を通過する。――ようやく前方に六合の集落が見えてきた。大きい。
県道とともに六合集落に入っていく。――久しぶりに両脇に民家が立ち並んだ。ただ、通りに人の姿は無い。
右に白山神社の鳥居が現われた。その鳥居の向こうには薬師堂が建っている。
集落を抜ける。再び粕川沿いの県道歩きとなる。でも、もうそろそろだ。
またもや、春日モリモリまつりののぼりが立ち並び始めた。その向こうには橋――もりもり村、なるものの入口らしい。そして、車上には駐車の列。どうやら、今日はまつり開催中らしい。
と、その前に東海自然歩道のコース案内板。「鍋倉山 自然探訪のみち」と銘打たれたもの。六合バス停から春日神社の17.2km、7時間10分。
そして、高橋渓谷入口に着いた。ここを右折――せずにその先、モリモリ村に渡る橋に進む。
対岸は駐車場になっていた。その向こうには黄色い建物。あれがリフレッシュ館だろうか? ウリは薬草風呂や薬草料理という。そして今日は祭りの日、盛況だ。
「東海自然歩道」の看板の付いた公衆トイレ、そしてコース案内板があった。AM10:39。
まつり見物に来たわけでは無い。山へ登りに来たのだ、というわけで橋を渡り返して、先ほどの高橋谷へ入り込む道に入る。
――たちまち、自然が溢れた。空気の清涼さが増し、気温が下がったかのように錯覚する。実際、水辺が近づいたので気温は下がっているかも知れない。
そしていよいよ、勾配が増してきた。長いアプローチであったけれど、ようやく山登りの感覚になってきた。堰を見てその先で、高橋谷川の右岸に渡る。
と、ここで小休憩。路肩に座って川を眺め、飲物などを摂る。立ち上がって、なにかが地面で蠢いていることに気付く。こちらへ向かって近寄ってくる小物体――ヒルだ! 動物の気配を感じ取って、数匹がニョロニョロ接近中。血を吸いに来たのだ。
残念ながら、獲物に先に気が付かれてしまったので吸血はお預けだ。靴や靴下に取り付かれていないか確認したのち、その場を足早に立ち去る。さすが自然豊かな渓谷、油断していられない。
川沿いを上っていく。沢音や木漏れ日が心地良いし、適度な運動も気持ち良い。ようやく今日が始まったという感じだ。
紅葉は見当たらない。
勾配は緩やかなので道の捗りは良い。やがて右から別の車道が下りてきて合流した。樫集落から上ヶ流を抜けてここまで達する車道だ。川沿いを歩いていると反対側の上の方にチラチラと見えていて、気になっていた車道。
道が合わさってから、むしろ道は広くきれいになった。たぶん、上から来た道の方がメインであったのだろう。
その代わり、道は単調になった。緩い上り勾配はあるし、木漏れ日の区間も、日の当たる区間もある。……それでも車にとって走りやすくなっている道というのは、人が歩くという目的には過剰サービスのように思える。
と言っても、アスファルトを破って雑草が生えているような箇所も散見。さすがに時の流れに抗い切れていない模様。
――それより、別の時間が気になってきた。もう正午が近づいてきている。今日の行程は少し余裕がありそうと見て駅から歩いてきたのだけど、帰りのバスの便を考えると、そろそろ急いだ方が良いかも知れない。粕川沿いのフラットな道はさっさとクリアする予定であったのに、どうも普通に歩き過ぎてしまったようだ。
道を挟んで、左右に道標が立っていた。
――異様だ。こんな状況は初めて。何か違うことが書いてあるのだろうか、と確認しても「六合4.9km、鍋倉山5.6km」と変わらず。同じ道標を間違えて2つ作ってしまい、仕方なく同じ場所に設置したとか、そんなところ?
その先、谷山廃村。
――廃村、という言葉からは色々なイメージが湧き立つ。その地を訪れたのも初めて。ただ、なんとなく想像していた朽ち果てた建物が並び土地は荒れ……というものでは全然なかった。普通の小集落と変わらない。整備も十分。「谷山集落の歴史」が書かれた、立派な石碑も立っている。
と言うか、人の気配がある。
土日には車で地元民が戻ってきている、ということなのかも知れない。じゃなきゃ、車などが止まっていないだろうし、整備されているわけもない……。
谷山集落はあっという間に後になり、ついに舗装道からダートの道となった。
さらに上っていくと山道に。ようやく鍋倉山登山道だ。
まっとうな山道を登っていく。ただ、道は十分に整備されたという感じではない。それでも4時間歩き続けて遂に到達した登山道、文句は言うまい。
周囲は雑木林。方角が西へ転じると勾配が急になってきた。ここまで共に登ってきた高橋谷川も視界から消える。
ペースを落とさないので、息が切れてきた。
道の上には草が多くなってきた。ところによっては、草で覆われ道筋不明瞭の箇所も。
――そのような道は長く続かないので突破に問題は無いけれど、草が生え花が咲いているところを踏みつけて歩いていくのは忍びない。けれど仕方ない。
周囲はヒノキ林となって、多少薄暗くなった。
そしてまた、雑木林。
――と、黄葉があった。高度は700m付近。いよいよ紅葉前線に到達かと思ったものの……その先でも木の葉は青々としたまま。うーん、どうも今年の秋の訪れは遅いようだ。確かに夏は暑かったし残暑もあったからなあ。なんか、最近は何でも地球温暖化のせいにしたくなるのだけど。
外津汲分岐に到達。この道標が、ガイド本が言うところの「熊の爪あとが残る指導標」だろうか? 確かに抉られてはいるけれど……。
少しだけ外津汲への道に進んでみる。樹林の間から窮屈に眺望があった。北東方面、どこまでも続く山並。人工物と言えば、幾つ物鉄塔と、赤い橋梁。
コースに戻る。
階段が多くなってきた。ここまで頑張って登って来たのだけど、ペースもやや落ちてきた。
ただ、少なくとも鍋倉山が植樹林ばかりの山でなく、自然多き山であることは分かった。杉やヒノキで同じような景色が続くと前進感が無いのだけど、鍋倉山へは確かに登っているぞ感がある。あとは、もうちょっと展望のある箇所が多ければ良いのだけど……それは贅沢な望みか。
登山道は一本道で迷うようなところは無い。道筋も、序盤はどうなることかと思ったけれどその後は明瞭だ。道標も多い――破損したもの多いけれど。そのようなものを見るたび、クマが気まぐれに壊していったものかも、なんて想像を働かせる。時期的には、まだクマの冬ごもり前。
登り勾配が落ち着いた。山頂まで残り1kmを切ったのだ。ここからは高度1,000mの稜線、悠々と歩ける。
心なしか木々にも秋の雰囲気が出てきた。もっとも、秋の盛りは半月ほど後だろうか……。
立派な避難小屋のある広場に到着。木立に囲まれた山上の空間で、ベンチが散在している。焚き火の痕もある。
――山泊には良いロケーションだと思う。というか、東海自然歩道を西から歩いてきて初めて本格的な山岳コースに当たったと感じた。そう言えば丹沢のコースなんてずっと山の上ばかりで、途中には避難小屋が幾つもあった。それと比較すると、本コースでもまだまだぬるい、というところかも知れない。
広場を辞して、鍋倉山山頂へ向かう。
――と言っても、高度的にはもう山頂と対して変わらないところをずっと歩いてきている。鍋倉山は標高900-1,000mの尾根が南北に5km以上続く山(南北に長いのは、このあたりの山域の特徴だろうか?)。従って、ほとんど体力を浪費せずに、すぐに山頂に到達した。PM1:36。
少し道が膨らんだだけの、シンプルな山頂。「鍋倉山」解説板があり、道標が倒れている、あるものはそれだけ。見晴らしは無し。
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