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PM3:44、小岐須集落のバス停前。
コース入口案内板がある。コースまで0.5kmと書いてあるけれど実際は0.1km。0.5kmは、たぶん桃林寺までの距離だろう。
先ほどのT字路ですぐコースに復帰すると、その左側には遍照寺がある。集落付きの、落ち着いたお寺だ。
軽く境内を見物していく。
ちなみに、「飲み物が無い」と言っても実際はザックの中にペットボトル一本分ほど残してある。歩き切る前に飲み物が尽きることを恐れ、無理にでも消費をセーブしてしまっているのだ。これは山歩きする時の癖。山だと途中で水分補充できる保障が無い――地図上に示された水場ですら涸れていることもある――ので、必ず余裕を持って飲み物を残しておくことが身に付いている。
でも、自然歩道歩きはそういうものじゃ無い。だから……次の椿大神社には必ず自販機がある、と決め付けよう。賭けだ!
と、言うわけで喉の渇きは無くなった。もう午後も深いので気温もこれ以上、上がらないだろう。そんなわけで、また少し歩行ペースを上げることにする。
桃林寺は向けて薄暗い細道を進む。途中、林間の広場があってその階段の上に寺社があったものだから、まさか桃林寺?と思って上っていってみると……小岸大神社と書いてあった。
道に戻る。2分で、今度こそ桃林寺。
脇には東海自然歩道のコース案内板(1,376キロ・環境庁)とベンチのある休憩所がある。立派な木造トイレの建屋も。ゆっくりと休憩したいような雰囲気があるけれど、そうも言っていられない。なにしろ、今日の日没までに予定していたコースを歩き切れるかは微妙な感じになっている。いまは夏至を過ぎたばかりの、一番日の長い時期ではあるのだけど。
まあ、ロングコースだからこそ、この日の長い時期に宛がった、というのが正しいのだけれど、暑さでペースが上がらない、というのは計算外。考えてみれば、夏に低地でこれほど長い距離を歩いた経験は無い。山歩きでは、夏は高山に逃げてしまうし……。
桃林寺の休憩所も早々に離脱。北東へ向かって足早に進んで行く。ええっと、この先の道は、とガイド本を取り出して見ると、「桃林寺本堂脇には県下最古の銅鐘が…」という記述を見つける。
見忘れた。なんのためのガイド本持参だ、とは言え、今はほとんどコース確認用途。
鍋川に突き当たる。
水が無い。伏流、でも無さそう。川床を歩いて対岸へ。
道標に従って、そのまま鍋川に沿いの道を上り始める……と、待てよ。右側に車道がある。コースを外れてそちらに向かう。出たところは椿大神社の参道。そしてここに、待望の自販機を発見!
そんなわけで至福のひとときが訪れた。でも、飲み過ぎて炭酸で腹いっぱいだ……。
もしここで水分補給出来なかったらコースを外れて町へ向かおう、と思っていただけに、これで随分と楽になった。ありきたりの、飲み物自販機のありがたさ。
参道をそのまま歩かず、律儀に川沿いのコースに戻る。そのまま歩いていくと椿大神社の敷地に入ったようだけれど……どこで転回してよいか分からない。どうも、右折の道標を見失ったようだ。引き戻っていくと……。
いきなり、椿大神社の拝殿の建つ境内に出た。
境内には、大勢……というわけでは無いけれど、ポツポツと参拝客の姿がある。地元の人達が多いだろうか。どちらにしても、ここが今日のコースの目玉の地だ。PM4:42。
そのまま木が鬱蒼と立ち並ぶ参道を歩いていき、鳥居を潜って車道に出る。……さて、コースの先は、と。
僅かに西に戻った地点に、植え込みに隠れるように東海自然歩道の指導標が立っていた。コース案内板(1,376キロ・環境庁)も立っている。
次は「楓谷」。そちらへ向かって歩き始める。すぐに左折、地道に変わる。
山際の道。とうとう午後5時を過ぎてしまったけれど、空は同じような曇り空。ただ、少し暗くなってきたような気がする。林の中は、本当に暗い。
ただ、まだ先は長い。少し栄養補給しておくか、と……
林の中、道脇にザックを下ろす。地面は少しジメジメとしている。地図を開きながら、立ったままでコンビニのお握りを食べる。さあ、今日の最終目的地も近付いてきた。あとは一気に北上するだけだ。
ザックを取り上げ、背負おうとすると……なにか、その底に小さく白いものが張り付いて……蠢いている。
ヒル。ヤマビルだ。こんな、人里に近いところで見たのは初めてだ。
2匹ほど払い除ける。少し道を進んで、足元もチェック。思った通り……靴に張り付いているそれ、靴下まで這い登っているそれ。相変わらず、素晴らしい嗅覚をしている。
弾き飛ばす。
まだどこかに取り付かれているんじゃないかと気になるけれど、この場所に留まっているのもマズい。足早に立ち去ることにする。一気に進んで、溜池のところで右折、車道に出た――もう大丈夫だろう。
車道を北へ向かって歩く……なんだろう、この安心感は。なんだかんだ言っても、車道は楽に安全に歩ける合理的な道。
茶畑を過ぎ、ヤブ道を渡ると……
内部川に当たった。下流に向かって川べりを歩く。二本の轍の付いたダート道で歩きやすい。周囲は草原で広々としている。
やがて渡渉ポイントがあって内部川を渡る、と言っても水は無し。渡る途中、上流を見ると、やや左に雲母峰の山影を見るのがやっと。鈴鹿山脈の稜線はガスで見えない。
向こう岸に出ると草の道に突入。
舗装道に上がって、左折。茶畑を見ながらの歩きとなる。車道を右に見送り、コースは林の中に入って再び視界は閉ざされた。用水沿いの細道歩き。
――ところで楓谷って具体的にどのあたりだろう? そんなことを考えていると道標があって、「もみじ谷遊歩道」と示されている。紅葉谷? 楓谷じゃなかったっけ?
もみじ谷遊歩道を少し進んでみるものの……植樹された若い楓が並ぶぐらいで、他には何も無い。分岐に戻り、宮妻峡方向へ進む。
車道が左右に横切っている。「もみじ谷案内図」があって、楓谷川沿いのこの道がもみじ谷であることを示している。時刻はPM5:55。
その先、確かにカエデの木が多い。雰囲気の良い――この時間帯では暗い――遊歩道を上っていく。
谷も尽き、車道に上がる。説明板があって、楓渓に「もみじだに」とルビを振っている。なるほど。
ここから先はまた車道歩きだ。もみじ谷でだいぶ高度を上げたので、右側に四日市方面への展望が良い。そして、茶畑が見事。
道は二股に分かれるが、ここは左。展望は閉ざされ、きつい上り坂となる。
今日最後の頑張りどころだろう。ここまで長い距離を歩いてきたので、頑張って歩くと足が攣りそうだ。
それでもペースを落とさず歩く。途中、雲母峰登山道の入口を見送り、橋を渡ると道はようやく落ち着いてきた。
高度は350mほどに達し、右側に展望の開けるようなところも出てきた。ただ、今日は白い風景のまま明度を落としていくようだ。夕暮れ時なのだけれど、その実感は得られない。
道は下り勾配。
T字路を過ぎると、ダートの道になりかわり、再びフラットになる。
――このあたりの若木には白く細長い袋が被せてある。途中にはその説明板もあった。これはツリーシェルターと言って、なんでもイギリス発祥の「野生動物食害避け」とのこと。そう、鹿の食害防止。
そう言えば、同じ三重にある大台ヶ原の食害も酷いものだった。
本来、平地の動物である鹿を山に追いやったのは人間なのだけど、その山でもエサを隠そうとする人間。鹿にとっては大迷惑だろう。
でも、生態バランス系コントロールと言う大きな話となると……鹿の頭数を抑えるのはやっぱり正しいような気もする。ニンゲンの身勝手であることは正当化できないけれど。
――ふと気付くと、羽虫に纏わりつかれていた。顔の周りをブンブン飛び回って離れない。手で振り払っても、どこ吹く風。走ってみた。振り切れない。鬱陶しい!
暫くしてその羽虫も去ると、道も広くなってそろそろ今日の終点が近付いてきた感じだ。
水場があって、その脇に石階段。登っていくと、小さな社。金谷不動だ。道に戻ってさらに進むと――突き当たり。
左に曲がるのが東海自然歩道だけど、標示があって、土砂崩れにつき通り抜けられない、とある。
――でも通行止めとは書いていない。まあ、いい。今日はここまでが予定。次にここに来る時にはきっと復旧しているだろう。
右に曲がり、東海自然歩道から離脱。PM6:48。
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先のコースへ進む→ |
コースとは反対方向へ坂を下っていく。目指すのは近鉄・湯の山駅だ。
周囲は夕闇。ただ、道標は無いので、ちゃんと駅の方角へ向かっているか不安になる。とりあえずの目安は高圧線。ここだろう、というところで左折。
さらに下る。分岐も多く、不安が募る。下りならともかく、上って来る場合には迷いそうだ。
民家の前を通ると、一本道に。
突然、踏切に当たる。渡ると――左方、光がこぼれている。
PM7:09、湯の山駅に到着。
飲み物の自動販売機もならんでいる。ここは湯の山温泉への連絡駅、観光客向けの設備は十分。
ただ、昼間あれほど水に餓えたのにも拘わらず、今は落ち着いたもの。ザックの中のペットボトルも、まだ内容充分。
とにかく、今日から再開した東海自然歩道歩き。今日は暑さに苦しめられたけれど、道そのものは適度に変化があって良かった。とりあえず次も歩こうという気になっている。
――最終目的地は関ヶ原。東海自然歩道は、このまま鈴鹿山脈の東麓に沿って北上していく。関ヶ原まで、あと何日かかるのだろうか? その間に、やっぱり鈴鹿山脈の山1つくらい登って欲しいと思うけど……もう、それはいいや。御在所山あたり、東海自然歩道とは関係なく登っておけば溜飲も下がるだろう。
切符を購入。
近鉄の電車に乗り込む。この時期、この時間、乗客はごく僅か。静かなもの。
列車が発車する。