- 鈴鹿山麓の道 -
【踏 行 日】2006年6月下旬
【撮影機材】OLYMPUS E-1, ZD14-54F2.8-3.5, ZD50-200F2.8-3.5, CASIO EX-P505
JR関西本線の非電化区間、ディーゼル車に揺られながら三重県は関駅に到着。
駅から出る。国道1号が左右に走り、脇には道の駅・関宿がある。――空を見ると晴れ間は望めないようなどん曇。天気予報では“梅雨の晴れ間”と言っていた筈だけれど、さすがに山間部の天候はそう甘く無いか。
バスが来るまで少しだけ時間がある。歩道橋で国道を越え、まっすぐ北へ歩くこと0.3km。
左右に古い町並みが伸びている。旧東海道・関宿。見慣れた電信柱と電線が無いので、逆に不自然さを感じてしまう。と言っても、こちらが町並みの本来のあるべき姿かもしれない。
朝が早いためか、観光客の姿はまだほとんど無い。代わりに、車が進入してきてその度に雰囲気が崩れる。
さて、もう少し先に歩いていきたいところだけど――早くも時間が無くなった。
駅にトンボ返り。関駅前のバス停でバスを待つ。やや遅れて三重交通バスがやってきた。乗り込む。
乗客は数名。バスは国道1号を走っていくものの、沓掛手前で旧道に入り込む。旧東海道だ。途中から東海自然歩道も合流し、見覚えのある光景があっと言う間に過ぎ去って行く。鈴鹿馬子唄会館を過ぎると、次が坂下集落。
坂下バス停に到着。AM9:45。
ここから鈴鹿峠まで前に歩いた道をなぞることになる。ちょっとかったるい。歩く予定は無かった――もし歩くつもりであったら、前回は坂下で折り返し、観音山歩道を通って関宿へ向かったかも知れない。
集落の中で声を掛けられた。「水口に行くのですか?」地元の人だ。水口、と言うことは……「いえ、東海道じゃなくて東海自然歩道を歩きます」
その人は途中に山道の入口がある事など親切に教えてくれた。知っている、なんて言えない。
その山道入口まで来た。立ち止まって少し思案。
――木階段を上り始める。国道脇の歩道を歩いていった方が時間は早いと思うけど、やっぱり車道は避けたい。
山道を進む。整備は良くて、さくさくと道は捗る。もちろん、まだ歩き始めで身体が元気だからなのだけど。
車の走る音が聞こえてくると、国道に出た。道標に従い、傍道へ。
片山神社。まさかもう一度来ることになるとは。階段をトン、トンと駆け上がっていき、境内に上がる。――何も無い。神社は焼失後、再建されないまま。前回来てから3ヶ月しか経っていないのだから当たり前だろう。
道に戻る。ここからはいよいよ鈴鹿峠越えの道。細道をジグザグに上り、国道1号を潜ると……緑の景色。国道脇の広場だ。
相変わらず、コース案内板が寂しく立っている。書いてあるのは東海自然歩道の説明では無く、見所紹介。鈴鹿峠、坂下の宿、筆捨山、観音山。
鈴鹿峠への最後の坂を上る。――前に歩いた時は寒かったことを思い出す。あの時は寒空に雪が舞っていた。
今は空は同じような曇天だけれど、気候は真逆で、蒸し暑い。坂を上っているとじっと汗が滲んでくる。3ヶ月の差は、案外大きいのかも知れない。
道が平らになり、林の出口が見えた。今回は鏡岩はパス。峠を抜けて、三重県から滋賀県に突入。周囲の景色は一面の茶畑へと成り変わる。
……でも残念、曇天は変わらない。右に折れて行くコースを無視し、200m直進、鈴鹿路傍休憩地まで進む。
到着、AM10:40。
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――またここに来てしまった。
以前に来た時は、自分の東海自然歩道歩きの最終目的地はここ、と決めていた。鈴鹿峠からは先、東海自然歩道を進むことはせず、峠から旧東海道に下りて草津、大津、京都三条大橋まで進んで〆る構想を立てていた。実際、その計画の手始めとして、その日のうちに水口の手前まで歩を進めている。
でも今日は、鈴鹿峠から東海自然歩道を北へ辿ろうとしている。行き先は湯ノ山、養老、そして関ヶ原。そう、東海自然歩道の新しい目的地を関ヶ原と定め直し、またここにやってきたのだ。
理由その1、前回、旧東海道を少し辿ったけれどパッとしなかったこと。その2、この春に歩いた東海自然歩道・嵐山~鞍馬コースが素晴らしかったこと。以上。
……我ながら移り気だとは思うけれど。路傍休憩地をAM10:47に出発。
鈴鹿峠でいよいよ左折、茶畑と林の合間を上っていく。この道は鈴鹿山地の稜線道だ。そして、滋賀・三重県境。
背後に峠が遠くなっていく。茶畑最上部に「茶畑」の解説板。そして――植林帯に突入。薄暗い林の中、丸木階段でさらに上っていく。さすがに自然歩道、勾配がしんどい。
高度差にして100mほど上がっただろうか――コースは稜線道から左に折れ、下りの山道となる。せっかく得た高度を、一気に消費する。
と、ダートの車道に出た。
ここまで一気に抜けてきたので汗をかいた。少し休憩をする。
その後、フラットな林道歩きとなったけれど、これはこれで良い。脇には沢。時折、日も射して、梅雨の晴れ間の予報が実現するかも知れない、という期待を感じさせてくれる。
しばらく道なりに進む。茶畑が現われ、人里が近くなってきたことが分かる。突き当たって、右折。すぐに田んぼの中の畦道となる。
――じつは今回、新兵器がある。東海自然歩道のガイド本だ。
この先、今までのように道標と粗い道路地図、5万分の1登山地図頼りで歩くのは厳しいと判断してのことだ。
もちろん、ガイド本が無くとも迷ったらコンパスを使ってコース復帰するつもりだけど。それによる遅延が致命的になる可能性がある――これほどの遠隔地になると。
もし道に迷ってその日のうちに帰れなくなり、現地に泊まると言うことにでもなればタイヘンだ。次の日の仕事が欠勤と言うことになる(実際は有休だけど)。だから、そろそろリスク管理が必要というわけ。悲しいけれど、現地の道標に頼ったナマの歩きをしたい、なんて贅沢が言える身分じゃない。
――道はぬかるんだ畦道に変わっている。足の置く先から、カエルがぴょんぴょんと大挙して逃げていく。これほど大量のカエルを掃き散らかして“バチ”が当たらないだろうか、なんて思う。
車道に上がる。道標があって、山女原に至るには町道とそうでない道の2つがあることを示している。
町道じゃない方に進む。ダート道。山女原の家々が見えてくる。それにしても、このあたりの田園にはこの時期なのに苗が埋まっていない。水も引かれていないし――休田中なのだろうか?
山女原に到着。AM11:50。高度は……347mまで落としてしまった。
畦道を歩いていた時にあった上空の晴れ間も、すでに消えてしまった。ただ、夏の暑さだけはしっかりと残していってくれたようで、とにかく蒸し暑い。アスファルトの歩きが暫く続いたので、身体にだいぶ熱が蓄積されているのを感じる。
――上林神社の木陰に逃げ込む。ここで大休止、もうお昼だ。坂下の集落からこちら、飲み物の自動販売機は無い。この先も暫く無いだろうから、飲み物は大事に消費しないと。
集落に人影は無い。みな家の中で暑さを避けているのだろう。明日からはもう7月という夏本番のこの時期、車道をダラダラ歩いているような酔狂な人間は珍しいかも。
さあ、もう少し先からは木立のある山道に入るはず、少しは涼しい筈だ、と自分を欺いて、出発。
……暑い。騙された。
集落を後に、車道を歩いていく。周囲は田園で広々しているけれど、そこを渡る風は無い。
やがて道は上り坂となる。棚田と共に上っていく。振り返ると、山女原の集落はだいぶ小さくなっている。
正面に砂防ダムが現われる。それを左から巻くように越えていく。
林道は砂利道へと変わり、やがて山道になった。やっぱり同じ蒸し暑さなら林の中がいい……と思ったけれど、その登りがなかなか尽きない。道を間違えたのか?
地図を確認。今、安楽越の峠へ向けて登っているのかとてっきり思い込んでいたけれど、地図の等高線はそのようになっていなかった。いったん、峠より高いところに登ってから、安楽越へ「下りていく」コース採りだったらしい。道理で。
鈴鹿峠より楽に安心して越えられることから名の付いたという安楽越。東海自然歩道は、そう簡単に楽にはさせてくれないらしい。
と、広場状となった草原の最上部に飛び出した。コース案内板も立っている。
PM0:32、かもしか高原。再び、滋賀・三重県境だ。ここから北へ進むと鈴鹿山地縦走となる。南へ下ると安楽越。
ここには鈴鹿国定公園の解説板もある。カモシカが見付けられなかった時の保険のためなのか、高原の説明に「その丸みを帯びた形状はかもしかの背を思わせます」なんて書いてある。――いちおう、周りを見回したけれど、現われてくれそうも無い。今でも未だカモシカが棲んでいるのだろうか?
安楽越へ向けて山稜線を歩き始める。途中、展望のあるところもあるけれど、いかんせん今日はガスが濃い。せっかく鈴鹿山地にいるのに、伊勢湾が見えてくれない。見えれば、結構、到達感が得られるのに。
下の方に林道が見えて、やがてそれが直下になって、最後にはそこに下り立った。この地点が安楽越のようだ。江戸時代とは違って、今では車が越えていく道。
さあ、ここで遂に滋賀県とはお別れだ。東の方角――三重県・亀山市のアスファルトの道を下り始める。勾配は緩く、確かに鈴鹿峠より楽に越せたかもしれない、などと思いつつ。
だらだらと車道を下っていく。車の往来は無く、静かなもの。
――この道は確かに楽な道かもしれないけれど、そもそも東海自然歩道ウォーカーは楽じゃない道を所望する。……いや、これは少し語弊があるな。言い直そう。東海自然歩道ウォーカーは自然の多き道を所望する。
と、いう意味では、確かに自然多き車道ではある。
――でも幾ら自然が多くても単調だとなあ、と結構、我がままなのが自然歩道ウォーカーだろう。……退屈なので、そんなどうでもいいことを考え始める。
退屈しのぎに、歩きながら行動食を摂り始める。その後は時々、下り坂を利して走り出してみたりもする。けれど、これが暑くて続かない。身体から排熱されず、熱が裡にこもる。
と、左から別の車道が合流してきた。道標を見て右に進む。
道はかなりフラットになった。もうそろそろ石水渓の領域だと思うのだけど、見回してみてもあまり景観っぽいものは見当たらない。と言うか、石水渓そのものがすっきりと見えない。道を外れて川にアプローチしないとダメなのだろうか?
なにか、そのような標示が無いかと探しながら進む。
結果的に、車道を一直線。途中にはキャンプ場の施設などもあってやや観光地っぽくなったけれど……自販機は無し。そろそろ飲み物補充できないと、この先しんどいことになりそうのだけど。
――せめて渓流で涼をとりたいところなのだけどなあ。
石水渓はところどころで車道の上から見下ろした程度で通過。樹林帯を抜けて、景色が開けた。見えてきたのは……新名神高速道。まだ工事中の筈だけれど、ほとんど完成しているように見える。それに、ずいぶんと高いところを渡っている。
アジサイで車道と区切られた小路を通って、その高架のある方向へ向かって歩いていく。
望仙荘を通過。石谷川を渡る。――なかなか、新名神が近付かない。デカい証拠だ。なぜこんなに高くするのだろう?
そして、ついにその足元に到着。時刻はPM1:47。すぐ先には矢原橋が見えているけれど、その手前に道標と石水渓観光案内図が立っている。
道標は左折を指示。そちらに進む。因縁の新名神とも、遂にここでお別れだ。
左側が一面の茶畑となった。
これほど広大な茶畑を見ながら歩いたことが無かったので、結構、新鮮な感じだ。その向こうには仙ヶ岳も見えている。鈴鹿山脈は、この山以北が標高1,000m級の峰の連なりになる。
仙ヶ岳登山道への分岐を左に見送って、さらに進む。緩い上り坂ですら辛い。午後に入って気温がさらに上がったようだ。湿度で、汗がずっと乾かない。
道は茶畑から離れて、山あいに入っていく。
棚田が現われ、再び上り坂となったところで――道脇の空き地に逸れ、ペタンと座り込んでしまう。そしてぜいぜいと熱い息をつく。なんか、妙な汗をかいて気持ち悪くなってきたのだ。これはまさしく熱中症の一歩手前状態だろう。このまま歩き続けたらヤバい。暫く休んでクールダウンしないと、まずい。
とは言え、残り乏しくなってきた飲み物も随分と前からヌルくなり切っている。衣服調整も限界だ。ほかに体温を下げる方法は……
術なく、しばらく東海自然歩道のガイド本でパタパタと顔を扇ぐ。たいして涼しく無い。次からは扇子を用意しておこう……。
10分後、ゆっくりと歩き出す。
四方とも棚田光景に様変わり。見事なのだけど、鑑賞する気分でもない。とにかく、慎重に歩を進めていく。
坂本の集落の中に入る。そのあたりの民家にピンポンして、ちょっと水恵んでくださいと言おうか、という考えが湧く。それでもいいと思うけれど、まだそこまでじゃない。
集落は上り坂。突き抜けて、再び四方は棚田光景。
自分の身体の変化に気を付けながら、注意深く歩いていく。――大丈夫のようだ。歩行スピードを落とせば、なんとか排熱バランスは取れるらしい。周囲は林となり、峠へ向かう緩やかな上り。途中、左に鶏足山野登寺の入口を見送る。
やがて勾配は下りへと切り替わる。そして開けたところに出た。峰ヶ城メモリアルパークの敷地だ。右側にその建物がぽつんと立っている。
遠方に、霞んではいるが平野部が見える。四日市あたりだろうか?その方角へ向けてどんどん下っていく。
と、コースが左に逸れていく。今日からの新兵器・東海自然歩道ガイド本によると別の道が示されていて、左に向かう道は赤の細線だ。これはどういう意味だろう?
とりあえず左、実地の道標が示している通りに進む。
歩いていくと、次の道標で左折――鈴鹿山地へ真正面に向かう方角を示される。
まあ、特に問題は無い。一直線に上って行くと……農道が尽きた。その先は膝したの藪の地道。林の中に入っていく。
この道でよいのか心配になってきた頃、東海自然歩道の道標が現われてくれて、安堵。このようなところだと、ガイド本があってもあまり役に立たない。
林の中の道を進んでいく。
まだ日は高いのに薄暗さを感じる。天気予報「梅雨の晴れ間でしょう」という予報は外れ、上空は灰色の陰気な雲で覆われている。もし、今日が本当に晴れていたら――気温に直射日光が加わることで条件がさらに厳しくなり、途中リタイアに至ったかも知れない。
でも――気温が高くなることで湿度が下がれば、逆に歩きやすいだろうとも感じた。長時間のウォーキングでは、温度より湿度の方が重要のような気がする。
林の地道の途中では、再びヤブめいたところも現われる。でも車道ベタ歩きよりかは、ずいぶんとマシ。ただ……喉が渇いた! もう、限界に近い!
山道区間は20分ほどで終わり、車道に出た。道標が立っている。
道標には、コースとは違う方角に「バス停 上野1.0km」との標記。……バス停になら、自販機があるだろうか?
でも行ってみて無かったらショックだ。それに、この時刻で25分のタイムロスは大きい。諦め、コース通りに車道を歩き出す。
茶畑やゴルフ場を見ながら淡々と距離を稼ぐ。途中には採石場入口があって、週末というのにトラックが出入りしている。
それでも、御幣川を渡る頃には再び山際の里の静けさを取り戻した。
小岐須の民家が左右に並び始めたところで、道が突き当たった。T字路だ。コースは左へ。
右は小岐須のバス停、0.1kmとの標示。――100mの寄り道なら子細無し。かくしてバス停に寄り道。
……自販機は無かった。無念。
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