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高雄観光駐車場。大型バス用スペースが多く目に付く。公衆トイレや土産物屋、食事処もある。
さて、ここから東海自然歩道は観光地区間を離れ、国道162号をそのまま辿っていくコースとなる。静かに歩けるハズ、と思いたいけれど、見ると国道に歩行者用スペースはほとんどない。ちょっと不安。とにかく、出発だ。
休日だけあって車の往来が激しい。川の対岸に歩道でも、と探してみても狭い山間、そんなものは無い。道が混んでいて車がスピードを出さないことが救い。
ガードレールにはカワトンボ。良く見ると、車道のアスファルトには虫の死体がいくつもこびり付いていた。――ドライバーにとっては、そんなものは目に留まらないだろう。
向こうに中川トンネルが見えて国道歩きは終了、右手の脇道を上がる。足早に歩いたのに、この区間に30分費やしてしまった。
「車に注意しましょう」の表示があった。然り――これから南へ向かうならば。背後には鯉のぼりが舞っている。
亀石町バス停を過ぎる。見てみると、1時間に1本ほど便がある。
じつはこの当たり、道筋が良く分からない。
幸い、その先でコース案内板を発見する――ところが、どういうわけだかその前は黒山の人だかり。団体さんいらっしゃい状態勃発だ。しかも2グループあるらしくて、1グループは既に出発し掛けている。
てやんでぃ、こちとら江戸っ子でい(嘘だけど)負けてられねえぜ!とばかり追い抜きにかかるものの、敵もさるもの、結構ペースが早い上に狭い道いっぱいに広がって隙を見せてくれない。捻り込むようにして何とか一行を抜き去る。「なにこの人、どっから湧き出たの?」と思われたには違いないけれど。
……とにかく、これで静かに歩ける。
だがしかし! こちらは路傍に興味を惹かれる物を見付けては脚が止まってしまい、その度に追いつかれそうになる。
一進一退の攻防がしばらく続く。おかしいなあ、混雑区間は朝のうちに通過してしまう予定であったのだけど。
AM10:51、この区間の見どころ、菩提の滝に到着。下りていく。
滝は小ぶりだけど、マイナスイオンに満ちた閉鎖的な空間。心地よく秘密めいたところ、と言ったところ。
だけれど、あまりゆっくりもしていられない。件の団体さんが到着してしまうからだ。と、車道に戻りかけたものの僅かに遅かった!山道を恐る恐る下りてくる団体さん御一行。降り切るまで、足場の悪い踊り場でずっと待機。道を譲ってくれそうな気配は無い。
ようやく人波が切れた。車道に上がる。背後で上がる歓声が、少し恨めしい。
赤のツツジや白のシャガ。北山杉も美しい。沢のせせらぎの音、飛び交うトンボはエメラルド・グリーン。――ようやく落ち着いて歩ける。ただ、これだけ豊かな自然だと、団体さんが訪れるのも納得する。京都は決して、寺社だけじゃないようだ。
沢ノ池へ向かう道を分けた後、やや勾配が出てきた。もっとも、大したものではない。
おそらく、団体さんたちは、お弁当適地である沢ノ池へ向かうだろうから、もう出会うことは無いだろう。仮想敵が失われて一抹の寂しさ。そう、長距離を黙々と歩くためには、行程の中で気分に起伏を付けてやる作業が必要だったりするのだ。まあ、「一人じょうず」の一種だけれど。
道を上り詰めていく。と、道幅が細くなり切らないうちに、あまり判然としない上ノ水峠。うーん、これではあまり到達感が無いなあ。
その先、少し下るとダートの車道にぶつかった。京都一周トレイルとの交差点だ。車道を横断して、再び山道に。
――すると、道が細くなり勾配も急になった。こちら側の方が遙かに峠道らしい。
ずんずんと山道を下っていく。方角は南東から東へと変わり、開けたところでは遠方に比叡山の山影が見えるところもあった。――あちらも、東海自然歩道が渡っている。
さらに下る。今日のコースの山岳区間だ。
やがて右方に建物が見え、回り込むようにしてその集落に下りていく。と、山道が尽きてコンクリート道となった。すぐに坂尻の集落に下り立つ。
深い谷あいの集落。民家の数も疎ら。そして、コースの先も谷あいの道。道は下り基調。淡々と歩を進める。そのそろ昼時で腹も減ったので行儀悪く食べ歩き。
食べ終わってしまった。とにかく距離が長い。ようやく、前方に千束のT字路が見えた。ここに立つ東海自然歩道コース案内板で現在位置を確認する。――この先、また寺社区間があるようだ。
直進する。相変わらず紙屋川沿いの薄暗い林の道。と、道が左にカーブして集落に入っていった。突き当たって右折。
その先、「金閣寺2.0km」の道標の立つ分かれ道。金閣寺は正面の鏡石通り。けれど本線は左側の急な上り坂の方らしい。
ちなみに、金閣寺に北の方角から到達するような観光客はほとんどいないだろう。時間があれば寄りたいところだけど、往復1時間の捻出は無理。
仰せの通り、左方の坂道を息を切らせながら上る。坂のてっぺんに着いて、見上げると「頭上注意」のミラー。なんと左右でなく上下のカーブミラーだ。
そして着いた先が鷹峯、AM10:53。
世界がガラリと変わる。眼前に、両脇に住宅の立ち並んだ真っ直ぐで平坦な道が伸びている。一点消去の光景……この場面切り替えには、なんか眩暈のようなものを感じる。
あれ? 東海自然歩道の道標にトラロープが掛かっている……。確かにさ、モノを引っ掛けるには丁度良い具合かも知れないけどさ。
一直線の車道を行く。特に観光客の姿も見られない。寺社が幾つかあるようだけれど、あまり目立たない。
さらに小学校を横目に進むと、信号機のある鷹峯交差点。左折して、次には真新しい住宅地の合い間の細かい道を抜ける。ただ、分かりにくい箇所では図入りの道標があるので迷うことはない。
自然歩道とは名ばかりの、もはや普通の住宅地歩きとなっている。主婦の買物姿さえ見られる。
氷室道と名のついた住宅街の坂道を下り、ついで坂を上っていく。右折すると尺八池に到達。池は柵の中にあって、こちらからでは水面まで近付けない。
コースは、折り返すように南下していく。ほどなく、歩道のある二車線道路に接続。こちらも両脇に住宅の立ち並ぶ、ごく普通の町中だ。風情のようなものは無い。
――まあ、朝の区間が素晴らしすぎたというのは確かにある。鈴鹿峠まで歩いてみて、この自然歩道は昭和の設営当時ならいざ知らず、今では普通の町中になってしまっている区間が結構あるというのも真実。今は昭和ではなく平成なのだし。
前方にセブンイレブンが見えた。と、その手前に道標があって左折。北へ向かう道となる。
左に一様院の階段を過ぎると、突然、畑地帯に出た。空気も変わって、どことなく郊外の雰囲気となっている。
その先、紫竹西通りに合流して直ぐ左折。さらに右折して進行方向を北へ戻す。
――計画段階では、賀茂川の向こうにある上賀茂神社に立ち寄ることも考えていたけれど、そんな余裕は無い。
その後は単調な郊外歩きになる。町歩きよりは良いけれど、あまり代わりばえしなく飽きる。道標も少なくなって途中迷うこともあったけれど、そういう時はとりあえず北に向かう道を選択。
やや高台となって、右手に賀茂川の流れを見下ろしながら進むようになる。平地が、北に進むほど先細りになっていくのが分かる。京都盆地も北の端が近づいてきたのだ。左手は山斜面。
学生が目に付くなあ、と思ったら西賀茂中の前を通過。
そして、遂に賀茂川の右岸に出た。川に沿って北へ進む。
PM0:57、府道38号に合流。柊野だ。賀茂川の向こうには京産大のグラウンドが見えている。
ここからは府道歩き。交通量は多いけれど、幸い、歩行者用スペースが付いているので危険は無い。賀茂川とともに府道を北上。京都盆地を後に山間部に入っていく。ここからは本当の京都北山。
交差点が見えてきた。
市原バイパスとのT字路。気温標示板があって、27℃を示していた。暑いわけだ。
さて、ここを右折すると叡山電鉄・市原駅へ2.2kmだ。けれども本線は直進。
府道61号ベタ歩きとなる。勾配が出てきて、賀茂川も渓谷の様相になる。その代わり、車の往来はほとんど無くなる。
雲ヶ畑まで4.3kmの距離を残して、府道を右に逸れる。
――ここからが山歩き。夜泣峠越え区間だ。最初は林道。幅が広くて歩きやすい。分岐も多いけれど、道標完備なので迷うことは無い。
途中、右に曲がると登り一辺倒となる。杉林の中、頑張って登っていく。
夜泣峠、PM2:00に到着。
標高は350~380mと言ったところ。西面にわずかに開けた眺望点を数人のハイカーが占領していた。どうやら、ここはハイクの対象となる峠らしい。
ちなみになかなかユニークな名前の峠だけど、「幼少の親王の夜泣きを、ここにあった地蔵に願を掛けて泣き止ませた」という故事に由来しているとの解説板。
――それじゃあ夜泣き止ませ峠じゃないか、という無粋なツッコミは無用。
二の瀬へ向かって下る。
結構な勾配だ。もっとも、多少期待していた展望は全然無い。ずんずんと下っていく。
最後は階段となって、下り切ると車道になった。左に神社を見て叡山電鉄の線路を通過する。
右にカーブを切ると、道は二の瀬の集落へと入っていった。
鞍馬川を橋で渡る。狭い民家の間をすり抜けると車道にぶつかった。鞍馬街道だ。左右に渡っている。
コースは当然左折、鞍馬を目指す……のだけれど、今日は反対方向へ歩き出す。ちょっと時間がありそうなので、寄り道だ。目指すのは叡山電鉄・二ノ瀬駅。
小高い駅のホームに上って、そこから二ノ瀬の集落を眺める。
――鞍馬川に沿った狭い谷あいの空間に、家々が張り付いている。京都盆地から少し北山に分け入っただけなのに、山里の雰囲気が濃い。
再びコースに戻る。一車線の鞍馬街道を北へと手繰り始める。
鞍馬川沿いの府道をひたすら北へ。周りは完全に山の中だ。それでいて、鞍馬は観光地なので車の往来も多く、神経を使う。
途中、貴船神社への道を左に分ける。その先は再び山の中。
――ようやく、山を脱した。民家が両脇に立ち並ぶ。その庭先を、叡山電鉄の電車が何気なく通っていったりする。
土産物屋が何軒か軒を連ねる道を僅かに戻ると、叡山電鉄鞍馬駅。
まだ日が高く、駅も到着した人と帰る人が入り乱れている。
その地点から、もう少し北へ進むと鞍馬寺の山門前。PM2:56。
この地に過去2度訪れた時はどちらとも寒々とした冬であった。
――今は春。新緑の青々しさが目に眩しい。今日の東海自然歩道歩きはここで終了。
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――そう、今日はここで終わってしまいました。鞍馬から大原はどこへいったんだ! ということになりますが、それは「先のコースへ」進んでもらえば分かります。
この日はじつは夕方から用事があって、まだ日の高いうちに戻らなければなりませんでした。それに、第一、鞍馬から比叡山はもっと前に歩いています。ただ、逆コース。東京まで歩こうなんて大それたことは考えていない時期でした。
そんなわけで、翌年の秋、嵐山から大原までという東行ルートで歩き直しています。