- 新緑光る"京”の山辺 -
【踏 行 日】2006年5月下旬
【撮影機材】OLYMPUS E-1, ZD14-54F2.8-3.5
今日の東海自然歩道歩きは――京都は嵐山、高尾、鞍馬、等々。錚々たる有名観光地の名が並んでいる。特に出発点の嵐山は京都区間の白眉的な存在だ。昼間の混雑に巻き込まれると、なかなか歩が進まず辟易するのは目に見えている。なるだけ早朝到着して歩き始めたいところ、と、いうわけで眠いのを我慢し暗いうちに家を出た。
途中、JR山崎駅で下車。大山崎駅まで歩いて、阪急電鉄に乗り直す。
大山崎駅から嵐山駅は桂駅での乗り換えが挟まるものの所要時間は30分ほど。
そして電車は、ひと気の無い阪急嵐山駅のホームに滑り込んでいった。この駅は嵐山観光の起点であるけれど、今日のところは東海自然歩道コースの起点。
駅の外に出る。……空気が少し違うように感じる。5月早朝の清涼感。正直、かなり眠かったのだけど、いくぶん眠気が吹き飛んだ。
天気はすこぶる良い。それでいて嵐山駅前に人がいない――いるのはハトばかり。なにしろ、まだ観光客が動き出す前の時間帯。
駅前のコンビニで今日1日分の行動食を調達。飲み物は500mlペットボトルを3本ほど。暑くなりそうだけど途中補給は十分可能だろう、と踏んで。
駅前の通りを、そのまま歩く。1分ほどで……
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AM6:42、東海自然歩道と合流。
――そしてここは、嵐山公園の入口。散歩をしている(たぶん)地元の人たちの姿がちらほら、という程度。
前回、大阪からコースを辿り、到達した時はとっぷりと夜闇に沈んでいた。寂しい、というか少し怖いくらいであった。今もひと気は無いけれど寂しさはない。まだ朝のまどろみの中、という感じだ。
そのまま公園内を進んで、小さな橋で中之島へ渡る。
砂利の広場に出た。桂川の向こう、小倉山と愛宕山をバックに渡月橋が見えている。今日は空気も澄んでいて、山の緑も目に麗しい。やっぱり、嵐山は明るいうちに来てナンボだと実感。
相変わらず人の姿はほとんどない。川岸に並ぶ出店もカバーで覆われたまま。しん、とした雰囲気。
川の上流方向へ向かってジャリジャリと音を立てながら歩いていく。
ほどなく、その場所に到着する。京都を代表する……というより日本の橋を代表する風景であるところの渡月橋。その袂。人はいない、車も走らない、この不思議。
その渡月橋を渡っていく――ちょっとした、ひとり占め感。
渡月橋を渡り切ると信号のあり交差点。前方は嵐山の目抜き通りなのだけど……こちらにも人の姿がない。違和感すら覚える。
左折。川沿いの道に入る。
どうも前に来た時が桜の時期と紅葉の時期なので、嵐山というと人でゴッタ返しているというイメージがこびり付いてしまっている。なので拍子抜け、というか不思議な感じがずっと付き纏っている。もとより、こちらが本来の嵯峨嵐山だとも言えるハズなのだけど……。
大堰川沿いに西に進む。透かし見える道のくねくね感が堪らない。川面は舟も浮かばず、鏡のように静か。
舟乗り場から先は歩道だけになった。石畳を歩いていく。と、歩道が右に折れている。
そこに立つ東海自然歩道の道標を確認して右折。大堰川を後に石階段を上っていく。
上がった先は、嵐山公園・亀山地区。小道が分岐する丘の公園だ。最上部には保津峡への展望台なんかがあって必ず立ち寄るようにしているのだけど、今日は例外。一番下の道を真っ直ぐ歩き抜ける。
すぐに公園出口。ここまでで嵐山公園はオシマイだ。時刻はAM7:08。
公園から出るといきなり道が暗くなった。濃い竹林の中の道。なんとなく「幽玄」の趣もある。
真っ直ぐ突き抜けると周囲は雑木林に変わった。JR嵯峨野線の線路を越え、坂を下っていく。
十字路に当たった。右にトロッコ嵐山駅の入口。左前方には池が見える。岸に御髪神社の赤い幟がはためいている。
――直進、池沿いの小道を進んでいく。池から離れると緑の多い道に。このあたり、観光客がいないと結構普通の路地かも知れない、なんて思う。
T字路に東海自然歩道の道標が立っている。そこは閉ざされた常寂光寺の門の前。……いつかこの常寂光寺にも立ち寄りたいと思いつつ、右折。
ごく緩やかな下り坂となる。すぐに視界が開けた十字路に出た。広がっているのは麦畑か。道標に従って左折。
畑の向こうには藁葺きの落柿舎――らしいのだけど。今の季節は緑に覆われていて判別困難。
再び木立の中を進むようになる。建物は木立の中に散在。散歩道としては良い道だ。
やがて木立を抜け道幅が広がった。再び観光地めいた雰囲気が戻ってきたかも知れない。左側には立派な門――ニ尊院の総門だ。ただし、こちらも未だ開門前。
食事処・土産物屋などが目に付くようになってきたけれど、相変わらず人の姿はほとんどない。府道50号に合流し、さらに進んでいく。
――だいぶ奥まってきた。道は石畳の上り坂となっている。やがて左手に化野念仏寺へ続く階段が現れた。……でも、見送り。今日は長い距離歩くつもりなので寺社関係はすべてパスだ。
嵐山高雄パークウェイの高架が頭上を跨いだ。その先に、苔むした藁葺き屋根の家並みが見えてきた。ようやく鳥居本か。AM7:32。
ここで嵐山の観光地区間は終わり。あらかたの人は引き返すか清滝道の駐車場へ戻っていくかだけれど、もちろん東海自然歩道はこれからが本番だ。道標に従って左折、薄暗い林間の道に入る。
……もとより、こちらは昼間でもひと気は無い。建物も無い。
やがて上り坂となる。時にはヘアピンカーブを交えながら、峠へ向かって上っていく。
前方、またもや嵐山高雄パークウェイの高架が見えた。あの直下が峠だ、と、頑張って上っていく。そして六丁峠に到着。左脇には小倉山へ続く登山道入り口。一方、前方にはくねくねとヘアピンを描きながら下っていく車道。
車道を気分良く下っていく。なにしろ前方に愛宕山や保津峡が眺められるところもある。保津川を下る客を満載した保津峡ラインの舟だとかトロッコ電車が鉄道橋梁の途中で一時停止する様だとか。
ただ、下るにつれそのような眺望も閉ざされていった。淡々と下るのみに。
下り切ったところが落合。AM7:52。そこに立つコース案内板を確認して……先に進む。清滝川に赤い橋が架かっている。渡る。トンネル。あれ、待てよ?
道を間違えたことに気付く。案内板まで戻ると、その裏に河岸に下りる道が付いていた。うっかり見逃してしまっていた……。
清滝川に下る。歩道は、すぐに左岸から右岸に移る。そこから清滝川の渓谷部・金鈴峡の歩道歩きとなった。
金鈴峡。
――なにより、川面が近い。これだと雨の後には増水して、コース自体が水に浸かりそうだ。今日のところは問題ないけれど、濡れた岩に足を滑らせないよう慎重に歩を進める。
道は、とりあえず良く整備されている。沢を跨ぐとこには桟橋が渡されているし、道標もそこそこ多い。ただ「落石注意」の標示もある。緊張感を切らさないよう心掛ける。
東海自然歩道を西の起点・大阪箕面から歩き出し、現在、とりあえずの目標に定めていた鈴鹿峠まで歩き切っている。今日は歩き残しの区間歩きなので、ある意味オマケだ。
でも観光地巡りに過ぎないと思っていた今回のコース、このようなワイルド感たっぷりの渓谷歩きが出来るとは予想外。もしかしたら道の魅力としては本区間は突出しているのかも知れない。
もっとも、新緑時期という時期に狙い打ったせいかも知れない。とりあえず紅葉の時期にも歩いてみたいなあ、と思う。
やがて前方に歩道橋が見えてきた。ただの橋ではなくて、歩道橋だ。川の少し高いところを渡っている。
歩道橋の上からは上流方向に赤い橋が見えた。あそこが清滝だろうか。
歩道橋から下りるとゲンジボタルの解説板が立っていた。国の天然記念物に指定されているとのこと。初夏にも来てみたくなったかも……。
そして階段を上って車道に出る。渡猿橋を渡って清滝の集落に到着、AM8:18。
味のある民家の間の道に分け入る。愛宕山登山道入り口の鳥居の前で右折。
清滝川に架かる橋の向こうには駐車場が見えている。ハイカーが出立準備中。愛宕山に登るのだろう。――その橋は渡らず左折。清滝集落を後に、清滝川に沿った車道を北上。そして、道が左にカーブしていくところに道標や案内が色々と立っていた。東海自然歩道は……直進か。先の山道へ入れとある。
その通りに進む。山道を下りて行き、やがて沢沿いの薄暗い道となった。……本当に暗い。
と、別の川の川べりに飛び出す。清滝川だ。そして、この渓谷部がいわゆる錦雲渓――こちらも、息を呑むほど素晴らしい。
気分よく闊歩。5月の渓谷歩きはやっぱり爽快だ。もっとも、この渓谷にそう急流部があるわけではない。
と、突然、緑野に飛び出した。木立の多い芝生の広場だ。ちょうど弁当を広げるのに良さそうな按配なのだけど、まだ朝方。人はいない。
一瞬、進む先が分からなくなったけれど、よく見てみると川を沈下橋が渡っている。……ずいぶんと水面に近い。雨が降ると水中に没しそう。
沈下橋を渡ると清滝川から離れ、左右にスギが律義に並び立つ道に。突き進んでいくと、左手から再び清滝川が合流してきた。もっとも、既に渓谷道の趣きは薄れている。
さらに進むと道がだんだん広くなり、道脇もスギの木ばかり目立つようになってきた。陽射しもだいぶ高くなり、朝の清涼感も失われてきたよう。
普通のダートの車道になった。水溜りを避けながら歩いていく。と、前方に堰が見えた。清滝発電所だ。橋を渡って右岸に復帰。
現われたのは駐車場、ということは人里だ。高雄だろう。そこを抜けると舗装道に。カエデの新緑が溢れる道となる。観光地の雰囲気が出てきた。もみぢ屋別館、公衆トイレを過ぎる。
高尾観光ホテルが現われた。前方には紅橋。左には神護寺への参道上り口がある地点。ここが高雄の中心地、ただし、まだ人出は無い。AM9:00。
久しぶりの寺社。少し逡巡したものの、意を決して神護寺の参道を登り始める。すぐ近くだろう、と思ったので。
――大外れ。階段づくしで結構しんどい。そんなわけでか途中には茶屋があり、一息つけるようになっている。……ここで引き返すか?
悔しいのでさらに上っていく。息が切れてきた。
展望のある「硯石」の曲がり角。そこを曲がると長い長い階段の先、ようやく山門が見えてきた。
――見えてきてからが、また長い。新緑に埋もれ、絵になる山門。それにしても遠い……。
ようやく階段が終わった。あったのは拝観料受付所……今日はここまで、と、引き返す。決して拝観料が惜しいわけでは無い。惜しいのは時間。
同じ道を下る……下りも長い。ようやく参拝客とすれ違うようになってきた。
参道入口に下り立つ。消費した時間は――14分。
高雄橋を渡って清滝川左岸へ。バス停分岐を過ぎると西明寺へ渡る紅橋が見えてきた。
立ち寄るべきか考えたけれど、足は勝手に紅橋を渡っていた。階段を少し上ると西明寺の山門。ピンクのツツジに真っ赤なカエデが季節感を惑わす。
門を潜る。境内は、小ざっぱりとしていて清楚な雰囲気。京都の寺社は、どこもキレイに掃き清められている印象。
……と、ゆっくりはしていられない。コースに戻る。あまり見るべきもののない府道歩き。最後には上り坂になって、その先で国道162号に合流した。
二車線の国道歩きとなる。幸い、まだ交通量は少ない。清滝川を渡ると、左に高山寺の表参道入口が現われた。
当然、そちらに進む。国道をベタに歩くより木陰の道を歩いた方が良いに決まっている。
ところが参道は左に90°折れた。これ国道から離れる方向じゃん。でも、ここまで来たら戻れない。深い木立の中、幾つか階段を上りながら境内の奥へと進んでいく。
――思ったより遠い。それにしても世界遺産の表参道なのに参拝客が全然いないとはどうしたことか。
最後の急階段を上ると高山寺の金堂に到着した。地味だけれど良い雰囲気……と、ここには参拝客が結構多い。いったい、どこから湧き出したんだ?
右に折れて、開山堂の方へ下りていく。――本当にすれ違う参拝客が多い。雰囲気まで変わってしまっている。
開山堂を経て、さらに長い階段を下っていく。石水院まで下ると、観光客の姿がわらわらと攻め上がって来るような勢いまでになった。
裏参道から国道に飛び出した。
――さもありなん、こちらには広い観光駐車場があって、マイカーやバスが停まっていた。駐車場に近い裏参道から観光客が流入して来るだけのことだ。そういえば表参道の方には駐車場は無かった。
まだまだ駐車場は空いているので、これから昼に向かって酷く混雑していくのだろう。現在の時刻、AM09:52――東海自然歩道を歩き始めて既に3時間少々が経過していた。
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