- 奥多摩を縦断 -
【踏 行 日】2020年12月下旬
【撮影機材】OLYMPUS OM-D E-M1MarkⅢ, M.ZD12-100F4
東京都をたった3回で縦断してしまうなんて勿体ない――
そう言っていた筈なのに、悠長に歩いている余裕は無くなった。結果、年の瀬にもなって西へと向かう朝のJR五日市線に揺られることに。身体が今日この日しか空いていないのだから仕方が無い。
終点の武蔵五日市駅で降りると小雨が降っていて、ホームは黒々と濡れていた。予報では午前中は雨で午後に回復するという。
駅の外へ出ると、藤倉行バスは既に停まっていた。ICカードをタッチして乗り込む。7割程度の混み具合。ハイカーらしきいでたちの人は――5、6人?
AM7:39、バスは発車。都道33号・檜原街道を西へ向かってひた走る。
AM8:02、千足バス停で降車。バスを見送る。
ここに来たのは3か月ぶりだけど、何も変わっていないように見える。東屋商店も営業中。小雨が降っていることを除けば空模様も似たようなもの。
――植林の山は常に緑なので季節感が無いのだ。せめて白い雪でも積もっていれば、と思いつつ雨中登山の身支度。
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AM8:12、千足を発つ。
都道から別れて大岳山ハイクコースの1つへ。関東ふれあいの道の『鍾乳洞と滝のみち』コースだ。
――ただしこの自然歩道は大岳山山頂の手前で下山するコース採り。従って目指すのは馬頭刈尾根にある富士見台。名前の通り富士眺望がある。でも、この天候では見ることは叶わないか。
御霊檜原神社を見て方角を北へ修正。目の前に伸びる上り坂。そこそこ急だ。体を温めるにはちょうど良い、と、まだ余裕。気温も十分高くて、体感では10℃を超えている。
坂を上っていく。左手に公衆トイレ。その手前、3台ほど停められそうな駐車スペースがあるけれど空。
谷は狭くなる。ポツポツと見えていた民家も見当たらなくなった。と、通行止めゲート。道を塞いでいる。
もちろん車両の通行止めだろう。通過し、何もない林道を登り詰めていく。
――蒸し暑くなってきた。気温が高く湿度は100%なのだから当たり前。冬ハイクとしては違和感しか感じないのだけれど、寒いのは苦手なので、むしろありがたい。
林道が尽きた。道幅が広がって、その先に山道入口というパターン。
差していた傘を閉じる。林間の山道へ。
案内板があって天狗滝まで10分、綾滝プラス20分とある。天狗滝は落差38mとけっこう大きいようだけど、ここまで観光地っぽい雰囲気は無い。付近に日本の滝百選・払沢の滝があるからだろうか、などと思いつつ山道を辿る。
分岐が現れた。かたや「天狗滝・綾滝」、かたや「綾滝・つづら岩」って……複線か。でも、綾滝までどちらも0.9kmと距離は同じ。これは天狗滝一択でしょ、と直進。
小雨はまだ降っているけど、傘が無くても山の中なら凌げるレべル。その代わりにLEKIのステッキを取り出す。山行機会の減少に比例して持ち出す率が高くなったのは体力低下を補うため、というのが情けない。
天狗滝への道はややワイルド。濡れた岩の上を歩くことが多いので慎重に進む。岩で埋まった沢を越え、ひと登りで小天狗滝。小さいながらも整っている。
さらに沢筋を遡上。道はやや不明瞭。と、大きな岩盤に当たって道が尽きた。その右手に見下ろされたのが――天狗滝。道は高巻いていたようだ。
細い道を伝って滝の正面まで下りる。――けっこう大きい。近くまで寄れるのでそう感じるのかも知れないけど。AM8:43。
さて、先はまだ長い、と見物もそこそこにして歩き出す。
その先は急な登り。
さきほど分かれたコースと再合流。指導標を見ると綾滝までの距離は0.6kmに減じている。そうか、距離は同じでも所要時間は違うというわけか。下山だったら迷いなく短絡路かも。
まっとうな登山道。道の状態は良い。雨は止んでいた。前線の通過で雪道になることも予想して軽アイゼンまで持ってきたのだけど出番はなさそうだ。
ヒノキの植樹林帯。登っていくと、右手に沢が現れた。けっこう荒れている個所もある。
と、沢が行き詰った。右に曲がっている?いや、正面の岩盤に細い滝が伝っているのが見える。綾滝だろう。石で埋もれた沢を回り込むようにして滝の脇にある休憩ベンチに到着。AM9:00。
――沢に朝日が差し込んだ。予想よりだいぶ早い。気持ちの良い山の朝の光だけれど、空気が生温くてなんか変な感じだ。
綾滝に近づき、見上げる。確かに水の落ち方が綾なす感じ……なのか? 少なくともハイクコース途中の良い休憩場所なのは確か。
さて、ここからは沢を離れて支尾根を上がっていくようだ。ここからが本番、とステッキを短めにして斜面を登り始める。林間のジグザグの道。時折、陽射しが林床に届く。
この先道悪し、の標示を過ぎると斜度はさらに増した。ただ道自体は悪くなく、やや不明瞭といった程度。たぶん、東京都基準では「道悪し」なのだろう。道標の数も十分。
……そんなことを思いながら淡々と登っていく。景色はあまり変わりばえしないけど、高度が上がっていくのは肌で感じられる。3ヵ月ぶりの山歩き。ステッキのおかげでまだ足に疲労感は無いけれど――蒸し暑い! ついに冬用シャツと上着の2枚だけに。
背後、木々の間から雲海が見えた。雲の上に抜け出すのは、いつであっても気分が良いものだ。
さらに高度を上げていく。陽射しは常にあるようになり、稜線の向こうには青空が見えていた。気温もやや下がってきたようだ。願わくば、このままスッキリと晴れ上がって欲しい……けれど、山の天候がそんなに単純なものであったらどんなに楽か。
……と、まだ稜線に達していないのに三方向道標に突き当たった。
AM9:35、どうやら、つづら岩に到着したみたいだけど岩が見えない。この上にある?とりあえず左折して「大岳山 3.2km」の方角へ。
斜面を巻くようにして道は伸びていく。登り勾配なので、このまま稜線に合流するのだろう。
――雪山にも対応できるような装備なのでザックがいつもより重いのが堪えてきた。足取りがだいぶ重い。もっとも、周囲には雪の欠片も見当たらない。
稜線に出た。馬頭刈尾根だ。見違えるような展望が――ある筈も無くて。
左右とも木々が立ち並んでいる。冬なので枝を透かして向こう側が見えなくはないけれど……。
と、またもや「この先、道悪し」の標示……って、立派な鉄階段が架かっているじゃん。十分整備されていると思うけど。
ただ、痩せ尾根っぽいところもあったりして確かに自然歩道コースと考えるとややワイルドかも。
稜線の上、しかも左右は葉の落ちた落葉樹であるため寒くなって来た。風通しが良いというだけでなく、寒冷前線の通過で上空から冷気が下りて来たようだ。
高度1,000mを突破したあたり。ようやく右手に木々の切れ目があった。見えてきたのは御岳山。なぜそれと分かったかというと、山上に神社や集落らしき建物群が良く見えたからだ。山の上の集落なんて、このあたりでは御岳山ぐらいしかないだろう。
その稜線を右に辿ると、あずま屋のある山頂が見えた。あれは日の出山か。あの日の出山に登って御岳山へ進むのがお隣のコース……って、今日の午後に歩く予定だけれど。
展望は途切れ、再び林の登りとなった。富士見台はまだのようだ。その代わり、今度は右前方に大きく大岳山の姿。奥多摩三山と言われるだけあって、カッコいい(?)フォルム。
――距離を推し量る。結構近いように感じるけど果たして……
もうひと登り。富士見台に到着、AM10:04。
あずま屋とベンチ。そして、関東ふれあいの道のコース案内板。確かに休憩するには良い場所だ。ただ、ガスがここまで上がってきたようで、北面の丈高い草が生えている方が真っ白。見晴らしがあるのかどうか分からない。
一方、西方はガスが無い。そちら覗き窓のようになっていて、連なる山並みの向こうに浮かぶ富士山――を覆い隠す白い雲。うーん、これは時間が少し遅かったか。
今年の冬は寒いわりに富士山に雪がなく、年末まで赤茶けた地肌を晒しているという異常事態であったのだけど、正月に向けての雪化粧をようやく終えたところかも知れない。そのことだけでも確認出来たので良しとするか……。
あずま屋で、カロリー補充とばかりコンビニで買ったサンドイッチを頬張るものの、寒い。寒風が吹き抜けていくのだ。食べ終わり、逃げるように大岳山への道へ。滞留時間は10分。
再び樹林の稜線歩きとなる。風も無く陽射しもあって穏やかな冬の木漏れ日ハイクの様相。アップダウンも緩やか、道の状態も良く、背丈ぐらいのササ地帯も通過に支障なし。平和。
……と、ベンチがコの字型に並んでいる。
何かと思ったら見晴らし台になっていた。ここからは西方への見晴らしがよいようだ。富士見台よりずっと。
――ただ、残念なことに上空の雲の量は増えていた。北方から侵入しつつある強い寒気が南方の暖気を追い払って雲を湧かせているようだ。三頭山まで見えているものの、それより北の山々は関東山地を越えて来た雪雲に覆われている。
一方で、近場は良く見えた。特に足元をU字を描いて伸びていく檜原街道を見下ろせて高度を感じる。高低差は700m程度だけど。
この分なら、この先にも見晴らせる箇所が幾つかあるかも知れない、と期待を残しつつ稜線をさらに北へ。
ところが、そこから木々が途切れることは無かった。しかも上空、完全に曇ってしまった。曇ると一気に肌寒くなるのが冬のハイク。
そして、稜線上の分岐に到着。「関東ふれあいの道」は東面に下山するよう指示されている。大岳山山頂まで片道1.7km、高低差200mの地点だけれど、山頂まで行かないのは自然歩道のコース設定上の仕様だろう。
悩む――ことなく直進を選択。既に決めていた寄り道。AM10:26。
登山道を突き進む。右に大きくカーブを描く形で大岳山へ向かっている筈だけど、木立に囲まれているので感覚的には一直線。目指す山頂は150mほど高いところにあるけど勾配は緩く、最後に急登が待ち受けている予感。
白倉分岐を通過。その先、ベンチが縦に3つ並んでいた。見ると、木々の合間ながらも見晴らしがあった。北秋川沿いの集落が見下ろせる。
先を急ぐ。陽射し無く冴えない景色。
小さな社の先、分かれ道になっていた。道標はどちらも御前山を示すけど大岳山経由は右――と、緑と黒のチェックのバンダナ……いや布切れか。そういえば大岳山は『鬼滅の刃』登場人物の生誕地って設定だっけ。その余波か。
すぐに、また分岐が現れた。今度は道標が無いけどバンダナは括り付けられている。オレンジのやつ。
左へ。山頂直登コース。道はやや不明瞭で勾配は急。久しぶりの山歩きなので足が既に重く、休み休み登っていく。
……と、木立が切れた。これは分かりやすい。大岳山山頂に到着、AM10:59。
ハイカーは3人ばかり。見晴らしは……一方向のみだけど富士山の方角。ただ、一瞥で無理と分かってしまう。上空は暗く、山々には雲が懸っている。稜線に上がった時、今日はこのままスッキリ晴れてくれるかも、なんて思っていたけど。甘かった。
――寒い。冷たい風が吹き抜け、身体から体温を奪っていく。予報通り、北方から寒気が入りつつあるようだ。だけど、この山頂に至っても積雪は欠片も見られなかった。今年は本当に雪が降っていないようだ。
コンビニお握りを食べながら、防寒着を出すかどうか悩む。まあ、下山だから大丈夫だろう。AM11:14、山頂を後にする。
登って来た時とは違う道を選択した。メジャーな方のコースだ。急下降だけれど道幅は広い。加えて、これまでと打って変わってハイカーが何組も登って来る。これはようやく東京のメジャー山岳が本気出したか……。
道は北方へと大きく回り込み、落葉樹帯から植樹林帯に突入した。やや薄暗い林の中を下っていくと、下方に社が見えて来た。野ざらしで2つ建っている。大嶽神社の拝殿と本殿だろうか。
さらに下方、見えてきたのは屋根。
社を潜り、大岳山荘に到着。さすがメジャー山岳道には立派な山荘が、と思ったら朽ちかけている。廃屋だ。営業停止してから結構な年月が経っていそうだ。
持ってきた地図を開く。……この地図、古すぎることが分かった。ただ、丹沢山地への展望が良いのは変わっていない。公衆トイレもある。
山稜を南に辿る道へ。分かりやすい巻き道となる。左手は林の急斜面。桟橋も幾つか渡る。
元の道に合流。ここからは先ほど、歩いてきた道を逆に辿るだけ。緩い下りなのでサクサクと進んでいく。山頂から下りたら寒さはだいぶ和らいだ。昼近いということもあるのだろう。
陽射しは時折、降ってきて、そのような時は木漏れ日ハイクの雰囲気に。奥多摩の山を歩くのは前回の浅間嶺に次いで2回目(雲取山入れると3回目)だけれど、雰囲気的には丹沢に近い。奥秩父では無く。
――ただ、この大岳山の南稜は本当にひと気が無い。千足から大岳山まで一人しかハイカーに出会わなかったのは年末ということを差し引いても少ないだろう。
そんなことを考えているうちに養沢分岐に到着。ここで自然歩道コースに復帰。
結局、大岳山の往復に1時間22分もかけてしまった。1時間ぐらいで、と思っていたのだけどザックをデポしていたわけでも無し、止む無しか。
AM11:48、左折して下山開始。
稜線直下の急斜面を一気に降りていく。足場はあまりよろしくないけど、道は分かりやすい。遅れ挽回とばかり、どんどん下っていく。広葉樹帯なので景色が透けて見えていて、気持ち良く下れる。
やがて、その眺望も無くなる。薄暗い中、暫く下っていくと下方に沢の水面が見えてきた。大岳沢だろう。ほどなく下山道がその脇まで下りる。まだ細い渓流部に過ぎない。
それにしても、東京都の関東ふれあいの道の指導標が真新しい。まるで今年刷新されたかのようにきれい。このコロナ禍にあって都の予算が付いたのだろうか? 長距離自然歩道は環境省の管轄だけど、維持管理するのは各自治体。
――もちろん、ウイルス騒ぎより前に予算がついて執行されたのだろう。そして、ウイルスに負けない健康的な体つくりに自然歩道を歩きに来た、なんて言っている人間がここに。
沢沿いに山道は進む。沢から少しでも離れると薄暗い植林帯。登山道は大岳沢に絡むようにして一緒に下っていく。
沢沿いの道だけあって進路が一瞬分からなくなるようなところもあるけれど、すぐに道の続きは見つかった。このあたり「さすが東京都」などと思ってしまう。踏み跡もしっかりしている。
少しずつ沢の水量が増えていくのは分かるけど。大滝は未だか……。
やや傾斜が緩んできたかも知れない。木の桟橋で何度か沢を渡る。この区間、けっこう長い。
……と、次の桟橋は上りであった。足元に「滑ります」の標示。気を付けて渡ると右側に迸る落水が見えた。これは、と思ったら案の定、大滝の分岐道標が現れる。またもや滝を見るための複線化だ。
もちろん、右折して大滝へ向かう道に。
階段を下りると大滝の真ん前に出た。このコースで4つ目となる滝だけれど、一番水量があって迫力がある。落水の音が腹の底に響くのはここだけ。ただ、距離がちょっと遠い。もう少し近づきたいところだけど……。PM0:38。
滝を背に下山再開。少し下ると桟橋があって、渡ると元の道に合流。すっかり流れが緩やかになった大岳沢を見ながらもう少し下ると林道に出た。大岳林道だ。関東ふれあいの道のコース案内板も立っている。
ここからは車道歩き。深い山あいなので陽射しは時々しか差し込まないけれど、それでも穏やかな昼下がりの下り。これくらいの勾配なら駆け下りていきたいところだけれど、この後のことを考えると体力温存に越したことは無い。ゆえに巡航速度での歩き。
と、前方、沢の脇に整地面が現れた。オートキャンプ場っぽい?
大岳キャンプ場。2割ほどの入りか。昼なのでバーベキューなどをしている人たちが見える。そういえば今、ちょっとしたブームだっけ。(ウイルスから)安全安心とかで。
こちらもザックからコンビニお握りを取り出して、パクつきながら歩く。今日の行程は(も?)余裕が無いので、カロリー補給は適時。
(気付かなかったのだけど、この時に「山と高原地図・奥多摩」を落としたらしい。後で気づくものの後の祭り)
次に現れたのが大岳鍾乳洞。営業している。
――しばし悩む。数台停められる駐車場に車は無い。今なら¥600で鍾乳洞を独占できるということ。ただ、そうすると1時間は洞窟に籠って写真撮りまくることになるだろうから、その後は上養沢からバスに乗って帰るしか無くなる。すると次のコースは次の機会になる。何か月後にやってくるのか分からない……
そんな逡巡を経て、鍾乳洞入り口から背を向ける。初期の目標を完遂すべし。
砕石場を見てトンネルに入る。砕いた石でも飛んでくるのだろうか?
トンネルを抜け大きくカーブを切ると、傾斜はほとんど無くなった。やがて前方に見えてきたのは赤い橋。都道201号との交差点――上養沢だ。
上養沢に到着。大岳鍾乳洞入口バス停があり、小さな自販機や公衆便所もある。……ただし、コース終点はここでは無い。左折して大岳橋を渡り、再び山の方へ向かって進む。
右側に養沢川を置き、左には日の当たる上養沢の集落を眺めながら歩く。畑に家屋が散在している。のどかな昼下がり、東京都の山里の風景。
前方にバス停が現れた。上養沢バス停。バスの終着点で、転回場になっている。誰もいない。
PM1:31、到着。駅行きのバスに乗るには1時間24分待ち。
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