――或る夏、日本海を見たくなりました。
それまでは富士丹沢箱根の山しか登った事がありませんでした。そこから太平洋は見ていましたが、今度は日本海を、というわけです。狙いを定めたのはアルプス最北の百名山、白馬岳。選定条件は比較的初心者向き、日帰りもなんとか可能、と聞いて。初の遠征、しかも標高2,000m以上への到達は自身(富士を除いて)初体験でした。
ところが白馬岳山稜線上から眺められたのは、日本海上空を埋め尽くす分厚い雲の海。高山植物も咲き乱れてはいたのですが……なにせガスで視界が狭い! おまけに帰りのロープウェイ最終便に間に合わせるため、コースタイム以上のペースの歩きを強いられ、結果、消化不良。ゆっくり歩きたい山、そういう印象ばかり残りました。
そして、9年後。
今度は猿倉からの二泊三日の白馬三山縦走。それまで(薄いながらも)9年分の山行暦は積み上げて来たので、白馬岳は難度はあまり高くない山という印象に変わっていました。しかも、まだ雪は先だろうと思い込みで日程決めた結果、例年より10日以上早い初冠雪に遭って苦労。まさに初心忘れるべからずです。
もっとも、行程的にはのんびりと楽しみながら歩けました。最初に訪れた時に初めて目にしたテント場がカラフルなテントで埋もれているのを見て「いつか自分も……」と思っていた白馬大池山荘テント場に泊まることも出来ました。
もっとも、当日のテント泊客は自分ただ一人。9年前の夏の日の喧騒がむしろ懐かしく思い起こされました。
白馬岳から富士山を見よう!
この山は、富士山の見える(ほぼ)アルプス北限です。
ほぼ、と言うのはどうも白馬大池山荘の裏山が最遠点のようだからです。ただ、ライチョウの生息域にズカズカ踏み込むわけにもいきません。大雪渓最上部から白馬山荘~白馬岳~三国境~小蓮華山~雷鳥坂の手前までの稜線、さらに白馬乗鞍岳~天狗原までに富士展望がありますので、そこから富士を見て満足しましょう。
なお、杓子岳山頂部、鑓ヶ岳山頂からその南斜面にかけても富士展望があります。
白馬岳を日帰りで歩こう!
日帰りコース | 所要時間 | (登り/下り) | 累積高度 | 登降ピッチ | |
---|---|---|---|---|---|
1. | 猿倉~白馬尻~大雪渓~白馬山荘~山頂 (1,230m) |
9時間50分 | 6時間5分 | +1,707m -5m | +281m/h |
3時間45分 | -455m/h | ||||
2. | 栂池自然園駅~天狗原~乗鞍岳~白馬大池~小蓮華山~三国境~山頂 (1,850m) |
12時間 | 6時間50分 | +1,276m -194m | +187m/h |
5時間10分 | -247m/h | ||||
3. | 蓮華温泉~天狗ノ庭~白馬大池~小蓮華山~三国境~山頂 (1,470m) |
11時間10分 | 6時間30分 | +1,570m -108m | +242m/h |
4時間40分 | -337m/h |
北アルプスの高峰ですが、アクセスが充実していおかげで頑張れば日帰り可能とも言われています。ただ、日帰りで済ませてしまうと勿体なかったと後悔する可能性大ですが。道標は必要十分で要所に山小屋がありますが、天候急変や体調悪化した時に近くに山小屋があるとも限りません。万全の高山装備が必要であることは言うまでもないでしょう。
最短コースは猿倉を起点とするコース。10時間ほどで往復できる一方、出発地点は1,230mという低い高度からとなります。結果、山頂まで1,700mの高度差を短時間で登るという辛い山行を強いられることに。加えて、大雪渓を登る大人気コースであるがゆえ、渋滞に巻き込まれて思うように道が捗らないリスクもあります。混雑を避ける意味でも、猿倉からは夜明け前の出発が必要でしょう。さらに気候変動の影響でしょうか、近年、大雪渓で落石事故が多いと聞きます。警戒が必要です。
一方、栂池自然園ロープウェイ駅は高度1,850mにあり、山頂との高度差は1,100mに減じます。前半は湿原や湖などを巡って変化があり、後半は森林限界の上の稜線歩きで大展望が開けます。ただし、12時間というコースタイムが示す通り、距離が長いです。栂池自然園駅のロープウェイ最終便が夏場ハイシーズンでもPM5:20なので、栂池高原駅AM6:30の始発便で登ったとしても行動可能時間としてとれるのは9時間半ほど。コースタイムより2時間半、早く歩くことが出来なければ日帰りは適いません。(私も下山ではかなり走って、なんとか最終便に間に合わせました……)
そして、もう1本は蓮華温泉ロッジ駐車場より登っていくコース。出発点は1,470mなので山頂との高度差は1,500m――上記2コースの中間ですが、ロープウェイの時刻など気にしなくてよいので時間のコントロールは行いやすいでしょう。狙い目のようにも見えますが、実際、どうなんでしょうか?