- 富士と松原と -
【踏 行 日】2023年11月下旬
【撮影機材】OLYMPUS OM-D E-M1markⅢ, M.ZD8-25F4, M.ZD40-150F2.8
時期としては晩秋なのに……と、新幹線の車窓を眺めながら思っていた。目にする紅葉が少ない。今年は秋が暖かく、そして夏は格別に暑かった。
静岡駅に到着。北口から地上に出る。つい1ヶ月前に来たばかりなので戻って来た感がある。前回とは逆にここから新静岡駅へ歩いて向かう。
……のだけど。駅前に横断歩道が無いではないか!
地下道を使って横断せよ、ってことだろうけど。駅舎を目にして異国感(異国じゃないけど)を得る派にとっては地上から歩き出したいのだ、なんて内心呟きつつ。
駅前の国道1号を東へ。だいぶ歩いて、ようやく横断歩道があった。渡る。
新静岡駅からだいぶ遠ざかってしまった。じゃあ、もう隣の駅へ向かおう、と適当なところで右折、さらに東へ。
早くも郊外のような雰囲気。政令指定都市とは言え静岡市は南アルプス南部まで含む大所帯。そういえばリニア新幹線の工事阻止している知事がいる県だっけ。
けいおん!(古い)のような二連踏切。
――渡る。日吉町駅に到着。改札を潜ると既に電車がホームに侵入していた。停車して扉が開く。先頭車両に乗車。
座席が半分ぐらい埋まっていた。今日は祝日。スーツ姿の乗客はほぼおらず。
東に向かって電車は走る。車窓にはチラチラと谷津山の山体。前回、この上を歩いたのだなあと懐かしむ――ほど時間は経っていない。
7分ほどの乗車時間。古庄駅に下り立つ。
踏切を渡り南側へ――と、ここが前回の離脱点。夜に辿り着いたけれど今は朝。秋にしては強く感じる陽光が降り注いでいる。印象がガラリと変わった……わけでもない。普通の町中。
しかも、ここは東海自然歩道でも無い。次のコースは3駅先の草薙駅から始まる。とまれ歩き繋ぐのが目的なので、ここから歩行再開。
信号のある国道1号との交差点。横断歩道渡り、斜めに交差した旧道へ進む。
騒がしい国道1号から離れ、一気に静かになった。歩いていくと旧東海道の標示が現れる。意識しているわけじゃないけど用宗からこちら、旧東海道と絡むことが多い。
大谷川を渡る。直ぐに東海道本線に沿って進むように。
地下道が現れた。線路の向こう側へ抜けられるようだ。じゃあ、と、潜る。ちなみに草薙駅まで歩く道は事前には決めていない。雰囲気まかせ。
地上に出る。旧東海道記念碑が立っていた。いったい、旧東海道の何を記念したものだろう?
周囲は住宅地へと変わっている。そのまま斜めに進み、交差点を渡ると県総合運動場駅が現れた。……まだ1つ目か。ゆっくり歩き過ぎたか。
県道407号に合流。車の往来の多い2車線道だけれど、もう選択肢は無さそうだ。歩道を早足で進む。
前方、建物の合間からチラチラと富士山が現れるようになってきた。
――今日は終日富士山が見えることを期待してやってきた。この時期に歩きに来たのは、そういうことだ。東海自然歩道の本線歩きでは叶わなかったこと。もう15年も昔の話だけれど……。
県立美術館前駅を通過。県道歩きも飽きたので静岡鉄道の線路脇の車道を進む。この鉄道はわりと引っ切り無し。
草薙駅に到着した。左に曲がり踏切を渡った先がJR草薙駅。東海自然歩道静岡支線・日本平コースの起点。
AM10:04、JR草薙駅南口を出発。針路は南。まずはスクランブル交差点を渡る……といっても一車線。
草薙駅を右に見て静岡鉄道の踏切を渡る。
そのまま県道407号に出て左折。見えてきたのが草薙神社の大鳥居――
いや、見えてこない。県立美術館前で見た日本平ハイクコース案内図では大鳥居の写真があった。なのに現地に大鳥居は無い。一本先? いや、そんなわけないし。
訝りながら右折。前方にはハイカー姿の人たちが歩いているし、この車道が草薙神社に向かうのは間違いない筈……。
思ったより車の往来が多い。直線なので結構なスピードで走ってくるのでやや気に障る。
一方、風景は郊外のそれになってきた。用宗駅から草薙駅までのコース無指定区間、出来るだけ緑の多いところを選んで歩いて来たものの、いかんせん静岡市中心部。それが、ここまで来てようやく自然歩道に戻って来たような感覚に。
道はごく緩やかに上っていく。
――汗が出てきた。秋にしては陽射しが強い。もちろん、そんなわけはなく単に気温が高いだけ。あまり気温があがると空気が霞んで富士山が見えなくなるのだけど、と、心配になってくる。少し歩くペースを上げるか。
だんだんと空間が狭くなってきた。と、東海自然歩道の道標が現れる。用宗で途絶えていた東海自然歩道バイパスコースの道標。
草薙川に沿って進む。上り坂の勾配がやや増してくる。道は右に大きくカーブ。
里っぽい雰囲気へと変わった。イチョウの木も黄葉し青空によく映えている。ようやく秋らしい光景に。
そして現れたのは草薙神社の鳥居。
横断歩道を渡り鳥居をくぐる。脇に立つ日本武尊像を見て、伊吹山山頂のより随分と凛々しいな、なんて思う。
短い階段を上る。と、こじんまりとした境内に出た。樹木が濃く生い茂って静寂に包みこまれている。
クスノキの御神木(すごい形!)や「龍勢煙火」の展示があるものの、サイズ的には普通の集落付きの神社、という感じだ。参拝客もいなかった。AM10:28。
とりあえず木陰で一休み。まだ序盤。先は長い。
車道へと戻って再び歩き出す。針路は西へと変わっている。信号のある三叉路。ここは左。
二車線の車道をさらに進む。前方に高台となった住宅地が見えて来た。
そういえば会社に出身が草薙と言っていた後輩がいたっけ。日本平側と言っていた気がする。自分の勤務地が変わり、長いこと会えていないけれど、再会出来たらもう一度聞いてみよう――
T字路があって、その角に角柱の道標が立っていた。ここを左折するようだ。
草薙川を短い橋で渡る。すると、いかにも丘へと上っていきますというような坂道に。
――上る。少しずつ高度を稼ぎ、背後の住宅地がだんだんと遠ざかる。自然歩道始まったな、という感じ。まだ車道歩きだけれど。
それでも気持ちよく上っていく。
左手前方、東海自然歩道のコース案内板が立っていた。まだ真新しい。
見ると、草薙駅から「現在地」を経て久能東照宮に至り、さらに三保松原を経て終点は三保真崎が示されていた。公式では久能下止まりなので倍ほど違う。ネット情報と現地情報が異なるのはわりと良くある話。
もちろん、今日はハナから真崎まで歩く予定。果樹園とビニールハウスの合間を一直線に上っていく。
緩やかな上り坂から下り坂へと変わる小さな峠。そこに立つ道標を見て右折。
前後に歩く人の姿が目立つようになる。ハイカーというより、地元の人の散歩道という感じ。
と、左右に茶畑が広がった。茶畑が現れると一気に静岡県っぽい雰囲気になるのが不思議だ。
車道に当たる。その脇にハイキングコース入口。
上ると小さな展望台。草木が茂って視界が窮屈、なのだけど。茶畑越しにきれいに富士山が眺められた。今日は暖かいから空気が霞んで見れないかも、なんて思っていたので少しホッとする。
雪線は最も富士山らしく見える位置に。背後は薄雲で白っぽいけど、どうかこの天気のまま――
振り向くと薄暗い登山道。跨道橋の先に始まっている。
ここまで明るい道のりだったので、シーンが切り替わる。その橋を渡ると、竹林に押し込まれた空間に伸びる木階段。思いがけず登り甲斐のある道となった。これは少し頑張らねば、と思ったら――
ほどなく勾配が緩んでしまう。まあ、高さ300mにも満たない丘陵だし、仕方がない。
木漏れ日の落ちる爽やかな道。照葉樹林帯で紅葉は見られないものの、まっとうなハイキングコースだ。基本的に登りだけれど勾配は長くは続かない。ならば時間を短縮しようと歩を早める。このまま最後まで山道が続けば良いけど、流石にそれは無いか。
前方にハイカーの人たちの姿。もしかして……渋滞している?
美術館コースと合流するとハイカーの姿が一気に増えた。それも高齢ハイカーでない、家族連ればかり。ハイクと言うよりピクニックだ。
と、いうわけで歩くペースはがた落ちに。道幅も広くなってきたけど、前方の団体を追い越していくほどでもなく。
道は舗装された車道となった。道端には研修施設やアパートなど建物がポツポツと現れるようになる。
木立も薄くなり日の当たった道となる。晩秋とはいえ正午近く、陽射しには暖かさがある。なるほど確かに絶好のピクニック日和。
大きな駐車場に沿うように道が左に曲がっていく。そちらに見える洒落た建物は――日本平ホテルか。曲がらず、直進して砂利の小道へ。
その先で真新しい車道に上がる。小道は横断した先にさらに伸びていく。先は短そうだ。
道は直線。もはや公園の遊歩道を歩いているような雰囲気。というか公園だろう、ここは。
それにしても東海自然歩道なのに海へ向かって南に一直線、というのも不思議な感じがする。東京から大阪まで東西に横断するのがこの長距離自然歩道だからだ。太平洋には付かず離れずの。
もっとも、いま歩いているのはそのバイパスコース、しかもコース終点が岬という盲腸線。特殊といえば特殊。
もう一回、車道を渡る。ここには東海自然歩道のコース案内板も立っている。
――自分が箕面から東海自然歩道を東へ歩き始めたのは18年前の「今日」だった。当時、静岡バイパスコースはまだ出来たばかり。
ところが、いま歩く道に立っている道標や案内板が「出来たばかり」のように新しいことが自分の中の時間感覚を混乱させている。18年の時よ、どこへいった……。
もう1本車道を渡ると「日本平公園」の案内板。まだ造成中の公園のようだ。東海自然歩道の道採りも示されている。
そして再度車道に出る。車の往来が多い。日本平のメインロードのようだ。横断歩道を渡ると大きな「日本平」碑銘。
――ここが日本平か。広大な駐車場に観光バスも止まっていて、まるで観光地のよう……って日本観光地百選なのだから当たり前。既に富士山も美しく見えている。勝負にはどうやら勝ったようだ。AM11:27。
狭っ苦しいところばかり歩いているのせいで足を向ける先に迷う。とりあえず――東展望台へ。富士山は良く見えるものの清水港は木々に隠されていた。もうちょっと高さが欲しいか。
それはそれとして天井を飛び回る何匹ものスズメバチが気になる。他の観光客は気付いてないようだけど。
では一番高いところへ向かおう、と電波塔目掛け歩いていく。静岡平野のどこからでも見えるランドマークの電波塔。足元から見ると想像以上にデカかった。これまでに山で様々な電波塔を見て来たけれど、もしかしたら一番高いかも。
そして頭上を巡っている空中回廊――これが夢テラスか。夢を照らす、のもじり? 階段を上がって、そのテラス上へ。
……この展望はちょっとヤバいかも知れない。富士山の前景に海を配すのは盤石の構図だけれど、清水の町が白いのが良い。その左手には静岡平野が帯のように横たわり、その背後の緑の山々には東海自然歩道の本線が渡っている。なんか――東海自然歩道も集大成か、と。少し寂しいかも知れない。
半年前に歩いた満観峰も、この後に向かう三保半島も見えている。そんな風景を肴に、暫し憩う。
テラスからは全周の展望が得られる。ただ、南側は木立が高く駿河湾はすっきりとは見えない。お隣のこんもりした森は有度山か。あそこにも行きたかったけど、どうやら道が無さそう。
それにしても行楽シーズン真っただ中、加えてこの天候ならもっと混み合っても良いのに、とも思う。外国人観光客もあまり見掛けない。真新しい施設だし、まだあまり知られていないのかも知れない。
テラスは∞型、ずっと巡っていられるけど、そう言ってもいられない。テラスから吟望台へ進んで坂道を下り、西側の駐車場まで下りる。ロープウェイ日本平駅の前へ。
もちろん、歩いて海岸まで下りたい。自然歩道なのだし。でも今日はこのロープウェイを使う。公式設定されたコース。
駅構内に入ると行列。それで自分が勘違いしていたことに気付く。久能海岸に車を停めてロープウェイで上がってくる人は少ない筈なんて思っていたけど逆、ここから久能東照宮に下りて参拝し戻ってくる、という需要がメインという。一種の「下り宮」。
片道切符を購入、最後尾に並ぶ。臨時便が出ていて運行間隔は10分に1本に。それでも15分ほど待って乗車。ゴンドラの中は人でいっぱいいっぱい。添乗員もいる。
海側は本当に切れ落ちていた。緑に埋もれ掛かっているけど海蝕崖だ。どんどんと遠ざかっていく。急下降する高山のロープウェイに慣れていたのでちょっと新鮮。足元には紅葉も。
久能山駅に到着した。駅の階段を下るとそこが東照宮境内。普通ならロープウェイで「上がって」到達するような場所だけど、この先には階段しかない。しかも長大な……。
東海自然歩道で鳳来山東照宮を訪れた時のことを思い出す。その道がここまで繋がっているのは結構凄いことだ。
――もっとも、これも逆。家康がこの地に埋葬され創建されたのがこの久能山東照宮。各地に東照宮が作られていくのはそれからのこと。鳳来山東照宮を訪れた時には、未だそんなことは知らなかったけれど。
参拝客は多く、むしろ日本平よりも賑わいがあるくらい。もちろん、狭い空間だからそう感じるのだろう。拝観料を収めて階段を上がる。
楼門を潜ると、さらに何段か階段があったる。境内は広くなく、いたって普通の佇まいの神社のようにも見える。石段や石灯篭には歴史を感じられるものの。
ところが唐門を潜って本殿に相対すると、世界が変わった。山の中に似合わないほどの絢爛豪華な装飾を施した本殿。この建物の周囲だけ光っているような錯覚さえ。
そういえば駿府城址の徳川家康像、こっちの方を向いていなかったっけ?建物を回り込んで廟門を潜り、その家康の廟所へ。
その廟所。木立に取り囲まれた静かな空間だ。宝塔が立っているけど久能山山頂へ向かう道は無さそうだ。この大きな木は……ええっと、金の成る木?
そんなところに気を惹かれたぐらいで引き返す。じっくり見回りたいところではあるけれど、まだ今日は行程の半分も歩いていない。先を急ぐことにする。
楼門を潜り返し、参道を下る。もちろん、ロープウェイ駅には戻らず、表参道の階段へ。
すぐに広場があって、展望台になっていた。眼下に久能海岸、そして青々と広がる太平洋を見晴らす。相変わらず素晴らしい天候。
階段に戻り、下って行く。1000段以上あるとは言え1段1段は低い。ちょうど体重移動で駆け下っていくのにちょうどいい塩梅。ぶっちゃけ東海自然歩道の数々の「階段地獄」に比べたら温いもの。
それでも海を見晴らしながら下るのは爽快。海に臨むコースの良いところだ。
鳥居が見えて来た。わりとあっさり下ってしまった。高低差140mほどだし仕方がない。
土産物屋が立ち並ぶ通り。イチゴアピールがかなり目立つ。交差点まで進み――左折すれば久能山下バス停だけれど直進。前方には海が見えている。海沿いに走るのは国道150号。
信号が変わるのを待って交差点を渡る。そこに東海自然歩道のコース案内標識。左折が示されている。
ここは久能海岸。潮騒を聞きながら久能山を見返した。PM1:39。
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