
南アルプスの女王、仙丈ヶ岳。
雄々しいとも言われる甲斐駒ヶ岳と対比され、女性的とも評される山。その稜線にカールを幾つも抱える山容が「包容力のある」女性を感じさせるのでは無いかと勝手に思っています。北岳側から見ると、確かに大仙丈・小仙丈という両の手を広げてハグしてこようとする姿にも……。


標高3,000mを越える日本第17位の山。日本百名山に限定すれば10番目の高さになります。花は多く地勢は変化に富み見晴らしは佳絶、それでいて登山バスの通う北沢峠から4時間で登れるので、ハイカー人気は高いです。
……もちろん、立山や乗鞍岳ではより手軽に3,000mを突破できますが、それらは観光開発された山でイマイチ登り甲斐がありません。ハイカーであれば、針葉樹林帯から潅木帯を過ぎて森林限界突破、ハイマツ帯から岩稜世界と、高山登山の醍醐味をギュギュッと圧縮したこの山の登山道に惹かれるのではないかと。
逆に言うと、この山へはほとんどが北沢峠からの日帰りピストンで登られてしまっています。お隣、大仙丈岳まで足を伸ばすハイカーも若干いるようですが……。


地勢的には、「狭義の」赤石山脈最北端の山です。赤石山脈はこの山で大きく立ち上がり、仙塩尾根を起こして塩見岳、さらには荒川岳、赤石岳、聖岳、南アルプス深南部の山々へと連なっていく日本の屋台骨です。
――そのイメージを持って山頂から南方に連なる山々を眺めると、どことなくロマンチックな気分に浸れるかも知れません。




さて、私はこの山には二度登りました。
1回目は南アルプス林道がマイカー禁止になる前年の10月中旬、南アルプス公園線で延々と回り込んで広河原の駐車場に車を止め、北沢峠からのピストン。朝は晴れていましたが稜線に出るとちょっとした嵐。激しい風雨の中、濡れ鼠になりながら大仙丈ヶ岳まで行って返してきました。
その時の計画は大仙丈の先、野呂川越まで尾根を辿って両俣小屋に下り、広河原に戻ってくる周回日帰り狙いでしたが、果たせず。
で、6年後に再チャレンジ。今度は縦走装備で北沢峠から仙丈へ登り、そのまま稜線を真っ直ぐ進んで両俣小屋へと下りました。もっとも、大仙丈ヶ岳の先は樹林帯で細かいアップダウンばかり多く、面白みがある道ではありませんでした。天候の優れなかったせいもありますが。
そして翌日からは白峰三山縦走――。
仙丈岳から富士山を見よう!

富士山に程近く、標高も十分の仙丈ヶ岳ですが、富士眺望はスッキリしません。すぐ東に聳える白峰三山の山体が富士を隠すからです。日本第一位と二位の山を同時に眺められる、と言えば聞こえは良いのですが……。
見えるポイントも結構、限られています。北沢峠から尾根伝いの登山道を取れば森林限界を突破してから見え始め、それが山頂まで続きますが、山頂を過ぎるともう見えません。北岳が隠します。
あとは丹渓新道の馬ノ背ピーク以北で見えるぐらいでしょうか……計算上の話ですが。

仙丈岳を日帰りで歩こう!
日帰りコース | 所要時間 | (登り/下り) | 累積高度 | 登降ピッチ | |
---|---|---|---|---|---|
1. | 北沢峠~二合目~大滝頭~小仙丈ヶ岳~山頂 (2,036m) |
7時間10分 | 4時間20分 | +1,064m -67m | +246m/h |
2時間50分 | -376m/h | ||||
2. | 北沢峠~大平山荘~藪沢大滝~馬ノ背ヒュッテ~仙丈避難小屋~山頂 (2,036m) |
7時間25分 | 4時間10分 | +1,075m -78m | +258m/h |
3時間15分 | -331m/h |




山頂までの最短コースタイムが7時間、標高差1,000m、と聞くと日帰りには手頃の山かと思ってしまいそうになりますが。そう単純な話でもありません。芦安~広河原~北沢峠~戸台が全シーズンマイカー規制が敷かれ、アプローチに制約が課されているためです。
実際、この山に日帰りは北沢峠からのピストン一択ですが、他の大多数の登山者と同じく北沢峠にベースキャンプを張ってしまうと本サイトの定義する“日帰り”から外れます。よって――
長野側から登るのであれば、バス停駐車場のある仙流荘から朝イチの南アルプス林道バス:北沢峠バス停行きに乗車し、終点で降車。同バス停から仙流荘(戸台口)行き最終便が出るまで、夏場のハイシーズンであれば9時間の行動時間が取れます。(参考までに...JRバス戸台口バス停は廃止。伊那市駅からのバス利用の場合、JRバス:伊那市駅~高遠バス停+伊那市長谷循環バス:高遠~仙流荘バス停、という経路。'09現在)

山梨側からであれば、芦安駐車場から山梨交通バス:広河原行き始発に乗り、終点で南アルプス市営バス:北沢峠行きに乗り換えます。帰りは逆順ですが、この経路ですと夏場でも許される行動時間は8時間ほど。ややリスキーです。また、奈良田の駐車場からバスで広河原に入る、という経路もあります。北沢峠-広河原のバスがネックなので行動可能時間は変わりませんが、奈良田温泉に浸かりたい人などが利用しています。
なお、この山の日帰りでは周回コースが取れるのも特徴。お勧めは、朝のまだ晴れているうちに見晴らしの良い尾根コースを登り、下りには藪沢コースを使うという方法。
(ちなみに、登山地図上には、戸台大橋から歌宿経由で登るというコースも見つかりますが……。マイカー規制を受けない代わり、高度差2,000m、15時間ほどの厳しい行程。登山道の状態もヤバそうなので、ここには特に挙げません)

