穂高岳――という山についての由無し事 ≫


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■奥穂高岳~涸沢

奥穂の空
奥穂山頂に別れを告げる
上高地を取り巻く山々
上高地を取り巻く山々は、まだ夏山の装い。それにしても今日は雲1つ無い――
ジャンダルム
西穂山稜の衛兵、ジャンダルム
槍を測る
槍を測る。ありがちな構図だけれども、お約束で

この絶景を眺めながら昼飯を食す。装備軽量化を突き詰めたので、今日は調理器具は無く、コンビニのお握りやパンのみ。ちょっと寂しいけど、贅沢は言えない。

PM0:19、山頂の十数人のハイカーを残して下山に掛かる。ここでも30分以上過ごしてしまったけど、まあ仕方ない。

岩場を巻く様に下りていく。

乾かし物
屋根の部分を拡大。何かアートのよう
穂高岳山荘
アルプス最高所の山荘、穂高岳山荘
涸沢上部
ザイテングラードを見下ろす。涸沢上部は草紅葉

穂高岳山荘手前の岩壁下りで、また渋滞待ち発生。ここに来て、登ってくるハイカーが目立つ。山荘客だろう。

そして真下に向かって下りる。正直、ここは怖い……。




穂高岳山荘と涸沢岳
穂高岳山荘と涸沢岳
穂高岳山荘の広場
反対側、穂高岳山荘と奥穂高岳方向

PM0:48、穂高岳山荘に到着。

テラスで思い思いの時間を過ごす、ハイカーたち。羨ましい――自分にもっと、時間があったなら。

そして、名残惜しみながら涸沢方面――ザイテングラードに下り始める。北アの稜線ともオサラバだ。

ススキ
ザイテングラードを下り始めて、振り仰ぐ
道標
山荘前の道標。向こうに、三角形の常念山

涸沢カールにへばり付くようなザイテングラード、こんなところ歩けるのか、と上から見て思ったけれど、実際は十分に歩ける……と言いたいところだけど。

――やっぱりへばりつきながら下りて行く道であった。かと言って両脇のカール上部は45度以上の斜面。とても歩けるようなところじゃ無い。

ザイテングラード
下方、ザイテングラードの突端が見えてきた
前穂高のピーク群
右方、前穂高のピーク群。あの稜線を歩けるのはエキスパートのみ



涸沢槍と草紅葉
涸沢槍と草紅葉
涸沢岳を仰ぐ
涸沢岳を仰ぐ

LEKIのストック初利用。うむむ、やっぱり慣れないと使い辛い……。

それにしても氷河に押し出された岩礫の堆積、それを人は道として利用するのだから自然は良く出来ていると思う。いや、生物が逞しいと言うべきなのだろうか。

ハイマツ帯に草紅葉の高度になった。ここから秋の涸沢の通過だ。

涸沢カール
涸沢岳と涸沢槍、北穂の稜線。左端のでこぼこがザイテングラード。氷河時代の落とし子

と、その前に遂にカールに足を踏み下ろす。斜面は、下り始めと比べると随分緩んでいる。とは言え、転ぶと酷いことになりそう。

直滑降は危険だからか、道は斜面と斜めにカーブを切っていく。

と、強烈な団体に行き当たった。間延びした縦列を組んで下りて行く一行。30名はいるだろうか?

前穂ピーク下部
右手、前穂ピーク下部
屏風ノ頭
正面、屏風ノ頭。その左に常念岳

抜くに抜けない。暫く、最後尾についていく。まずい、ちょっと時間的にヤバくなってきたかも……。




ナナカマド
雪渓を背にしたナナカマド。実の色も鮮やか
イワギキョウ
咲き遅れ、一輪だけの岩桔梗

進路が分かれたのでようやく前方がクリアになった。ただ、今度は道筋がやや不明瞭。でも涸沢ヒュッテの赤屋根は見えているので、あまり神経質にならずに下っていく。

だけど、今度はナナカマドなどの真っ赤な紅葉が足止めを食らわしてくれる。ああ、時間が無いというのに!

北穂とナナカマド
北穂とナナカマド。まだ山肌が緑のところがポイント

涸沢のもっともオイシイ季節の光景。

狙って来て当たったのは嬉しいけれど、出会いの時間はあまりにも短すぎて……。




紅葉の涸沢岳
時期柄、紅葉もちょうど斜面を駆け下っている最中
涸沢ロッジ
北穂斜面に突き刺さる涸沢ロッジ

斜面はかなり緩やかになった。

ストックの使い方にも慣れてきた。そのお陰か、膝は十分持ちそうだ。着地衝撃を和らげてくれるのが良い。

涸沢テント場
北穂方面。大量に並ぶテント、左にロッジ
秋の領域
上方は秋の季節。午後も深まり逆光に透ける

ようやく涸沢ヒュッテが大きくなってきた。ここがちょうど、夏と秋の境界線になっている高度かも知れない。とは言え、涸沢の紅葉の最盛期は1週間後だろうとも感じる。

その時は、この辺りはテントで埋め尽くされるのだろうか?

涸沢ヒュッテ
涸沢ヒュッテは日本有数の登山基地
軽食堂
カレーライス、ラーメン、うどんなど

PM2:18、涸沢ヒュッテ到着。

高度は2,309m。展望台や売店などもあって、なんとなく観光地然とした雰囲気。人の姿も多い。

■涸沢~上高地

涸沢ヒュッテから北穂高岳
涸沢パノラマ売店前から仰ぎ見る北穂。あまり日本っぽくない風景
展望台
展望台。正面の屏風ノ頭が大きく、その向こうは大天井ヶ岳~横通岳の稜線が覗く
涸沢ヒュッテの玄関
涸沢ヒュッテの玄関
最後の一瞥
最後に、涸沢を一瞥してこの地を後にする

――なぜ涸沢がこれほどの人気の地なのか分かった。上高地から16km、高度差900m。バス・タクシーでしか入れない上高地から、さらに奥地へと1日弱歩いて到達する天上界。

その場所は確かに、中部山岳国立公園の白眉なのだろうと思う。さて……

自分は将来、再びこの地にやってくることが出来るのだろうか、と思いつつ涸沢を後にする。

涸沢の峡谷
涸沢の峡谷。横尾への一般的な下山路はこちら
ダケカンバの黄葉
思い出したかのような、ダケカンバの黄葉

時間はPM2:29、針路はパノラマコース――遅れが嵩んで、じつはちょっと時間が足りていない。上高地までコースタイム4時間40分のところを、3時間20分で歩き抜けるペース計算。

巻き道、かつ登り道。山頂から下りばかりだったので、だいぶ足も回復しただろう、という期待はあっさりと裏切られて、辛い。

次第に森の密度も濃くなってゆく。パノラマコースと言えど、あまり展望は無い。




槍沢と槍
定番の場所から定番の構図の槍ヶ岳

道もあまり太くは無く、崩れかけた箇所も。安定している筈の秋でこの程度なので、初夏などには歩きたくないと思う。

だけれども、槍沢とその向こう、槍ヶ岳の雄姿が覗くポイントがあるという付加価値がある。

槍。いつかあそこへも――。

屏風ノ頭分岐
屏風ノ頭分岐。徳沢右折のペンキ
梓川を眼下
梓川が見えてきた。まだ高度差は700mほど

数人のハイカーとすれ違った。涸沢で泊まる人たちだろう。もちろん、逆方向へ向かう人は皆無。

標高2,400m余りの屏風ノ頭分岐を通過。ザックがデポしてあったので、誰か屏風ノ頭へ行っているのだろう。

よし、ここからは下りだけだ。やや小走りに道を下り始める。道は開放的で、眼下に梓川の流れ。慣れない岩場歩きが続き足に疲労は蓄積されているけれど、問題は無い。

――いや、実は問題はあった。駆け抜け際、路傍の岩に左膝をニードロップ。悶絶し、しばらくその場から動けなくなった……。

幸いなことに骨は大丈夫そう。ストックを左手に持ち替え、そろそろと歩き出す。……そういえば、駆け回った丹沢ではこんなに岩は多くない、と思い出すも後の祭り。上高地発のバス、最終はPM5:55。さあ、ピンチ。




梓川
ようやく梓川が近付いてきた
北ア稜線を見送る
逆に、北アルプスの稜線は遥かな高みに

次第に普通の速度で歩けるようになる。ただ、ストック支持は必要。

奥又白谷に出合って、文字通り白い岩の上を下り始める。暫く下ると前方に見えてきたのは林道。

ここから、再び小走りに駆け出す。膝の痛みは未だ残っているけれど、もう駆けないと間に合わない。うーん、最後に来てなんて悲惨なんだ……。

新村橋
梓川に架かる新村橋
吊橋から梓川
新村橋から梓川下流を見晴らす
徳沢園
徳沢園

新村橋を渡って、徳沢に到着。PM5:04。

パノラマコース、ほとんどコースタイム通りの2時間40分を費やしてしまった。最低でも30分は稼ぐつもりだったのに……と、悔やんでも仕方ない。歩けるだけマシだ。

ただ、上高地までコースタイム2時間に対し、半分以下の時間しか残されていない。

常念岳稜線
西日を受ける常念岳稜線

日帰りを諦める決断をしないといけない、と分かっているのだけど。まだ迷っている。

見上げると、北アルプスの稜線に残照が当たっていた。思えば、今日1日は絶好の天候条件に恵まれていた。

――よし、出来るだけ頑張ってみようと走り出す。なんたって今日はチャレンジの日。この奥穂は、その前提で計画してきた筈。

沼
道脇の景色も眺めている余裕なし
明神岳の稜線
明神岳の山体。これを回り込めば上高地
明神館
明かりの点く明神館。山の日暮れは早い
残照
今日最後の残照が岩峰を照らし出した

道は幅広く平坦。ダートは舗装道と違い足の負担も少ない。気温も身体を冷やしてくれる程度に落ちている。こちらも好条件。

このあたりの宿泊者だろう、散策者がチラホラ。追い越し、走る。

PM5:33、明神館通過。もう体力も尽きて、走っては休み、休んでは走りという状態。でも、ここからラストスパート!


――PM5:58、上高地に到着。

まあ良く頑張った。……もう走れなくなり、とぼとぼとバスターミナルを探す。あった。あれ?バス? 夕闇の中、大型車のテールランプが小さくなっていく。

タクシーが止っていた。乗り込む。聞くと、バスは発車時間を過ぎても、暫く遅れたハイカーを拾ってくれていたらしい。

なるほど。足掻くのは無駄じゃないって事。

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