穂高岳――という山についての由無し事 ≫

奥穂高岳 日帰り山行記

日 時

2001/09/24 6:02-17:58(11時間56分)

天 候

快晴(日照率100%)

コース

上高地~岳沢ヒュッテ~紀美子平~奥穂高岳~穂高岳山荘~涸沢~屏風のコル~徳沢~明神~上高地

奥穂高岳俯瞰図

高低図

奥穂高岳コース高低図

   距離:20.7km 累積標高(+):2,002m 累積標高(-):2,002m

概 況

当たり前ですが、シーズンには人で溢れます。特に、団体さんが多い。紀美子平の手前、穂高岳山荘の手前、涸沢への下りでは、待ち時間発生するような渋滞に遭いました。コースタイム+αを見込んでおくことが必要。

さすがに道の状態は良いです。と言っても北アルプスの岩山ですので、落石や滑落には常に注意。吊尾根ではザイルを出している団体もいました。それと、ハイカーの姿こそ少ないのですがパノラマコースは巻き道だけあって、道が細くやや危険。距離こそ短く見えますが、時間と安全が欲しいなら横尾谷経由の下山コースを選ぶべきでしょう。

ちなみにこの山、けっして日帰りの山ではありませんので注意。

撮影機材

FUJIFILM FinePix4900Z、FinePix1500

■上高地→岳沢ヒュッテ

上高地バスターミナル
上高地バスターミナル。穂高の岩壁が迫る
登山案内所
こちらは登山案内所。食堂・売店も

山の朝は早い。

というか、山での行動は日の出・日没に同期している。日が昇れば動き始め、日が沈めば静まる。

秋分の日頃ともなれば、明るくなり始めたらすぐ行動開始。じゃないと日が暮れてしまう。実際、AM5:44に着いた上高地バスターミナルは早くもざわついていた。

奥穂に朝陽
奥穂高岳の山頂に朝陽が当たる
焼岳に朝陽
焼岳の山頂に朝陽が当たる

――ここにきても、自身初の北アルプスを奥穂日帰りに定めたのは無謀か、という不安は拭い去ることは出来ていない。軽装ピークハントに徹してきた自分にとっても、かなりハードな日帰り行程。

だけれども、山登りから“チャレンジ”の要素を外すと、それは大層魅力の無いものになってしまう。今日は、あくまでチャレンジの日。頑張る日だ。

上高地から穂高
梓川を手前において、左端に焼岳、正面から右手に向かって西穂高~奥穂高、右端は前穂高。稜線が輝く



河童橋と奥穂
河童橋と奥穂高岳。上高地の代表的な光景
河童橋から梓川上流
河童橋から梓川上流を見る。奥穂高
河童橋から梓川下流
河童橋から梓川下流を見る。焼岳

河童橋。ここには朝陽に染まる穂高の峰を目にしようと宿客たちが繰り出している。

AM6:02、その河童橋から出発。

霜降る
霜が下りている。下界はまだ夏の名残のある時期
水際
最初は梓川分流の水際を歩く

橋を渡って梓川を越え、遊歩道に入る。さすがに人影は消える。

最初は木道歩き。北へ向かって歩いていく。秋の冷気が身を縛る。正面には次第に日の当たる部分を増して行く穂高の岩峰が聳え、誘っている。

壊したくない静謐。ゆっくりと歩いていきたいところだけど……上高地で15分も潰してしまったのが計算外で、早くも早足になっている。上高地の朝があまりにも素晴らしかったせいで、足止めを食らったのだ。




梓川
梓川に別れを告げる
穂高岳登山路
「中部山岳国立公園 穂高岳沢登山路」

木道が尽きた。

そこにあったのは「穂高岳沢登山路」という標示。ここからいよいよ登りだ。AM6:22。

治山運搬路を跨ぎ、次第に勾配が増していく登山道を進む。針葉樹の森の中。木立の間から輝く山稜線が見上げられるものの、足許はまだ暗い。

霞沢岳
上高地の背後の山、霞沢岳も見えてきた
高度を得る
高度を得て、後方に眺望が現われる。乗鞍方面

途中、「天然クーラー風穴」と書いてあるところがあった。手を翳してみたけれど、特に何も感じられない。時期が悪いのだろうか?

少し休んで更に進む。道はやがて岩が多くなり、沢筋道の様相。

やがて岳沢に出た。ゴツゴツとした白い岩で埋め尽くされている。

岳沢を登る
岳沢を登る。真正面には奥穂高岳と、右に伸びる吊尾根



朝靄の上高地
上高地。梓川の畔に色とりどりのテントが並んでいるのが見える
岳沢の花
この時期、花は少ない

前後に展望が良い――朝陽に照らし出される奥穂と、ようやく朝陽が射し込み始めた上高地。

その上高地には、ほんのりとヴェールのように朝靄がかかっている。なにか、北欧かカナダかのどこかの村風景を見ているような錯覚。

岳沢の道
樹林帯を抜けて、開放感が出てきた
西穂山稜
西穂高岳に続く山稜線。山肌は秋の装い

岳沢沿いを、ひたすら登る。

道は奥穂を目指して一直線……にしても、一向に前方の奥穂高岳が大きくなってこないのは何故だろう?

聳え立つ岩壁
初の北ア登山。岩壁の鋭さが異様に思える
乗鞍と焼岳
南方の眺望。上高地と乗鞍岳。焼岳も再び現われる

思ったよりハイカーが少ない。登山道に入って、数人見かけた程度。まあ、突っかからずに歩けるので良いけど、超有名な登山道を歩いているのに少々拍子抜け。山泊組と時間帯が合わないのは分かるけど。

素晴らしい景色を独占している気になる。

■岳沢ヒュッテ→紀美子平

重太郎新道
重太郎新道の序盤。針路は北東に
岳沢ヒュッテ
岳沢ヒュッテ(※廃止。今は同じところに岳沢小屋がある)

AM7:56、岳沢ヒュッテ到着。標高は2,170mほどで、670mほどの登りを2時間弱もかけてしまったことになる。この先、日本有数の急登コース・重太郎新道が控えているのだけど、大丈夫だろうか……。

周りにハイカーの姿はほとんどない。山泊組は出立した後なのだろう。

道標に従い、その重太郎新道に入る。

朝靄の上高地
前方には荒々しい穂高の壁面
たおやか
後方には、たおやかな上高地の平面

潅木帯に、ダケカンバの林。雪渓も見られる。

――急登はまだお預けか。ずるずると、まどろっこしく高度を上げていく。ここは、しっかりとスタミナキープ・ペース……と、言いたいところだけれど。右膝に着けた固いサポーターが固くて動かし辛い。

……いや、1ヶ月前くらいからの膝痛の対策のために着けたサポーターなので、固くて当たり前なのだけど。動かし易さより、保護優先。

焼岳
焼岳。ダイヤモンドカットを施したよう
乗鞍岳
乗鞍岳を遠望。乗鞍スカイラインも見える

それと、ザック側面にはLEKIのストック。これも膝痛対策の新規導入品。今日の山行では、膝の痛みが出てもらっては困る。下山では大いに役立って貰うつもりだけれど、うまく使いこなせるかどうか……。

天候は好条件を勝ち取ったようだ。素晴らしい眺望が開け始めている。北アルプスの雰囲気は南アルプスのそれとは随分違うなあ、と感じる。

緑の道
まだこのあたりは緑だと思っていると……
急登
急登が始まり、林の様相も一気に秋へ

急斜面をジグザグに登っていく。遂に急登全開だ。前へ、というより上へ向けての歩きに。

鉄梯子
鉄梯子で斜面を上がる手前で一休み
西穂高の壁
登ってきた道、西穂高の山稜線が壁のよう
乗鞍・御嶽
乗鞍岳の左に御嶽山が見えてきた

ダケカンバの葉が黄色に色付く。いよいよ、秋の訪ずれだ。だけれど、森林限界突破も間近。秋の季節も一瞬で抜けてしまうかもしれない。

そして、鉄ハシゴの手前で足を止める。やっぱり、膝が固められているといつもの歩きが出来ない。座り込んで、背後の雄大な展望に目を泳がす。フー、やれやれ。

心地良いのだけれど、そうゆっくりもしていられない。腰を上げて、目の前のハシゴに取り付く。

前穂高岳
正面には前穂高岳が聳え立つ
氷河の流れ
これまで歩いてきた道を見返す
ハシゴ
鉄ハシゴを登る。黄葉の間を往く

そして、思った通り森林限界がすぐにやってきて、突破。当然、黄葉は消えた。まだ山とは言え秋は浅い時期、仕方ない。

両手を使って岩場を登る。だけれど、登るのが難しくなってきた。

西穂高岳
正面向かって左手、氷河削り出しの地形は西穂高岳
明神岳
正面向かって右手、氷河削り出しの地形は明神岳
ハイマツ
最後に上方。ハイマツ地帯に突入
カール
下方、むかし氷河が押し流されていった跡

と、言うのは下りのハイカーが急激に多くなったからだ。穂高岳山荘で泊まって、早朝に奥穂を経て下りて来た人たちだろうか。岩場などは、数に任せて数珠繋がりで降りてくる。

列が途切れるのを踊り場で待っていると、立派な装備のオジさんに身なりを諭された。あなたはこういうところに来る格好をしていない、と。

団体さん越える
ここを通過するのには、だいぶ待たされた
明神岳
明神岳と同じ高さになってきた。稜線に道も見える

日帰り装備だから、と言うのは留まった。日帰りの山じゃない、とさらに強く諭されるに違いないのだから。ここは適当に頷いておく。

見て見ぬふりの世の中、他人に注意をしてくれる人は貴重だ。ただ申し訳ないことに――今の自分には、軽くすることでしかこの山には登れない。

紀美子平
紀美子平。そう平らなわけではないけれど
人の列
見下ろすと、下っていく人の列が途切れない

AM10:07、紀美子平に到着。

標高は2,900mほど。岳沢ロッジから高低差700m強を、2時間余りかけて登ったことになる。やっぱり、本調子じゃない。渋滞待ち時間が結構あったとは言え……。

そして、ここは前穂・奥穂分岐でもある。特に、前穂からは人が沢山――降ってくる、という表現が適当かもしれない。

その前穂高岳まで0.4kmの標示。

テラス
紀美子平の絶好の展望テラス
西穂
間ノ岳、西穂と続く稜線と同じ高さだ

一方、奥穂までは1.6kmの標示だ。高度差も300m程度だから、1時間ぐらいで余裕で着けるっしょ、と言える自信が今日の自分には無い……。

とにかく、疲れた。大休止!

■紀美子平→奥穂高岳

大正池
大正池
イワヒバリ
イワヒバリ。人を恐れない

あまり食欲は無いけれども食事を摂る。パンやゼリー飲料の類。カロリー補給のための行動食。

――つまみは、目の前に広がる雄大な景色だ。中部山岳国立公園の特等席からの景色。これはよく考えると凄い贅沢だと思う。

前穂分岐
前穂分岐。奥穂は左
焼岳稜線
焼岳は眼下になった。西穂山稜の末端が伸びていく
吊尾根へ向かう
吊尾根へ向かうトラバース道

AM10:24出発。結局、15分も休んでしまった。好天気も考え物かも。

まずは吊尾根の稜線を目指して岩場の横道を上がっていく。

ここで、ザイルを出している団体さんもいた。もちろん、この横道から落ちたらどこかに引っ掛かって止まる望みは無いのだから、安全第一で考えると正解かも。

涸沢ヒュッテ
涸沢ヒュッテを見下ろす。高度差600m
吊尾根から前穂
吊尾根の鞍部から前穂を見返す。この方角もカッコいい

ゆるく上がったり下がったりしながら、吊尾根の鞍部へ向かう。もどかしい。

そして、吊尾根稜線に辿り着いた。遂に山の向こう側とご対面だ。

――やっぱり、この瞬間は何物にも代え難い。ブレーク・スルー、今までの苦労はこの次への展開を切り開くため。しかも、今日はバカでかい大陸性太平洋高気圧がすっぽりと日本列島を覆っていると来ている。

涸沢
涸沢。屏風ノ頭。大天井ヶ岳に横通岳、常念岳
涸沢ロッジ
テラスが特徴の涸沢ロッジ
富士山
甲斐駒の肩に載る富士山。距離は142kmほど

涸沢カールと、それを取り囲む山々が一望された。涸沢ヒュッテと涸沢ロッジはオモチャのようで、涸沢は箱庭みたいだ。雪渓の純白と、草紅葉のオレンジで彩られている。

遠くには富士山。期待通りの展望だ。もうこれで、今日の目的の80%は達成したと言っても良い。あとは奥穂の山頂を踏んで、下りるだけ。

北穂高岳
北穂高岳
南稜ノ頭
南稜ノ頭

ただ、ここからがしんどい……。山頂が見えてからが真の登山だ、と言う言葉が実感される。9月下旬とは言え、ピーカンの天気で高山の直射日光から脱げる術が無いのも、体力消耗の一因になっている。飲料の減りも早い。

ハイカーの姿は逆にどんどん減っていく。山頂は午前中に、というセオリーを守る登山者が多いのだろう。こちとら日帰り登山、そうもいかない。

記念撮影
記念撮影真っ最中の奥穂山頂を見上げる……
槍ヶ岳
手前から南岳、中岳、大喰岳、そして槍ヶ岳。山稜の左に見えるのは立山

途中には這うように上がっていく岩場もある。普段であれば楽しみながら登れるのだけど、今はそんな余裕は無い。ぜいぜい息を切らせながら足をひたすら前に出す。低山ばかり歩いてきたので、空気が薄いのには、なかなか慣れない。

いい加減、着いてくれ……。

奥穂山頂
奥穂山頂。標高3,190m、北岳より3m低い
方位板
奥穂山頂からジャンダルム方面。方位板がある

AM11:48、奥穂高岳山頂に到着。

――岩ばかり。穂高神社の小さな社も石造り。緑は一切無く、白い岩が折り重なるのみ。日本第三位の山の山頂の、荒涼とした景色。

穂高・槍縦走路
北方は憧れの穂高・槍縦走路。いつの日か――
正午の上高地
地上を見下ろすと……河童橋は人で鈴なり、駐車場はバスで目一杯の上高地

だけど、ぐるりと360°見渡すと、思いの外、緑の多い北アルプスの山々が眺められる。そう、北アと言えど日本の山なのだ。

そして、緑の大地とも言うべき上高地を見下ろす。

――6時間前、あそこからこの山頂を見上げていた。いま逆に、山頂から上高地を見下ろしている。

今日の視界は薬師・立山や後立山連峰、中央ア・南ア・八ヶ岳――思いのまま。


先のコースへ進む ≫

穂高岳――という山についての由無し事 ≫