鹿島槍岳――という山についての由無し言 ≫

夏の鹿島槍・五龍岳縦走紀(1日目)

日 時

2010/08/09 10:39-18:23(7時間44分)

天 候

曇り 夕方から晴れ

俯瞰図

JR簗場駅~大谷原~西俣出合~赤岩尾根~冷乗越~冷池テント場(泊)

簗場駅~冷池山荘俯瞰図

撮影機材

OLYMPUS E-620、ZD14-54F2.8-3.5、ZD50-200F2.8-3.5、Panasonic LX-3

簗場駅
歩き始めは、JR大糸線・簗場(やなば)駅
中綱湖
中綱湖を右に見ながら中綱集落へ
鹿島槍スキー場
立ちはだかる鹿島槍スキー場。まずは300m登る

JR大糸線・南小谷行き普通列車は松本盆地をゆっくりと北上。ただ残念ながら、安曇野の田園地帯の向こう、穂高の山々は今日は雲の中。

やがて列車は松本盆地を離れ、木崎湖の縁を走り始めた。と、ほどなく簗場駅に到着。AM10:25。

――下車して駅から出ると、もうそこは故里の風景だった。日差しは強いものの、空気が爽やかだ。さもありなん、既に高度は800mほどに達している。

駅前の自販機でペットボトルを3本購入。うち、一本はプラティパスに移し変える。トイレを済ませ、よいこらしょ、とザックを背負って出発。AM10:39。

ゲレンデから見下ろす
ゲレンデの上から中綱湖を見返す
中綱集落
花盛りの中綱集落を抜けていく
地蔵
スキー場を貫く車道を上がっていく。脇には地蔵

さあ、今日は1年ぶりの泊まり山行。最近は山自体にほとんど行けていないので、体力が持つかが心配だ。テントの入ったザックは13kgほどあって、やっぱり重い。

中綱湖を渡り、中綱神社を横目に集落の中を進んでゆく。ミンミンゼミとアブラゼミの協演を久しぶりに耳にする。

スキーゲレンデの下に出た。進む方角に迷う。――駅前のトレッキングコース案内図では、右手に「十国寺コース」が示されていたな、と思い出しつつ左手に進む。

安全策。車道に当たって、あとは単調な上り坂。


蛾
派手だけれど蛾
鹿島槍黒沢高原
鹿島槍黒沢高原。高度は1,100mほど
ヤナギラン
ヤナギランが風に……風は無い。蒸し暑い

――暑いので坂がキツい。早くもLEKIのストックに頼り出す。空は曇ってしまった。上り勾配の車道を我慢してひたすら上る。

ようやく勾配が緩み、前方に建物が見えた。鹿島槍黒沢高原だ。ああ、ここまで1時間近くかかってしまった!

このあたりはかなり平坦で、それに広い。自販機などもある。ちょっとしたリゾート地――にしては人の姿がほとんど無いのだけどなあ。

ヒョウモンチョウ
こちらはヒョウモンチョウ
爺ヶ岳斜面
正面、雪渓も見えているけれど、その上は雲

高原を突っ切ると道は下り坂になって、再び視界が閉ざされる。時間が勿体無いのでオニギリをパクつきながら歩く。まわりは樹木ばかり。

大谷原入口
大谷原入口。県道325号 白馬岳大町線
黒沢の道
黒沢を右に見ながら下っていく

下り切って、鹿島川を渡る。その先が三叉路――大谷原の入口だ。右折、そちらに進む。


県道325号
往来は、タクシーが二度ほど通ったくらい
大谷原登山口
大谷原登山口に到着。トイレ、登山ポストあり
テントウムシ
七つの星のテントウムシ

道は平坦で歩きやすい。周囲は広葉樹林で、日が差し込むと素晴らしい雰囲気になる。天気予報はあまり芳しくなかったけれど、夏休みは今しか無いのだから仕方が無い。

――すこし上り坂が出てきた。と、思ったら大谷原登山口に到着だ。PM0:23。

駐車場には車が5台ほど駐まっている。あと3~4台は駐まれそうだ。ベンチと登山案内図、それい黄色い登山ポストがある。

ここで小休憩。残りの昼飯を食べる。……これから北アルプスに登る実感が、何故かあまり湧かない。

車止めゲート
車止めゲート。越えて進む
大冷橋
「大谷」の標示の立つ大冷橋

PM0:40、出発。まずは大冷沢を橋で渡る。

これから、高度1,100mほどの現地点から5時間ほどかけて2,400mまで上げる予定だ。時間帯は遅いけど、駅から律儀に歩く決断をしたのだからしょうがない。

大冷沢
大冷沢の左岸を付かず離れず進む
クガイソウ
クガイソウ。道脇には花が目立つ

車止めゲートを抜けて、森の中の林道を進む。左には再び大冷沢が見えてくる。


工事用道路
工事用道路。のべ十数人のハイカーとすれ違う
西俣出合
対岸に小滝が見える西俣出合。渡渉は危険?

最初は多く見られた花も少なくなって、ただ、ただ上り坂を上っていくだけになる。すぐ傍に沢の流れがあるものの、8月半ばの昼下がりという時間帯、気温は高い。

湿度も気になる。こまめに小休憩を入れながら、しっかりと足を地に付けながら歩く。登山道に入る前から疲れるわけにはいかない――。

オダマキ
オダマキ
堰の地下道
堰の地下道を潜って沢を越える

西俣出合に出た。渡渉出来るのだろうか? 案内板があって、0.2km先の地下道を潜れ、とある。

大冷沢を見下ろす
大冷沢を見下ろす。高度感が出てきた
赤岩尾根登山口
赤岩尾根登山口
アジサイ
アジサイのたぐい

そうすることにする。確かに地下道はそこにあった。潜ると、トンネルの途中に堰を流れ落ちる奔流の覗き窓がある。なかなか、珍しい体験。

対岸に出たところが登山口。赤岩尾根の取り付き口。時刻は――PM1:42。駅から歩き始めて、実に3時間が経過していた。予定より大分遅い。

気合を入れ直して登り始める。待望の山道。


葉っぱ
足元の葉っぱ
階段
階段。全回転式自在ステップ…
雪渓
雪渓の上部は完全に雲の中

何度か下山してくるハイカーとすれ違う。「これから登るの、すごいねえ」なんて言われると、逆にプレッシャーがかかるのだけど……。

堰の地下道
後ろを振り向くと――

等高線の密度から予想されたように急登が続く。道の状態は決して悪くは無いものの――クサリやハシゴが序盤から大いに活躍。

――自分の足も思ったように上がらない。やっぱり、だいぶナマっているらしい。

サンアルピナ鹿島槍
「サンアルピナ鹿島槍」を見返す
第一ベンチ
第一ベンチ、とある。第二以降は不明

登山道は一方的な登り勾配、緩む箇所もほとんど無い。結構、木々の間から後方や側方の展望が得られるものの、あまりパッとしない景色。

……そもそも、雲の垂れ込めるラインが頭上近い。もうすぐ突入することになるだろう。

シモツケソウ
シモツケソウ。多くは無い
登山道
針葉樹の目立ってきた登山道

第一ベンチというところを過ぎても登りは続く。――早くも疲れた。ペースが落ちてくる。


雲の中へ
登山道はついに雲の中へ突入――
シルエット
ガスに浮かび上がるシルエット
アキノキリンソウ
アキノキリンソウ

そして雲の中へ。雨が落ちてくるかどうか心配だったけど、なんとか大丈夫そう。

それに、ガスがかかると景色が何となくファンタジックになる。登り一辺倒で気が張っていたので、気分転換には良いもの。

と、岩の小広場の上に出た。道標があって、「高千穂平」とある。周りは真っ白なガス。PM3:57。

ゴゼンタチバナ
小さなゴゼンタチバナ
高千穂平
高千穂平に到着。標高2,049m

ここで少し休もうかと思ったけれど、時間を逆算するとテント場に明るいうちに着くためには休んでいられない。ということで通り過ぎる。

痩せ尾根
痩せ尾根を渡る。ガスで見えないのは幸い
雨粒
今にも空から雨が落ちてきそうだけど……

ガスの中の歩き……夕方が近づき、高度も上がって気温は下がってきたけれど、湿度は高い。

ただし、勾配はいくらか緩んでいる。木々も疎らになってきて、だんだんと高山っぽさが出てきた。


鹿島槍ヶ岳の山体
鹿島槍ヶ岳。特徴的な二つの峰は、ちょうど雲に隠されている

と、右手のガスが吹き流れて、唐突に展望が開けた。雪渓の目立つ山肌の斜面――大きい。山頂は見えないけれど、これが鹿島槍ヶ岳だ。

十秒ほどで再びガスがあたりに立ち込めた。

――山の天候は、時々、このようなプレゼントをしてくれる。そして、目的地が見えたか見えないかでモチベーションには雲泥の差。

(調査中)
えっと、あまり見かけたことの無い花
ガスの道
相変わらず雲の中を突き進む

まさしく赤岩尾根だ。赤い岩の岩場やザレ場が頻出する。赤い石は確か、深海プランクトンの体積物じゃなかったっけな? 海の中から隆起した北アルプス。

ハシゴ
ハシゴは新旧差が激しい
赤岩
赤岩のザレ場

――それにしてもガスが濃くて、北アルプスを歩いているという実感が湧かない。痩せ尾根やガレ場の通過にも、どうにも緊張感が沸かない。

赤い岩の道を、一歩一歩、踏み上げていく。


赤岩のクサリ
赤岩のクサリ
ダイモンジソウ
ダイモンジソウ
ウサギギク
ウサギギク

それにしても、これほど辛い登りになるとは予想していなかった。スタミナが、絶対的に不足。

……やっぱり、より一般的な扇沢バス停から種池山荘経由の道の方が楽であったかなあ、と弱気になってくる。

でも、あっちのバスは、立山へ向かう観光客たちで溢れている。今日も、扇沢へのバス出発駅である信濃大町駅まで列車内は混雑していた。

人ごみの中、でかいザックを背負ってウロウロするのも、なかなか勇気がいるんだよなあ……

巻き道
登山道が稜線を右に巻き始める。滑落注意
後立山稜線
後立山の稜線がすぐそこに――
ヨツバシオガマ
ヨツバシオガマ

尾根道が終わった。ガスに滲む稜線を見上げながら、右へ回り込んでいくような道となる。と、この斜面には高山植物が花盛り。

後立山稜線まで、あと少しということだ。でも、高度2,400mという稜線でも、雲の上には出てくれないらしい。ややガッカリだ。

と、黄色い道標が前方に立っているが見えた――


冷乗越
冷乗越。高度は2,400m余り
ハイマツの道
後立山稜線のハイマツの道を行く

PM5:34、冷乗越に到着。ガスの漂う空間に、砂とハイマツの地面。思い出す。確かに北アルプスの稜線にいる。

サルの群れ
サルの群れと遭遇。十匹以上いた…
爺ヶ岳~鹿島槍鞍部
爺ヶ岳と鹿島槍の鞍部

山小屋は北――やや下っていく道を歩き出す。ライチョウでもいなものかとキョロキョロ見回しながら歩いていると――

ガスの中、黒い影が多数動いているのに気付いた。時折、叫び声。サルだ。まさしく、稜線を闊歩している。

――気になったのは、ライチョウの棲息。

(調査中)
この花は知っているけれど、ド忘れ
冷池山荘
冷池山荘。つめたいけさんそう?
稜線鞍部
シラカバ?などの樹林帯。稜線鞍部

1年前に登った南ア仙丈ヶ岳の高山植物帯では、ネットが張られているのを目にした。そちらは鹿害だけれど、昨今、平地の生き物がどんどん山に登っていくような気がする。

周囲は一時的な樹林帯へと成り代わっている。そして、下り切った後に道は再び上りへと転じる。

登って行くと目の前に小屋が現れた。冷池山荘だ。PM5:47。


夕空
雲海と夕空

冷池山荘手前のテラス。東方への見晴らしが良い……って、雲海が下がって眺望が開けているじゃないか! ついさっきまで、確かに雲の中にいたのに!

山の上に来たことをようやく実感。やっぱり、高山登山はこうでなくっちゃ。

吊尾根
鹿島槍の吊尾根

そして前方には、鹿島槍ヶ岳の双つの峰が仲良く姿を現そうとしていた。本当にジャストタイミングだ。

明日はあそこまで登るのか。ずいぶん、近く感じるけれどそれは錯覚である事も知っている。

ずっと眺めていたかったけれど、その明日のために今日の寝場所を確保しなくてはならない。冷池山荘でテント代¥500を払う。リッター150円の水×2も。


冷池山荘
冷池山荘
滝雲
爺ヶ岳の稜線に雲が流れ渡る

テント場は0.2kmほど上方にある。そちらに向かって上りだす。振り向くと、雲がチリジリに流れて今まさに北アルプスの大展望が現れようとしていた。

爺ヶ岳
テント場より、三つのピークを持つ爺ヶ岳を見る

尾根の上の開けた広場に出た。すでに10張り近いテントが設営されており、平らな場所は確保出来そうも無い。そりゃ、こんな遅い到着なのだから仕方が無い。

でも、テントを張る事など後回しにして、開けた北アの大展望に眺め入る――。

日没
立山~剣岳の稜線に日が落ちる

立山稜線、その剣岳に夕日が落ちようとしていた。時を忘れる瞬間が続く。

町の光
空には満点の星、地には遠く町明かり――
剣岳
標高2,999mの剣岳のシルエット

――日が沈んだ後、ようやくテントを張り始める。明日の天気は正直、良くないらしい。最悪、鹿島槍にも届かないかも知れない。

それでも、今日のこの夕暮れを見れただけでも、苦労して登って良かったと思うことだろう。

鹿島槍岳――という山についての由無し言 ≫